第50話
一応の解決?を見せた猫案件を振り払うように、俺は本来の仕事に戻る。
3人の女性たちと婚約した俺に必要なものは何か。
そう!お金!
15歳までコツコツ木を売る手伝いしてもらったお金はあるけれど、そんなのじゃ全く足りない。
多分聖羅は、元の暮らし程度の家があれば文句は言わないだろうし、リンゼや有栖も表立って何か言ってくることも大してないだろう。
だからって、俺がそれで納得するかといえば話は別。
好きな女性、しかも俺の事を好きだと言ってくれる女性に対して、少しでも贅沢な暮らしをさせてあげたいと思うのは当然なわけであって。
というわけで、俺は放課後になってすぐテレポートゲートを使って、北海道の帯広にあるテレポートゲートへと飛んだ。
レベル上げであれば、ダンジョンに行って湧いてくる魔物をバンバン倒せばいいのだけれど、ダンジョンだと死体が残らないから素材が採取しにくい。
低確率でドロップするという謎のシステムが実装されているとはいえ、それ以外だと魔石だけが収入源だ。
それじゃちょっと効率悪いよなと考えた俺は、ダンジョンではなく魔物の領域で稼ぐことにしたわけだ。
因みにだけど、先週皆で必死にダンジョン周回していた時の魔石等は、全て売り払って全員に均等に配っている。
数少ない平民の娘や、貴族でも下位の娘たちは大喜びだった。
それどころか、上位の貴族の娘たちも、自力で稼いだ初めてのお金と言う事で興奮気味だった。
俺や聖羅たちは、開拓村でお金を持っていた所で、利用できる場所が皆無だったからそう言う感動もあんまり無かったけども……。
今考えると、俺達に内緒でこっそり大人たちは酒とかの商品を、木を買い付けに来た商人から買ってたりしたのかなぁ……。
「ところで、なんで皆いるんだ?」
「何?文句ある?」
「大試のいる所が私の居場所」
「大試さんと婚約したことで、私の公務は大分減りましたから……」
「いや、3人のために甲斐性を見せようと稼ぎに来たんだけどさ……」
聖羅とリンゼと有栖揃い踏み。
ぶっちゃけこの3人が力を合わせれば、一瞬で俺なんて誰にも知られずに消し去れる程度の権力を持っているであろう彼女たち。
なんとか彼女たちに不自由ない生活を俺の力で!
って思った矢先にこれだよ。
「アタシは別にどこでもいいのよ。一緒にいたいだけ」
「私もそう」
「同じく……!」
「その気持ちは嬉しいんだけど……まあいいか。3人と一緒なのは単純に嬉しいし」
しゃーなし。
俺の婚約者たちはみんな強くて男前。
「アイ、この辺りの魔物の分布をスキャンして教えてくれ」
『かしこまりました。スマートフォンの方にデータを転送しておきます』
「助かる。つっても、この辺りは電波の圏外だからこの建物の中から出たら通信は使えないかもだけど……」
『問題ございません。周波数が特定できましたので、こちらで基地局の代わりを務めます』
「有能すぎる……」
お金も1人で稼ぎに行けない俺とは大違いだな!
そしてスマホの画面に表示されるマップを見る。
なんか色々名前が書かれているけれど、どれも見たことが無い。
300年以上前の魔物情報だろうから、今とは使われている名前が全く違うのかもしれない。
もっとも、今の日本という国にこの辺りの魔物を知っている人間がいないだけかもしれないけれど。
だって文字通りの秘境だもん。
エルフまでいる。
多分レア度としては、野生の北海道産オオクワガタくらいだ。
俺の中では、ツチノコの次くらいのランクの幻獣だな。
逆にいえば、ライバルとなる狩人が全くいないため、金稼ぎには良いのではないかと以前ここに飛ばされた時に考えていたんだ。
桜花祭の練習でここに来るヒマが無くて後回しになってたけども。
「アイ、このリストの魔物の中で60レベル未満の4人組で戦って問題なさそうな奴等ってどれかいる?」
『全体的に強さとしては問題ないかと。ただし、魔物ではありませんが、エルフとはあまり関わり合いにならない方が良いのではないかと考えます』
「アイツらそんなに強いの?」
『強さはもちろんですが、恐らく文化が違うので不本意な邂逅になる可能性が高いかと』
異文化交流は難しいか……。
しかも、こんな所で生活しているって事は最初から閉鎖的か、もしくは人間相手に碌な印象持っていないからこそ引きこもっているって事だろうしなぁ……。
エルフの集落かぁ……見てみたい気もするけど、ほんと厄介。
長身爆乳エルフが大好きだった神也だったら死んでも行くだろうがな……。
「……ちょっと、アンタ何あっさりエルフの集落なんて見つけてんのよ!?教えなさいよ!」
「これって歴史的大発見なのでは!?」
「いや……前回来た時は、エルフの集落より色々刺激的な事があってだな……」
「うん……いっぱい一緒にいたね……」
「「あー……」」
何かを察したような顔の2人と、照れる俺と聖羅。
何これ?
