第51話

 この世界において、エルフとは何か?




 一言で表すなら、人造人間らしい。


 人工知能のアイによると、人間の役に立つために作り上げられたため、健康に活動できる時間がとても長く設計されていて、戦闘力も高い。


 おまけに当然のように容姿端麗。


 ここまで聞けば、普通の男は是非とも会いに行きたいと思うだろう。




 でもさ、その情報をくれたアイが敢えて「文化が違うから関わらないほうがいいよ?」と忠告してくる程度には面倒なことになりそうな相手でもある。


 だって文化違うし。


 異文化と異文化の交流は、必ずしも良い結果を産むとは限らない。


 心情的な物もそうだし、未知の病気なんかも発生するかもしれない。




 というわけで、今こうして泣きながら俺に懇願して来ているんじゃなければ、関わり合いになりたくなかったんだけれど……。




「おでっおねがいじまず!そのまぜきがないとわたじだじ!」


「わー!まてまてまて!ハンカチやるから涙と鼻水ふいてくれー!」




 物凄くクールビューティーな顔してたのに、ご覧の有様よ!


 十勝エルフってこんなんばっかか!?


 函館エルフとか知床エルフとかもいるのか!?




「……し……失礼しました……感極まってしまい……」




 流石に今の自分がどういうふうにみられるかを考えられる程度には落ち着いたらしい。


 やはり、エルフ的にも泣きながら鼻水垂らして縋りついてくるのはアウトのようだ。




「大試、早くブタドン食べたいんだけど」


「俺もだ……でも流石にこのまま放置するのも可哀想だろ?」


「そう?大試に体液をつけるなんてズルいしもう良いんじゃない?」


「聖羅……お前そういう性癖が……?」




 聖女様がそれでいいのか?


 もうちょっと聞いてやろうよ……。




「それで、何でそこまでしてこの魔石が必要なんだ?俺としても苦労して手に入れた以上はそれなりの理由が無ければ渡せないんだけど」




 まあ本当は、大して苦労もしてないけども。


 解体するのに手間が掛かったくらい?




「……これは、エルフの機密に関わる事ですので、無暗に広めないと誓って頂けないと話せないのですが……」


「大丈夫、必要最低限の人間にしか話さないと誓う」


「ありがとうございます!実は、エルフは大昔の人間たちによって作られた人造人間なんです!」


「な……なんだってー!?」




 らしいね。


 知ってる。




「それで、製造者の人間たちは、自分たちより優秀な肉体を持ったエルフへの安全策を用意していました。一つ目は、エルフは、女しか生まれないように遺伝子操作をされています。男がいないので、個体数が増えるのを防げると考えたのでしょうが、これに関しては魔術で孕めるようになりましたのであまり意味がありませんでした。しかし、二つ目が問題で……」




 そして、目を伏せてしまう。




「エルフは、生まれつき体内にナノマシンというものが感染させられているのですが、集落の管理システムのバックアップを受けないと、そのナノマシンが暴走してエルフは確実に死に至ります……」




 ナノマシンなのに感染って表現なんだな?


 ウィルスみたいなイメージなんだろうか?


 まあ殺しに来るならそう思ってもしかたないか。




「その管理システムが、現在エネルギー源である魔石を補給することができずに停止寸前で……」


「大問題じゃねぇか!?」


「そうなんです……だいへんあ……なんでず!」




 また泣き出す十勝エルフ。


 泣き顔まで美しい人ってのはいるけれど、このエルフは素だと滅茶苦茶美人なのに、泣くと顔を縦長にしたバグみたいになるな……。




「でもさ、魔石なら自分たちで確保したらいいだろ?周りにいくらでも魔物いるんだし」


「それが……2年ほど前に流行り病のせいで、集落の主力世代が軒並み死ぬか再起不能になってしまって……。今生き残っているのは殆どが若くてまだ弱い世代です。私は、気配を消すことが出来るギフトがあったのでなんとかここまでやってきましたが……」




