第18話

 放課後になりました。


 俺は、女の子をデートに誘ったという事実に気がついてから、ハラハラドキドキしている。


 前世では、絶対に起こらなかったイベントだからだ。


 放課後にどこかで買い食い?


 神也としかしたことねぇなぁ!




「あのさ、デートって事よね……?」


「いや、お互い気分転換した方が良いかなって誘っただけだったんだけど、後からデートなのでは?って気がついてビビってた」


「そ……そうよね!?そう言う感じよね!?」




 先程から、リンゼの挙動がおかしい。


 アブラを差していない機械のようになっている。


 深呼吸しろよ。




「誰かをデートに誘ったのって初めてでさ、俺なんかがそんな事したら逮捕されたりしないのだろうかって不安でさぁ」


「それは大丈夫でしょ……?多分……普通に皆やってる事だろうし……」




 まあ、学生ならデートくらいするよな?


 2度目の人生で2度目の学生生活なのに、誘ったことも誘われたことも無い気がするけど。




「でも大試と始めてデートしたのは私ですよ?」


「え!?俺って有栖とデートしてたっけ!?」


「はい!こちらに来た初日に2人でショッピングしたじゃないですか!」


「アレってデートなのか……いや、確かに2人きりだったしデートだな……。あまりにも自分と縁遠いイベントで気がつかなかった……」


「ちがう。大試と初めてデートしたのは私。2人で森の中を散歩した」


「流石にそれはデートじゃなくねーか……?」


「そんなこと無い。立派なデート」


「もう何でもいいわよ……」




 俺の提案を聞いていた有栖と聖羅までついてきたため、現在放課後の街中を4人で練り歩いている。


 結局2人きりではなかったけれど、これがデートなんだと意識してしまった俺では、どんなポンコツっぷりを披露するかもわからなかったし丁度良かったのかもしれない。


 ただ、俺たちは現在とても困った状況にある。


 それは……。




「放課後に何か美味しいもの食べるって言っても、アタシあんまりそういうの知らないわよ?」


「私もよく知りませんね」


「リンゴでも生やす?種があればできるよ?」


「凄い事なんだけど、今はしないでくれ」




 帰りの買い食いなんてやったこと無いお嬢様たちと、飲食店が存在しない森で育った野生児によって構成されたこのグループは、致命的なまでに放課後の楽しみ方がわからなかった。


 これが、前世の俺であれば色々提案できることがあるんだけど、俺にとってこの王都東京は流石にほぼ未体験ゾーン。


 気軽に提案できるような店も知らない。


 調べようにも、スマホすら持っていない。


 リンゼが持っているのを見てから欲しいとは思っていたけど、結局手に入れられてないんだ。




「あ、そうだ。俺スマホ欲しいんだけど、アレって高いのか?」


「スマートフォン?アンタの前世とかわらな……じゃない!そんなでもないわよ!」




 おい女神、いきなりカミングアウトしそうになるな。


 ビックリしただろ。




「へぇ。じゃあ、特に他に提案もないなら、まずはスマホが欲しい!まあ、もっと他のファンタジーな通信手段があるならそれでもいいんだけど!」


「無いわね。ショップに行くわよ」




 無いんだ……。






 学園から出ているバスで向かった先は、前世で見たような感じの携帯電話ショップと言ったお店だった。


 リンゼ曰く、この国で電話は公共事業なので、スマートフォンの場合もキャリアを選ぶような事は無いらしい。


 あくまで、どの機種を使いたいかだけを選ぶそうだ。




「いっぱいあって、どれにしたらいいかわからんな」


「大試、私と一緒のにしたらいい。教会からもらった」


「どれどれ……」




 聖羅が見せてきたのは、セマルハコガメみたいな形のゴツイスマートフォンだった。


 いや、これスマートフォンなのか?




「深海100mまで沈めても、地上100階から落としても壊れないんだって」


「ヘタな魔法よりよっぽどメルヘンじゃね?」




 この世界の技術、侮れんな……。


 確かに壊れにくいのは魅力的だ……。




「アタシのはこれ!普通この世界でスマートフォンって言ったらこのシリーズよ!」




 そう言ってリンゼが見せてきたのは、リンゴのマークがついてそうなスマートフォン。


 まあ、見た目からすると無難そうな感じではある。


 公爵令嬢が持ってるって事は、前世の有象無象のやっすいスマートフォンとは違うちゃんとした性能の奴なんだろう。


 これは、第1候補って所かな?




