第2話

 そして俺が生まれたってワケ。


 犀果大試さいはてたいし、それがこの世界での俺の名前だ。


 苗字は変わっているけれど、名前は前世と一緒なので便利だな。


 因みに、前世の苗字は山田だ。




 生れた時から前世の記憶を認識している俺だけど、現状それを活用できているかと言うと、あまり芳しくは無い。




 まず第一に、立地的な問題。


 俺が生まれ、すくすく育っているこの場所は、とにかく辺境の地らしい。


 細かい地名すらついていない未開の地に、フロンティアを求めてやってきたのが俺の両親をリーダーとした開拓団だ。




 ここで求められるのは、前世のシティボーイな俺が得てきた知識よりも、ジャングルに住む原住民とかそう言う人たちのスキルだ。


 開拓団のメンバーは、元々は俺たちの住む国の王都にいたらしいけど、なんやかんやがあってこの地を切り開く任務を与えられてしまったらしい。


 それでこんな場所に来てるわけだけど、鬱蒼とした森と、1年の半分近くを極寒の冬に支配されるこの地で、俺の知識をどう活かせというのか?


 ネット環境とスマホをくれ。




 第二に、俺に与えられた女神からのギフトの問題。


 この世界では、生まれると同時に女神から何らかの特殊能力、通称ギフトが与えられるそうなんだけど、俺に与えられたのは『剣魔法』だった。


 うん、剣の魔法。




 詳しく説明すると、レベルが1つ上がる度に剣ガチャチケットと言うのが貰えて、それを使ってガチャから出た剣を具現化する能力らしい。


 今俺が持っている剣は1本。


 最初から1枚だけ持っていたガチャチケで引いた。


 その名も、『木刀』だ。


 因みにレアリティは、Rレアらしい。


 何がレアだ?


 こんなもんをお土産屋で本当に買う奴の希少性でも表してんのか?




 一応、対象が剣であれば、詳細情報を見ることが出来るらしい。


 だけど、「木刀:世界樹から削りだした木刀!凄く硬い!凄く軽い!装備時に身体能力を20%増加!」って教えられてもどうしろってんだ。


 確かに硬いよ?そこらの鉄製品より硬いくらいだ。


 これで叩けば、そこらに生えてる木の皮もバッキバキに割れるから、材木を加工する時に多少便利。


 でも、ファンタジーさはない。


 身体能力の20%って何を基準にだ?


 ぷにっとしたショタマッシブを触ってみるに、筋肉量の話では無さそうだけども。




 因みに、剣魔法のギフトを得る反動として、俺は他の魔法を一切使えないようだ。


 ガチャチケットの2枚目早く出ないかなぁ……。




 とまあ、レベルがまだ1の俺に出来るのは、木刀1本を生み出すことだけであり、他の魔法も覚えられないわけで、はっきり言ってファンタジー的な活躍は全くできなさそう。




 てかさ?引継ぎ女神様さ?俺、別に剣の魔法なんてリクエスト出してないよ?


 カッコよく火とか水を撃ち出して、魔物をバッサバッサと打ち倒していくような活躍がしたかったんだよ?


 このどこのお土産屋で買ったのかもわからん木刀でできることなんて、剣の練習をすることくらいで、どうやってレベルを2にしたらいいのか悩んでいるところだ。




 もっとも、5歳でまだレベル1なのはこの世界だと割と普通らしいけれど、ここがゲームをモデルにした世界だというなら、これからどんなトラブルが発生するかもわからないわけで。


