第137話
「アハハハハハ!描ける!描けるっス!!!!!」
「凄い……この人は天才……!大試、早急に画材を用意して!」
水まんじゅうお姉さんが狂気の笑顔を振りまきながら、タヌキ印の画材で絵を一心不乱に描き殴っている。
それを見て聖羅もご満悦。
聖羅がここまで芸術に興味を持つのって初めてなんじゃないだろうか?
俺が歌っている姿とか、俺が描く絵をじっと見てることはあったけれど、それ以外で芸術作品にこうも関心を持っているのは見たことが無い。
あれ?
もしかして、俺の絵もこんな感じの精神をかき乱される様な絵だったのか……?
歌もメンタルブレイクさせに来るような感じだった可能性も……?
いやそんな……大丈夫だよな……?
「なぁ有栖、俺の歌って音痴だった?」
「え?そんなこと無いと思いましたが……?」
「そ……そうか……よかった……」
よし!
なんとか俺の心にひびが入るのを防いだぞ!
ありがとう有栖!
「ワシは良く歌をイジられたのう……。『見た目は大女優なのに、歌が子役』とかのう……」
「ソフィアさんってどんな曲が好きなんですか?」
「エルフの里には、古代文明の芸術データも残っているんじゃが、その中でデスメタルと呼ばれていたジャンルが好きじゃな!」
「デスメタルを子役みたいに歌う……?」
どうしよう……すごく聞きたくなってきた……。
幽霊改め精霊だったらしいミナミさんも、なんか絵さえ描いていれば満足みたいだし、祟ったりしないのであればほっといてもいいか……。
ってかね、眠いからね……。
化け狸に神様に悪霊に精霊とかもうお腹いっぱいなんだよね……。
アイ50が部屋の準備してくれているならもう寝ようよ?
「というわけで、俺たちはそろそろお暇して寝」
「ああああああああああああああああああああ!」
「なになになに!?」
突如叫び出すスライム……じゃなかった、画伯。
元からこんな感じの奇抜な人だったのか、それとも幽霊になったり精霊になったからこうなったのかは知らないけれど、1秒でその場をホラーのノリにする能力はあるらしい。
「そうっス!思い出したっス!」
「思い出したって、何を?」
「死ぬ直前やってた事っスよ!なんで忘れてたかなー!?」
うーん、コレってもしかして、思い出させない方が良かったタイプかなぁ……。
不穏な気配がする。
よし、話を遮って話題を変えよう!
「ミナミさん、俺は画材に詳しくないんですけど、どんなのが必要なのかメモで書きだしてもらえます?」
「ん!?良いっスよ!」
とりあえず、何をそんなに狂気に呑まれたようにやって過労死だか餓死だかしたのか知らんけど、その事は一時的に忘れてくれたらしい。
仮に何をしていたとしても、精霊パワーを持っちゃってる今だと実現しかねないからな……。
他に注意を逸らすネタ無いかなと思案していると、俺のスマホが鳴り始めた。
画面には、リンゼの名前が表示されている。
仕事押し付けて帰ったから、怒ってるよなぁ……。
「もしもし?」
『あ、大試?アタシもそろそろ王都に着きそうなんだけど、アンタ今何してる?』
「あれ?もう帰ってこれたのか?てっきり帰れなくてキレて電話してきたのかと……」
『アタシは、あくまでサポートに過ぎないから。たまたま今回アンタの関係者として少しの間指示出しなんてしてたけど、本当はただ経験積ませるために送り込まれただけだもの。今列車で帰ってるわ。王都まであと30分ってとこね』
なんだ、案外平気だったな……。
開口一番に怒鳴られるかと思ったけど……。
リンゼ相手ならそれはそれで嫌いなコミュじゃないんだけど……。
怒られないに越した事は無いわな。
「俺は今、新しく買った家の下見……をすっ飛ばして早速住むことになって案内してもらってたとこ」
『は?家買ったの?いきなり過ぎでしょ』
「俺もびっくりした。探しておいてって言っただけだったのに、アイがノリノリで即買っちゃったらしくてさ」
『ふーん……ん?え?ちょっとまって?もしかしてなんだけどさ、その家に幽霊みたいなの住み着いてたりしない?』
「お?よくわかったな?なんか精霊にまでなってるらしいんだけど、画家の女性がいてさ」
『……アンタ、今すぐその家から逃げなさい!今すぐ!早く!』
「は?えっちょ……なんだよいきなり?」
『いいから!はやザザザザザザ……』
リンゼとの通話は、最後は雑音だけになって切れてしまった。
列車で移動中だったらしいし、電波状態が悪くなったんだろうか?
それにしても、すぐに逃げろってどういうことだったんだろう?
うーん……いや、考えるのは後回しだ。
リンゼがあれだけ慌てていたんだから、ここは逃げるのが正解だろう。
「全員今すぐこの家から退避!理由は分からんけど、リンゼからの指示だ!急げ!」
「大試どうしたの?逃げればいいの?」
「そう!」
「わかった」
「走ればいいんですね!?」
「なんじゃ?騒がしいのう……」
「競争!?競争だよね!?」
「アイ50、屋敷内から退避します」
流石は、最近何かと面倒事に巻き込まれている面々だ。
俺に言われて即逃げ始めてくれる。
これが映画なら、絶対ここでグズる奴が出て来て閉じ込められるんだ。
そう言う奴が最後まで生き残ると、ヘイトがすごい集まるんだよなぁ……。
廊下を皆が遅れていないか確認しながら走る。
広い屋敷とは言え、出口までの距離はそこまででもないし、アイの量産型たちが逃げ遅れてないか確認しながらでも構わないだろう。
まあ、今の所は量産型アイは1人も見ていないけども。
みんな素早く逃げたのかな?
