第275話

 なんちゃら聖国の大聖堂を吹き飛ばして早数週間。

 俺は、この世界に来てから、初めて学生という身分らしい生活をしていた。

 帰って来た翌日早朝、連れ帰った女性たちとの話し合いを行った直後に王様から呼び出され、イニシャルAのドライビングテクに酔いしれながら登城した先で、王様からこう言い渡された。


「おう!大試!お前暫く大人しくしとけな!」


 曰く、あのリスティの矢騒ぎが、見る人によっては俺の仕業だってバレかねないということで、よっぽどのことが無い限り神剣ブッパを禁止されてしまった。

 折角夏休み丸々使って、貴族たちからのやっかみから逃れるためにほとぼりを覚ましていたのに、早速あんなことがあればそうも言われるだろう。

 我ながら節操なく働き過ぎだ。

 いや、働きたくて働いてたわけじゃないよ?


 というわけで、今の俺に出来る事といえば、毎朝のトレーニングと、学園に真面目に通う事くらいだ。

 学園では、魔族が最近大人しくなったらしいとか、聖国の13使徒たちが全員拘束されて、死刑を廃止したと誇っていたEU各国で死刑よりも酷い刑に処されてるとか、俺今日殆ど寝てねーわーとか、色々な話題が飛び交っている。

 俺は、それらの会話に混ざることはない。

 何故かって?

 話す相手がいないからさ。


 聖羅は、聖国の騒ぎによって重要性が増したとかで、今世界中を飛び回っている。

 一緒にアンナとかもついて行っているらしくて、かなりの大所帯で世界中にある教会施設を訪ねているんだとか。

 聖羅とは、毎日動画チャットで寝落ちするまで会話しているけれど、早く帰りたいと愚痴っていた。


 有栖は、授業が終わった瞬間に城の人たちに拉致されて連れていかれる毎日だ。

 リンゼも、拉致という程ではないけれど、授業が終わり次第同じように城に呼び出されている。

 俺は部外者だから詳しく話を聞いていないけれど、教会の13使徒の日本人が、日本でかなりヤバ目のテロ行為を行おうとしていたらしく、東京中に未発動のしかけが大量に見つかったらしい。

 それで、魔道具関連で卓越した技術と知識を持つガーネット家は、一家総出で事に当たるよう要請されてるらしい。

 リンゼ自身は、ぶっちゃけ魔道具にそこまで明るくないんだけれど、魔術に関しては日本でもトップクラスの腕前なので、その辺りで貢献しているんだとか。

 大変だなぁ……。


「犀果君!」


 さて、授業は終わったし、俺もやる事やるか……と思いながら立ち上がったタイミングで、俺に対して声をかけるという奇特な人物が現れた。

 委員長である。


「何?」

「秋の新作の商品が幾つかできたから、その内また犀果君の家の皆さんで味見してくれない?この前のは凄く参考になったし!」

「いいよ。家の奴らもすごい喜んでたし」

「ホント?助かる!じゃあ、明日にでも!」

「あいあい」


 うん、普通だ。

 ふつーの会話だ。

 なんだろう……普通って、いいな……。


 あとこのクラスに残っている奴で、会話できそうな相手はマイカくらいだけれど、今日のマイカは全てをシャットアウトするモードらしい。

 具体的に言うと、分厚いハードカバーの本を開き、それで顔を隠すようにしながら熟読中だからだ。

 ああいう時に話しかけても無視されるし、そもそも話しかける話題はない。

 アレクシアのアタックが緩やかになったらしいという事くらいか?

 理由は知らん。


 え?理衣?

 やっこさんはいないよ。

 今は、生徒会室で会長の代理をしてるはず。

 上位の貴族の生まれではあるけれど、後継ぎでも無ければ特殊な技能を持っている訳でも無い……んだけれど、明らかにしていない理衣に、この状況でも国から要請が来ることはない。

 だけど、真っ先に要請が来た人がいて、その人の代わりを押し付けられているんだ。

 なので、有栖達とほぼ同タイミングで放課後は教室から駆け出していく。


 毎日死ぬほど忙しそうで、昨日見に行った時には「助けて~!おねがい~!!!」と半泣きで手伝わされたので、今日もなんとなく手伝いに行こうかな……なんて思っていた所だったんだけれど、丁度そのタイミングで、理衣に仕事を押し付けてしまっている張本人が、何故か俺の教室に入って来た。

 えっと……ここは、1年生の教室で、貴方は2年生ですよね?


「会長?どうしたんですか」


 結界を張るのが得意だという巫女の一族である会長が、鬼気迫る表情で俺の方に向かってくる。

 え?何?俺殺される?


「大試君、行くわよ」


 有無を言わせぬという雰囲気だけれど、流石に突然すぎて何が何だかわからないんですよ俺。


「行くって……どこに?」

「決まってるじゃない」


 そう言って、会長は俺の腕に自分の腕を絡めた。

 これで、俺は逃げれなくなった。


「神社デートよ!」

「……あ、はい」


 説明されたけれど、猶更わからなくなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る