こんな流れでこんな雰囲気になる事ある?
「よし!気分切り替えて行こう!まずは近くにでかい鹿の魔物がいるみたいだから、それを狩ってみよう!」
「「「おー!」」」
そして狩ったのがこちらのヘラジカを3倍くらいの大きさにしたような奴です。
大きいですね。
運べねーよこんなん!
怪獣じゃねぇか!
「やべーな帯広大樹海……」
「正直、アタシは豚丼のイメージしかなかったわ……」
「ブタドンとは何です?」
「砂糖と醤油のタレつけて焼いた豚肉をご飯に乗っけた奴……ってところか?うな丼の豚肉版だな」
「それは控えめに言って美味しいのでは?」
「大試、作って」
「帰ったらな……」
それよりこの鹿だよ。
どうするよこれ?
リンゼと俺の雷切で麻痺させてる間に頸動脈斬って倒したけど、素材なんてどう持ち帰ればいいんだ……?
ダンプカーでも運べるかどうか微妙な感じ……。
「この世界にも四次元空間を使った無限の収納アイテムとかあったらよかったのにな」
「無限は難しいけれど、収納カバンならあるわよ?」
「え!?」
マジで!?
そう思ったのは俺だけらしく、3人ともがぶら下げていたそれぞれのかばんをこちらに見せびらかす。
まさか……?
「皆さま、もしやそれらのかばんは全てその収納カバンという奴でらっしゃいますか……?」
「うん、大試は持ってないの?」
「てっきりご存じだとばかり……」
「まあ、入れられるのは魔獣の素材とか野草とか鉱石ばっかりなんだけどね。何故かちゃんとした食料とかテントは入れられないのよ」
「へぇ……そんな知ってて当たり前の物なんだ……」
そんな便利なものがあるなんて!?
クソ!ぬかったぜ!
「そのかばんっていくらなんだ?」
「トレーラー1台分くらいで10億円くらいね」
「……容量小さめのやつだとお安くなったりする……?」
「軽トラ1台分くらいで100万円くらいね」
「まあお安い!……いや落ち着け、宝石ショッピング並みの罠だ……」
流石上流階級と聖女様だぜ……!
サラッと俺様なんかとは資金力が違う事を見せつけてくる!
我慢して手に持つか……。
「では、大試さんに私のかばんを差し上げましょうか?」
「いや要らんよ。それだってどうせ1億円はする奴なんだろ?」
「25mプール1杯分くらいなので1兆円くらいでしょうか?」
「そんなもんポンと渡そうとすんな!」
「そうですか……?部屋に戻れば5つほど持っているので1つくらい問題は無いのですが……」
いーの!俺は手に持つの!持てるだけの恵みを頂いていくのでいいの!
まあ、それ以上の分は皆のかばんに入れてもらうかな。
とりあえず、このデカいシカを解体することにする。
最初に目立つ角を斬り落とす。
神剣だからスパッと切れたけど、きっとこれも良い武器の材料になるだろう。
次に、皮に切れ目を入れてから剥がしていき、裏返す様に外してしまう。
これは、俺と聖羅が割とサクサクやってしまった。
デカいから力は必要だけど、案外その大きさのおかげで作業自体は細かくなくやりやすかった。
剥がした皮は、周りの木の伸縮を生かしてピンと張らせてから、村雨丸の水操作でいい具合に水分を抜いておく。
そのまま後はしばらく放置して、体の解体に戻る。
肉は、骨と繋がっている腱さえ切ってしまえば、後は案外簡単に外れることが多い。
それを利用してバンバン解体していく。
本当は、ちょっと茹でてからやるともっとツルっと奇麗にとれるんだけど、生肉じゃないと商品価値下がるからしかたない。
骨格標本作るならそれくらいしたい所だけども。
内臓は……どうしようかなぁ?
