第226話

「頭が……割れるようだ……何故だ……」

「どう考えても二日酔いだろ?」

「これが噂に聞く……?どうしてこんな辛いものがこの世界にあるんだ……。何か治す方法は無いんだろうか……」

「あるぞ?ほいっ」

「……ん?な!?治った!?なんだその剣は!?」

「良いだろコレ?限定品だぞ。なんと世界に一振りの超レア物だ」

「なんて物を所持しているのだ……!しかもそれを惜しげもなく使ってくれたなんて……大試は良いやつなんだな!」

「チョロすぎて不安になる」


 酔った状態で飛び回るのも危ないということで、いいだけ酒を飲んだ後俺達のキャンプに泊まったカメリアとルージュ母娘。

 男女でテントを分けているため、これ以上女子側のテントに人が入る余裕はなく、しかたなく俺のテントに宿泊した2人。

 俺はどうしたかって?美人ドラゴン母娘と同衾したかって?

 してないよ!外で寝袋で寝たわ!


「本当に皆さんにはお世話になりっぱなしで……」

「その分この後お世話してもらうから良い。私達を仲間に紹介して、できるだけ好意的な流れになるように誘導してほしい」

「わかりました。とはいっても、恐らく仲間たちも、貴方達のやろうとしていることには興味を持つはずなので、私がそこまで力添えする必要も無いかも知れませんが……」

「長の言葉は重い。十分役に立つはず」

「……そうかもしれませんね。私のできることであれば、可能な限りお力になりましょう」


 清楚で理知的な姿に戻っているカメリアさん。

 人間の男性を酔い潰して襲ったり、酒をピッチャーどころかポリタンクで飲んでいた酔いどれとは似ても似つかない。


「余も力になろう!余が人間を嫌う理由は無くなってしまった。ならば、人間に対して残っているのは、大試に助けられたという感謝の念だけだ」

「あー……それなんだけどさ、俺達は自分たちが人間だってことを隠して活動してるんだよ。ドラゴンの間で人間だってバレるのはまだ大丈夫っぽいけど、魔族全体に公表するのはもう少しタイミングを見たい。だから、ルージュも秘密にしてもらえるか?」

「構わない!どうせ余には、魔族の知り合いもいないのだから、口を滑らせる事自体無いだろうしな!ただ、一つ条件がある!」

「条件?」


 なんだ?

 ドラゴンの出す条件って言えば生贄か?

 うーん……ニジマスでなんとかならないかな?

 エビでも良いぞ?

 ニワトリでもOK。

 ただ、四足の生き物はコストかかってるから微妙かなぁ……。

 こっそり連れてきて増やしてる肉用の牛なんて、1頭400万ギフトマネーくらいするからなぁ。

 交雑牛っつって、乳牛に和牛の精子で妊娠させることで、乳牛は牛乳を出せる状態を維持できるし、生まれる子どもは、食肉に適した種類になるんだ。

 流石に和牛そのものを持ってくるのは、和牛を管理する人たちに申し訳なかったから、魔王様に定期的に牛の精子買いに行ってもらってんだよな。

 牛の精子を魔王が買ってるって知ったら、魔王と戦わないといけないと思ってる日本人たちはどう思うんだろうか?

 俺なら冗談だろって本気にしないだろうな。

 しかも、魔王様自身はかなり乗り気なのもすごい。

 ビーフカレー作るつって張り切ってるんだ。

 魔物の牛は、赤身の美味さがすごいけど、カレーに限らず、煮込む料理には向かないらしい。

 ステーキにするならコレ以上無いくらい美味い肉なんだけどさ。


「余を人間の街まで連れて行ってほしい!お母様がそこまで気に入っているという文化を余も見てみたい!」


 目をキラキラさせながら要求してくる。

 大丈夫だろうか?

 いや、良いか別に……。

 魔族なんてずっと前から東京にいるけど、誰も気がついてないし……。

 ファムの猫耳ですら、猫耳カチューシャで通ってるからな……。


「いいけど、人前で翼出したり、お酒飲むのは止めとけよ?」

「それは……そうだな……。お母様の二の舞になるのは避けねばな……」


 ルージュさ、昨日俺の膝の上で寝入ったの覚えてるか?

