第218話
ズンドコズンドコズンドコズンドコ♪
どどどどどんっ♪
ズンドコドコドン♪
巨大なキャンプファイヤーを囲み、大勢の魔族が踊っている。
今日は収穫祭だ。
豊作を神に感謝し、喜びを表現するお祭りだ。
因みに、昨日もやりました。
だって毎日収穫してるんだもん。
「「「「カンパーイ!!!」」」」」
聖羅がドバドバ作り上げたお酒を飲んで、争いを持ち込もうとしていた筈の各種族を代表する魔族たちが肩を組んでいる。
全員が多少汚れているのは、もちろん畑仕事や家畜の世話等を行ってきたからだ。
既に、どれだけの魔族がここに集結しているのかも数えられない程の状態になっている。
それだけではなく、他の場所でもここと同様に収穫祭が行われているらしい。
畑がドンドン増えた上に、聖羅印の堆肥によって作物の生育スピードも早く、おまけに今まで魔族の領域に殆ど存在しなかった食という娯楽に目覚めた彼らにとって、既に何かを育てるという事はライフワークの1つとして認識される程になっていた。
この宴に参加しているのは大人だけではない。
もちろん酒を飲んでいいのは大人だけだが、子供は子供で楽しめるようにしてある。
彼ら曰く美味しい草である野菜や果物はもちろんのこと、その作物を食べて育った肉や魚、それらを調理した料理が大量に並び、瞬く間に消えて行く。
最初の内は、調理する技術が全然無かった魔族たちも、俺と一緒に練習することによって、あっという間に家庭料理程度なら問題なく作れるようになっていった。
ヴァンパイアの女王を自称するスフィールさんなんか、どこからか用意してきた赤いハートだらけのエプロンをつけて、お店で出てきそうな程のトロトロタイプのオムライスを作りまくっている。
トマトケチャップを覚えた今、血なんて飲んでられないと言っていた。
足りない栄養は、焼いた豚のレバーで補給しているらしい。
「どうしてこうなったニャ?」
「哲学の話か?」
「因果の話にゃ」
「なんか頭良さそう」
「え?そうニャ?照れるニャ」
ファムも酔っぱらってる。
ブランデーで作った梅酒がお気に入りらしい。
そこまで強いわけでもないので、本物の猫のようにペロペロ舐める姿がちょっと可愛いけど、酒臭いので減点です。
「魔王様、こんな感じで、俺がここに送り込まれた目的は達成ってことでいいですかね?そろそろカミングアウトいっちゃいます?」
「まだだな!9割程度だ!」
「9割かー……」
自ら超大鍋で作ったエビカレーを提供している魔王の手伝いをしながら話し合う。
仕事が完了したなら、留学の期間が終わる前に帰ってしまいたいんだけど……。
「残りの1割って何が残ってるんですか?」
「実はな!魔族の領域で最も頭の固いというか、ニンゲンと敵対的な奴らとまったく話が出来ていないんだ!」
マジで?
そこで餃子食ってるライオンとか、お好み焼き食べてるサイとか、サーロインステーキ食ってるミノタウロスとか、たった今オムライスにハートマーク描いたヴァンパイアよりもニンゲンと敵対的な奴がいるの?
それもうどうしようもなくね?
「因みに、それっとどんな奴らなんですか?」
「ドラゴンだ!」
「それってニョロニョロ系ですか?それとも翼あるやつですか?」
「翼がある奴だな!」
「西洋系かー……」
ニョロニョロタイプの龍は、話してみればちゃんと会話が成立する相手だった。
でも、西洋系ドラゴンはニンゲンと敵対的だという。
どうしようかな……。
ドラゴンってかなり不吉な存在として描かれる事が多いけど、話し合いをしてくれるだろうか?
うーん……。
「あ、じゃあ龍を呼んで代理交渉してもらうか?」
「なに!?龍の知り合いがいるのか!?」
「まあ、龍の姿にはなれないらしいですけど、すごい美人で、かなりチョロくて、世界遺産になりそうな弓を押し付けられた俺の先輩ですね」
「あの学園には龍が通っていたのか!?」
「割とそこらに紛れ込んでるらしいですよ」
「そうなのか!一度戦ってみたいものだな!」
あ、みるく先輩呼ぼうかと思ったけど、ここで呼ぶと魔王に手合わせ強要されそうだからやめておこう。
召喚したら全裸になっちゃうのも不味いしな……。
「大試、ドラゴンに会いに行くの?」
話を少し聞いていたらしい聖羅が聞いてくる。
口の周りについたカレーを拭いてやりながら答える。
「それ以外無いかなぁ……。できれば遠慮したいけど」
「ドラゴンって美味しいのかな?」
「うーん……あくまでイメージでしかないけど、うちで養殖してる家畜たちの方が美味いんじゃないか?」
「残念……」
食う気だったのか?
交渉だって言ってんだろ?
「のう大試、ドラゴンを倒すなら爪が欲しいんじゃが、倒したら貰っても良いかのう?」
「倒す前提で言わないで下さいよソフィアさん。ドラゴンの爪なんて何に使うんですか?」
「薬の材料にするんじゃよ。男が飲むと、性欲が抑えられなくなるらしいんじゃ」
「へぇ……誰に使うつもりですか?」
「おヌシしかおらんじゃろ?」
「禁止です」
「じゃろうなぁ!言ってみただけじゃ!この日本酒美味いのう!聖羅は酒造りも一級品じゃな!」
このエルフも酔っぱらっていた。
とりあえず無限に浮かんでいくような事態を防ぐため、胴体に紐を結んで、ヘリウムガス入りの風船の如く俺が引っ張っている。
魔族には色々な種類がいるため、エルフだというだけでは目立ちはしない。
だけど、物凄い美人で、物凄いプロポーションをしているエルフが、物凄く艶っぽい表情で浮いてると非常に目立っている。
魔族の男たちが何人か前かがみになっているのは、多分半分くらいソフィアさんが悪い。
「魔王様、ドラゴンってやっぱり強いんですか?」
「強さだけで言うなら魔王と呼ばれる存在たちに匹敵するぞ!ただ、ドラゴンであることに誇りを持ちすぎているから、他の魔族たちの事を見下しまくっていて、更にその下にニンゲンという存在を置いている差別主義者という面倒な奴らだ!」
「会いたくねぇ……」
「こればかりはどうしようもないな!諦めろ!」
夏休みの半分が過ぎた。
魔族の領域の夏は、まだまだ長そうだ……。
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