 強くなるに越した事は無い……というか、強くならないといけない。


 ここが、ゲームを元に作られたファンタジー世界である以上、どんな悲惨なイベントが起きるかわかったものじゃない。


 それこそ、魔王がいきなり魔王軍を結成して攻めてくるかもしれないんだから。


 RPGといえば、大抵ラスボスは魔王だって聞いたような気がする。


 俺が読んだ何作かのファンタジーマンガも、何故か魔王が世界を滅ぼそうとしてばっかりいたし。




 開拓団というだけあって、俺が住むこの集落は、鬱蒼とした森を切り開くことができるだけの精鋭揃いみたいだ。


 特に、俺の父親である犀果帯秀さいはておびひでと、母親である犀果留美さいはてるみは、この精鋭揃いの開拓団の中でも次元が違う強さを持っている。


 何よりヤバいのは、物凄く楽しそうに魔物を屠っていることだ。


 本人たち曰く、毎日が充実しているらしい。


 よかったな……。




 この国には、王様から与えられた色々な称号を持つ者がいるらしい。


 父親は、最強の剣士であると認められた時に貰える『剣聖』という称号を。


 母親は、最強の魔術師であると認められた時に貰える『賢者』という称号をそれぞれ持っているそうだ。


 なんでその分野の最強が2人も辺境にやってきているのかといえば、酔っぱらった大人たちによると、俺の両親の活躍に嫉妬した王侯貴族との権力闘争の結果らしい。


 そして、両親をここに送り込むというのは、この国的にもかなりアウトな行為だったらしく、加担した者たちは悉く何かしらの処分を受けたそうな。


 特に、王太子である第1王子は、国王が遠征で城にいないタイミングを見計らって、勝手に剣聖と賢者を辺境送りにしたものだから、帰って来た王様にぶん殴られた後、今でも軟禁状態にあるらしい。


 酔っぱらった勢いで「ざまぁみやがれ!」「しねぇ!」って叫ぶムッキムキのおっさんおばさんたちは怖かった。




 そして、両親は権力争いに巻き込まれるのが嫌になって、こんな辺鄙な場所であれば巻き込まれる心配もあまり無いだろうという事で、逆にウキウキしながら辺境暮らしを楽しんでいる。


 再三の帰還要請を無視しながら……。




 結果、ワイルドな暮らしをするしかない俺。


 服なんて、オール毛皮という蛮族っぷり。


 見様によっては、お金持ちのおばさんみたいにも……見えないな。


 世紀末なモヒカンの方が近い。




 そんな辺境の開拓村だけど、今日は偉い人がやってくるらしい。


 俺を子供だと思って、詳しい説明をあまりしてくれない両親によると、とにかく偉い人で、家族も連れてくるかもしれないから、泊まる所を用意してほしいとのこと。




 当然、こんな村に余分な建物なんてものは無い。


 となると、俺たち一家が住むリーダーの家を明け渡し、俺たち一家は野宿をすることになるだろうか。


 遠征用のテントでも建てておくかな?


 でもなぁ……村の手前のこの場所から俺がいなくなったら、この村今もぬけの殻だからなぁ……。


 誰がその偉い人を迎え入れるんだって話に……。




「ああああああああ!?」




 その時、誰かの絶叫が響き渡った。


 振り返ってみると、女の子が浮かんでる。


 え?何?YO SAY 的な?




「アンタ!こんな所にいたのね!」


「……イエス!アーハン!?」


「ふざけてんの!?」




 どうやら、ファーストコンタクトに失敗したらしい。




「なんだお前?木刀で叩いた方がいいか?」


「何いきなり暴力で片付けようとしてるの!?蛮族!?」




 毛皮の服に木刀を携えた蛮族だぞ?




「もしかして、アタシの事わかってないとか?」


「わかるわけないだろ。初めましてだよな?」


「初対面でもちゃんとわかっておきなさいよ!」




 いや、無理だろ……。




「私は、リンゼ。この世界を作り出した女神よ!」


「成程、俺を爆殺したバカ妹か」


「……あれは、お兄ちゃんが悪いし……」




 あら?


 思ったよりしおらしくなったな?


 ふふん、可愛いじゃん?




「んー?人を殺しておいて責任転嫁するんだー?あー痛かったなー、死んじゃったなー、もっとやりたい事いっぱいあったのになー?」


「わ……悪かったわよ……。でも!人間と神があんなに仲良くしてるなんて誰も思わないじゃない!?それってルール違反だから!アタシだって、それを先に知ってたらあんなことしないわよ!」


「いや、知らなくてもすんなよ?」




 どうやら、神也が俺と下校してたのは、神様的にナンセンスらしい。


 だからあの照明神は、頑なに自分を神也だと認めなかったのか?




「それで、リンゼは何しにこんな所へ?」


「呼び捨て……女神相手に馴れ馴れしいわね……。まあいいけど。アタシは、この世界でのアンタのサポートをするように言われてんのよ」


「……あ、転生刑とかいうのでここにいるんだっけ?そういう指示も受けるんだアレ」


「そうよ!だからわざわざ王都からここまで来てやったのよ!」


「それでちょっと汗臭いんだ?」


「え!?アタシ臭い!?」


「ごめん冗談、今のは本当に悪かった。」


「何なのよアンタ!」




 反応が大きくて面白い。


 結局話題が進んでないけれど、俺的には別に構わんぞ?


