第70話

 女神リスティとの邂逅から一夜明け、本日は久しぶりに静かな朝を迎えた。


 今日から3日間、日中は山の中で魔物狩りだ。


 流石に今日は、会長も理衣もおふざけしには来なかったようだ。


 そのお陰で俺の理性も余裕がある。




 山狩りに参加する者たちには、正式な服装があるらしい。


 男は、山伏みたいな恰好といえばいいんだろうか?


 天狗か何かみたいな服装だけど、カラーリング的には白と赤で巫女服っぽい。




 そして女性用ですが、なんとそのまま巫女服です!


 巫女服であれば何でもいいらしくて、かなりアレンジする者もいるらしい。


 過去には、ミニスカ巫女という失われし武装を着こなした者も居たそうだ。


 流石は、前世の世界で言えば戦国時代より続いてきたイベントだ。


 俺には理解できない歴史がある。




 まあ、別に好き好んでやってきたわけじゃなくて、単純に裏の山々が魔物の領域で、ほっとくと魔物が増えに増えるから仕方なく毎年やってるだけらしいけれども。


 あのバカでかい神像のモデルになったてふ子様がその魔物の領域を切り拓いて作られた土地に住んでいる以上、境界線での魔物との小競り合いは避けられない物なんだろうな。


 それでも、どうせやるならお祭りにしてしまおうぜというノリは好きだ。




 俺は、用意されていた衣装に着替える。


 昨日試着はしていたけれど、この手の衣装は着慣れていないからか、なんだか着ただけで非日常感が出てくるな!


 確か山伏って、オーバーハングの岩を道具使わず素手で登り切ったりするんだろ?


 俺がそれに挑戦するとしたら、神剣を具現化して身体強化している分を解除してからにするべきなのかな?


 うーん……うん、やってられんな!


 自分をそんなに追い詰める趣味無いんだ俺!


 楽に生きたいわ!




 もっとも、俺の実家周辺は、生きていくだけで下手に修験するより大変かもしれないけれど……。


 だって、ヒグマとか目じゃないデカさのクマ出るし……。


 よくウチの村で三毛別みたいなことになってないよな……。


 ……子供以外全員クマより強いからか?


 魔法使いの俺の母親ですら杖で殴り殺してたし……。




 そういや、魔法少女らしいてふ子様の武器は杖じゃなかったんだろうか?


 日本刀を所持していたらしいけれど、昨日はあんまり詳しく見る余裕なかったんだよなぁ……。


 俺が忘れているだけで、武田ステッキとかてふ子ロッドとかあったのかもしれん。


 前世のアニメの魔法少女にも派閥があるらしくて、肉体強化ばかりで物理で殴るタイプもいたらしいけれど、てふ子様は割と格好的には普通にイメージ通りの魔法で戦うタイプに見えた。




 だって……あの神像がミニスカ巫女服だったし……。


 スカートの中身については……ノーコメントにしておきますね。


 強いて言うなら、執念すら感じる程かなりキッチリ作りこまれていました……。




 さて、戦いに備えて装備の確認をしておこう。


 服装はまあいいとして、換えのパンツとシャツと靴下、あとタオルは必須だな。


 これらを防水の袋に入れておく。




 次に、食料と水だ。


 といっても、今回に限って言えば、武田家側から収納カバンを貸与されているためにそこまで荷物の上限に余裕が無いわけでもないから楽だ。


 この収納カバン、容量は風呂一杯分くらいだろうか?


 3日間通して参加した者には、参加賞としてそのまま貰えるらしい。


 太っ腹といえばいいのか、それほどまでにこのイベントが大変な物ということなのか……。


 何にせよ、これが貰えたら俺の異世界ライフは劇的に向上する事だろう!


 だって、野伏の格好している事を除けば、コンビニ行くくらい気軽な見た目の装備だもん。


 仮に遭難しても、1週間は生き残れるくらい色々持ち込んでるけどな!


 テントまで入れられるんだぜ!?


 笑いが止まらない!


 ガスコンロもあるからお湯も沸かせる!


 コーヒーだって淹れれるぜ!


 ……コーヒーはあんまり好きじゃないけどな。




 あとは、鞄にいれないで持ち運ぶ物か。


 まず、俺の神剣を入れておくホルダー。


 これは最近腰につけている。


 別に神剣用に作ったとかではなく、ホームセンターで売ってた腰につけるツールバッグにそのまま挿してるだけなんだけどさ。


 下手に専用の装備にするより、経験に基づいた利便性を重視した。




 それと、ロープと懐中電灯だな。


 山に行くならこれは絶対必要。


 そして、これは案外知られてないけれど、ダクトテープもすごい有用だ。


 ロールのまま持っていくんじゃなく、一回引っ張り出してから、折りたたむように巻き取ってコンパクトにして、ポケットに忍び込ませておく。


 何かが壊れた時とか、壊れそうなときにこれで補強するんだ。


 列車や自動車の応急修理なんかにも昔から使われている信頼のアイテム。


 ラップもあると便利だけど、これは嵩張るから収納バッグに入れておこう。




 やばい……準備するの楽しい……。


 多分今回準備した物は、8割がた使用することが無いだろうけれど、それでもあるに越した事は無いし……。




 そう言えば、裏山に出るっていう魔物ってなんなんだろうか?


 食える奴かなぁ?


 食えるなら、仮に遭難した所でエルフたちも遭難させずに済むだろうけれど……。




 いや、アイツらは多分自分たち用のかばんに食料満載してくるから大丈夫か。


 ……男物だけど、換えの下着や靴下多めに入れておこう……。






 その後も朝食の時間までニヤニヤしながら準備をしていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。


 そうか……この家にもノックの文化ってあったのか……。


 勝手に入って来て隣に寝るのが普通なのかと思ってたよ……。




「はいはい!誰?」


「大試君、私だけど入って大丈夫?」


「会長ですか?大丈夫ですよ」




 そういうと、ドアが開かれる。


 そこには、なんと!念願の巫女服姿の会長がいた!


 意外とオーソドックスな巫女服だ。


 ただ、いつもと髪型が変えてあるし、下品にならない程度に金の髪飾りで彩られている。


 控えめに言って最高。


 このまま絵にして飾りたいくらい。




 って、もしかしたら前世だと本当に1枚画とかのイベントCGがあったりしたのかな?




「凄い似合ってますね!」


「でしょ?伊達に生まれながらに巫女なんてしてないわよ!」


「……それでですね、隣の理衣は……」




 俺は、会長の隣に立つ理衣を見る。




「えっとね……別に私がこの衣装を選んだわけじゃないんだよ?朝起きたらこの服になってたんだよ……?」




 顔を赤くしながら、ミニスカを押さえている理衣。


 ラッキーガールは、今日も絶好調らしい。




「理衣のおかげで気がついたよ。やっぱ、虫よけって必要だよな」


「太もも見ながら言わないでよー!?」




 彼女は、いつも大切な事に気がつかせてくれるな。


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