第90話
『なんとおおおおおおお!開始3秒で1杯目が上がりました!釣り上げたのはやはりイカキング!今年もキングの座を守るのかああああああああ!?』
リンゼの親父さんテンションたけぇな……。
そして、王様がイカを釣り上げたのを皮切りに周りもドンドン釣り上げていく。
使っているのがイカ用の餌木であるとはいえ、結局はルアーフィッシングなんだろ?とイメージしていた俺だったけど、これはどっちかっていうとカツオの一本釣り漁に近いな。
確かに皆スローで見るとちゃんとルアーフィッシングっぽい動きをしているんだけれど、それはよく見ないとわからないものだ。
しかも、イカの反応も良いから入れ食い状態で、ポンポンと軍港の波止場にイカが積まれていく。
それを係員っぽい人たちが1杯ずつ拾い上げて重さを記録しているようだ。
あれ?
なんか後ろの一般客っぽい人たちに貴族たちが釣り上げたイカを渡しちゃってるぞ?
後ろにいた人たちも別に慌てている感じでもなく、どこから取り出したのかビニール袋に冷静に入れてもらっている。
もしかして、最初から予定されていた事なのか?
へぇ……確かに無料で釣りたてのイカ貰えるなら盛り上がるかもしれんな。
ただ、ウチのメンバーは釣った奴を自分で食べたがってるのが多いだろうから不満かもだけど……。
「王様、これ釣り上げたイカ全部あげないといけないんですか?」
『そんな事は無いぞ!俺が釣り上げたのを一々集めていたら腐ってしまうから事前に配っていいと記録係に申告しているだけだ!他の貴族たちも釣り上げる事がメインで全部食べ切る事なんてできないからと配る奴は多いな!』
「へー……」
インカムでそんな風に話している間にも、5m先の王様はポンポンとイカと釣っている。
まだキャストすらまともにしていない俺とは大違いだ。
いやさ?なんかこの場の雰囲気に呑まれちゃってさ……。
『大試ー!ウチもイカ釣れたー!』
『私も釣れたんですけど!これどうしたら……キャ!?』
『うわぁ……理衣が黒くなったニャ……』
『案ずるな。ワシが奇麗にしてやろう!(パチンッ』
皆楽しそうだなぁ。
なんなら、俺もう後はサポートに回ってもいいんだけどな。
針外したり、釣り上げたイカの料理したりとかさ。
実の所、入れ食いってあんまり好きじゃないんだよな……。
釣れるかどうかわからないような場所で色々試してやっとの思いで釣り上げるくらいの方が俺は好きなんだ……。
できれば、完全に釣り上げちゃうと針外すのが面倒だから、水からあげてから俺の手に収まるまでの間に自分で針外して水に落ちてくれるのが理想とすら思っている。
とは言え、流石に1杯くらいは釣っておきたいな!
そう思い、俺も遅ればせながら餌木を投げ入れる。
すると、本当に一瞬で食いついたようだ!
「うおおおお!?すっげー重い!なにこれ!?」
「大試よ、浮いてるワシだからわかるんじゃが、お前が釣り上げようとしてる獲物は中々エグイぞ……」
「エグイって何!?」
ソフィア様に言われて戦慄していると、水面に3mくらいの細長い触手のようなものが見えた。
えーと……薄い本が好きな奴はここからいなくなっちゃってるんだが……?
1分ほどの格闘の後釣り上がったのは、先ほどから皆が釣り上げている魔スルメイカの数百倍の重さがありそうなサイズのイカだった。
釣りあげてもまだ抵抗を止めるつもりはないらしい。
水中の方がまだ相手の踏ん張りがきいていなくて楽だったな。
地面に降り立った瞬間、足のパワーを使って暴れまわっている。
これは危険だなと判断し、イカの眉間の少し上辺りを狙ってカラドボルグを突き刺す。
前世の知識で、確かイカを締める時はこの辺りを刺せばいいと聞いた気がしたのでやってみたけど、一瞬でデカいイカの体色が赤っぽい茶色から透明感のある白に変わった。
恐らく、ちゃんと締める事ができたんだろう。
『おおおおおっとおおおおおおお!?今大会最初のダイマオウイカが釣り上げられたようです!なんと!私の娘の婚約者であり、今回が初参加のエンジョイ勢!犀果大試君です!まだ子供のイカのようですが、釣り具メーカーの私としては、やはりこうやって初心者に活躍してもらえると俄然売り上げにもいい影響が出るので嬉しいですねぇ!』
ダイマオウイカ!?