とりあえず腸は全廃棄だ。
ここの部分は痛むスピードが早いうえに、食べられるようにするのに手間が非常にかかるから。
腎臓と膀胱あたりも邪魔だし捨ててしまおう。
もう少し小さければまだ水筒にするって選択も無いではないけれど、文明の利器が存在するこの世界でやる必要はない。
肝臓はできれば持ち帰りたい気もするけど、どうしても足が早いからなぁ……。
最終的に残ったのは、心臓と胆嚢くらいだった。
他は、俺にはちょっと判断できないし邪魔だから捨てる。
最後に骨だ。
こんな巨体を支える骨なんだから、相当素材としても優秀なんだろう。
しかも、ここには全体の骨格があるわけだ。
もの好きが全部買い取って標本にしようとする奴もいるかもしれない。
というわけで、骨は全部回収して角と共に有栖のかばんへ。
乾かしておいた皮も回収してリンゼのかばんへ。
最後に、肉と内臓の一部は聖羅のかばんへ。
「ふぃー……久しぶりに大物を解体したなー聖羅ー」
「うん、満足した」
「なんていうか、野生って感じねアンタら……」
「ですね!でも、非常に洗練されたスキルにも見えました!」
今日の稼ぎはこれで十分だろう。
2体目を狩るのは造作もないけど、解体して回収していくにはちょっと時間がない。
所詮は、学生が放課後にやっているだけの作業だ。
「そういや、鹿から出たこのでっかい魔石どうする?」
「これ程のサイズは中々みませんから、売り払ったらどのくらいの額になるのか楽しみですね!」
「大きければ大きい程に動力源としても優秀だし、家一軒くらいは建つんじゃない……?……一応言っておくけど、豪邸じゃなくて木造2階建ての普通の家よ?」
「トレントなら実家でいくらでも採れるからありがたみが無い」
「総トレント造りの俺たちの家って買うなら幾ら位したんだろうな?」
魔石の使い道をあーだこーだ言いながらテレポートゲートへ帰ることにした。
道中は、大きな魔物と出くわさないようにアイのマップを参考にしてジグザグと森の中を歩く。
仮に魔物と遭遇しても倒すことはできる。
ただ、死んだまま放置すると他の魔物が寄ってくることもあるからあまり行いたくない。
土に埋めるのも面倒だし……。
やっとの思いでテレポートゲートまで辿り着いたときには、もうすでに夕暮れになっていた。
さっさと帰ろうとドアに手を触れる直前に、背後に気配を感じ全員で臨戦態勢になって武器を構え振り返る。
「待ってください!怪しい者ではありません!」
目の前には、毛皮で作られたコートで頭まで覆われた人影が。
声の感じからすると女か……?
そう言われても、こんな所で言葉を話す奴に会う時点で怪しいんだよ!
「何者だ!?ここで人に会う事なんてまず無いと思うんだけど!」
とりあえず意思の疎通を試す。
ダメなら、攻撃もやむなし。
「もうしわけない!危害を加えるつもりはないのです!ただ、その魔石を譲っていただけませんか!?」
魔石……?
このスイカよりデカい魔石をか?
普通に嫌だけど……?
「これは、売ったら結構な値段になるらしいんだがそれ相応の対価は支払えるのか!?」
支払えないなら流石にやらんぞ?
「……必要であれば、私の身をもってお支払いします!どうかお願いします!一族全体の命がかかっているのです!」
「一族ってどこのだ!?」
「あ!申し遅れました!私は、この先の集落に住んでいまして……」
そう言って、目の前の人影は頭のフードを外してこちらを見た。
あれ?
もしかしてこれって……。
「十勝エルフのアレクシアと申します!」
そこには、すんごい美人の銀髪エルフさんがいた。
十勝エルフって何?
名前聞いただけで頭がバグりそうになるんだけど……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます