第33話

『今回の桜花祭、私は、最愛の妹である第1王女有栖に対して、圧倒的な勝利をすることをここに宣言する!皆も知っての通り、現在この国の王太子は、事実上空席の状態だ。第1王子である我が兄の愚行によってな。それに、先日第3王子は体調不良のために長期療養が必要と判断され、公務は期待できない状態となっている。つまり、次期王としての候補は実質2人ということだ。であるならば!こうして兄妹で直接争える機会を逃す手はない!この桜花祭を王位継承権争いの前哨戦としたい!何より!私は妹に王なんてクソ面倒な事をさせたくない!幸せに生きてほしいと思っている!だから絶対に勝つ!貴族の者たちよ!今ここで選ぶがいい!生まれつき体が弱く、いつ公務が行えなくなるかわからない、そんな華のようにか弱く美しい我が妹に着くか!こうして健康に堅実に生きる私に着くか!そして平民たちも決めるがいい!将来の職に繋げるならば誰に着くか!先ほど、運営委員長である武田生徒会長に確認してきたが、代表者さえ認めれば、1年生でも在校生合同チームに入ることが可能とのことだ!つまり、今ここにいる者たちでも私の部下になれるという事!これは即ち、私へ自分の価値を見せつけるチャンスである!上級生たちの中には、学園という限定された空間でしか接することが出来ない社会的地位の高い者たちが多くいる!そちらに己を売り込むのもいいだろう!さぁ!私に着いてくる者は、今から第2体育館へくるがいい!我々上級生は、貴殿らを歓迎する!以上だ!』




 そう言うと、王子様はさっさとステージから降りていった。


 それにしても……。




「長いし煩いな……」


「うん……」




 俺もそうだけど、聖羅もうんざりの様子。


 ステージの有栖は、これ以上無いくらい渋い顔。


 膝のリンゼは、この騒ぎでも寝たままだ。


 こいつ……大物になりそうだな……。


 って公爵令嬢な上に元女神だったか。


 大物だわ。




 色々言ってたけど、1年生軍から寝返って我が合同軍へ来いってことか?


 あとシスコンっぽかった。










「んで、こうなると」




 今俺たちは、体育館の隅に集まって座っている。


 大体20人くらいだろうか?


 他の奴らは、合同チームに行ったんだろう。




「女の子ばっかり……」


「貴族は、大半が王子様の方に行ったんじゃないか?特に跡取りとして期待されてる男子連中はあっちに集中してるんだろ。女子だって、貴族として結婚相手見つけるためにもあっち行きたい奴多いだろうし、独立する場合も将来の仕事の事とか考えて、王子様の言う通りあっちは有利だろうからなぁ」


「大試はあっち行かないの?」


「嫌だよ……。だって今あっちの体育館絶対すし詰め状態だぞ?」


「……嫌だね……」




 本来2つの体育館に分かれて行われるはずの会合をほぼ1つの体育館に生徒たちを集めたんだ。


 今凄い熱気だろう。


 やっぱり、褌一丁で護符入りの麻袋の取り合いした方が合ってるんじゃないかなぁ……。




「犀果君もこっちに残ったんだね?」


「君は……えーと……そう!佐原京奈さわら けいなさん!」


「うん!合ってるよ!でも忘れてたでしょ?」


「いやごめん、思い出したから許してくれ……」


「もう……」




 この前、でかいイノシシに追われてた一団の1人だ。


 その時一緒に逃げてたクラスメイトの女の子たちもみんな一緒らしい。


 それによく見ると、残ってるメンバーには顔見知りが多い。


 どうやら、大半が1年1組らしい。


 俺に使役されているエリザと、何かと仲良くしているマイカも残っている。




 てかさ、他の人たちも皆凄い美少女なんだよなぁ。


 なんていうか、ちょい役じゃなくてゲームでガッツリ出番があるタイプの見た目というか……。


 あと髪の毛がカラフルで……。




 あれ?


 もしかしてこれってゲームの中のイベントなのか?


 それで、名有りキャラたちがこの困難を解決していくタイプの……。




 でもだとしたら、なんで男キャラがいないんだろう?


 俺、わりと疎外感があるほどに女子比率が高いんだけど……。




 まあいいか。


 それよりも、とりあえずこの場の雰囲気を変えたい。


 だってさ、どんよりした瘴気を発している娘がいてさぁ……。




「有栖、この選ばれし20人を率いる大将なんだから、落ち込んでないでとりあえず挨拶してくれ。話が進まない」


「うぅ……そうですね……。えーと、皆さん。私なんかのために残って頂き誠にありがとうございます……。ですが、将来の事を考えればやはりあちらに行く方が……」




 体育座りしていたのに、更に小さく丸まっていく王女様。




「将来とか関係ない。味方するなら有栖。だって友達だから」


「聖羅さん……」




 おお!聖羅が自分で他の娘を友達って言ったぞ!?


 これ初めてじゃね!?


 成長しているんだなぁ……。




「ウチも別に将来とか関係ないしね!フレぴと一緒の方がいいじゃん!」


「エリザさん……」




 付け焼刃のギャル語でエリザも頑張っている。


 特攻服から脱却したいんだなぁ……。




「……わ…私も……、王女様の方がいいです……!」


「マイカさん……」


「私だってそうだよ!だってクラスメイトだし!ねぇ皆!?」


「「「うん!」」」


「京奈さん……皆……!」




 段々とやる気が満ちてくるメンバーたち。


 はぁ……女子たちの美しい友情劇……。


 いいな……俺はこの中にはちょっと怖くて入れないけど……。




 この場のノリについていけていないのは、俺を除くと1人だけ。


 リンゼだ。




「リンゼ、俺達仲間だよな?」




 返事はない。


 ただの寝坊助のようだ。


 とりあえず俺のズボンを涎でダラダラにするのをやめてほしい。


 本当に女神なのかお前?




