第71話

「皆の者!本日は良く集まってくれた!武田の者も、そうでない者もいるはずだが、相手が魔物である以上常に危険が伴う!常に油断をせず事に当たってほしい!特に!女に現を抜かし!あまつさえ年若い女子高生を次々手籠めにするような者は警戒するように!」




 初日に強制退場させられていた会長のパパ上様が、俺を凝視しながら挨拶をしている。


 昨日は、いったいどこに隔離されていたんだろう……?


 結局一回も会わなかったけど……。




 大体、何で俺はここまであの人に嫌われているんだろうか?


 俺から会長に何かした事は無いはずなんだけど……。


 ましてや、あのムキムキマッチョ相手にケンカ売った事なんて絶対にない。


 確実に初対面から殺気だっていた。




 パパ上様からの視線にビクつきながらいると、そのムキムキボディをママ上様がヒョイと演説台から引っ張り下ろすのが見えた。


 あの人、一見ただの超絶美人な女子大生巫女か何かにしかみえないんだけど、絶対何かの格闘技か何かを極めているよなぁ。


 力の使い方がうまいのか、旦那を軽く手玉にとるのを何度も見ている。


 多分、会長のあの無意識の抱き着きによる攻撃は、ママ上と近い技術によるものなんだろう。


 なんだろう……武田流格闘術とかあるんだろうか?




「それでは皆さん、これより今年の『炎華祭』を開催します!」




 絹恵さんの号令により、詰めかけた野伏や巫女衣装の人たちから歓声が上がる。


 そして、我先にと裏山へと走り出した。


 俺たちも、1位を目指して頑張ってみるか!




「最初に魔物を倒したグループには、ボーナスポイントが入ります!他にも、様々なボーナス条件をご用意しておりますので、是非狙ってみてください!」




 絹恵さんの声がインカム越しに聞こえる。


 格好は歴史を感じるけれど、案外近代文明の道具も使われているんだな。


 どんなボーナス条件があるんだか知らんけどな。




「……倒しました」


「マイカ、やっぱり学園卒業したら俺の実家の村に就職してくれよ。マイカの力がすごくほしい」


「……考えておきます」




 初討伐ボーナスは、俺たちのグループが頂いた。






 ―――――――――――――――――――――






「うぅ……この格好本当に大丈夫かなぁ……?ねぇ大試君……本当に見えてない……?その……パン……」


「大丈夫、正面からも後ろからも見えてないよ。ちょっと体勢低くなると見えるかもだけど」


「そんなぁ……もう大試君の体でかくしておくもん……」




 何も、ラッキーガールの作用で着ることになってしまったと思われるミニスカ巫女服でそのまま出場することも無かったんじゃないだろうか……?


 着替えたっていいはずだし解除だってできるんじゃないのかなぁ……?


 ……いや、やる気でやっている可能性もあるか?


 俺の視線誘導という何の意味があるのかわからない作戦のためとか……?




 やめてください。


 俺の目は口よりモノを言うんです。


 俺の目線に気がつくと、聖羅はニヤっとし、リンゼは胸や太ももを隠しながら怒り、有栖は恥ずかしがりながら腹筋を手で隠すんです。




「大試君は、理衣さんの巫女服と、私の巫女服ならどっちがいいの?」


「会長、それはとても難しい質問です。ステーキとすき焼きどっちの方が美味しい?って聞かれてるようなもんですよ」


「私はロールキャベツが食べたいわね。因みに味付けはデミグラスよりコンソメとか麺つゆ派よ」


「なんですか?ハラペコキャラにイメチェンするんですか?美人な黒髪の先輩で生徒会長で猫大好きで巫女の侯爵令嬢なんて過積載状態なんですから自重してください」




 今は、とりあえず皆で強い敵がいそうな方角に進んでいる。


 どうやってその方角を極めているかって?


 アレクシアが「こっちには行きたくありません!!!!!」って強く主張する方角だよ!


 半べそでついてくるアレクシアにはちょっとだけ悪いと思っているけれど、これもレベル上げしてエルフを助けていくためには避けられない戦いなんだ。


 つまりてめぇの為でもあるんだよ!泣いたってレベルはあがんねーぞ!


 デスマーチだぜぇ!




 そういえば、ガチャから70本目の剣を出せば具現化可能枠を2倍にしてもらえる特典が貰えるんだっけか。


 俺もレベル上げないとな!


