第176話

 和風ピエロのような格好のおっさんが、自分は安倍晴明だと言っている。

 うーん……。

 信じらんねぇ……。

 いやさ?このゲームを参考にして作られた世界なら、そういうビッグネームはそりゃ普通に出てくるでしょうよ

 でもさ……。


「なんでそんなピエロみたいな恰好なんですか?」

「ちっが~うのである!ピエロではな~い!クラウン!」


 どうやら拘りがあるようだ。

 まあ確かにピエロは、クラウンの中の1種類でしかないらしいから、その指摘は間違いではないと思うんだけど、安倍晴明がその指摘をしてくることは間違いだと思う。


「根本的な質問なんですけど、本当に安倍晴明なんです?」

「いかにも。晴明を『せいめい』と読むか『はるあきら』と読むかは任せるのであるぞぉ」

「……その話し方も、何かのキャラ付けですか?」

「うむぅ!奇天烈な方が人々の覚えがよかったのだ~!」


 個性を出そうとする芸人みたいなことを言う……。


「じゃあ、貴方が本当にあの有名な陰陽師の安倍晴明だとして、何でこんな所にいるんですか?そもそも、何で生きているんですか?」


 安倍晴明の生年月日なんて知らないけれど、平安時代の人のはずだし、多分1000年は前の人物って事だろ?

 エルフって事はないだろうし……。


「ふむ……納得できるかどうかはわから~ぬが、つまりはこういう事よ!」


 そう言って、目の前の安倍クラウンは、両手で自分の頭を持って、そのまま取り外してしまった。

 はーん?そういうこと?


「どういうことだよ!?ロボか!?」

「魂をヒトガタに移し替えてみたのであ~る!」

「フィクションの陰陽師っぽいことしてんな!」


 あ、この世界ってフィクションをもとにしてるんだった……。


「つまり、アンタは自分の体をヒトガタ?にしてしまうことで、寿命から解放されて今に至っていると?」

「そう言う事だなぁ~」

「まあそれならそれでいいや……。事実目の前にいるわけだし……。それで、この世界はなんなんだ?神の世界をぶんどった?」

「そのままの意味なのであ~る!神の世界の京都付近に該当する領域を勝手に奪って占有している状態なんだよな~」

「神様相手によくそんなことできるな……」

「神なんぞ恐れて陰陽師ができる~か!」

「陰陽師ってそんなヤバイもんなの……?」


 魂を移し替えたり、倒した相手を使役したりなんて言うのは、確かに神をも畏れぬ生命への冒涜と言えなくもないかもだけど、それにしたってはっちゃけすぎなのでは……?


「他にも、この空間なら体感時間を自由に弄れたのも便利であ~る!」

「もうすこし奪わざるを得なかったって思える理由が聞きたいわ……」

「なに~を言う!我ら陰陽師!根本的には天体観測が趣味の学者でであるからして!現実世界との時間のズレを生めるのは超便利!」


 あぁ……。

 天文学が趣味なら確かにそう言うもんかもしれんけど、だからってなぁ……。


「それにしても、我の世界に入ってくる者など初めてだなぁ……。どうやって入ったのか気になるのであ~る」

「そりゃもう、アンタの神社でお参りしてよ」

「そんな簡単な手段で入れるのであ~るか!?」

「他の人には無理かもしれないな。でも、俺の場合は神様相手にお参りだのお祈りだのすると、それだけで神の世界に意識が飛ばせるらしいから特殊なんだと思う」

「はぁ……便利な世の中になっているな……」


 っていうかですね、俺としては、悪意を持ってこの変な世界に引き摺りこまれたのかと警戒しているんだけれど、どうにもそう言うのでは無さそうだ。

 むしろ、この自称安倍晴明も、俺の登場に困惑している部分が大きいみたいだし。

 リスティ様に呼ばれたならともかく、俺も晴明さんも望んでいないなら、とっととここから退散しておくか……。


「じゃあ俺帰るから、元の世界に戻してもらえる?」

「我がであ~るか?どうやれって?」

「どう……どうやるんだ?」


 そういや、いっつも帰る時はリスティ様がやってくれていたんだろうか?