てかこれ普通に釣れる存在なのか!?
流石はゲームの世界だな……。
「王様ー、これどうしたらいいですか?」
『俺の収納カバンに入れておけ!ダイマオウイカは旨いぞ!魔スルメイカは繊細であっさりとした感じなんだが、ダイマオウイカはとにかく旨味の塊だ!運が良いな!』
どうやら、このイカが釣れるのは運が良い事らしい。
俺達だけで食いきれる量じゃないし、後で王様に頼んでお城とかで料理してもらおうかな?
流石に俺が頑張って料理しきったって、食いきれそうにないしなぁ……。
「大試おめでとう」
「あれ?聖羅?なんでここにいるんだ?」
「救護担当で連れてこられた。今日の朝まで内緒にされてた。知ってれば大試と一緒に行けたのに……」
「一応建前上は、ここにいる貴族たちはこっそりお忍びで遊んでることになってるらしいぞ。だから聖女もそれに倣ったんじゃないか?」
「そうなの?でも関係ない。私は大試と遊びたい」
「いや、救護担当として来たなら、流石に戻ってやれよ……。後でダイマオウイカ食わせてやるから」
「むぅ……」
納得のいかない顔で戻っていく聖羅。
周りの教会の護衛と思われる女性騎士たちも泣きそうな顔だ。
あれは、俺がいない間に随分振り回された顔だな。
しかも、今日にいたっては楽しく遊んでる人たちの後ろで救護担当なんてさせられている聖羅のお守なんだから、機嫌を取るのも大変だろう。
というか、不可能だろう。
とりあえずとはいえ、説得に応じさせた俺に感謝しろよ?
とりあえず1回はイカを釣り上げるという目標を達成したので、後はサポートに回ることにする。
エリザや理衣が釣り上げるイカを素早く受け取って、サクサクと締めていく。
その後は、海水で奇麗に洗った後に袋に入れてから氷水が入っているクーラーボックスに入れていく。
何匹かは生きたまま力強く握り水を吐き出させ、そのあと漬けダレ(麺つゆですが)を入れてある容器に生きたまま入れていく。
これは王様お勧めのイカの沖漬けだ。
俺が早速調理しているのを見て、ソフィアのテンションも高い。
そしてそのテンションに合わせて浮きながら激しく動くものだから、その豊満なおっぱいの揺れを見て周りのギャラリーのテンションも上がる。
イカに注目しろお前ら!
「大試!これはあとどのくらいで食べられるんじゃ!?」
「さぁ……何時間かはつけてないとダメだったはずですけど」
「待ち遠しいのう……もう食べたらだめか!?」
「ダメですって……あーでも、イカそうめんとかにしてワサビ醤油で食べてみます?それならいいですよ」
「なんと!?食べたい!食べたいぞ!」
イカの身にはアニサキスがいるけれど細く切ってイカそうめんにすればアニサキスも大部分が死ぬから問題ないと聞いた。
というわけで、こんなこともあろうかと持って来たまな板と折りたたみテーブルで調理をしてみようかと思ったんだけど。
「お待ちを!宜しければ私に調理させていただけないでしょうか?」
凄い美人のメイドさんに話しかけられた。
なんかどこかで見たことがあるような気もする……。
「あ、もしかして俺が王様に謁見した日に城の中を案内してくれた方でしたっけ?」
「覚えていて下さったようでうれしいです。美鈴麗子みすずれいこです。本日は、姫さまより大試様たちのサポートを仰せつかっております。虫エサの取り付け以外は何なりとお申し付けください」
虫は苦手らしい。
話によると、生きたイカが苦手で来れない自分に代わって、俺たちの手伝いをしてほしいと姫様に頼み込まれたらしい。
なんと、麗子さんは料理もプロ級の腕前なんだとかで、今回白羽の矢がたったそうだ。
でも、やっぱり虫エサだけは断固拒否とのこと。
魚の寄生虫は平気らしいのにな……。
というわけで、さっそくイカそうめんを作ってもらった。
