第286話

「父さん!俺も秋祭りイベント参加したい!」

「だからだめだって言ってるだろ?」

「見てみたいんだよ!そのトンチキな現象を!」

「トンチキって……母さんもなんとか言ってやってくれ」

「そうねぇ……大試も毛が生えて大人になったらいいわよ?」

「子どもに母親がそういう冗談言うのマジでアレだからやめてくれよ母さん」

「子どもがそんな冷静なツッコミしないでよ。ビックリするじゃない」

「おばさん、私も行ってみたい」

「聖羅ちゃんもなの?じゃあ毛」

「聖羅に変な言葉覚えさせたらもう二度と口聞かないぞ」

「ウソウソウソ!でも、本当に危ないから、やっぱり大人になるまではダメよ」

「……はぁ、わかったよ。また今年も留守番か」

「ごめんね大試。ちゃんと美味しいものいっぱいとってくるから、大人しく待っててね?」

「そっちこそ気をつけなよ?」

「大丈夫!私達を倒せるようなやつそうそういないから!」


 朝日の中に、大人たちが出かけていく。

 ゲームをモデルにした世界ならではの、不可解現象を求めて。

 その背中は、小さな俺達には大きく見えた。

『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』なんてアホみたいな名前の突発現象への行進じゃなければ、もっとかっこよかっただろう。

 だけど、実際に大人たちが持ち帰ってくる食材は、本当にどれもこれもとても美味しかったんだ。

 森の中で戦ってるはずなのに、森や山の幸ばかりじゃなく、海の幸まで持って返ってくるんだから恐ろしい。

 いったい、どんな不思議な事が起きているのか、俺達ちびっこ組は、毎年好奇心を刺激されっぱなしだった。



「そんなわけで、わりと俺達開拓村組にとっては、馴染のあるイベントだよな。参加したことはないけど」

「美味しいものいっぱいだったもんね。あのバレーボールくらいの大きさの栗とか久しぶりに食べたいな」

「俺は、柿かなぁ……何も処理してないのに渋くないんだよな」

「お肉やお魚もいいよね」

「なんて種類なのかわからないけど、鮭とかな。ホイル焼きにすると最高だった……」

「鴨肉も好き」

「いいなー。鍋にしたいな」


 聖羅と、口の中を涎でいっぱいにしながら、秋の味覚の記憶を掘り起こす。

 今の今まで忘れていたけれど、いろいろなものを食べたよなぁ。


「……アンタ、何も疑問に思わなかったわけ?その『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』なんてもんが開催されても」

「いや、疑問だらけだったぞ?ただ、俺は今年東京に来るまで、ここが日本だって思ってなかったからなぁ。ファンタジーな世界なら、そういうのもアリなのかなって思ってた」

「ゲームだからって何でも許されると思ってんじゃないわよ!?いや、作ったアタシが言うのもなんだけど……」

「ホントにな」

「くっ……!」


 俺だってさ、ゲームをモデルにした世界だって前提がなければ、違和感だらけでだっただろうさ。

 でも、母親が魔術を使っているのを見ているうちに、いつの間にかある程度当たり前に見えてきてさ……。


「それで結局、『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』って何なんだ?俺も聖羅も、美味しいものが報酬で出るってことくらいしか知らないんだよ」

「そうね……簡単に言えば、秋が旬の食材を模した魔物が出現するから、それを倒すと食材がドロップするするような、不思議なダンションが発生するのよ」

「ダンジョン?そんなこともあるのか……」


 そこまでだったら、まあオンラインゲームらしいイベントだよねで終わりだな

 だけど、問題はそこからだ……。


「で、100レベル前提ってどういうことだ?」

「出現する旬魔物のレベルが100なのよ。基本的には、ボーナスイベントだったんだけれど、それはあくまで100レベルを超えられるようになったユーザーにとっては、って話であって、100レベル超えただけで大騒ぎするこの世界だと、100レベルの魔物はヤバいと思うわ」

「そんなヤバいイベントをこの世界に作り出すなよ……」

「しょうがないじゃない!?だって、100レベルの以上の人間が5人以上いないと、そのギルドの周りに『ドキドキ!秋の味覚祭りイベント』限定フィールド・ダンジョンが発生しない筈だもの!なのに……」


 つまり、まさか超えるやつがそんなに出てくるわけ無いと思っていた100レベル超えの奴らが、うちでは割と大量にいるから、始まってしまったわけだ。


「あれ?ってことは何?開拓村の大人たちって、少なくとも100レベル超えが5人はいるってことだよな?」

「そうなるわね……」

「流石というかなんといいますか……よく彼らにケンカを売ろうとする貴族たちがいたなと逆に感心します」

「強い奴らが怖かったんでしょ?自分たちじゃ絶対に追いつけない高みにいると思い知らされた相手が、同じ国の中で活躍しているんだもの。逆に自分が死ぬ気で修練を重ねて、強い奴らを見返してやろうって発想に至らないで、足を引っ張ることに執心するなんて、人生の無駄遣いだと思うわ」

「足を引っ張るほうが簡単だから。私の幼馴染にも、1人そんなやつがいたし」

「あー、聖羅の幼馴染って、例の……」


 アイツどうしているかなあ。

 見つけたら、後顧の憂いをなくすために、サクッと殺しておくのに。


「とにかく!引き締めて事に当たるわよ!」

「了解、家に滞在中の人たちにも、注意喚起しておかないとな」


 間違って100レベルの魔物だらけの場所に赴いたら、命の保証はまったくないからなぁ……。


 そして、ドキドキ!秋の味覚祭りイベントについて、皆で考えることにした。

 どう対処すべきなのかや、何を食べたいのかというのを先に決めておかないと、効率は良く無さそうだ。


「……最果様、私の分体よりご報告が」


 アイが、恐る恐るといった感じで話しかけてくる。


「どうした?」

「100レベル超えの魔物が発生している可能性を考え、アイシリーズでざざっと監視していたのですが、ある場所で正体不明の魔物と遭遇。対応した結果、謎の大きなキノコは、松茸を残して消えていきました」

「えぇ……?」


 100レベル超えていても、古代文明の遺産には勝てないのか……。


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