第179話
「娘!初心者錬金術師セットから杭み~たいなのを取り出して、この屍に突き刺~して!」
「えっ!?えっと……これかな……突き刺す?えぇ……?えいっ!うわ気持ち悪い!?」
状況についていけないまま、指示されたことに思わず従ってしまっている委員長。
言われた通り天狗の死体に杭を突き刺し、その感触に悶絶している。
経験無い人には、生き物の死体に何かするのって結構アレだよね……。
今度、鹿の解体でもさせてみたら慣れるだろうか?
逆に肉が食べられなくなるかも?
「侯爵様、お兄さん、リリアさん、この人は、自称安倍晴明らしいですよ」
「「「はい!?」」」
「そうなのであ~る!」
面倒なので、さっさと紹介してしまった。
多分しばらくは理解ができないだろうから、その間に他の事をしよう。
「晴明さんはなんでここに?あの世界に戻ったんじゃ?」
「一定以上の強さを持った妖怪が発生す~ると、我の所に知らせが来るように術がくまれているか~らして、駆け付けてみたら小僧た~ちがい~たんだ~よ」
「一定以上……ってことは、この天狗って結構強いの?」
「かな~りつよ~いよ!不意打ちで倒せて幸運だった~ね!」
それは確かに。
こっちは、相手の姿も見る前に攻撃して倒したからな。
前世での戦闘機の最も理想的な勝ち方に近い。
互いの視野外からミサイル撃って倒してしまうみたいな?
「それ~に、この娘の初めての式神にもピッタリであ~る!」
「あ、さっきの杭って式神用の道具だったんだ?」
「そうであ~る!ヒトガタを依り代にした憑依タイプの式神と、今みたいに弱らせたり、殺してすぐの屍に杭を直接打ち込んで式神化する生タイプがあ~るよ!」
「生タイプ……」
ラーメンみたいで嫌だなその表現……。
物理型とかそういうのになんねーかな……?
「憑依タイプは、普段はペラペラの紙だから持ち運びに便利だ~けど、一々体を構成するのに魔力を使うから燃費わる~いね。生タイプは、小型化はできても受肉して~るから、どうしても持ち運びに難ある~よ。でも、魔力は式神自体が生み出すし、術者が同じなら、強さも生タイプの方が上であ~る!」
つまり、憑依タイプは、よくあるフィクションで出てくる式神な感じで、生タイプはネクロマンシーな感じか?
自分で魔力を生み出すってのは便利そうだな。
「そろそろ良さそうだ~ね。娘!ちょっと操ってみ~ろよ!頭の中で命令するだけで動かせるのであ~る!」
「えぇ……?本当にこんなの動かせるのかしら……?うむむ……立って!」
委員長がそう命令すると、ピクリとも動かなかった天狗の死体に力がみなぎり、すぐに立ち上がって見せた。
ほへぇ……これが式神かぁ。
「わっわっ本当に動いた!」
「委員長おめー」
「うん……雰囲気に流された感じはするけど、持っておいて損は無いんだよ……ね?」
「この天狗は、レベルで言えば85くらいであるな!町一つくらい簡単に壊滅させられる強さがあったのであ~る!ある程度命令が無いと動か~ないけど、武器としては最高なのであ~る!」
「そうなんだ……85レベル!?」
委員長が固まった。
まあ、85レベルの戦力手に入れたんだから、30レベルの委員長からしたらびっくりだよね。
「……は!?犀果さん……!私のレベルが……」
ショックで固まっていたリリアが目を覚ました。
そして、自分が初めて敵を倒したことに気が付いたらしく、ギフトカードを確認している。
「レベル大分上がった?」
「はい……その、80レベルに……」
「ジャンプアップにも程があるだろ……」
1レベルで85レベルの敵を倒すとそう言う事もあるのか?
レベル差補正なんてものももしかしたらあるのかもな……。
「それにしても、なんで京都の周りだけこんな妖怪なんてものがいるんだろう。魔物とは違うんだよね?」
「魔物の一種ではあるのであ~る!ただ、京都の周りに張ってある結界の材料に使っている九尾の妖狐の呪力に当てられて、魔物が変質したのが妖怪だ~よ」
「は!?九尾いんの!?色んなマンガとかに出てくるあの有名な!?」
「い~るよ?晴明神社の地下に封印して、そこから漏れ出る魔力と呪力を結界に転用し~てるよ!」
「って事は、俺は昨日そんなヤベーもんの上にいたのか……」
地下にとんでもない化け物が封印されてる展開はたまにあるけど、実際その上を知らない間に歩いていると後でわかるのは怖いな……。
「でももう本人に戦う意志はな~いから安全であ~る」
「なんでそんな事わかるんだ?」
「本人に聞い~たが?」
「コミュニケーションとれるのか……」
「おんやぁ?小僧も分かってて話してたんじゃな~いのか?」
「ん?」
なんか、それだと俺も話したことがあるみたいな風に聞こえるけど……?
