第8話

「これより、実技試験を行う!各自、指定の場所へ向かい、担当試験官の指示に従うように!」




 午後になって、実技試験が始まった。


 午前中の筆記試験において、歴史と物理でボロボロだった俺は、ここで挽回しないといけない。


 挽回しなくても不合格にはならないけれど、田舎者な上に成績が悪ければどんな目で見られるかを想像すると非常に困る。


 できるだけ平均点にしたいもんだ。


 さぁ!かかって来いよ魔法学園とやら!




「はい、じゃあまずは、そこの的に向かって魔法使ってみてくださいねー!」


「的に向かって……?」




 試験官の女性ににこやかに促される。


 でも、どういうことだ?


 俺が使える魔法は、剣を具現化することはできても的に使うことはできんぞ?


 具現化した剣で雷や炎による遠距離攻撃ならできるけど、あれは魔法にカウントされるんだろうか……?




「どうしました?使う魔法は何でも構いませんよ?小学校で習うファイアボールやロックショットで構いません。たまにヒーリングをかける生徒もいますしねー」


「小学校……行ってないです……」


「えっ」




 試験官が慌てている。


 複雑な家庭環境にあった子供とでも思われているんだろう。




 ある意味その通りだが?




 始まりの村以外だと、義務教育で魔法だか魔術だか教えられるとか聞いてねーぞ……。




 しかたないので、木刀を具現化して的に投げつけてみた。


 いい具合に的が弾けて気持ちいい。




「あの……どうして木刀を投げつけたのかな……?」


「これが俺の使える唯一の魔法です!」


「そう……なんだ……」




 この種目、俺は0点らしい。






 実技試験は、4種目行われる。


 1種目100点満点らしいから、平均点を50点と仮定すると、今の種目の挽回をするだけでも残りの全種目で70点ほど取らないといけない。


 午前の挽回まで含めるなら、90点は欲しい所だ。


 不味いな……。




「ここでは、100m走のタイムを計測する!」




 ムッキムキの体育教師みたいなオッサンが腹筋に力を入れた声で叫ぶ。


 100m走か……これなら俺でもできるぜ!


 魔法学園とか言ってたけど、魔獣と戦うには身体能力も必要だしな!




「身体強化魔法の使用を許可する!過去入学試験における平均タイムは、大体8秒だ!」




 身体強化魔法……まあ当然ながら使えないよね。


 でも大丈夫!俺にだって身体能力を上げる手段はあるから!




 俺は、雷切を具現化して、鞘に納めた状態で左手に持ちながら、クラウチングスタートの体勢になる。


 このポーズ久しぶりだなぁ……。


 さぁ体育教師のおっさんよ!スタートの合図を出すがいい!




「貴様ァ!何魔道具を使おうとしている!?」




 何故か、ピストルを鳴らすという使命を放棄して俺の前にくる体育教師。


 おかしい、俺が何をした?




「身体能力を強化しただけですが?」


「魔道具は使うな!」


「いや、これは俺の魔法で作った奴で……」


「指示に従わないつもりか!?失格!次ぃ!」




 第2種目、失格0点。


 話なんて聞いてもらえなかった。


 まだ普通に走ったほうが良かったか……?




 うーむ、これはまずい。


 残りの種目を両方100点取ったところで平均には行けなさそうだぞ……?


 それどころか、現状ぶっちぎりで最下位なんじゃ……?




 残りの科目もこんな感じだとしたら、実技全部0点ってどうなるんだろう。


 普通はこの試験で不合格なんて無いらしいけど、ここまで酷いと流石に不合格にされたりするんじゃ?




 まあ、考えても仕方が無いか。


 次だ次。


 次で100点取ればいいんだ。




「ここでは、総魔力量容量と魔力操作能力を計ります。この機械に触ってみてください。」


「こうですか?」




 先程までとは打って変わって、今回の試験官は看護師姿だ。


 医療的な技術なんだろうか?




「……はい!総魔力量がとても優秀ですねー。100点中50点は、この総魔力量で加点されますが、貴方の場合は50点満点です!」


「おー!初めて点数貰えた!」




 50点とは言え満点だ!


 これで0点だけは防げたぞ!


 魔力操作能力でも満点とってこの種目を100点にしてやる!




 でも、魔力操作ってなんだ?




 魔力操作を計測する場所でも、試験官は看護師姿だ。


 何をどうしたらいいのか……。




「この魔力に反応する護符をどのくらい動かせるかを見るからねー。じゃあ頑張ってみて!」


「ふんぬうううううううう!」




 俺は、力の限り魔力を放出した。


 しようとしたと言った方が正しいか?


 何かが手からあふれ出るようなイメージで唸ってみたけど、護符はうんともすんとも言わない。


 どうやったらいいのか見当もつかない。




 だって、今まで魔力という物を扱った事なんて無いし……。


 剣を生み出す時に勝手に消費されてるらしいという事しかわからない。


 剣を生み出した後の技については、剣自体が勝手に俺の魔力を吸い取っているらしくて、俺が魔力操作というのをしているわけではない。


 つまり……。




「……0点です」




 3種目目、50点!


 やったね!