 多分お母様と逆の立場になると思うぞ?

 だから止めておけって話で……まあ本人が気をつけるなら何でも良いけどさ。


「あぁ……楽しみだ。人間の作る料理や芸術は、どんなすばらしいものなんだろうか……」

「どうせなら、ルージュも自分で作れるようになれば良い。作り方なら教えるから」

「本当か!?恩に着る!」


 こちらとしても願ったりかなったりだ。

 ちょっと生活の面倒を見るだけで、ドラゴンとのパイプ役になれそうな人材……ドラゴン材?いや半分は人間だし……も手に入るなんて、運がいいとしか思えない。

 魔族の領域に送り込まれている事自体がアンラッキーという事は忘れて、そういう良いところだけ見て生きて行きたいな!


「ルージュ、貴方いつから自分のことを余と呼ぶようになったのですか?いつも自分のことはルージュと呼んでいたではありませんか」

「それはもうずっと前の事です!余はもう15歳ですよ!?一人称で自分の名前は恥ずかしいです!」

「ですが、昨日大試さんの膝の上で……」

「膝の上!?」


 成る程、酔うと記憶が消えるタイプか。

 これは、ますます外で酒飲ませられないな……。



「こちらへどうぞ。この中が、水力エレベーターとなっております」


 カメリアさんに案内されたのは、世界樹の根本に開いたウロの中だった。

 ミリスに案内してもらう予定だったけれど、折角ここで暮らしている本人たちがいるのだから、彼女たちにお願いしようという話になった。


「お〜これが……。船で世界樹を登りきれる不思議な場所ですね〜。話に聞いていた通りの場所にあるなんて、流石はヴァンパイアの情報網です〜。それに、中に広がっている水面!このちょっと暗くて不安を煽る水流と泡がいいですねぇ〜!こういうところに、顔を押し付けられて窒息死かけるときっと気持ちいいんじゃないかと思いませんか聖羅様〜?」

「…………思わない」


 案内という重責から開放され、一緒に自分のリビドーを開放し始めたミリスは放っておこう。


 ウロの中には、直径20mほどの泉が広がっており、そこには船が浮かべてあった。

 しかし、その船が通れるような道などはない。


 自分たちの頭上以外には。


「ここには常に大量の水が流れ込んでおります。この船にのり、排水門を閉じれば、自然と上昇できるというわけです」


 皆で船に乗り込み、カメリアさんがなにかの呪文を唱えると、水中からガコンという音が響いた。

 すると、水面が上昇を始め、俺達がどんどん上昇していっているのを感じる。

 なんだか、高低差のある運河で使われてる水力式リフトみたいだな。


「もともとは、ここはワイヤーと箱で上昇下降を行うエレベターだったそうなのですが、老朽化でワイヤーが駄目になり、それ以降はこうして世界樹の中を流れ落ちる水を利用して稼働する方式となったと言い伝えられていますね」

「へぇ……」


 カメリアさんの説明を聞いている間にも、想像よりも速い速度で昇っていく。

 これならたしかに数時間で登りきれそうだ。


「大試さん、貴方には、ドラゴンの郷に入る前に注意すべき点を伝えておきますね」

「お願いします。そういうの知ってないと、失礼を働いてしまうかも知れませんしね」

「そうですね……大試さんの将来にも関わることですから……」


 将来?

 いきなり話が大きくなったぞ?


「ドラゴンにはメスしかおりません。頭数調整のための機能だったようですが、人間の雄とも交雑できることがわかってしまったため、すぐにコントロールが追いつかなくなり、現在で言えば魔族の領域と言われている場所に放逐されたわけですが……。何故そんな説明をしているかというと、ドラゴンにとって、人間の雄は、珍しくて魅力的な交配相手です。更に、魔力総量もとても大きい。なので、恐らく私達以外のドラゴンたちは大試さんに決闘をどんどんっ申し込んでくるでしょう。そして……」


 決闘とか嫌だなぁ……。

 なんて思っていたけれど、もっと衝撃的な言葉が続く。


「負けたら強制的に種を絞られます」


 負けられない!


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