第177話

「それで、俺はこれで陰陽師になったのか?」


「ふむぅ……何故か参号が消えないのであ~る……。スキルを譲渡できていれば消失している筈であるからして……」


「……あ、そういや俺って女神の呪いみたいなのでスキルとか使えないかもしれないわ。単純に才能が無いのかもだけど……スキルはどうだっけなぁ……」


「ふむふむ……なるほど、神剣をランダムで貰える代わりに魔法も何も使えなくなるとな?……難儀だ~なぁ!」




 どうやら俺に陰陽師は務まらないらしい。


 残念だ。


 正直、式神使って戦う事にあこがれはあったんだけどな……。




「じゃあこの陰陽スキルプレゼント君どうしよ?」


「もったいないからそこの女子にでも渡せばいいのであ~る」


「え!?ちょ……いやぁ!」




 変な御札みたいなやつを委員長にくっつけた途端、シュワワっと分解されるように消えて行った。


 そして上がる悲鳴。


 痛いとかじゃなく、気持ち悪いくて上がるタイプだなこれ。


 流石にそこまで嫌がるとは思わなかった……。




「ごめん」


「謝るなら最初からやらないでよぉ!」


「でももったいないし、陰陽術使えるようになるらしいぞ?」


「それは聞いたけど……そもそもこの状況に全く理解が追いついてないの……」




 でしょうね。


 いきなり目の前に気持ち悪い動きするおっさんが現れて、そいつが投げつけてきた紙を隣の男に押し付けられたんだもんね。




「ところでさ、このオッサンは安倍晴明らしいよ?」


「そうなのであ~る!」


「絶対ウソ!信じないから!」




 そう言われてもだな……。




「それより、新しいスキル覚えた?」


「スキル……?えーと……ギフトカード……ええ!?ウソ……『陰陽術』っていうのが増えてる……」


「マジか……本物だったのか……」


「当然なのであ~る!才能さえあれば一発である~な!」




 でも俺の事は才能あるっつったのにできなかったじゃん!


 女神の呪いくらい神の世界の一部をぶんどるより簡単に解除できないんかい!




「何はともあれ、早速陰陽術の使い方を教えるのであ~る」


「え……あ……はい……」




 委員長、もう流されることにしたらしい。


 目は虚ろ。




「まず、この札をもてぇ!」


「は、はい!」


「次に、その札を人差し指と中指で挟み、あの大きな式神にと~ばせ!」


「飛ばす……はい!」


「する~と……」




 委員長が健気に指示に従って札を飛ばした。


 向かう先は、神社を守る2体の大型式神の片方。


 ビックリするくらい奇麗にスッと飛んで行ったお札は、そのまま式神にぶつかった。




『ウオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』




「当たった妖怪は消滅するのであ~る」


「えええ!?どうして!?」


「これぞ陰陽術パワーだか~らなぁ!」




 フィクションの世界でよくあるような、呪文を唱えたりとか変なアクションとかは無かった。


 だけど、お札がぶつかった瞬間に、式神がボロボロと崩れるように消えてしまった。


 なにこれヤバイ……。




「あのカッコいい呪文は唱えなくてもいいのか?」


「札を作る時に呪文の内容を書き入れ~るぞ。戦ってる最中に呪文唱えるくらいなら札なんて作らないのであ~る」


「言われてみればそうか……じゃあやっぱり、あの呪文と舞いみたいなのは……」


「パフォーマンスであるなぁ~」


「やっぱり~?」


「ははははは!」




 世の中こんなものかと、稀代の陰陽師と笑う俺。


 どうせ俺自身に陰陽術は扱えないのが分かったので、もう笑うしかないというのもあるが。


 いいなぁ委員長……。




「犀果君……なんでその人と普通に話してられるのよぉ……?」


「慣れた?」


「どんな人生送ってきたら慣れるの……?」




 まず神に爆殺されます。




「では、女子よ。この初心者錬金術師セットをや~るよ。色んな札が入ってて、これでキミも今日から立派な陰陽師!という触れ込みで一時期すごく売れたのであ~る!」


「あ……ありがとうございます……?」




 手にもてるサイズの葛籠のようなものを渡される委員長。


 これ、もしかして収納葛籠か?