あれ?そういえばミナミ画伯もいないぞ?
まあ幽霊みたいな存在らしいし、ほっといてもいいか?
何がリンゼの危惧する事態なのかはわからないけど、既に死んでるならそこまで気にすることも無いだろう。
ソフィアさん位しっかり肉体を得ているような状態ならともかく、液体みたいな感じだったしなミナミさん。
それにしても、皆の走るスピードに合わせて走っているとはいえ、こんなに廊下って長かったっけ?
もう数分走ってるのに、階段にすら到着しない……。
「大試、この家ってこんなに広かった?」
「いや……俺の記憶なら、もうとっくに階段に辿り着いてないとおかしいんだけど……」
「私の記憶でもです!絶対に変です!」
「アイ50たちとも通信が途絶……それどころか、私のネットワークが完全にオフライン状態です。こんな事が起きるわけが……」
どうやら、皆もこれが異常事態だと感じているらしい。
どういう事だろう?
精神操作……?
それとも、実際に何か変な空間にでも閉じ込められた……?
「ふむ、大試よ。これは、ラビリンス化しとるのう」
ソフィアさんがめんどくさそうな表情でそう告げる。
その顔だけで、これがろくでもない事だとわかってしまう。
ソフィアさんからしてもそれってことは、俺達からしたら一大事って事だ。
「ラビリンス化ってどういうのですか?ダンジョンとはまた別なんですか?」
「うむ……ダンジョンは、それ自体が魔物のように発生し、そのまま長い時間をかけて成長していくんじゃが、ラビリンスは、精霊や大精霊といった高位の存在が自分の意志で作り出すダンジョンに似た空間じゃな。まだ未完成のようじゃが、ここは今まさにラビリンス化しとるぞ」
そう言われ、周りを見る。
壁や床、天井なんかは先程までと変わり無いけれど、廊下の先がどこまでも続いている。
窓の外には、ちゃんと外の景色が見えているけれど、どの窓からも見える景色が一緒だ……。
「これ、どうやったら脱出できますかね?」
「ラビリンスは、ダンジョンと違ってダンジョンコアと呼ばれるものが無い。必ずしもボスと呼ばれる存在がいるわけでもない。その代わり、そのラビリンスごとに特殊なルール設定がされとるんじゃよ。その条件を探して達成することで、解除される筈なんじゃが、何分ラビリンスごとにそのルールが別々じゃから、どうしても難しいんじゃよなぁ……。魔術でゴリ押し出来る分ダンジョンの方がワシは簡単だと思うんじゃが、ラビリンスは条件次第で戦闘も行わずクリアできることもあるからのう。しかも、条件を達成すると、相当な量の経験値が貰えて、大幅レベルアップのチャンスともいえるんじゃよ。まあ、普通はそうそうラビリンスに遭遇することなんて無いんじゃがな……。精霊や大精霊だとしても、ラビリンスを発生、維持できる程の能力持ちは少ない……はずなんじゃが……」
要するに、超メンドクサイ事になっている訳だ!
あーもう!クソったれって叫びたい!大声で叫びたい!
「皆さん、どこいくんスか?せっかくこんな楽しい事ができるようになったのに!」
その声に振り向くと、画伯がニタァと笑って浮いていた。
うっわこわ!
ホラーだ!ファンタジーじゃなくてホラーになった!
「ミナミさん、この異常事態ってミナミさんの仕業ですか?」
「そうっスよ?どうっスか!?絵でダンジョンを作ってみたんすよ!それが生前最後に挑戦してたことだってさっき思い出したんス!」
「はた迷惑かなって……」
そういうのは、お外でやってくれないだろうか……?
誰もいない森の中とか、洞窟の中とかさ……。
「脱出する方法って教えてもらえますか?」
「それは出来ないっス!是非是非自分で考えて楽しんでほしいんスよ!」
「いやあの……俺すっごい疲れてて……」
「確かに大試君は憑かれやすい体質みたいっスからね!そのお陰でこの空間も作りやすかったんス!感謝するっス!」
「最高にありがたくない感謝……」
なに?俺って霊媒体質なの?
霊感ないんだけど?
てか、楽しめるかいこんなん!
「じゃあ最初の関門っス!1階へと続く階段に行くための出入り口は鍵がかかってるんで、その鍵を探してほしいっス!」
「鍵……?えぇ……ゲームだとクソめんどくさい奴じゃん……」
「運が良ければすぐ見つかるっスよ!」
「チェスの駒だったりしないですよね?」
「おしいっス!駒は駒でも将棋……あ、これは秘密だったっス!」
もしかしたらこの家の周りには、特定外来生物のアライグマがいるかもしれない。
この世界のアライグマは、尻尾はタヌキと差別化されているんだろうか?
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