 袖で目元をグシっと拭ってから、力強くこちらを見つめてくるパグ……じゃなかったエルフ。




「遠くからでも、アナタたちの強い魔力がわかりました!気になって様子を見に来てみたら、最上級の魔石を持っているのが見えたので、失礼を承知で声をかけさせていただきました!なんとか譲っていただけないでしょうか!?」




 うーん……。


 正直、話を聞いたら別に譲るのは構わないと思える程度にはなってきたけど……。


 ただなぁ……思ったより会話が通じてるんだよなぁ……。


 アイが言う程の問題というか、文化の違いを感じない……。


 って事はだよ?


 絶対俺が今触れた部分ではない辺りに地雷が埋まってるんだろ?


 それが怖いんだよなぁ……。




 悩んでいると、後ろからリンゼに袖を引っ張られ、そのまま耳元でコソコソと話してきた。




「それ譲っちゃいなさい!」


「いいのか?なんかヤバイ奴らかもよ?」


「構わないわ!私たちなら対応できるし!それよりも、エルフの里には有用な薬とか色々あるのよ!」


「ふーん……わかった。リンゼが言うならそうする」




 俺は決心した。


 このパグに協力してやろう。


 可哀想だし……。


 ただ、今日はダメだ。


 もう暗くなる。




「話はわかった」


「!?では!」


「でも今日はもう遅いから、明日にしよう」


「構いません!まだ多少の猶予はございますので!」


「じゃあ、明日の午後3時にまたこの場所で落ち合うって事でいい?」


「かしこまりました!それで、私の方は何を対価としてお支払いすればよろしいでしょうか……?」




 そういやそうだった。


 無償で渡すわけじゃない。


 多分、エルフだってギフトカードとか言うのを貰っているんだろうし、ギフトポイントもっているだろう。


 なら、支払いもできるはず。


 幾ら払わせようかなぁ……。




「あ……あの!支払いは私で……と言う事でもよろしいのでしょうか!?」


「は?」




 え?体?


 エッチな感じのやつ?


 それは……えーと……ダメじゃないかな……?




「も……申し訳ありませんが、エルフには男がおらず、私としても貴方を性欲の対象には見ることが出来ません!人間の文化でいうならほぼ全員がレズビアンと言う事になります!なので、あまり貴方の思うような女としての役割は果たせないかもしれませんが……管理システムによると、エルフは人間にとってとても魅力的な容姿をしていると聞きました!なので、私で良ければ喜んで貴方の情婦でもなんでもなりますので!」


「……悪いけど、美女なら3人もいるから間に合ってるんだ。だからだいじょ待て待て待て聖羅落ち着け!パンチはダメ!」




 聖女オーラを纏っていた聖羅を落ち着ける。


 大丈夫!俺は結婚まで純潔守るから!


 NOパンチ!




「それよりさ、エルフの薬とかが欲しいかな。あと、もしアレクシアさんの体でっていうなら、性的な事じゃなくて戦力としてなら嬉しいと思う。確か、エルフって戦闘力も高いんでしょ?」


「それはまぁ……ただ、レベルが全然上がっていないためご期待には沿えないかもしれませんが……」


「そこはレベル上げすればいいから大丈夫。そっちの方向で考えてくれ」


「わかりました!ありがとうございます!」




 危なかった……。


 それにしても、この世界のエルフって大半がレズビアンなのか。


 魔術で孕むって言ってたけど、互いにその魔術を掛け合う感じなのか?


 不思議な生態だ……。




「エルフの中にも男が好きな人もいるのか?」


「いるにはいるのですが……その手の方々は、自分と男性が絡むのが好きというよりは……男性と男性が絡んでいるのを見るのが好きらしく……」




 あ、なるほど。


 俺やっとわかったよアイ。


 俺とは、好む文化が違う。






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