 神也ともこんな感じだったしな。


 ただ、帰る前に村の中の温泉入って行け。


 その高そうな服も丁寧に洗ってやるから……。




 ポカポカとひとしきり俺を殴って気が済んだのか、やっと本題に入るつもりになったらしいリンゼ。


 彼女は、可能な限り自分をデカく見せるようなポーズでこう宣った。




「アタシは、リンゼ・ガーネット!この国で4つしかない公爵家の1つ、ガーネット公爵家の一人娘!そして女神よ!」


「おー。」




 とりあえず拍手しておく。


 確かにカッコよかった。


 恥じらいが一個もない所が高評価。


 人間、やり切ってしまえば案外それらしく見えるものだ。




「公爵家のお嬢様は、空も飛べるんだな」


「そんなわけないじゃない。これは、ただの魔法よ?アタシのオリジナルのね!アンタを探しに行くためだけに覚えてやったわ!」


「へぇ……。そりゃありがとう……。」




 さっきから、指摘した方がいいのかずっと迷っていた事がある。


 スルーした方がいいのかなとも思っていたけれど、どうにも心を鬼にして言ってあげないと、彼女の恥は増えるばかりな気がする。




「なぁリンゼ」


「何よ?」


「飛ぶときは、スカートはやめた方がいいぞ?」


「…………っ!?」




 白だった。




 またしばらくポカポカ殴られた後、会話を再開する。




「それにしても、アンタって始まりの村で生まれたのね」


「始まりの村?」


「……そういやアンタ、フェアリーファンタジーやってないんだっけ?」




 呆れながら、リンゼが説明してくれた。


 この村は、主人公とメインヒロインの1人が生まれる場所らしい。


 そのメインヒロインが聖女であるというお告げが教会の誰だかにあり、国からメインヒロインに王都へ来てほしいという話が持ち込まれる。


 不安なヒロインは、主人公を護衛騎士として連れて行っても良いならという条件を伝え、国側もそれを了承。


 そして、王都へ行った主人公とヒロインは、魔法学園で様々な体験をして、結果的に魔王討伐に向かうそうだ。


 やっぱ魔王か!俺だってそれくらいは知ってるぞ魔王!




「つまり、俺はそのゲームの主人公のポジションなのか?」


「は?そんなわけないじゃない」


「えぇ……?」


「アンタの同年代に、仲のいい男の子と女の子の2人組はいないの?」


「うーん……」




 思い当たる人物ならいる。


 だけど、今の説明とはなんだか違う気がする……。




「この村には、子供が3人いる」


「アンタと、主人公と、ヒロインよね?」


「俺と、男の子と、女の子な」




 うん、いるんだ確かに。


 でもなぁ……。




「男の子と女の子は、死ぬほど仲が悪い」


「はぁ……これだからお子ちゃまは……。」




 呆れたようにため息をつくリンゼ。


 ちょっとイラっとする。




「そんなの、イヤよイヤよも何とかってやつに決まってるじゃない!」


「イヤなもんは嫌だろ」


「やれやれ……女心がわかってないわねぇ……しょうがない、アタシがわからせてあげるわ!」




 そういうと、村の方にずんずんと歩き始めるリンゼ。


 今は、俺が修練場代わりにしてる材木置き場だからこんだけ騒いでも誰にも聞こえないだろうけど、村に行ったら騒ぎになるんじゃないだろうか?


 こんな所に、外部から人が来ることなんて無いし……。


 まあ、だとしても俺が関知することではないか?




 あ!もしかして、今日来る偉い人ってこいつか?


 家族と一緒にって言ってたし……。


 本人は、長旅に我慢できず一人だけ飛んで先行してきたとか?


