第54話

 放課後、俺達は学園内の売店に集合していた。


 エルフの集落に行く前に、前日狩って解体したでっけー鹿の素材を売却するためだ。


 魔物の肉は、魔力のせいか何なのかあんまり腐らないため、1日程度なら日が経っても問題ない。


 ただ内臓系、特に消化器官は、自身の内部に存在している酵素の効果で、1日もあれば勝手にドロドロに溶けてしまう。


 そうしないためには、温度を下げて凍らせたり、酵素や消化液を全て洗い流すしかないが、これがかなりの手間で割に合わない。


 なので、魔物を売る時には、内臓系は心臓や残り数カ所くらいしか採取されないことが多い。




 何で今こんな事を説明しているかって?


 売店のおばちゃんが今くどくどと説明してっからだよ!




「ふーん……これは中々いい肉じゃないか!脂が少ないのに赤身はガッシリしているねぇ!」


「さいでっか……」


「毛皮も骨格もすべて揃っているじゃないか!これは高くつくよ!」


「さいでっか……」


「しかも新種……もしくは超希少種!おまけに体格が大きい!久しぶりに高額オークションかねぇこれは!」


「さいでっか……」




 肉だけで1000万ギフトマネーで買い取られた。


 骨格と角と毛皮はまとめてオークションにかけられるらしい。


 冗談かどうかはわからないけど、1億ギフトマネーは下らないと言われた。


 ティラノサウルスの全身骨格が30億円くらいだっけか?


 なら1億ギフトマネーは安いな、安い。




 リンゼと有栖は安いって言ってたもん……。




 この世界は、ゲームをモデルにしているからか、学園内の売店でこんなものを買取してもらえる。


 これ自体は非常に便利だけど、違和感がすごい。


 流石に学園外の販売店ではそうそう買取してもらえないけれど、ゲームの方だとどんな商業施設ででも買取してもらえるらしくて、学園内の売店程度に収めてあるだけでも我慢している方らしい。




 売店のおばちゃんは売店のおばちゃんで、一塊30kgありそうな肉の塊をヒョイと抱えて裏に持っていったりする程度にはパワフルで慣れている。


 おばちゃんって呼んではいるけど、皆がそう呼んでるから俺も倣っているだけで、見た目は24歳くらいに見える。


 胸も尻も大きくて何故か上半身は胸しか隠れない短いシャツみたいなのを着ているだけ。


 腹筋が割れていて、プルンプルン動くおっぱいより腹筋に目が奪われる……。


 きっとゲームの時には人気キャラだった事だろう。


 案外こういうサブキャラにそそられる層というのはいるらしいし……。




「……私も腹筋割ろうかな……」


「聖羅、あそこまで筋肉を作るのは向き不向きがある。やめておけ」


「でも、大試ずっと腹筋見てる……」


「俺は多分、聖羅が腹筋割ってもその上の奇麗な顔ばかり見てると思うぞ?」


「そっか……ならいいや……」


「なんの話してるのよアンタたち……」


「あ……あの!ちょっと恥ずかしかったので今まで黙っていましたが、私はちょっと腹筋が割れています!」


「マジで!?」




 有栖の腹筋を触らせてもらおうと思ったら、聖羅にヘッドロックかけられた。




 オークションは毎週末に行われているらしいけれど、よっぽどの緊急性が無い限り客寄せのためその次の週末の回に出品されるらしい。


 来週末に乞うご期待!








 売却を終えてやってきました帯広のテレポートゲート!


 豚丼は食べたので、後はソリ引っ張る競馬が見たい所!




「まあ、相変わらずの大樹海なんだけどな……」


「ここ、本当に王都と同じ国なんですかね……?」




 どうなんだろ……?


 そもそも、この世界の北海道がどこまで日本の領土ってなっているのかもわからんし……。


 多分俺の生まれ育った開拓村も北海道にあると思うんだけど、未だに詳細な場所は分かっていない。


 後から考えると、ヒグマをデカくしたようなクマのモンスターがいたから北海道なんだろうなーって思っているだけで……。


 いや、リアルのヒグマなんてのっぼっりっべっつでしか見たこと無いけどさ。




 因みに本日は、昨日の勝手についてきた3人に加えて、ゲストが3人おります。


 未来の魔王!今はJKギャルになろうと努力中の魔族女子!エリザベート!




「ウチ、久しぶりに大試と一緒ー!」




 体格は小さいけれど、その魔眼と魔術と俺の上げた神剣を組み合わせた殺傷力はピカイチ!でも何故か今日は仮面をつけている!マイカ!




「……ほ……本当にテレポートしちゃったんですか……!?そんな施設が学園内に……!?」




 最近何かと一緒に行動する事が多くて、実はかなり便利で助かっている魔族系ネコミミメイド!ファム!




「草臭くて帰りたいにゃぁ……」




 この3人を加えて、昨日のメンバーと7人でエルフの集落へ向かう!


 果たして!大樹海の奥地で我々は何を目撃するのか!




 まあ、幻のエルフなんですけども。




「お待たせしました!さぁ行きましょう!」




 午後3時丁度にやってきた十勝エルフのアレクシア。


 昨日、パグみたいな顔で泣いていたとは思えないような輝く美形スマイルで歩いている。


 フンスフンスという鼻息が聞こえてきそうな程の興奮だ。




 そりゃそうか。


 一族全員が死ぬかもしれなかった問題が片付きそうなんだからな。




「それで、マイカは何で仮面着けてるんだ?」


「……ちょっとワケアリです……」




 こんな森の中で何のワケがあるというのか。


 まあいいけども。


 ただ、もう少しいいデザインの物はなかったのか?


