第126話
「あっははははははははははは!!おいしいねぇイカ!!!力がいっぱいわいてくるね!!!!!!」
なんか、クラー剣振り回しながらエリザが謎のタコイカ脚をバッサバッサと切り倒しながら食い進んでいる。
あの脚、1本直径数百メートルはありそうなんだけど、お構いなしでカットしていく。
クラー剣、自分自身では一回も使った事無かったけれど、伸縮したり曲がったりで、よくバトルマンガで出てくる刃と刃がワイヤーで繋がってたりして鞭みたいにしなる剣みたいな使い方をしている。
蛇腹剣とかなんとかいう名前だっけか?
まあ、あのクラー剣は、刃が繋がってるとかじゃなくて、イカ脚みたいな触手がうねうねしながら刃になってて、先っぽにイカのくちばしがついてて相手を食い破ることもできるという、外道にも程がある剣なんだけども。
そもそも剣なのかな……?
俺も伸縮する剣は持っているけれど、あんなに伸び縮みさせていたら魔力の浪費も激しそうだ。
とはいえ、アイツは食えば食う程無限に魔力に出来るらしいから、もしかしたら相性がいいのかもしれない。
魔族といえば触手だしな!
「うわぁ……これは魔王様大喜び間違いなしだにゃー……」
「俺にはよくわからんけど、そんなにエリザの能力上がっていってんの?」
「とんでもない事になってるニャ……まがい物の急増品とはいえ、相手が神聖もってるからかモリモリ上昇中にゃ。多分もうそろそろ、魔力量だけなら父親である魔王様超えているんじゃないかにゃ?」
「魔力をちゃんと感知できない俺には基準が分からんけど、魔王を超えているってのはきっと凄い事なんだろうな」
確か、エリザはゲームだと3作目のラスボスなんだっけか?
今の段階で1作目のラスボスっぽい魔王を超えちゃうと、3作目のルートに乗った時どんな感じになるんだろう?
俺の中のイメージだと、魔族で、魔王で、女ってなると、無駄にセクシーな衣装で肌と胸を強調した姿の強気なお姉さんみたいな感じかなぁ?
勿論ハイレグ。
肌の色は、褐色から紫で、髪の色は白……目は、白目の部分が黒くて、瞳は真っ赤!
うん、悪くない……。
「ファム、魔族って良いな……」
「何いきなり人類見限るような事言ってるニャ?頭叩いて正気に戻した方がいいにゃ?いや、ボスが魔族側についてくれるならニャーとしては嬉しいけどニャ」
「何?ファムは俺と一緒に魔族の領域で暮らしたいの?」
「当然ニャ。神剣持ってる奴勧誘してきたらきっとニャーの地位も安泰ニャ。ボスは、お給料ガッポガッポ貰って笑いの止まらないニャーの隣で首輪に繋がれながら木刀作ってればいいニャ」
とりあえず、ネコミミメイドの耳を抓って泣かせてから、状況確認をする。
下のイカ脚に関しては、エリザと周りの貴族たちに任せよう。
問題は、四国の島内だ。
本人たち曰く精神操作されていたらしいタヌキたちは、今はもう大分気も抜けた感じだけれど、こいつらと、そして王子が引き入れいた軍人たちはどうだろうか?
俺がこいつらの部下だとして、今更「俺は操られていた!やっぱり王様にごめんなさいするわ!すまんな!」ってトップから言われて、はいそうですかと思えるだろうか?
うん、思えるわ。
だって、操っていた奴と、トップに責任被せられるし!
忠誠心が無いならの話だけど。
「何はともあれ、隠神さんは島内全域の部下たちに、停戦命令出してもらえます?そのまま、今後は王命に従う事も宣言してくれるとありがたいです。その後、隠神さんがどう裁かれるかは知りませんが、王子の件とか色々で情状酌量の余地ありって認められる可能性もありますし」
「そうじゃな。どんな御託を並べようと、我輩は王に弓引いた身よ。我輩の首で四国に平和が訪れるならそれに越した事は無い」
「ちょ……ちょっと!隠神、アンタ本当にそれでいいの?私も他人の事言えないけれど……」
「それが将の役目よ。なに、十分生きたわい。最後に最愛の者との再会も果たせたしの」
「……そう」
しんみりする2匹。
だけど、残りの2匹は大した気にもしてない感じの表情。
あれ?
