第138話
画伯によって、オカルティックなクローズドサークルと化した買ったばかりの我が家。
見た目も洋館で、アイ50の整備によってピカピカではあるけど、デザイン自体がいつ探偵や警官がトラブルでやって来て、殺人事件が起こってもおかしくない雰囲気だから、ある意味ピッタリのイベントなのかもしれない。
こんな所に居られるか!
俺は寝たいからベッドがある部屋に急がせてもらう!
「なあ聖羅、聖女パワーでこの不思議空間ぶっ壊せない?」
困った時の聖女頼み。
聖女様ってなんとなく厳かというか、神聖な存在に思われがちだけど、うちの聖女様は拳で熱く語るタイプなんだ。
ペラペラ喋るの得意じゃないしな……。
たまに早口になるが。
「…………ごめん大試、私にはできない」
「そっか。聖女パワーでも無理か……」
「違う、聖女パワーでぶち壊すことは多分できる。問題は……」
そこまで言って、言い辛そうに俺から目線を外す。
一体どうしたんだ?
昔、俺の食べかけのアイスをこっそり奪って食べて、知らぬ存ぜぬを通そうとしたときみたいな反応だぞ?
「……ミナミ先生の作品を壊したくない……」
「えぇ……?」
思ったよりファンになっているようだ。
やべーなミナミ画伯。
「もちろん、いよいよとなったらやる。どんな時でも、一番大事なのは大試。だけど、他に解決する手段があるならそれを試してからにしたい」
まあ、聖羅がここまで拘るのも珍しいし、しょうがないか。
いっつもいっつもならともかく、たまになら可愛いもんだ。
「じゃあどうしようか?普通にクリアするなら、鍵を探さないといけないわけだけど……」
「大試、大試よ、その……じゃな……?」
「どうかしました?ソフィアさんも画伯のファンになったとか?」
「いや……そう言うわけじゃないんじゃが……鍵のありかについて心当たりがあるんじゃよ……」
「本当ですか!?じゃあさっさと行ってみましょう!」
「行く必要はないんじゃが……うーむ……」
どうにも歯切れの悪いソフィアさん。
答えを知っているけれど、それを答えると空気が読めないとかなんとか注意されそうで躊躇しているような反応だ。
でも、俺は空気がどうのと言うつもりはないので、例え雰囲気ぶち壊しだとしてもさっさとクリアしちゃいたい。
「何があってもソフィアさんだけのせいにしませんから、その心当たり教えてください」
「……それがじゃな……これなんじゃが……」
「なんですかこれ?黒いきんちゃく袋みたいな……」
ソフィアさんが胸の谷間から引っ張り出したその袋を少しだけドキドキしながら受け取る。
何でそんな所に隠していたんですか?
ふんわり温もりといい匂いと少しの湿り気がある……。
それはそれとして、中を見てみると、そこには……。
「これって、将棋の駒……?」
「うむ……王城で暇つぶしにやっとった将棋の駒をそのまま譲ってもらってのう。じゃが、これが仮に鍵に該当するとしてじゃ。まったく探したりしとらんのにクリアってなった場合、あの娘はガッカリして大変な事になったりせんかのう……?ワシ、正直他人の心の機微に疎くて自信ないんじゃが、あの娘は相当ワシらがクリアするのを楽しみにしているようじゃし……」
確かに、ワクワクした表情でこっちを凝視している姿から察するに、俺たちを祟ったりとかそういう事をしたいのではなく、この自分主催の理不尽ゲーム展開を楽しんでいるだけに見える。
でも、今日の俺は疲れているので、そんな理不尽を強いてくる奴の期待なんて簡単に裏切れるんだ。
「気にしないでやっちゃいましょう!」
「おおう!?いい度胸じゃなぁ……気に入った!ワシも腹を括ろう!使える物はガンガン使ってさっさとクリアしてやろうぞ!」
「はい!」
空気はぶち壊すもの!
俺のイメージだと、この手の鍵の場合、同じような形の差し込む穴が開いているもんだけど、一体どこだろうか?
石でできた将棋盤とかあればズバリなんだけど、そんなものは見当たらないし……。
ダメもとで聞いてみるか!
「ミナミさん、鍵穴ってどこです?」
「鍵穴……?なんのっスか?」
「いや、1階へと続く階段に行くための出入り口を開けるための鍵を探せって話でしたよね?」
「……あー、ははは、いやいや……大試さんって、案外ロートルなんスねぇ……」
ヤレヤレと、身振り手振りでオーバーにリアクションをして見せる画伯。
いい度胸じゃのう?
こちとら今大分ストレスためながらやっとんのじゃぞ?
このラビリンスをクリアした後、デコピン位覚悟しとけよ?
「あ!それより、それってもしかして将棋の駒っスか?」
「ん?うん、らしいぞ」
「本当は、ここに並んでるドアから入れる各部屋に駒が隠してあって全部集めたら階段への出入り口に繋がる予定だったんスけど、そういう2周目で既にキーアイテム持ってて楽勝!みたいなのも嫌いじゃないっス!」
そうなの?
割となんでもありな人なのね画伯って。
てっきり、拘りで人を殺すような類の悪霊かと思ってたけど……。
「それで、ここからどうしたらいいんだ?」
「じゃあ、その駒を持ったまま、どの扉でもいいんで近づいて、ドアノブを握ってほしいっス」
「こうか?」
言われた通り、手近なドアのドアノブを掴む。
すると、ぎゅいいいい……ガチャっと、電子ロックが解除される音が響いた。
えーと……これって……。
「時代は、スマートキーなんスよ!」
「思ったより近代的だった……」
このラビリンス、どうやら一筋縄では行けないようだと改めて痛感しながら、俺たちは扉の先に現れた階段を下るのだった。
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