 ガンガン行こう!敵もいっぱいいるし!


 さっきからマイカがバンバン狩っている。


 クラウ・ソラスは消費魔力が少ないのかガンガン使っていけるそうだ。




 俺は、さっきからもっぱら倒された魔獣の解体ばかりしている。


 別に利用価値も無さそうな奴なら魔石だけとって終わりでもいいんだけど、出てくる魔物が先ほどから鹿ばかりで、肉が食べられそうだからとエルフたちがうるさいんだ。


 しかも、でかい神社の娘である会長が持っている収納カバンは、リンゼたちが持っている物とも遜色がない大容量なせいで、これ以上持てないだろという言い訳すら封印されている。




「おかしいわね……毎年この時期は、もっと色々な魔物が発生している筈なのだけれど、さっきから鹿してみていないわ……」


「普段だったらどんな魔物がいるんですか?」


「そうね……危ないのだと、トラ型かしら?あとは、数十年に1回くらいだけれど、龍が出ることもあるわね。一番見る魔物といえば、マシラ型っていう猿みたいな魔物が普段ならいっぱいいるのに、何故か今年はいないのよね……」




 ふーん……。


 そういう今年だけの変異ってのは、ここがゲームをモデルにした世界だと考えると無視できないよなぁ。


 例えば……猿の味が気に入ってしまった強力なトラとか龍の個体が大暴れしててマシラ型が全滅してるとか……?


 だとしたら、そう言う類のボスっぽい奴を倒せば有利に立てるかな?




 トラは、前世から合わせても動物園でしか見たこと無いなぁ……。


 龍はもちろん見たことが無い。


 宝玉を7個集めたら出てきたりしないだろうか。




 あれ?そう言えば猿も動物園くらいでしか見たこと無いな?


 俺って前世だと、あんまり動物と縁が無かったなぁ……。


 鹿ならたまに親が運転する車に乗ってる時に見たけど、あとはタヌキとかキツネくらいかなぁ。


 猫とか犬はノーカンだよな?




 まあ、野生のクマと縁がある人生が良いかと言われると微妙だけどもな……。




「……うわぁ……」


「どうした?」




 調子よくビームを連射していたマイカが、何か見たくない物を見てしまったのか苦虫をかみつぶしたような顔をしている。


 前髪を隠し気味にするためか長めの前髪の間からでもわかる程度には、渋い顔だ。




「……強そうな魔物が、マシラ型という魔物を食べています……」


「あー……やっぱり……」




 大体予想通りだったか?


 じゃあそれを倒しに行くか!




「……すみません、少し魔力を使い過ぎたので休憩します……」


「わかった。じゃあその強そうな奴は、他のメンバーで倒すか!」


「そうね!さっきからやる事が無くてヒマだったからうれしいわ!」


「私も頑張るね!基本魔法と、水の中級魔術くらいしか使えないけど……」




 流石ゲームの登場キャラたちはやる気が満ちている。


 ゲームイベントっぽいし、どこでどんなキーとなる行動が発生するかもわからんからガンガン戦ってもらおう。




 それに比べて……。




「あのぉ……私も戦わないといけないのでしょうかぁ……?」


「寧ろアレクシアが一番戦ってくれないとだろうよ。レベルもそうだけど、技術的にも強くなるためにお前はここまで来てるんだぞ?」


「……そういえば、ヒューマン料理を食べ歩きすることしか考えていませんでした……」




 途中から飯ばっか食ってたもんな?


 本来の目的を思い出してくれて何よりだよ。




 さて……どんな強い魔物がいるのかなぁ……。


 マイカによると、この少し丘になってる場所の向こう側にいるらしいけれど……。


 とりあえず、こっそりと様子を窺う事にした。




「ブチッモシャックチュッ」




 そこでは、強そうな魔物がお食事中だった。


 実に歯ごたえ良さそうな音が響いている。


 たださぁ……。




「なんて立派な角なのかしら……こんな強い個体が育っているなんて……」


「ど……どうする!?大試くん!」


「逃げましょう!そうしましょう!?」




 慌て始める面々。


 そうだよな。


 俺だって、あのデカさにはちょっとビビるよ。


 でもな?




「虎でも龍でもなく……めっちゃデッカイ鹿じゃん……」




 鹿でした。


 肉食ってるけど。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る