第19話

「本日うちのクラスは、抜き打ち対魔物演習を行う!場所は、魔物の領域である奥多摩だ!」




 魔物の領域に行くなら、それはもう演習ではなく対魔物戦その物ではなかろうか?


 そう思う今日この頃。


 てか、奥多摩って魔物の領域なのか……。




「抜き打ちで野外活動とかどうなんだ?入学してそんな経ってないのにイベント多すぎだろ」


「だってここってゲームを基にした世界よ?ゲームだと1週間おきに、トレーニングとか授業でステータスがどうなったか表示されるだけでも、現実でそれを実現しようとしたらイベント目白押しに決まってるでしょ?魔物とのフリーバトルパートならもっと地道なんだけどね」


「そういうゲームだって事も今知ったぜよ」




 リンゼがヤレヤレという態度でひそひそと言ってくるけど、俺はRPGだのシミュレーションゲームだのはあんまり経験無いという事を理解していただきたい。


 お前の兄貴と思われる神也ならわかったんだろうけども……。




「装備は自由!貴族は、突発的な魔物討伐に駆り出されることもある!常に準備を怠らないようにしておけ!どうしても何も準備が出来ていないなら、その時は俺に報告しに来い!じゃあ、5人組を作ってから玄関のバスに乗り込め!」




 終わった……。


 ~人組を作れとか、ペアになれとか、聞きたくない言葉ランキングトップに君臨しそうな事を良くも平気で言えるものだ……。


 誰か……誰か4人組の方はいませんか……?




「大試、あと1人どうすんの?」


「何が……?」


「え?アタシたち4人しかいないじゃない?あと1人見繕わないと5人になれないでしょ?」


「アタシたち……4人……?」




 俺の勘違いじゃなければ……もしかして……もしかしてだけど……。




「俺と組んでくれるのか……?」


「はぁ?アンタ、他の奴らと組むつもりだったの?」


「いや……誰かが俺と組んでくれるという前提がまず無かった……」


「……アンタ、前世でどんな人生送ってたのよ?」




 僕の前世の友人は、神也くんだけです!




「大試、あと1人どうする?」


「大試さん、あと1人どうしますか?」


「お前たちも……!」




 俺は……俺はなんて良い仲間を持ったんだ!?


 ありがとう!ありがとう!!




「まあでも、もう1人とか言われても当ては無いんだけどな俺」


「アタシも無いわよ?」


「私も」


「私もです!」




 はははははは、似た者同士だなぁ俺たち!




「俺以外は、護衛で1人くらいはつくんじゃないのか?王女に聖女に公爵令嬢だろ?」


「護衛より私の方が恐らく強いので!」


「アタシもそうね。半端な護衛がつく位なら、1人の方が戦いやすいまであるわ!」


「そう言う問題か……?」


「私は、護衛は煩わしいからいらないって教会の偉い人に言っておいたし、どっかの誰かが勝手に自滅していなくなったから、今はフリー」


「とうとう名前すら読んでもらえなくなったか風雅……」




 さて、どうしたものか。


 1年1組は、確か全部で30人だったはず。


 つまり、俺たちが今4人で固まっている以上、誰か1人は余りが出るはずなんだ。


 場合によっては、1人足りなくて困っているグループが幾つかあるのかもしれないけど、その場合どこのグループが解体されて他に入れられるかで揉めるだろう。


 困った……。


 ドンドン教室から人がいなくなる……。




「……あのっ」




 後ろからの、切羽詰まったような声に驚きながら振り向くと、そこにはメガネをかけた小さい女の子が立っていた。


 中学生……いや小学生くらいか?




「どうしたの?お母さんと逸れたとか?」


「……え?いえ、私を貴方たちのグループに入れてもらえないかと……」




 まずい、同級生かこの娘。


 未だにクラスメイトの顔も覚えてない事がばれてしまった。




「いいけど、うちでいいのか?女の子だけじゃなくで、俺も入ってるんだぞ?」




 俺の中で、それが一番の問題だった。


 俺は、モテない。


 遠巻きにゴニョゴニョ噂話されてるのが聞こえるくらい人気がない。


 そんなのが、女3人と組んでる所に入ってくる物好きな女の子がいるなんて思っていなかった。


 俺と違って、女子3人は美形揃いだから、男子が誰か入ってくるんじゃないかなーと漠然と思っていたんだけども、よもやこんな女の子が希望してるとは




 見た感じは、眼鏡におさげにちっこい体にと、そこまで特徴的な部分は無い。


 前髪で目を隠すようにしているせいで、顔はよくわからないけど、間から見える目の色は……虹色……?


