第287話
「……松茸だな」
「松茸だね」
「そこそこ大きいわね」
「ですが1本しかありませんね」
東屋のテーブルの上に置かれた1本のキノコを囲んで、今の状況を整理している俺達。
気合を入れて100レベル前提の高難易度イベントに備えようとしたら、アイが早速その高難易度の魔物を狩って来ちゃったらしく、その戦利品がこの松茸というわけだ。
「土瓶蒸しがいい」
「やっぱり炊き込みご飯じゃない?」
「シンプルに炭火で炙って塩なんで良いのでは?」
早速食べ方で意見が分かれる。
そもそも、食べる前に他に議論すべきことがあるだろうに……。
「ホイル焼きにしないか?」
「大試は、私の味方だよね?」
「あ、ずるい。アンタだって、松茸ごはん食べたいわよね?」
「私もそう思います!炭火にしましょう!」
「ホイル焼き……」
俺の意見が通ることはないようだ。
「それでアイ、詳しく報告してもらえるか?」
「かしこまりました」
未だにメニューで揉める3人を放置して、アイが戦った相手についての情報を聞くことにした。
「私が倒した魔物は、キノコの形をしていて、うねうねと体を揺らすようにしながら移動していました」
「大きさは?」
「150cm程でした」
「移動速度と戦闘力に関しては?」
「移動速度は、人間の大人の歩行速度と大差ないように見えました。戦闘力に関しては、不意打ちからの10人で取り囲んで拳を叩き込んだ結果、対象が即死したので不明です」
人造人間が10人で取り囲んで、100レベル超えの魔物相手に殴打で倒す。
うん、技術レベルは酷いのに、やっていることがチンピラみたいだな……。
「他になにか魔物は見たか?」
「確認できませんでいた」
「そうか……」
大した情報じゃないように感じるかもしれないけれど、そんなことはない。
なぜなら、常人など比較対象にすら出来ないほどの索敵能力を保有するアイたちが、他の美味しい魔物たちを見つけていないんだ。
これは、そこまでひっきりなしに魔物が現れる危ないダンジョンではないことを意味する。
それと同時に、あのお知らせのハガキが来てすぐに魔物が発生していたことから、この松茸は雑魚であろうという推測もできる。
つまりは!もっと美味しいものが出てくるんだろう!
「ドキドキ!秋の味覚祭りイベントになると、毎回食べてるけれど、やっぱり1年ぶりだと嬉しいね松茸」
「開拓村で取れたやつじゃないけど、味は差があるんだろうか?」
「天然ものの松茸とは違うんですか?」
「「違う」」
「そんな声を揃えるほどに!?」
開拓村の周りに生えているトレントの根本からは、毎年松茸が生えていた。
トレントは、松茸じゃないだろと突っ込みそうになったけれど、あれはあれで美味しいんだ。
でも、このドキドキ!秋の味覚祭りイベントでもって帰ってきてくれる松茸は、もう次元が違う美味さだ。
流石にそろそろ真面目に語りたいのか、俺達の馬鹿話を遮るように、リンゼが大きめの声で話し始める。
「アイの話を聞いた感じ、そのキノコ型の魔物は、マツコニドね」
「なんだそれ……」
「キノコの魔物は、そのモデルになったきのこの種類によって名前が違うの。エリンコニドっていうエリンギ型のやつなんかもいるしね」
「戦ったら強いのか?」
「100レベル超えの魔物の中では、かなり優しい難易度だと思うけど、状態異常を引き起こす胞子を飛ばしてくることが洗うから、速攻で方をつけるのがおすすめね」
「ってことは、アイたちの戦い方は、案外正解だった訳か」
「そうね……」
少しだけ不服そうな表情でリンゼが固まる。
これは……自分で倒し方をレクチャーしたかったんだろ?
そしてドヤ顔がしたかったんだ。
俺には手に取るようにわかるぜ……。
「それよりも、今回のイベントで出てくる他の魔物についても教えてくれ。特に、強いやつから」
「このイベントって、出てくる魔物がランダムに選択されるから、何が出てくるのかわからないのよ。ヘタをしたら、100レベル超えのドラゴンが出てくることもあるかもだわ」
嫌だなぁそれは……。
ドラゴン肉は美味しいけれど、100レベル超えのドラゴンと戦うのはちょっとな……。
「……あ!」
っとその時、アイが珍しく口を開けて驚愕していた。
「どうした?」
「それが……ドラゴンの反応が……」
「フラグだったか!?しゃーない!急いで現地に向かうぞ!」
「わかった」「やってやろうじゃない!」「久しぶりにエクスカリバーを抜けるかもしれません!」
殺る気マンマンの女性たちを連れて向かった先は、鬱蒼とした森の中。
だけどこの雰囲気は、確かにダンジョンか何かみたいな感じがするな。
「それで、その遭難者はどこだ?」
「あちらです」
アイに指し湿られた方角を見る。
どんなヤバい見た目のドラゴンがいるのかと思ったら、それは俺のよく知るドラゴンだった。
「ん?犀果か?こんな所で会うなんて奇遇だな!」
そこには、龍の血を引いているのに、龍の形態になれないのがコンプレックスな、みるく先輩がいた。
「先輩?どうして俺の家の裏山に?」
「うまそうな匂いがしたからな!」
ここにも、色気より食い気な美少女がいた。
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