マイ包丁を持ち出して鮮やかにイカを捌いていくその腕前は、正に熟練のワザをもった板前の如し。
あっという間に、とれたて新鮮な透明感のあるイカ数匹が、そうめんへと変貌した。
いつ摺ったのか、ワサビまで準備されている。
チューブではない。
本物のワサビだ。
流石は王城のメイドだぜぇ……。
「「いただきます!」」
俺とソフィア様の2人で早速とばかりに食べてみる。
……え?……えーと……うっま……もうこれだけでいい……俺の残りの人生これだけしか食べちゃダメって言われても構わない……。
「美味いのう!これがイカか!流石にこれは森の中では食えんなぁ!」
「イカが良いので、それだけで美味しくできます」
「あー!大試たちだけずるーい!うちも食べる!」
「私も食べたいです!」
「エリザお嬢様も理衣も落ち着くニャ。ニャーは……1本だけでいいにゃ……それ以上は血が壊れて……」
とうとう釣りそっちのけで食べ始める俺達。
周りの釣り人達から顰蹙買うかと思ったけれど、どうやら他の場所でも釣りを辞めてイカを食べ始めている方々も結構いるみたいだ。
酒まで飲んで楽しそう。
皆が皆、イカキングになりたいわけではないらしいな。
もっとも、現イカキングはお構いなしで未だに3秒に1杯のペースで釣り上げているけれど……。
「もう食べ始めているのですか!?私にもその触手モンスターを下さい!」
「……おいしそう……!」
とっ始めからいなくなっていたエルフ共が帰って来た。
食う事しか考えてないなこいつら……。
特にアレクシア、お前はレベル上げを行ってエルフ族の未来を担うために来たこと覚えてるか?
……覚えてないな。
頭の中は薄い本の方がメインな気がする。
その後もドンドン釣り上げたイカを料理してもらっていく。
イカそうめんは美味しかったけれど、それだけじゃなく、イカのから揚げや煮物、そしてこれを食べたかったと何人かが言い放ったイカヤキ(関東方面での姿)も炭火で作られた。
まだ出来上がっていないけれど、イカ飯も製作中である。
いやぁ……エンジョイしてるわぁ……。
「未来の義息子よ。その内クルーザーの操舵もしてあげるから、理衣を誘っておいてくれないか?」
「自分で誘ったらいいじゃないですか……」
「私が誘うと家族からの反対がすごいんだ!今日だってさっき息子や娘に理衣を乗せてバスを運転したと自慢したら今から向かうとブチ切れしていたからね!」
「何しているんですか……」
理衣が顔を赤くしながら他人のフリをしようとしているのを横目に親父さんに絡まれつつ、メイドさんが作り出すイカ料理を食べる。
イカだけじゃなくて、他にも色々材料を持ってきてくれたらしく、もう完全にバーベキューになっている。
いいなぁこれ……。
なんて思っていると、離れた所で悲鳴とも歓声ともわからない大声が上がった。
何事かと思ってそちらを見てみると、先ほど俺が釣り上げたダイマオウイカの脚とは比べ物にならない程のサイズのイカの脚が見えた。
うわぁ……ファンタジー……。
『来ましたあああああああああ!何故大して強くもない魔スルメイカを釣っていいのが我々貴族だけなのか!その理由がまさしくこれ!イカを食べたがる海の生き物といえば何?それはイカ!魔スルメイカを食べまくって成体となったダイマオウイカがとうとう姿を現しました!ここまでのサイズになると、ギガやテラという冠名が付くようになります!計測が楽しみです!ヒットさせたのはマイエンジェル!リンゼ・ガーネットだあああああああああああ!』
まだあのテンション維持できてるのかリンゼの親父さん。
尊敬するわ。
え、でもあのクソデカイカどうするの?
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