 サービス良いな……。


 でも、首をくるくる回すのは辞めろ。




「そう~だ!小僧、ちけっと?とやらは今もって~るの?」


「あるけど……あ、ガチャする?安倍晴明がやったら何が出るのかちょっと興味ある」


「うむぅ!ではや~るぞ!フンッ!」




 掛け声とともにガチャチケを破る晴明。


 そして、カプセルが出てくる。


 


 日月護身之剣じつげつごしんのけん(SSR):聖獣っぽい生き物の力を借りるために呼び出すことができる剣!使役ではないので注意!聖獣の召喚とその聖獣の力の一部を身に纏える!身体能力を100%増加!




「えーと……なんか凄いの出た……」


「おぉう!懐かしいのであ~る!我が仕事で復元した霊剣だなぁ!」


「安倍晴明ってそう言う事もするんだ?」


「もちろん!霊剣だからなぁ!刀鍛冶ではないのでデザイン決めて力を籠めるだけだ~けども」


「へぇ……」




 とりあえず、早速聖獣ってのを呼び出してみるか!


 ……あれ?出てこねぇ。




「それはた~ぶん、聖獣とやらと契約しないとだめぇだね!」


「契約?」


「式神をつく~る時と似たようなものであ~る。式神の場合は、相手を調伏させて強制的に契約する~けど、聖獣が相手であ~れば、仲良くなってお願いするしかないのであ~る!」




 なるほどなるほど。


 聖獣なんてもんがこの世界にはいるのか。


 そういや龍もいたな?


 ……ボッチの俺に無理やりの契約じゃなく、仲良くなって何とかしろと?


 これは厳しいかも……。 




「じゃあな小僧たちよ!我はか~えるよ!」


「あ、はい。お達者で」


「えっ……えっ……?」


「さてさて……次のガンマ線バーストはいつか~な?」




 その言葉を最後に、1/1安倍晴明は姿を消した。


 恐らく、さっきの世界に戻ったんだろう。


 これから先も、この京都で陰陽師として生きていくんだろうか?


 ……あれって、陰陽師カウントでいいんだよな?




「犀果君、今のって……」


「いやぁ疲れたな委員長!そろそろ帰ろうか!あ、でもその前に清水の舞台観てからにする?」


「え、あの……あれ?もしかして、無かったことにしようとしてる?」


「うん」


「……そっかぁ……うん、そっか……。えーと……清水の舞台は私も見てみたいと思ってたの!」


「よっしゃ!行こう行こう!」




 訳の分からない出会いもあったけれど、結果だけ見ればこっちは特しかしてないから、あの夢に出てきそうな稼働フィギュアの事は忘れよう。


 ……陰陽術使いたかったな……。




「……私……陰陽術なんて使えるようになったんだ……」




 隣で葛籠を抱きながら歩く委員長が、そんな事を呟く。


 未だに事態を飲み込めていない様子。


 そんなことじゃ、このゲームがモデルになっている世界で生きていくのは大変だぞ?


 女主人公なんだろ?


 こんなハチャメチャ、さっさと慣れてくれ!


 そんな事を委員長から邪魔そうな葛籠を半ば無理やり渡してもらいながら思う。




 あれ?


 そう考えると、今回のってもしかして、委員長の新しい能力獲得イベントに俺が巻き込まれただけだったり?


 あっちの世界に行っちゃったのは偶然だったけど、もしかしたら他の方法で安倍晴明が出てくる場合もあったとか?


 うーむ……。




 そうだ!


 委員長に、陰陽術に関して一番大切な事を教えておいてやらないと!




「委員長、陰陽術の8割は、雰囲気を盛り上げるためだけに存在するらしいぞ」


「そうなの!?」




 驚愕の表情の委員長と晴明神社を出る。


 最後にふと振り返ると、さっき消え去ったはずの大型式神がモリモリモリっと復活していく瞬間を目撃してしまった。


 将来的には、委員長もこのくらいの滅茶苦茶なもの作れるようになるのかな……。


 だとしても、自分の頭は取り外さないようにしてくれ……。




「委員長、体大切にしなよ?」


「え?うん、ありがとう……なになに!?なんで今そんな事言ったの!?」




 因みに、この後立ち寄った清水寺は、老朽化のため裏の舞台が立ち入り禁止になっていました。


 少し涙出た。






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