第36話

「今です!皆さんファイアーボールを!」


「「「はい!」」」




 現在、先日も訪れたダンジョンでレベリング中です。




 昼休みに入ると昼食をとるヒマすら惜しんでバスに飛び乗った。


 そしてダンジョンに到着するまでの間に、事前に食堂で作ってもらっていたサンドイッチを食べる。


 貴族のお嬢様たちがメインのため、オシャレな感じのサンドイッチだけど、これからドキドキワクワクのダンジョン探索という事で、実はかなりカロリーとタンパク質多めに作ってもらっている。


 流石というかなんというか、お偉いさんたちに料理を作り続けてきたこの学園の料理人たちは、栄養学も当然の如く極めているらしい。


 味も当然美味しいため、緊張していたご令嬢方も多少リラックスできたようだ。




 知らなかったんだけれど、1年生チームは、俺の友人たちを除くと大半がレベル1桁。


 このままでは、いくら破壊不可能な砦で籠城した所で、入り口に魔法でもぶち込まれたら即死するレベルだ。


 1年生、しかも女子という事であればそこまで珍しくはないらしいけど、折角だし皆でレベルを上げようよと20人全員で挑んでいる。




 全員が1つのパーティーになっているため、休憩中の者も経験値が貰えるらしく、レベルが低い女の子たちはモリモリレベルアップしているらしい。


 レベルアップは、慣れていないと体が火照ったような感覚がするため、なんだかセクシィな事になっているけども……。




 2周できたらいいなという目標をもって挑んだけど、思ったよりも効率よく進めたために現在4周目だ。


 4人ずつ班を作って、先頭を交代しながら進んでいる。


 全員が初心者というわけにもいかないため、常に先頭の班には有栖かリンゼがついている。


 休憩している班の護衛はエリザだ。


 


 「エリザちゃんありがとー!」って言ってるこの女子たちが、もしエリザが魔族で、魔王の娘で、将来的に魔王になりそうな娘だと知ったらどう思うだろうか?


 ……案外皆態度を変えない気がする……。




 休憩中は、戦闘を殆どする必要がなく、持って来たスポーツドリンクや栄養ゼリーなんかで補給しつつ過ごせるため、皆何とかついてこれたようだ。


 それでも流石にそろそろ辛そうなので、初めて来た時と同じように先頭に有栖を据えての行軍へと変更した。




 俺は最後尾、つまり聖羅の護衛兼殿だ。


 やっぱり超らくちん。


 20人分のドリンクなんかを持たされていることを除けばだけど……。




 1周目は、ボスもいたからちょっとだけ梃子摺ったけれど、2周目以降はボスが再湧きするまでそこまで苦戦する相手もいない。


 そのお陰で、夕方には4周目を終えて出てくることが出来た。


 どうやら、今日だけで低レベル組の平均レベルが20程上がったらしい。


 まあ、レベルが低い時は上がるのも早いからなぁ。




 俺なんて、1しか上がらなかった……。


 ボス倒した時だけ……。




「あ、この前の猫さん倒した時の分も合わせてガチャチケ5枚溜まったわ」


「大試、私が引こうか?」


「うーん……折角だし色んな人に引いてもらった方が良い気もするんだよなぁ……聖羅にはもう2回引いてもらってるし……5連ガチャとかもうやる気全く起きないし……」




 ぶっちゃけ、俺の同級生たちなんて運勢で言えば皆大当たりな部類の人たちだろう。


 俺と違って、まさか木刀なんて出さないであろう仲間がいるんだから、できるだけ色んな人に引いてもらいたい。




「大試!ウチも引いてみたい!」




 話を聞いていたのか、エリザがずいっと入って来た。


 そう言えばこいつも、魔の王になれる奴なんだよなぁ……。


 悪くない!




「よし!1回行ってみてくれ!」


「おっけー!えいっ!」




 エリザによってガチャチケが1枚破り捨てられる。


 恒例のガチャマシーンからコロコロと出てくるカプセルを開けると、一見特に特徴のない刀が出てきた。


 説明書きはーっと……。






 猫丸(SR):猫をすぱっと断ち切れるくらい切れ味が良い!猫の精が封じられていて、召喚使役できる!装備時に身体能力を50%増加!






「猫丸?猫の精……?」


「なになに?どんな剣なの?」


「わからない……。まあいいや、とりあえず使ってみよっと。いでよ猫の精!」




 そう唱えてみると、ぽわんっとピンク色の煙が出てきた。


 何でピンク?




 ピンク色の煙が地面に集まっていき、しばらくするとスゥーっと消えてしまった。


 しかし、煙があった場所には何かがある……。


 ってかこれ……!




「……ニャー……?なんにゃあ……?なんか寒いニャー……ここがあの世かにゃ……?」


「ファム!?ファムじゃん!なんで裸でこんな所にいるの!?」


「…………ニャー!?」




 ニャー子さんが全裸で出てきた。


 猫の精ってお前かよ……。






「うっ……男に裸見られちゃった……もうお嫁にいけないニャ……」


「アレはノーカンだって!それにファムは可愛いから大丈夫だよ!」


「うぅ……エリザベートお嬢様ぁ……」




 とりあえず、ファムには俺の制服を着せた。


 大人のお姉さんなために俺の服くらいしか着れなかったためだ。


 ただし、胸がキツイというのはまあわかるけど、身長は俺と同じくらいのはずなのにズボンが短いと言われた。


 泣きそうになった。




「んで、なんでファム子さんはこんな事になってるんだ?」


「……ニャーだってわからないにゃ……。お前に斬られて死んだって思ったらなんか体がふわっと暖かくなって、痛みも無くなって、なんか変な所にいたニャ。眠気も空腹もないけど、考えるのも面倒になるくらい居心地よかったニャ。それで気がついたらあそこで裸に……。ニャー……!」


「よしよし!ファムは強い子だから大丈夫だよ!」




 つまり、エリザと同じ理由か。


 女神によるキャトルミューティレーション被害者か?


 まあ、致命傷が治ってるんだから被害だけでもないか。


 ……いや、精ってことは幽霊みたいな存在である可能性も……?


 怖いから考えないでおこう!




「大試、もう1回殺っとく?」


「ニャー!?ごめんなさいですにゃ!ニャーたちの種族は負けたらちゃんと服従しますニャ!だから許してニャ!もう死にたくないニャー!」


「……だってさ。もう俺達相手に悪い事できないと思うから、許してやろう?」


「大試がそう言うなら私は構わない」




 聖羅の眼力で既に腰が砕けているファム。


 こうなるともうか弱い生き物だな……。




「というわけでリンゼ、もう1人女子寮で面倒見てほしいんだけど……」


「気軽に言うわねアンタ……。アタシは今まだ事態を飲み込み切れてないんだけど……まあいいわ!」




 俺だって魔族が剣から出てくるのに慣れたくねーよ!


 でも短いスパンで2回目なんだよ!




「ファムは、流石に学生ってことにするのも難しそうだし、そのままエリザの侍女ってことでいいか?」


「大試いいの!?じゃあこれからはファムも一緒にニンゲンのご飯食べよ!」


「もう何でもいいにゃ……」


「じゃあメイド服着てもらうんでいいな?」


「……ニャ?」




 この日、この学園にネコミミメイドが爆誕した。


 後日、男子生徒たちの間で毎年恒例となっているらしい学内メイドグランプリで、彼女が1位人気を博すのだが、それは別のお話。






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