「さっき知らせを受けた時に、ついでに小僧と特徴が一致する男に会ったって知らされた~よ?」
「いや心当たり全く無い……。俺が会った相手って事だよな?」
「コンコンしあって楽しかったって言っていたのであ~る」
「…………伏見稲荷の巫女さんか!?」
「そうであ~る!」
「化け狐が人間に化けてるのかと……」
「九尾の分身みたいなものであ~る。尻尾の一本が分かれて分身体となり、現代をエンジョイしているのであるな!」
やべーよ……俺も歩けば大妖に当たる……。
「九尾は、身の安全と引き換えに、結界の管理人をしているのであ~る。強い妖怪を補足した場合は、例の世界に弱い呪いを飛ばして教えてくれる~よ」
「呪いを……?」
そんな禍々しいものをメールかポケベルか何かのように利用するなよ……。
九尾の呪いとか絶対ろくなことにならない奴じゃん……。
「我の用事はこれにて完了であ~る」
「そうなんだ?じゃあまたな」
「であるな~!……おっとそうだ。忘れる所だった~よ。そこの……銀髪の娘!」
「なんでしょう!?」
リリアさんが、突然の指名にビビっている。
未だに安倍晴明だという事は信用していない様子。
いや、信用してても警戒はするか……。
「妖精術をつかった~ね?」
「妖精術?妖精姫のスキルの事ですか?」
「そうだ~よ。アレは、普通の魔物相手には関係ないけ~ど、妖怪は妖精の集まる部分に餌を求めて寄ってく~るよ」
「餌……」
妖怪にとって妖精は食い物なんか。
こえー食事風景なんだろうな……。
「それ~で、先ほどの妖精術の出力はヤケにつよ~くて、このままだと……」
晴明が何か気になることを言っているけれど、その話し声がだんだんと足音で聞こえにくくなってきた。
これ……また妖怪が出たのか?
しかも、足音から察するに相当のデカさの……。
「妖精の美味しいにお~いに誘われて、近くの妖怪が近づいてくるか~も」
「先に言ってくれ!」
音の感じから察するに、1体や2体なんてものじゃない。
凄い数がここに集まってきている気がする。
「逃げないと!全員走る準備!リリアは、80レベルに到達しているんだしついてこれると思うけれど、もし無理そうなら俺がおんぶするから声かけてくれ!」
「はい!」
「侯爵たちもいいですね!?」
「……無論だ!聞きたい事も増えたけどね!」
「そこは帰ってからでお願いします!時間ないので!」
とにかく妖怪の勢力圏から逃げ出さないと!
駅の近くまで行けば大丈夫だろうか?
わからないけど、何はともあれ走るしかない!
「では、我は改めてか~えるよ!」
「一応聞いてみるけど、手伝ってくれないよね!?」
「無理であ~る!宇宙式神式魔道波望遠鏡をそろそろ撃ち上げる準備しないといけないんだ~よね~」
「くそ!天体観測の方が俺らより優先度上だ!」
「では、さらばであ~る!」
それを最後に、また一瞬で消える安倍晴明くん人形。
「ソフィアさん!敵の位置を皆に教えながら飛んで!」
「心得た!」
「他の人達は状況を見ながら妖怪を排除!京都駅まで走るぞ!」
「犀果君!この式神に運んでもらったら楽じゃない!?」
「それいいかも!でもとにかく早く!」
「うん!鼻子!皆を乗せて駅まで走って!」
『オオオオン……!』
地面におろされた式神の掌の上に全員で乗る。
それを確認したすぐに、天狗の式神は走り出した。
ドスンドスンと一歩進むごとにケツに凄いダメージが来るけれど、贅沢も言っていられない。
デカい式神の掌の上に乗ったことで、周りから近寄ってくる妖怪の姿もばっちり見えるようになった。
巨大な妖怪が、パッと見ただけでも5体はいる。
絵面的には絶望しかない……。
まあ、100レベルの俺からしたらそこまででも無いのかもしれないけど。
「遠距離攻撃がある人はバンバン撃って!駅まで辿り着ければ何とかなるだろうし!」
「「わかった!」」
「私も撃った方がいいですか!?」
「リリアさんは……いや!リリアさんは待機で!アレ撃つと敵も寄ってくるらしいし、京都から離れて魔物と戦う機会があったら戦ってもらっても構わないから!」
「……そう……ですか……」
「そんな悲しそうな顔する事か!?じゃあ1発だけ撃っていいよ!」
「宜しいのですか!?初めて使えるようになった技なので使いたくて!行きます!『閃光を以って我が敵を誅殺せよ!』」
侯爵とお兄さんの魔術で大型の妖怪や、木の下の方にいたらしい小型の妖怪たちもかなり数が減っているのが見てわかる。
委員長は、魔術での攻撃はしていないようだ。
式神の操作でそれ所じゃない様子。
あまりに大変なのか、女の子がしちゃいけない鬼気迫る表情している……。
「犀果君!やっぱり犀果君の日常っておかしくない!?」
「これは日常なのか!?そんなの嫌だぞ俺!」
「私に言われてもこまるよ!そして今凄く困ってるよ!」
こうして、俺たちの京都ミッションは終わった。
完全に予想から外れた結果だらけだったけれど、まあある程度満足が行った気がする。
これで委員長の実技試験はクリアなんだな?
俺は、婚約者たちの分をやらないとだからまだほかにも必要だけど……。
それでも、俺の貴重な休みを使ったことを考慮しても、女性主人公に強い力が加わった分で大分お得だったな!
「あ、忘れてたけど、今って本来学校行ってる時間だなぁ……」
「それどころじゃないよ!」
それ所じゃないから現実逃避がしたいんだよ!
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