「最後は、王室ご用達のスマートフォンを見せてくれ」


「はい!私のはこれです!」




 有栖が見せてきたのは、スマートフォンじゃなかった。


 折りたためるガラケー。




「……セキュリティ的な問題なのか……?」


「見た目は古臭いですけど、性能はトップクラスなんですよ?昔の携帯電話の使い心地が好きだった人たちの要望で生まれたスマートフォンなんですけど、それを好む層が上位貴族や国王、つまり私の父たちなので、今でも性能だけどんどん上げつつ形は維持しているそうです!」


「へぇ、色々歴史あるんだなぁ……」




 3人のプレゼンを聞いて、結局全く決められなかった。


 どれも良さそうに感じてしまう。


 うーん、何か決め手になるものないのかなぁ……。


 そう考えながら店の中をウロウロしていた俺は、彼女たちが勧めてきた物とは違って、奥まったところに展示してある機種に目が留まってしまった。




 片耳に着けるヘッドセットのようなデザインで、触ると目の前にホログラムディスプレイが表示されると説明書きにはある。


 試しにつけてみると……。




「何だこれ!?めっちゃSF感ある!」




 目の前に青っぽい光の膜が表示され、そこに色々な数値が浮かぶ。


 ただの光で作られたホログラムだからか、触ることはできない。


 でも、タッチパネルのように指で操作することは可能らしい。


 未来じゃん?




「なぁ皆!これどうかな!?」


「あーそれ……それはちょっと……」


「どうしてもと言うならば止めませんが……」


「大試に似合ってる」




 全肯定モードの聖羅は置いておいて、どうやらあまりお勧めできないっぽい。


 何故だろうか?




「それ、最初は凄い話題になったんだけど、ホログラムの方に力入れたせいで基本的な本体性能は低いし、耳につけっぱなしにするから痛いって言われて人気無いんだよね。有名ではあるんだけど……」


「私でも知ってますからね……」




 悲しいけど、ダメっぽいな……。




 結局、無難にリンゼの奴とお揃いの物にした。


 前世で使い慣れたタイプのデザインで嬉しい。


 支払いは、ギフトマネー払いで。




「じゃあ、連絡先交換してくれ」


「連絡先の……」


「交換ですか……!?」


「やりかたわからない」




 俺と聖羅はともかく、リンゼと有栖がお互い以外の友達の連絡先を電話帳に登録するの初めてらしい。


 君らもうちょい交友関係広げたほうがいいんじゃ……?






「何はともあれ、念願のスマホをゲットだ!」


「アンタって、機械で喜び過ぎじゃない?宝石とか欲しくないの?」


「いや、もうある程度俺の中のファンタジーさを諦めたら、やっぱり暮らしを便利にするためにも機械が欲しいだろ?」


「前向きよね……」


「そこが大試の良い所!」


「ファンタジーさってどんなのなんですか?」


「さっきのホログラムタイプは、この世界の中だと大分ファンタジーだった」


「それは……残念でしたね……」




 手に入れたスマホで検索をかける。


 使い心地もアプリケーションも、俺の記憶の中の物と大差がないため、すぐにある程度使いこなせるようになった。


 結果、近くにある人気のカフェへと向かう事に決定。


 まあ、全国チェーン店で割とありふれてるらしいけど……。




 店の中に入ると、チェーン店のカフェのイメージと違って、どうやら席についてから店員が注文を聞きに来るタイプの店のようだ。


 俺たち以外にも学生の姿がちらほら見えるけれど、4人で座れない程の混雑でもない。


 適度ににぎわっている雰囲気で中々の好印象。




 席について、各自メニューを眺めてから店員を呼ぶ。






「いらっしゃいませー!ご注文はお決まりですかー?」


「アタシは、イチゴのミルフィーユとオリジナルブレンドコーヒーで」


「アイスオレとフロマージュをお願い!」


「チョコレートパフェとリンゴジュース」


「俺はブレンドと、ちょっと腹減ってるからカツサンドパンっていうの頼むかな。奢りだし!」


「はいはい、感謝してるわよ!」




 その後は、各自自分の注文した物を堪能したり、シェアしたりして楽しんだ。


 うん、とても楽しんだよ。


 俺だけは、他の奴の頼んだものを味見する余裕はなかったけど。




 カツサンドパン、予想の3倍大きかった……。




 まあ、リンゼも有栖も聖羅も、必死に食べる俺を見て笑ってたから、気分転換という目的を考えれば結果オーライかな?


 追記すると、寮で出された夕食を残すのももったいない気がして、更に地獄を見た。




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