 俺自身で何かしていた訳では無い気がする。

 うーん……。


「そういえば、天体観測ってどうやるんだ?空なんて見えないし、この空間に居たらできないよな?」

「外にでるだけであ~る。普段は、式神たちの調整と天体観測のために、1年に数回だけ外に出て、その時以外は体感時間をずらしてさっさと時代を進ませているなぁ。お前が入って来てから、何故か外に比べて中の時間が急加速させられている故、時間は弄れそうにないのであ~るが……」

「つまり外に出る方法があるって事だろ?俺もそれで出ればいいんじゃないか?」

「うーむぅ……。不可能ではない……とは思う。がなぁ……」


 何故か歯切れが悪い晴明。

 悩んでいるのか、頭をくるくる回している。

 怖いからやめてほしい。


「実はなぁ、出入りするには、鍵になる陰陽術が必要なのであ~る」

「陰陽術?こう……星の形に光る陣を作って、妖怪とかを倒すアレ?」

「そういうのだと思って結構。つまり、陰陽師しか出入りできないのよ」

「じゃあそれを教えてほしい」

「教えるのは構わん……のであ~るが、何年かかるか分かった物ではないな!」


 えぇ……?

 陰陽道ってそんなに面倒なもんなの……?

 こう……パパっと終わらせられないの?


「ダメもとでやってみるから、とにかくその鍵になる陰陽術教えてくれ」

「……まあいいか!確かにダメもとでもやってみるのは重要なのだなぁ!」


 晴明はそう言うと、肩幅くらいに脚を広げた状態で立ち、左腕を横に広げ、右手を人差し指と中指だけ伸ばした状態で顔の前に構えた。


「オンキリキリソワカオンキリキリソワカオンキリキリソワカ……急急キュウキュウ如律令ニョリツリョウ!ってその場で回りながら唱えればいいの~だ」

「おー!なんか陰陽師っぽい!格好がピエロなのに陰陽師だから頭の中バグりそう!その呪文って何の意味があるんだ!?」

「大した意味なんてな~いのだ。それっぽいカッコいいのを適当に鍵として設定しただけであ~る。陰陽術の8割はそんなんぞ」

「無いのかよ……。そして残りの2割は本物なのか……」

「スポンサーへの雰囲気づくりのアピールは重要なのであ~る!」


 まあいい、重要なのはここから出ることだ。

 俺は、さっきの晴明のポーズを真似して、呪文を唱えることにした。


「えーと……おんきりきりそわかおんきりきりそわかおんきりきりそわか……きゅーきゅーにょりつりょー?」




「え?犀果君、いきなりどうしたの?」

「……あれ?委員長?」

「あ、うん。委員長ですよ……?たまには名前で呼んでほしい気もするけど……」


 変なポーズで回りながら呪文を唱え終わった瞬間に、目の前にはちょっと引き気味の顔をした委員長が立っていた。

 もしかして、一発成功か?

 何年かかるかわからないって話はどうなった?


「天才だなお前!」

「きゃ!?……え!?誰ですか!?」

「ん?其方こそだ~れ?」


 声に振り向くと、そこには和製ピエロがいた。

 そういや、さっき晴明さんも同じように呪文唱えてたな……。


「まあ女子はとりあえず置いておいて、今はお前よ小僧!一発であの陰陽術を熟してしまうなんてすごいのであ~る!」

「いやそんな難しいのじゃなかったでしょ?」

「そんなこと無いのであ~る!普通は恥ずかしくて途中で淀むの~ね!」

「失敗理由って恥ずかしさなのか……」


 本当に陰陽術なのかこれ?

 パフォーマーだろ。


「決めたぞ小僧!お前、陰陽師になるのであ~る!」

「なんか怖いから嫌だけど?」

「返事は聞いていな~いな!せいっ!」


 晴明がいきなり紙を投げつけてきた。

 ペラペラな紙なのに凄いスピードで飛んできたせいで避けることもできず、手で受け止める。


「何すんだよ!?」

「それは陰陽スキルプレゼント君参号なのであ~る!触れただけで陰陽術が使えるよ~うになるぞ!才能が無いと覚えられないけ~どね!」

「そんな便利な話ある?」

「スキルが上達するまでは、パフォーマンス力が上がるだけのしょっぱいスキルだから可能な裏~技であ~るな!」

「やっぱパフォーマーじゃねぇか!」

「使い続けてればその内スキルを使いこなせて、我のようになれ~るぞ!」


 そう言って、頭をくるくる回す晴明。

 それでは満足できなかったのか、途中から目を光らせ腕もくるくる回し始めた。

 端的に言ってキモイ。


「犀果君!犀果君!?なに!?なにこれ!?いやー!」


 恐怖で泣きながら俺の腕に縋りついてくる委員長の存在に気が付き、もしかしてこの安倍晴明くん人形って、世間一般で言う悪霊とかそういう類の物なのでは?と感じ始めた俺です。

 どうしよう……?



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