明小辺りは、もう少し何か言ってくるかと思ってたんだけど……。
「まあ、隠神程の化け狸なら、死んでもそう遠くないうちに精霊になって戻ってくるんじゃないか?」
「うん!オジサンってもう殆ど精霊みたいな状態だし!」
「吾輩長生きじゃからなぁ」
「……そう言う物なの?」
「花子は、化け狸としては位が高くなかったからのう。その辺りの感覚にはちょっと鈍いかもしれんな」
俺も鈍いわ。
長生きだと精霊化しやすいとかあるのね。
ソフィアさんも死んですぐ精霊とやらになって、その後さらに大精霊にまでクラスチェンジしてたし……。
「精霊化なんぞ、実際に体験してみれば大したことは無かったがのう」
「普通にごはん食べて普通に寝て普通に服も来てますしね」
「もっと色々出来る事はあると思うんじゃが、体験してみんか?」
「今は遠慮しておきます。俺は、清い体のままでいないといけないので」
「清くなくなってからでも構わんぞ。ワシは、順番は守る女じゃからなぁ!」
くっ……!青少年の劣情を刺激するような事ばっかり言いやがって!
これが大精霊の力なのか!?
多分違うな。
「…………ふざ………け…………るな………」
その時、乾燥させた大根みたいなものから声がした。
あ、王子だったわ。
あれ?まだ生きてたのか?
すごいな……フリーズトライされてそうな見た目なのに……。
「……私だけで死ぬものか………………この場の全員……いや……この国の人間皆道連れにしてくれる……私が死ねば……その瞬間星の数ほどの悪霊が解き放たれる……近い者から手当たり次第に祟り殺すだろう……はは……はははは……」
その笑い声が途切れるとともに、何か、生命の源のようなものが消えたような気がした。
別に俺に霊感があるとかでもないので、多分気のせいなんだろうけれど、死んだというのが直感的に分かったんだと思う。
直後、王子の体から、黒い靄のような、球のようなものがすごい数吹き出し始めた。
なんだ?
これが悪霊とやらか?
霊感が無い俺でも見えるのか……この世界の霊とやらは、俺の思うようなものとはまた違うんだろうか?
確か、情報収集にも使えて、おまけに黒魔術にも利用できる便利な戦力だったんだっけ?
でも、所詮は悪霊とついているだけあって、コントロールする者を失えば、ただのろくでもないものなんだろう。
その証拠に、上空にドンドン溜まっていくその推定悪霊たちは、どうやら俺達に目を付けたらしく、目があるようにも見えないのに、まとわりつくような視線を向けてきているのがわかる。
全校生徒の前で、ふざけて作った俳句がどっかの新聞社の賞をとってしまい、それを発表させられた時の気分だ。
あートラウマが蘇る!!!!!
「ソフィアさん、アレ、どうします?」
「祓うしかないじゃろうなぁ。どれ、ワシに任せるがいい!さっきから暇しとったんじゃ!」
「でもすごい数ですよ?」
「エルフの軍勢相手に戦っておったワシにとっては日常茶飯事じゃな!」
嫌な茶飯だ。
「えるふ殿、では奴らへの攻撃は任せる。我輩は、攻撃を潜り抜けてきた悪霊から、ここにいる者たちを守ろう」
そう言うと、隠神さんが右手を上げる。
すると、俺たちの周りに、どんどん武器が発生し始めた。
なんだこれ?
ゲートオブ武器庫?
「我輩の部下たち、総勢808匹!己が身を武器にしてまで使えてくれている眷属じゃ!多少の悪霊など、こやつらの手に掛かればたやすい!」
「金属製品に化けると、何故か元に戻れない化けタヌキが結構でるんだよな……俺の知り合いにも何匹かそんなのがいたぞ」
タヌキにも色々あるらしい。
でも、化けて元の姿に戻れなくなるってめっちゃ怖いな。
女に化けて男に戻れなくなったりしたら、その先どう生きて行けばいいのかわからなくて絶望しそう。
いや、昨今は女の子が女の子をアレしてコレする作品も多いし、ワンチャンあるか……?
むしろ、自分から女の子になって戻れなくなりたがる男も多いかもしれん。
俺は、立ったままトイレできる便利なノズルがついてる方がいいかな。
「では、護りは其方たちにまかせよう。ワシは、あの天の数多の悪霊共を倒すことに専念するかのう」
ソフィアさんの空気が変わる。
さっきまでの、悪戯好きで美人でスタイル良くてちょっとエッチな感じがするお姉さんから、戦う者としての雰囲気へと。
「戦場の巨星たちを悉く堕とし冥夜へと変えた力、見せてやろうではないか」
パチンと、指を鳴らす音が響いた。
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