第271話

「だから言ってるじゃない!そんな事しちゃダメなの!」

「だ……だが!今の人の子どもは、アンナの犠牲の上に生きている愚かな……」

「私が命をかけて助けた人たちはもう皆死んじゃってるよ!何年前だと思ってるの!?」

「子孫は先祖の責任をだな……」

「そんな事を言いだしたら、今の私の体だってそんな人達の子孫なんだよ?」

「いやしかし……」

「ダメなものはダメ!」


 女神だとか最強の天使だとか言われていた奴が、朝っぱらから正座で説教を受けている。

 天使の世界にも正座ってあるんだな?


「とにかく!私とゼルエルは、これからこの世界の人たちのために生きるって決まったから!」

「それではアンナがあまりにも!」

「ゼルエルが色々やっちゃったことについて、私が一緒に責任を取るだけだよ!」

「だったら我だけが負えばいいだろう!?」

「ゼルエルだけにしたらまた同じようなこと始めそうじゃない!それに……」


 アンナさんが、ゼルエルの前に膝をついて目線を合わせる。


「家族だもん、そのくらいするよ」

「アンナ……」


 なんていうか、あの辺りだけ百合とかバラが咲き乱れていそうな雰囲気になっている。

 まあいいけどさ?

 こっちとしては、便利な人材さえリクルートできるならそれで。

 しかも、罰として仕事をさせるという体だから、非常にオトクなギャラで雇えそうだし。

 なんたって、なんか知らんけど、ラスボスらしいし。

 っていっても、RPGじゃなくて、恋愛ゲームのだけど。

 しかも女性向け。

 女性向けゲームの戦闘って、そんな激しく大変な要素あるんだろうか?

 そういうの求めている人は、男性・女性関係ないゲームのほうがやってそうな気もする。

 女性が一番読んでいるマンガだって、女性向け漫画雑誌に連載されている奴じゃなくて、少年漫画だって話もあるし……。

 俺は、恋愛要素がキツくなるまでなら女性向けの作品も読めるけど、何故かアレ系は男が自信満々に女キャラと話すどころかキスしてて、「それ普通だったら通報じゃね!?」って思っちゃうから読めなくなる。

 壁ドンの良さもわからん。

 ……いや待て、美人のお姉さんに競泳水着姿で「私の男になれよ」って壁ドンされながらあごクイされて言われたら、舌でも噛まないと耐えられないかも知れないけれど……。

 その場合俺は肚を斬るから心配しないで欲しい。


「……わかった。アンナがそこまで言うなら我も従おう。しかし、我は当事者も当事者、事態を悪化させた張本人だぞ?そのようなものに、組織の監査など任せて良いのか?周りも納得しないのではないか?」


 この聞き方はアレだ。

 積極的に認めたくはないからなんとか逃げる手段を探しつつも、ちょっとだけ流されている状態のやつだ。

 あと少しで……落ちる!


「そこは心配ない。だって、ゼルエルが女神を騙っていたって知っているやつって、どのくらいいる?」

「どのくらい……この場にいるものを除けば、あの教皇……は、我の顕現のために使ったし、前回顕現した時にその場にいた者たちは、皆邪魔だからとあの教皇に消されていた。ん?そう考えるといないな」


 そう!

 重大なスキャンダルではあるんだけれど、この天使がリスティ様を自称していたなんて事は、皆知らんのだ。

 大体、リスティ様に直接会ったことがある人間自体まず殆ど居ないはずだし、あとは俺やアンナ、そしてゼルエル本人の心の問題だ。

 因みに、1000人にも及ぶ救助者の女性たちは、この場には居ない。

 流石に聞かせたら大変なことになりそうだし……。

 なにより、実際に彼女たちを捕らえて拷問にかけた者たちは、既に死ぬか死んだほうがマシな状態まで痛めつけてあるので、制裁は済んでいると言えなくもないし、あとはゼルエル自身に贖罪の労役をしてもらう方が処刑するよりよっぽど効果的だろうと俺が決めました。

 本人たちが俺のこの判断を知ったら怒るだろうけれど、背景とか考えると、この天使を眼の前で八つ裂きにした所で、心に多少のもやもやが生まれるだろうし、だったらわかりやすい悪役である教皇とイケメンロン毛どもがメタメタにされるか死んでいることで溜飲を下げてもらったほうが良い気がするんだよな。

 殴られているのを見てもスカッとしかしない悪役ってのは大切だ。


 なので、犯人は教皇!


「その代わり、残りの人生全部世直しというか、正常な宗教運営にささげてもらうぞ。それがお前への罰だ」

「……わかった。それで良いのであれば、我も従おう」


 よかった……。

 この話し合いの席に、アンナさんを連れてきたのは正解だった。

 彼女に説得させれば、ゼルエルも落ちやすくなりそうだと思ったけれど、ここまで簡単に行くとはなぁ……。


「さて、まずゼルエルにしてもらいたいのは、聖騎士団とは別の、女性だけの部隊を作る仕事なんだ」

「女性だけのだと?何故だ?」

「いやさ、まず、信仰対象が女性だから女性だけで揃えたほうがそれっぽいってのが1つ。それと、ちょっと1000人ほど将来に不安のある方々がいるから……」

「あぁ……」


 昨日帰ってきてから、被害者女性たちには確認を取っていた。

 自分の家に帰りたいのであれば送るけれど、どうしたいか?

 送ってもらうのを希望しないなら行くあてはあるのか?

 それともここに残るか?


 そんな事を聞いて回ったところ、全員がここに残ると回答。

 なぜなら、彼女たちが捕まった理由が、近隣住人や親しい者たちからの密告だったらしく、もうあの周辺の国々の事を信じられなくなったからだそうだ。

 密告だって、大半が虚偽ではあったようだけれど、そう主張した所であの国の裁判所でまともに発言を許可してもらえる事はないらしい。

 周辺国から連れてこられた人たちも、家族を皆殺しにされ、自分だけはなにかの実験用にと集められて、今こうしてここに生きている事に感謝しているので、もう何も残っていない、自分の持つ全てを破壊された場所に帰ってもやっていける自信が無いという。

 そうなると、1000人分の食い扶持を作らなければならないけれど、それならちょうどいいから一纏めにして解決しようとしたわけだ。

 この1000人は、ゼルエルのやったことの被害者たちなので、ゼルエルへの罰という意味でも、彼女に1000人の女性たちを纏めて指揮し、食料を教会の方で出してもらうようにすれば、色々コストが削減されるからありがたい。

 それに、俺も知らなかったけれど、アンナさんがいつの間にか、自信の危険も顧みず人々を密かに守っていた聖人みたいな感じで祭り上げられているらしいし、神輿は十分だろ。


「というわけで、心情的な事を抜かせば、お前が全員面倒を見るのが一番良いんじゃないかと思ったんだよ」

「……そうか、ならやろう。アンナ、一緒にあの人の子たちを保護しよう」

「頑張ろうね!もしかしたら、真実を知った方々には許してもらえないかも知れないけれど、許してもらえるかどうかに関係なく、自分なりの贖罪をしたほうが良いと思う!」


 こうして、月曜の早朝から聖女騎士団の立ち上げが行われ、やることの半分くらいが終わった。

 仕上げに、ある方をちょっと説得してこなければならない。

 誰かって?何を隠そう、リスティ様だ!

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