 まあ、会話内容的に他の人間がいない状態の方が話しやすかったってのもあるだろうしな。


 完璧に理解しました。




 そうこうしているうちに、村から少し離れた所から村の中をこっそり伺い始めるリンゼ。


 見た目は、完全に不審者だ。




「ちょっと!誰もいないじゃない!」


「まあそりゃそうだろ。普段この時間帯は、皆仕事中だぞ?今日はもしかしたら帰ってるかもって思ったけど」


「子供まで!?」


「こんな辺境だと、子供だって有用なギフトがあれば戦力だ」




 女神のギフトは、教会が発行するギフトカードとかいうので見ることができるらしい。


 どうやってかはわからないけど、子供が生まれると自動的に教会で発行されるらしく、そこから一人でに飛んで来て対象者の元に届く。


 こんな辺境の地でも、ちゃんと届いていた。


 ギフトカードには、本人のレベルと、その人固有のギフトが記されているらしい。


 と言う事は、レベルって仕組みも女神からの贈り物なのかもしれないけれど、わからん。




「男の子の方は、狩猟王ってギフトを貰ってるから狩りの手伝い。女の子の方は、聖女ってギフトだから、果樹とか野菜の成長促進を行えるとかで畑に。」


「アンタは、サボり?」


「俺は、留守番しながらあそこで木の皮を剥いてたぞ?」


「木の皮剥き士なんてギフト聞いたこと無いんだけど?」




 俺も無い。


 逆にどのくらいの効率で木の皮を剥けるようになるのか見てみたい気もする。




「俺のギフトは、剣魔法ってやつだ。剣が出せて、その剣の説明を読んだりできる」


「何それ?魔法でわざわざ剣を出すくらいなら、最初から剣持っておけばいいじゃない?」


「俺に言われてもだな……」




 思わず、この世界の仕組み作ったのお前だろ!って言ってやりたくなったけど、こいつもう仕事クビになってるんだったな……。




「んで、今出せる剣がただ硬いだけの木刀のみだし、他に出来ることも無いから、訓練も兼ねて丸太を叩いて皮を剥いでたわけだ」


「それ、ギフトで生み出したものなの?なんていうか……哀れね……」


「よーし良いだろう、その喧嘩買った」


「いたたたたたたた!?」




 こめかみをぐりぐりして満足した俺は、説明の続きをする。




「男の子の方は、かなり乱暴な性格してるんだよ。んで、女の子の方に嫌われてる」


「だから、それは恥ずかしいとかそいうので……」


「そんなレベルの話じゃなく、女の子の方は、男の子が視界に入っただけで凄い表情で逃げ出す」


「えぇ……?」


「男の子の方も、それに気がつくたびにツバを吐き出してそこらの物に当たる」


「何それ!?好青年のイケメンキャラになるはずなのに……。アタシが作った完璧な世界がいつの間に狂ったの!?」


「お前の言う完璧が信用できないのは俺だけか?」




 またポカポカ殴り始める。


 だけど全く痛くない。


 これは、喧嘩とかあんまりしたこと無い奴の拳だ。


 さてはボッチだな?




「……ところで、アンタのその木刀、ちょっと見せてもらっていい?」


「うん?別にいいぞ。ただちゃんと返せよな。それなくなったらいよいよ俺のスキルはゴミだ」




 俺から木刀を受け取ったリンゼは、細部までじっくり見ている。


 木刀の細部ってどこなんだろう?


 どこまで行っても木刀な気がするけども。




 って思っていたら、段々とリンゼがプルプル震えはじめた。




「アンタこれ……神剣なんだけど……?」


「しんけん?なんじゃそりゃ?」


「神が作った剣!そんなポンポンあっちゃいけない奴!」




 神が言うな。


 あ、もう神じゃなかった。




「ってことは……もしかして、アンタが呼び出せるようになる剣って全部神剣……?あのバカ女神!何やらかしてんのよ!?」


「やらかしたバカ女神なら目の前にいるだろ?」


「アタシじゃないわよ!アタシから仕事を引き継いだやつ!」




 やらかした自覚はあるのかな?




「まあいいわ。どうせ、今のアタシに出来る事なんて無いし……。あーもう疲れた!今夜泊めなさいよ!」


「いいぞ。今日、王都から来る偉い人を家に泊めるって話は聞いてたからな。でも、てっきり大人だとおもってたんだけどな。」


「は?何の話してんの?」




 よくわかっていないっぽいリンゼを俺の家まで案内する。


 家族単位で来るなら家全部明け渡すことになるかと思ったけど、1人だけなら部屋を貸すだけでいいかな?


 今日中に後続が追いつくなら、結局テントが必要だけど。


 


「大試……その女……だれ?」




 家の中に入ろうとしたとき、背後から声が聞こえた。


 振り返るとそこには、俺の幼馴染であり、リンゼが言う所のメインヒロインである、天野聖羅あまのせいらが立っていた。


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