 ファンタジーな感じ。




「……はい。その……他に頼める人たちがいなくて……」


「ようこそ我が班へ。お前のような者を我らは待っていた」




 友達いねー奴等があつまっちまったな。


 これで、劣等感とはおさらばできるぜ!




「リンゼよ!」


「聖羅」


「有栖です!」


「……えっと、マイカです。栃谷とちやマイカ……」


「そして俺が」


「……大試さんですよね?昨日、決闘してる所見ました……。不意打ちした瞬間を……」




 この娘の中で、俺は不意打ち野郎という事か。


 間違ってはいないな。


 自分でやる分には、不意打ち上等だと思ってる。


 やられたらとりあえず文句言う。




「じゃあ、皆準備してさっさとバス行こう。俺の荷物は、テントと寝袋とクマ毛皮スーツとペットボトルの水10リットルしかない」


「私、寝袋と聖女用ローブと木刀と干し肉にリンゴの種」


「アンタら、なんでそんな準備いいの……?」


「このくらい田舎なら普通だろ?」


「私は、こんなこともあろうかとUNOを準備していました!」


「バスで酔って大変な事になるヤツじゃない……」


「……私は、一人用のリバーシだけです……」


「一人用なんて無いわよ……」




 準備は万全だな!




 俺達は、他のクラスメイト達に遅れながらもバスに乗り込んだ。






 数台のバスに分乗した1年1組のメンバーは、何が待ち受けるのかも理解せぬまま一路奥多摩を目指す。


 色々秘密のままだけど、だからこそ訓練になるという事なんだろう。


 でもさ、流石に最低限の安全は保障してくれるよな?


 こっちは、UNOとリバーシがメイン装備の奴ら居るからな?




 到着した先は、そこそこ広めの舗装された駐車場だった。


 特に何か建物があるわけでもなく、ただ広いアスファルトの地面が広がっている。


 トイレつきの建物でもあれば、道の駅とかドライブインみたいな場所だけど、駐車場以外は大自然しかない。




「おーい、生きてるかー?」


「ダメです……。王女として、絶対にやってはいけないことをしてしまいそうです……。」


「……エチケット袋……ください……」


「車酔いは……聖女の回復魔法も利きが悪い……」


「だから酔い止め飲みなさいって言ったのに!」




 最初から寝るという先制攻撃によって無事だった俺と、たまたま酔い止めの薬を持っていたリンゼを除き、現在ウチのメンバーは動く屍のようになっていた。


 主に、UNOとリバーシのせいだ。


 新人と一緒に楽しんだようで何よりだ!




 バスから降ろされ、ゆらゆら蠢くメンバーを支えながら待機する。


 全員の降車が終わると、上善寺先生が説明を始めた。




「この後、5時間の対魔物演習が始まる!5時間後にここに再度集合するように!集合時間までに、1グループで1匹は魔物を狩っていれば単位が貰えるぞ!最も魔物を倒したグループのメンバーには、更に単位を一つやろう!では……スタート!」




 マジでこんな適当な説明で始めんの!?


 どこまで行っても良いかとかも何にも指定なしか……。


 これは、なかなか難しいイベントなのかもしれないな……。




 まず、全体的に装備が貧弱。


 今日、こうして魔物の領域にほっぽり出されてると思っていた生徒はまずいないだろう。


 だから、ろくな装備も持たないままここにいる奴らが殆どだ。


 テントに寝袋までもっている俺の方が浮いている。


 まあ、5時間しかしないならいらなかったかもしれないけど。




 それに、1グループ1匹は魔物を狩れとの事だけど、どういう理屈なのか、この駐車場周りに魔物の気配はない。


 何かの魔物避けのようなものがあるのかもしれないけれど、これじゃあ嫌でもこの大自然の中に突撃しなければならないわけで、俺や聖羅みたいに、森の中を歩き回るのに慣れている奴以外には辛いだろう。


 ましてや、1匹狩っただけでは止まらないグループもあるのであれば、付近の魔物は争奪戦の賞品状態になってしまうだろう。


 どうしたものか……。




「……あのっ」




 この後の予定に悩んていると、マイカが吐き気を我慢しながら声を上げる。




「どうした?もう一枚エチケット袋いるか?」


「……いえ、魔物1匹倒しました……」








 は?




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