第273話

「今、リスティ様から神託を受けてきた」

「……はぁ?」


 ゼルエルが、天使にあるまじき呆け顔で首を傾げている。

 確かに俺だって、眼の前の男が「神様のお告げを受けた!」って突然言い出したら、何いってんだこいつって思っちゃうだろうから、その反応を批判することはできん。

 でも、神様から言葉を頂いてきたことは事実だよ?

 今から言うそれ以外の部分については、ほぼ嘘だけれど。


『ゼルエル、アナタは今まで人の子らを虐げ、破滅するように仕向けてきましたね。これは、天使として赦されざることです』

「な!?その事をどこで!?……まさか本当にリスティ様が!?」


 コイツに関しての情報は、よっぱらったリスティ様や、降板女神リンゼから得ているんだ。

 多少のそれっぽい発言なら幾らでも捏造できるさ。


『アナタの犯した過ちは、もう挽回のしようがありません」

「で……では、我はいったいこれからどう生きていけばいいのですか!?」


 だいぶ聞いてくれるようになったな。


『死んだ者は、二度と生き返りません。魂だけの存在となり、輪廻の輪へと帰っていくでしょう。いつか、また新しい生をその魂が受けたとしても、既にその者は元の人間では無くなっています』

「……そう……ですね……」

『死んだ者たちのためにできることは、アナタにはもうありません。それでももし、アナタが何かをしたいというなら、生きている者のために動きなさい』

「いや、別に我がそうしたいわけでは」

『動きなさい!』

「は、はい!」


 ごちゃごちゃとうっせーやつだ!

 とっととチョロく騙されて俺達のために平和を作り出してくれ!


『そこの我が眷属に、今のアナタに相応しい衣装を与えました。これを身に着け、成すべき事を成しなさい』

「眷属?それは、お前のことか?」

「そうですね。はいこれです」

「これは……なんと濃密な神気だ!これはまさしく、神が手ずから作り出したものに違いない!」


 因みに、今手渡したのは、リスティ様がファッションショーしてた時に着ていた服の一着だ。

 清楚さとセクシーさを併せ持ったこの服は、着ているだけで其の者を非日常な存在へと昇華させてくれる。

 っとか思って、ダメ元であっちの世界で握りしめたまま神域から出たんだけれど、気がついたらちゃんと手の中にあの衣装があってびっくりした。

 折角だし、有効活用しようと思っている。

 リスティ様曰く、相当な硬さがあって、自分の部下たちにも、その護りの10分の1程の強度の結界が常時張れる優れモノらしい。

 これを、ゼルエルをリーダーに据えて、着せておけば、1000人以上の女性たち皆が、神の服の10分の1の耐久度を得られるわけ。

 リスティ様本人は、単純に自慢がしたくてこの機能をつけたみたいだけれど、人間である俺達からしたら、国宝以上の価値があるんじゃなかろうか?


「ゼルエル、お前にはこれを着てもらって、『ヴァルキュリア』という部隊を作ってもらう。教会の腐敗を防ぐために監査する役割と、傷つけられた女性たちへの救済を目的としている。暴力を受け、心にトラウマを抱えてしまっている彼女たちには、すぐにでも成功体験と使命感が必要だ。そんな彼女たちを導く義務が、お前にはある。それが、リスティ様がお前に与える罰だ」

「ああ……ああ……我のような愚かな者に御慈悲を与えてくれるというのか!?なんと……なんと慈悲深い……!やはり、リスティ様は、我とアンナを見捨てなかったのだ!」

「『だが、もし今度同じようなことをしたなら、そのときは転生の機会も、輪廻への帰還も赦さん。心せよ』って最後に言ってたぞ」


 嘘だけど。

 最後に言ってたのは、『あ、わりぃ」だし。


「……相わかった。この最強天使ゼルエル、偉大なるリスティ様からの御恩に報いるため、そして、我が家族であるアンナのため、身を粉にして働くことを誓う!」

「私も!ゼルエルと一緒に頑張ります!」


 こうして、1000人ほどの女性による巡回視察団が急ピッチで設立された。

 神からの使いのように美しい筆頭官ゼルエル。

 その横に常に侍り、どんな悪からも筆頭官を守り抜く、元聖騎士にして、今は聖戦士と名乗っているアンナ。

 更にクレーンさん謹製の超頑丈シスター服を着込んだ女性たち。

 配信された動画にも登場していたせいで、彼女たちは瞬く間に有名になっていった。

 何故かはわからないけれど、教皇がやけに俺に協力的で、こうこうこうして欲しいと頼むと、だいたい叶えてくれるおかげで、マーケティングもCMも効果が著しい。


「リスティ様からの指示であれば、我らは全てを捨ててでも叶えなければなりません」


 そう言って湯水のごとく金を使ってくれているようだ。

 更に、ヴァルキュリアというちょっと胡散臭い巡回使節団のことも、俺が話しを持っていってすぐに信じてくれて、公式に後援してくれることになった。

 アイが数時間で作り上げた1000人の女性たちが生活できる大きな寮のお陰で、家賃というものは発生していないんだけれど、それでもやっぱり食費等生活に必要なお金はとてつもない。

 その辺りをカバーしてくれるらしくて、非常にありがたい。

 今度なにかお礼でも持っていかなければ。


「我は、リスティ様が期待する道を進めているのだろうか……」

「わからないけれど、どんな道の先にだって、ゼルエルと私なら走っていけるよ!」

「……ああ、我はもう二度と、アンナの手を離さないぞ」

「ゼルエル……」


 教会の威光を笠にきて、私欲を貪っていたらしい貴族の屋敷を更地に変えながら、2人は百合っていた。


 そんな、背景に花が咲き乱れているような光景のバックで、1代で平民から成り上がった貴族である田中男爵家が取り潰されていた。

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