 ひょっとこって……。




「……すみません……部屋にこれしかなくて……」


「部屋にあったのかそれ」


「……初めて王都に来た時ノリで買ってしまって……」


「わかるわかる!俺も変なサングラス買ったわ!それつけて大立ち回りしたもん!」




 マイカもお上りさんだったらしい。






 しばらく歩いていると、高さ20mはあろうかという丸太で作られた塀が見えてきた。


 見た感じ、開拓村の周りに生えてたトレントと同じような物に見える。


 開拓村の周りのトレントは、大人しく斬られてくれるから楽だったけれど、そうじゃないとしたらあの量を用意するのは大変そうだなぁ……。




「話は通っているのでこのまま中に入りましょう!」




 もうアレクシアを止める者はいないらしい。


 こちとら慣れない土地なのに構わずどんどん進んでいく。


 正直いつ不意打ちで攻撃されるか分かったもんじゃないから、こっちとしては緊張感が高まっていて皆無言なんだけど……。




 って思っていたけれど、塀の切れ目のとこの門番でヒョロヒョロの女の子がびくびくしながら2人立っているのを除けば、他のエルフは殆ど見当たらなかった。


 なんだ?


 全然エルフいねーな?




「エルフ少なくないか?これでやって行けてるのか?」


「今日は、週に3日のお楽しみの日ですから!」


「お楽しみ?てか週に3日もあるのかそれ」


「はい!他に娯楽も無いので!」




 そんな堂々と悲しい事言うなよ……。


 何だろうと思うけれど、どうやらアレクシアはびっくりさせたいのか教えてくれないらしい。




 そのまま連れ歩かれる事10分ほど。


 塀の中って結構広いんだなーと思っていたら、目の前に木製の少し大きめの建物が見えてきた。


 これはまさか……ファンタジーな感じで中には妖精とかが飛び回っていたりするのか……?


 建物の中は聖域となっているとか?


 族長とか呼ばれるエルフの更に上のハイエルフとかいうのがいたりとか……?




 だけど、俺の予想は悉く外れていた。


 中に入った俺たちが見た物は……。




「競馬じゃん……しかもあのソリ引く奴……」


「そうです!力強いでしょう!?ソリ競馬と言って、魔物ではない普通の馬と馬の魔物を掛け合わせて作った農耕魔馬で競うんです!」




 建物は、ただの観戦用の施設で、そこから中庭を覗けるようになっていた。


 つまりはスタンド席。


 中庭では、やけにでっかい馬が、ソリというよりダンプカーみたいなものを引っ張っている。


 まあ確かに迫力あるけど、ファンタジーではなかったな……。


 いや、逆にファンタジーっぽくはあるか?


 世紀末だけど。




 因みに、観客は凄い数いて、花火大会か何かかってくらいの人口密度だった。


 あれ全部エルフかぁ……。


 ちゃんと経済まわってるのかなぁこいつらの集落……。


 競馬してないで働け!






「300ギフトマネー損した……」


「私も……大試とお揃いなら良いけど」


「アタシは100ギフトマネー払い戻されたわ!3頭中1頭しか当てられなかったからかしら?」


「1000ギフトマネー払い戻しされました!」


「……この羊のお肉はやっぱり美味しいです……!」


「こっちのお芋のお団子もおいしいー!」


「馬臭くて帰りたいニャ……」




 何だかんだでしっかり楽しんだ。






「いやそれどころじゃ無いんだって!早く管理システム連れて行けよ!」


「あ!申し訳ありません!外部からのお客様って珍しいので、ついつい観光名所と言えそうな数少ない場所を紹介してしまいました!」




 気持ちはわからんでもないけども、こっちだって暗くなる前に帰りたいんだよ。


 今日は平日で、明日も平日なの。


 僕ら学生なの!


 ファム曰く、ここから帯広テレポートゲートまでくらいなら皆でジャンプできるらしいから、帰りはそこまで苦労せずに済むとは思うけど……。




 そのまま20分ほど歩いて、やっと目的地らしい建物へと到着した。


 ここまでの間に木造の建物は結構色々見たけれど、何故かこの施設だけコンクリートか何かで出来ているように見える。


 白くてツルっとした質感だ。




「これが管理システムです!さぁどうぞ中へ!」


「お邪魔しまーす」




 中に入ると、サーバールームみたいな感じだ。


 所々光る黒い立体物が所狭しと並べられていて、その上に俺達が今通っている通路がある。


 床は金網だ。


 明らかにファンタジーではない。


 近未来SF好きには溜まらない光景だろう。




「ここです!この竈にあの魔石をハメてください!それでスリープ状態から復帰するはずです!」




 そう言ってアレクシアが指さした先には、ファンタジー要素もSF要素も無さそうな薪ストーブみたいなのがあった。


 なんなの?


 ふざけてるの?


 SFならSFで統一しろよ!




「本当にこれでいいのか……?」


「はい!超高性能の魔石炉らしいです!」


「あそう……」




 釈然としないけれど、言われた通りスイカサイズの魔石を薪ストーブに投げ込む。


 すると、先ほどまで所々光っているだけだった薄暗い施設の中が、一気に明るくなった。




「やった!やりました!復旧したみたいです!」




 アレクシアが喜びでぴょんぴょん跳ねている。


 何故か後ろでマイカも跳ねている。


 他のメンバーは、何が起きるのか戦々恐々としている。


 いつ狭い通路でレーザー攻撃されるかもわからない恐怖が湧く。


 ただ、正常に動作しているだけなのか、それ以上の変化は見られないようだ。




 そう思って警戒を解こうとしたとき、声が聞こえた。




『はーいこんにちは!ヒューマンの皆元気かなー!?エルフ管理用AIのピリカちゃんでーす!』




 何このキュートでポップな声。


 空気壊れるんだけど……。




「アレクシア、何これ?」


「なんですかこれー!?」




 お前も知らんのか……。






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