第125話

『結界放出加速器全力稼働、秒速7kmまで加速しま』




 ……うん、いっくら浮上してても流石に秒速数kmまで加速したら、次の瞬間にはぶつかるよ……。




 目の前に映し出されたホログラムモニターには、どうやってかは知らないけれど光って消し飛ぶタコかイカの脚たちと、魔術師たちの決死の結界が映っている。


 がんばえー貴族たち。


 あんたらも俺と一緒に訳わかんない敵の相手しようぜ。


 同じ貴族だろ?


 なかようしようや!


 まあ俺はただの貴族である父親の息子ってだけで、正式には準貴族とかだから、本物の貴族の皆様にはもっと頑張って頂ければと。




 それにしても、久しぶりに大きな地震みたいなのを体験したなぁ。


 いや、地面が揺れてるんだから実際地震なのか?


 でも感覚としては、前世で小さい時に母親に連れられて行った科学館みたいなとこに置いてあった地震体験装置に近いかもしれない。


 前段階が無くて、いきなり凄い揺れが来てるからかな?


 つっても、5強くらいの地震なら慣れちゃってる事を改めて実感したわ。


 危険に慣れるのはいいことではないかもしれないけれど、こういう時冷静に対処できそうなのは良いな。




「にゃあああああああああ!?地面が揺れてるニャあああああああ!これ四国大丈夫なのかにゃあああああああ!?」


「たいしぃ!!!!たいしいいいい!!!!」


「あれ?魔族の土地って地震無いの?」


「こんなでっかいの無いにゃああああああ!!!」




 寧ろイメージの中では、魔族の領域なんて火山から溶岩が常に流れ出していて、地震も起きまくってる感じだったわ。




「いや、訳わからん化け物に地面をぶつけた結果揺れていると考えると、それはそれでワシは怖いんじゃが……」


「……私……透視で下のタコ足たちが吹き飛ぶの見えました……グロテスクでした……」


「疲れた体にこの揺れは厳しいです~!」




 エルフは、どうやら平気らしい。


 心が図太いよなお前ら。


 体のスタイルは物凄くいいのに。


 流石暇つぶしで殺し合っていた修羅の住人達。


 何故今となっては、ギャンブルと飲食とラブにばかり傾倒しているのか。


 世の中にとっては良い事だけれども。




 アレクシアには、後で湿布をやろう……。




「ううむ……我輩がやってしまった事ながら、この後四国は大丈夫なんじゃろうか……?」


「漁場の再生にタヌキ力ぢからをつぎ込まないといけないだろうな。暫くは、社長業も休み休みだな……」


「いや、アンタたち、まだあの気持ち悪いの何とかしてないでしょ……?私が言うのもなんだけれど……。というか、まず私の頭のこのタコ脚何とかならないの……?引っこ抜こうとすると普通に痛いし……」


「でもお母さん奇麗だよ?」


「……そ、そうかしら……?まあそうよね!私だって明小の母親なんだし?」


「お前は、昔から奇麗じゃったぞ」


「ああ、最高だった」


「タヌキの特殊性癖なんて知らないのよ!多分そう思ってるのアンタたちくらいよ!」




 このタヌキたち、凄い力を持っているはずなのに、年寄りの寄り合いみたいになってんのなんとかならんか?




 まあ仕方ない。


 そろそろ揺れも治まって来たし、下の神様だかなんだかを倒しに行くか。


 どうせ、この程度では死んでないんだろ?




『犀果様、謎のイカ脚の8割が消失しました。しかし、まだ生存しているようです』


「だろうなぁ……四国はもう一回浮かせておいてくれ。魔力は足りそうか?」


『魔石が大量に蓄えられていたので、あと数時間なら平気でしょう。結界に攻撃を大量に喰らうと、魔力を無駄に消費して枯渇する可能性もありますが』


「そこは、可能な限り短時間で決着をつけるしかないだろうな……」




 実際、この手の奴は時間を与えれば与える程面倒な事になるんだ。


 となれば、速攻で決めるしかない。




 うーん……。


 俺の手持ちの武器で、一番こういうのに向いているのは、実際に使った事は無いけれど、やっぱり天之尾羽張かなぁ……?


 どんな相手も確実に殺すって効果らしいし……。


 でもなぁ……代償で俺の魔力が枯渇するらしいからなぁ……。


 四国に来たのは、仕事でしかたなくだったけれど、別の目的が見つかっちゃったからなぁ。


 戦争を止めて、このイカタコを始末したら、その後に俺にとってのメインイベントが待っている。


 その為には、できれば天之尾羽張は使いたくない。


 どうしたもんかなぁ……。




「はぁはぁ……ねぇ……ねぇ大試ぃ……!」


「……エリザ、いよいよもって大丈夫か?」


「うん~……あのねぇ……あのイカ倒して食べてくるから……ナイフ貸して……なんでもいいから……斬れればいいの……」


「ナイフ?うーん……剣しかないけど……」


「それでもいいからぁ……!」


「そうか?それならどうしよう……ん?そういや、神聖存在って言ってたけど、あれって水生生物でいいのか?だとしたら……うん!使ったこと無いけど、これが丁度いいかもしれない!」




 俺は、バフ目的で具現化して、そのままケースに挿しっぱなしだった剣をエリザに譲渡した。


 魔皇クジラ相手だと機能しなかったバフだけど、コイツ相手なら効きそうな気がする!




「うわぁ……かっこわる~い……でも、すごくつよそうだねぇ……!」


「気に入ったか?じゃあ気を付けて食べてきてくれ。ファム、脚まで送ってやって」


「ネコ使いの荒いボスにゃ!」




 ファムに連れられて、エリザが消える。


 ファム自身はすぐに戻って来たけれど、エリザはいない。


 目の前に映し出されたままの海上付近では、エリザが早速とばかりにイカ脚を切り飛ばして、そのまま海に落ちる前に食べつくしていた。




 手に『クラー剣』を持ちながら。






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