「俺は、どうしたらいいんだ……?」


「アンタ……流石にもう少し何とかしなさいよ……」


「有栖は、100m走とか止められなかったのか?俺と同じで剣でスペックぶち上げだろ?」


「私は特に何も……。剣による強化分だけで、強化魔法すら必要ありませんでした」


「大試がすごすぎて試験が追いつけてないだけ」




 暗い表情をしている俺を心配してか、最後の種目を前に知り合い3人がこぞって集まってくれた。


 因みに、3人は既に最終種目まで終えて、400点満点で終えているらしい。


 聞いたところによると、風雅も400点満点だったらしい。


 いいなぁ……。




「最後の種目って何するんだ?」


「自分の持てる最大の技を見せるのよ。別に攻撃じゃなくてもいいらしいわ。アタシは、オリジナルの飛行魔術を見せただけで100点満点だったし」


「私は、的代わりに置いてあった巨石を切断しました!勢いあまって、外部に影響を及ぼさないための結界まで斬り裂いてしまいましたが……」


「聖水で試技エリアを満杯にした。おぼれかけた」


「みんなすごいな……」




 何にせよ、最後の種目は俺でもできそうだ!


 100点取ったところで総合点で平均にも行けないけれど、もうここでバシっと決めて、舐められないようにするしかない!


 目指せ!平均的な男子生徒!




 最終種目は、試技エリアという場所で行うそうだ。


 結界で囲まれたステージで、外部に攻撃が漏れないのはもちろん、結界内部で何が起こったとしても巻き戻して記憶以外無かったことに出来る機械がらしい。


 見える限りで10か所ほどあるみたいだ。


 これを使って生徒たちに実戦的な訓練を積ませてるんだとか。


 自慢の結界もエクスカリバーには敵わなかったらしいけど、まあ何とかなるっしょ!




「次!犀果大試!」


「はい!」




 最後の試験官は、目つきの鋭い熟練の戦士って感じの人だ。


 全ての動きを見透かされているような視線にブルっと来る。


 でも俺は負けない。


 ここで100点を取るんだ!




 俺は、早速SRの疱瘡正宗を具現化して、腰にぶら下げる。


 これは、ただの身体能力アップのために使用する。


 同様に、身体能力アップのためだけに木刀を5本具現化し、床に放り出しておく。


 手に持っていなくても、譲渡さえしていなければ装備していることになるらしくて、身体能力は上がる。


 最後に、両手に倶利伽羅剣と雷切を具現化する。


 エクスカリバーと木刀を譲渡しているため、10本の具現化枠のうち俺が使えるのは8本分だけ。


 よって、SSR2本の他は、身体能力アップ目的の6本しか出せない。




「すぅぅぅぅ……はあぁぁぁぁ……」




 深呼吸をする。


 体中に酸素を巡らせ、最大限のパフォーマンスを発揮できるように。




 両手の剣に魔力を吸わせる。


 吸えと念じれば、この神剣たちはどんどん魔力を吸い上げていく。




 この10年で色々検証した結果だけど、雷切は魔力を使って雷を起こすことが出来る。


 基本的には、空から地面に向かって落ちてくるけど、やろうと思えば他の方向にも打てるらしい。


 いずれにせよ、この雷は魔力で形造られている。


 一方、倶利伽羅剣の方はというと、魔物や俺が燃やそうと思ったものを燃やしてくれるという比較的単純な能力だ。


 燃え方も込める魔力次第で変わり、最終的には爆発するに至る。


 どういう理屈化は、分からないけどこの燃焼による被害対象は、所持者やその仲間を除外することが出来る。


 そして、燃やせるものだけど、ある程度の濃度があれば魔力であっても燃やせるらしい。


 だから、こういうこともできる。




「ボルケーノ!!!!!!」




 技名を叫び、両手の剣で床を斬りつける。


 そして、雷切で試技エリアの天元側結界ギリギリの高さから雷を落として高濃度の魔力の道を作り出し、それを倶利伽羅剣で床から順に全て爆発させる。


 雷切の雷次第で方向を操作できるので、その気になれば砲撃のように使える。


 その威力は凄まじく、前に開拓村近くで使ってみたらクレーターが出来た。


 しかも、最低でも上空数百メートルまで技が及んだらしく、遠くからも見えた上に爆発音もすごかったため、村が大騒ぎになったらしい。




 因みに、技名をつけたのは母さんだ。


 母さんは、似たような威力の攻撃を普通の魔法でできるそうだ。


 怖い。




 爆心地にあって、俺はその爆発の影響を受けていない。


 波に攫われる砂浜の砂の如く、足元の床が消し飛んで行ってる感触はあるけど、それだけだ。


 でも、結界内部は凄い状態になっている筈。


 これは、間違いなく100点満点だろう?




 爆発も弱まり、爆炎が晴れてくるにしたがって周りの被害が見え始めた。


 予想通り、俺の足元はクレーターとなっている。


 見ろよこの威力!人間兵器だろ!ヒュー!




 試験官から点数を聞こうと急いでクレーターから出て辺りを見回す。


 何故だろう?


 さっきまで試験官は、目の鋭いおっさん1人しかいなかったのに、いつの間にか10人くらいの試験官っぽい大人が俺の試技エリアを取り囲んでいる。


 彼らは、手を前に出してバリアみたいなのを張っているらしい。


 これも結界ってやつか?なんでまた……。




 と思ったけど、もう一度周りを見渡して原因が分かった。


 試技エリアが全部消し飛んでいる。


 先程まで四角く区切られていたそのステージは、端までクレーターに飲み込まれていた。


 結界も何もかも、耐えられなかったらしい。


 軟弱な奴め。


 こんなんでちゃんと実践的な戦闘訓練なんてできているのかい?


 まったく……先生たちも何か言ってやってくださいよ!




「犀果大試!故意の施設破壊により失格!」




 俺は悪くない。




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