第266話

「おのれ!やはり人の子など信用するに足りぬ!アンナの時もそうだった!いいように利用するだけして、少し気に食わないことがあれば、すぐに裏切る!信仰ですらこれか!?下らない生き物だ!」

「そういう奴らだからこそお前も利用できてたんだろうが!今更ごちゃごちゃ文句言うなよ!」

「お前さえ!いや、新たな聖女さえ生まれなければ!何故今なのだ!?やっと世界最大の宗教へと成り上がり、ここから人の子どもを絶望へと誘おうという時に、アンナが転生し、それとは別に新たな聖女が生まれ!おまえのようなイレギュラーまで出てくるなんて!神は、そこまで人が大切か!?」

「そりゃそうだよ!だって、シナリオ書いたの多分人間だし!」

「運命を我が物にしたとでも言うつもりか?思い上がるな!」


 いや、そういう話じゃないんだけどな!


「ダークネススピア!3000連射じゃ!」

『ピガガガガガ!』

「なんだそのデタラメな攻撃は!?」


 逃げ回るゼルエルに対して、機を伺っていた2人が、1発でも人間であればほぼ確実に即死しそうな威力の攻撃を乱射し、弾幕を張っていく。

 陰のように黒い棘……と言うには極太の何かが、ものすごい連射速度で撃ち出され、その間を縫うように、イチゴの腹部から何かが飛び出し、ゼルエルへと殺到する。


 この教皇の部屋は、一人用の部屋として考えるなら、大き過ぎるにも程がある巨大な空間だけれど、人間大のサイズの存在が飛び回り、飛び道具を回避し続けるには狭すぎる。

 そのため、常識を逸脱したその高速飛行も功を奏さず、数発の凶弾がゼルエルへと命中し、彼女の表情が苦痛で歪む。


「……ああああああ!もう止めだ!」


 寄って集って俺達からの攻撃を受け続けていたゼルエルだけど、とうとう我慢の限界に達したのか、動きを止めた。

 流石に諦めて、初代聖女ファンクラブの解散を宣言してくれるのかな?

 なんて淡い期待は、その後すぐに打ち砕かれた。


「……神域化が解除されたようじゃな?」

『ピガガ?』

「でも、あの目は、まだ完全に諦めたわけじゃ無さそうだぞ」


 こちらを射殺すような目を見れば、ゼルエルがこちらを排除するのを諦めていないのがよくわかる。

 だからって、これ以上何をするつもりだろうか?

 こちらとしては、神域に閉じ込められていようがいまいが、邪魔者を排除するっていう事自体は変わらないんだけれど。


「……ん!?」


 数瞬、ゼルエルがどう行動するのかを伺っている間に、今度はゼルエル自身の周りだけが、先程の神域と同じような雰囲気の膜のようなもので覆われた。

 それも、さっき部屋全体を覆っていたものよりも、密度が段違いに高いのがわかる。

 これは……流石に壊せないかも?


「このまま!貴様らを消し飛ばす魔術を放てるまで魔力を練る!我に残った神性全てを注ぎ込み、貴様らを消し飛ばす!その後、残った信者たちを使って、また愚民たちから信仰心を搾り取ってやればお釣りが来るわ!」


 どうやら、引きこもり戦法をするつもりらしい。

 神性って、外付けのエネルギータンクかなにかなのかな?

 魔力にも変換できるなんて便利だな。

 どっちにしろ俺には使えないから関係ないけれど。


「単純じゃが、厄介な戦い方じゃのう」

「なんなら、このまま逃げてあいつが出てくるの待つってのもアリですかね?」

「どうじゃろうなぁ……。神性持ちの天使じゃから、特大の呪いでも飛ばしてくるかもしれんしのう……」


 どうしたもんか?

 木刀を魔力に変換して、とりあえず全力で殴り続けてみるか?

 そんな事しても、この大聖堂がぶっ壊れるだけかもしれないけれど……。


 ん?

 そういや、アイツのエネルギー源って、信仰なんだっけ?

 だったら……。


「……ソフィアさん、エルフの戦い方って、やっぱりエグいかもしれませんね」

「なんじゃいきなり?まあ、ワシも今はそうかもしれんと思っておるが、当時はアレが普通でのう」

「別に責めてるわけじゃないですよ。ただ、マネしてみようかなと思って」

「マネじゃと?」

「はい。というわけで、自分とイチゴを包むように、全力で結界を張ってもらえますか?俺のことは、気にしなくていいので」

「……あー……そういう……。大試よ、お前、本当に現代人か?」

「蛮族とよく言われます」


 なんとなく俺が何をしようとしているのか察したらしいソフィアさんが、意地の悪いニヤケ顔のままイチゴと一緒に結界の中へと隠れた。

 これで、こっちのメンバーの心配はないだろう。

 ファムたちももう脱出してるはずだし……。


 俺は、神域の中からこちらを睨んでいるゼルエルに向き直り、話しかける。


「ゼルエル!俺、これからこの大聖堂を吹き飛ばすぞ!」

「……は?」


 ゼルエルの表情が、困惑に変わる。


「お前のその力も、この大聖堂と、そこに詰めている信者たちから得ているんだろう?世界中でお前に対する信仰が失われていっているにしても、この大聖堂にいる程の信者たちは、エネルギー源として優秀なはずだよな?というか、最後の頼みと言ってもいいくらいの存在だよな?俺を倒した後も、そいつらがいないと困っちゃうよな?」

「……まさか、貴様!?」


 木刀を魔力に変換する。

 全力全開で、倶利伽羅剣と雷切を唸らせる。

 俺自身、ここまで力を込めてこれを放つのは初めてだから、どうなるかわかったもんじゃないけれど、まあなんとかなるだろう。

 最悪、頭と胴体が残ってればなんとかなるさ!


「攻撃魔術のチャージしてる場合じゃないぞ!その神性とやらで、人を守ってみせろよ!女神様!」

「この……ッ!悪魔が!!!!」


 辺りを火柱が包んだ。



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