 女子たちの励まし合いのような騒ぎが落ち着いてきたところで、話を進めるために話題を振ってみる。




「有栖、対戦相手のお前の兄貴についての情報教えてもらっていいか?」


「宏崇兄様……兄上は、とても優秀な方ですよ。公務も卒なくこなし、その上で去年は生徒会長をしていたそうですので。学年が変わるタイミングで、現生徒会長の武田水城さんに引き継いだそうですが。ただその……ちょっと……私の事を……その……」




 言い辛そうにする有栖。


 そうだな、ここは俺が言ってやった方がいいよな。




「シスコンなんだな?」


「……はい……。悪い方ではないんです!むしろ私の事をとても大切にして下さるのですが……」




 つまり、ちょっと厄介なシスコンなんだな?


 把握しました。


 俺の中で王子の好感度が大分上がりました。


 第3王子のせいでストップ安でしたけど、これで多少は回復したと言っていいでしょう。




「いやぁ、ごめんねー有栖ちゃん!宏崇先輩って有栖ちゃんの事となると見境い無くなるのねぇ……」




 有栖が、兄貴は悪い人では無いと必死に説明している間にぬるっと足音も無く人影が近づいてきていた。


 生徒会長の武田水城先輩だ。




「会長、こういうのアリなんですか?オリエンテーションとして成立してます?」


「あっちは上級生と下級生でオリエンテーションしてるんじゃないかしら?こっちはこっちで小人数ではあるけどオリエンテーションしてるでしょう?女の子の輪に入って行けない子は知ーらない」


「酷い……悪魔だ……」




 この人は、ボッチ気質の男子の敵だ!


 でも、そんな男子と問題なく会話してくれる天使かもしれない!


 どう評価したらいいかわからない!




「まぁまぁ!それよりも、流石にここまで人数差が生まれると思ってなかったから、私としても多少はバランスをとってあげたいわけよ。というわけで、1年生チームには学園側からバスと運転手を自由に1台分使える権利を与えまーす!」




 そう言って1人で手をパチパチ打ち合わせる会長。


 一応は責任感じてくれているらしい。


 まあ、バスが使えるのは素直にありがたい。


 移動時間の短縮による準備時間の確保は、人数の少ない俺たちにとってとても重要な要素になる可能性もあるからな。


 多分王子様は、自前で用意してくるんだろうけども……。




「そういえば、砦って魔法で吹き飛ばせます?」


「おー、流石入学早々ヤラかした問題児くん!考えることが危ないわね!でも大丈夫よ。試技バッジと同じような技術を使って、外壁や窓ガラスは試技バッジをつけている者からの攻撃は受け付けないから。内装は、多少の変更は可能かしら?机や椅子なんかの家具はその効果が無いから、移動や破壊もできちゃうので盾には使わないことをお勧めするわね」




 うん、やっぱり開拓村流脳筋ストロングスタイルのデスマッチは無理らしい。


 先制戦略級の攻撃で瞬殺がダメとなると、勝利は難しいか……。


 まあでも、俺としては別に勝たなくてもいいのか?


 ちょっと悔しいかもしれないけど、これによって将来が左右される立場にいるわけでもないし。




 有栖は、どう感じるかわからないけど……。


 うーん……。




「なぁ有栖、お前は今回勝ちたいのか?別に勝ちたくないなら、特に何も特別な事せずそのまま負けてもいい気がするんだけどさ」


「……私は……」




 そこで考え込む有栖。


 普段割と負けず嫌いな性格をしているけれど、このイベントは毎年1年チームが負けるのが恒例になっているらしいし、尚且つこの状況だ。


 積極的に勝ちにいかなくても誰も何も言わないと思うんだが……まあ、あの有栖だしなぁ。




「私は、やっぱり勝ちに行きたいです!例えこれが本当の戦いではなく、ただのレクリエーションだとしても、大人しく負けるなんて我慢できません!か弱いなんて言われたまま負けを座して待てるほど私は大人しい女の子じゃないんです!負けるなら負けるで前のめりに!それが私の今の想いです!」




 その宣言に、女の子たちがおー!と歓声と拍手を送る。


 聖羅すらウンウンと同意している。


 これは、俺も頑張るしかないか……。


 友達がやる気になってるなら、それに付き合うのが本当の友達だろう。


 ただ、ちょっとは勝った時のご褒美が欲しい!




「会長会長、ちょっとお願いがあるんですけど」


「何かしら?あまり片方だけに肩入れはできないわよ?」


「ここまで少人数の俺たちが勝ったら、学食1週間無料にしてくれません?」


「そんなこと?わかったわ!そんなので良ければ認めてあげる!」


「しゃっ!やる気出てきた!」




 例え、目をキラキラさせているエリザ以外から白い目で見られたとしても、この位のご褒美は要求していいくらいの難易度なはずだ。


 自由に使えるお金を稼ぐ方法……探さないとなぁ……。




 あとリンゼ、そろそろ起きろや!






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る