第264話
「り……リスティ……なるぞ?」
「似ても似つかないから」
「い……いやいや……そっくりだが……?」
「やっぱり本人じゃないじゃん」
リスティ様を騙るこの天使っぽい奴。
天使っつっても、翼が黒いから堕天使的なのだろうか?
何にせよ、リスティ様本人じゃないみたいだし、コイツが自分を教会が崇める女神だって言うなら、教会が激安セールしていたケンカを買いに来た俺にとって敵ということだ。
といっても、流石に問答無用で斬りかかるのもちょっと気が引ける。
俺は、別に快楽殺人者でもなければ、戦闘ジャンキーでもないんだ。
避けられる戦闘なら避けるし、争わずに済む相手なら争わない。
あっちから向かってくるなら容赦なく潰すってだけの話で、平和が一番だと思ってるんだ。
今日だって、本当なら家でのんびりしていたはずなのに、なんでこんなヨーロッパくんだりまで飛んできて戦っているのか……。
……あれ?最近家でのんびりできたことあったっけ……?
「おい!人の子!まるでリスティ様の姿を見たことがあるかのような言い草ではないか!」
「え?あるよ?」
「嘘を吐くな!創造神にそう簡単に会えるわけがなかろうが!」
って言われてもなぁ……。
創造神なら、家に割とよく遊びに来てるし……。
「ってか、リスティ様は創造神じゃないぞ?」
「……何?汝、何を言っている?この世界は、リスティ様が作り上げたのだぞ?」
もう完全にリスティ様っつってんな……。
「いや、リスティ様は、イヤイヤ世界の運営を引き継いだだけで、作ったのは別の女神だぞ。その女神は、ちょっとやらかして、罰として神としての権能を奪われてるけれど」
「……まて、待て待て!何の話をしている!?リスティ様が創造神じゃないだと!?」
「逆に聞くけれど、リスティ様が自分は創造神だって言ってたのか?」
「知らぬわ!直接言葉をかわしたことがあるわけがないだろう!?最高神ぞ!」
「そう言われてもだな……」
なんなの?
リスティ様のファンか何か?
ますますコイツが何なのかわからなくなってきたわ。
「結局お前はどこの誰なんだ?」
「……まあいい、教えてやろう。我が真の名は、大天使ゼルエル!最強の天使とも呼ばれている!人呼んで、最きょ」
「いや、人にはリスティって呼ばせてたんだろ?」
「……そうなんだが、そうなんだが……!」
天使か。
翼あるもんな。
でも、なんで天使が神様のふりなんてしてたんだ?
「お前の目的は何だ?何がしたくてこんな組織に協力している?」
「協力?それは違うな。我は、このゴミのような者共の作り上げてきた物をぶち壊してやりに来たのだ!人の子らにとって、そこそこ長い時をかけて肥大化したこの教会という宗教を、信仰してきた女神自体が偽物だったと教えてやればどうなるか、汝は想像できるか?」
「大変なことになりそうな気がしないでもない」
「……汝、ちょっとドライ過ぎない?」
「だってさ、俺はここにお礼参りに来てるんだぞ?教会信者がどこまで絶望しようが知らんわ。だけど……」
俺は、木刀も打刀もホルダーに戻し、雷切と倶利伽羅剣を両手に持つ。
「お前のその変な趣味のせいで、俺や俺の大事な人が嫌な思いをしたんだとしたら、お前をここで潰しておこうかと思うんだ」
俺が本気で殺意を向けると、ゼルエルが初めて本気の警戒の表情になった。
「人の子よ!その剣……まさか神剣ではないか!?」
「そうだぞ。これを作った神こそが、リスティ様らしいぞ」
「何故そのように普段の世間話の如き口調で話せるのだ!?それがどれほど貴重なものなのかわかっていないのか!?」
「いやぁ……そう言われてもなぁ……」
今更なんだよなぁ。
この世界に来たの自体、神話で語られるような出来事だろうしさ……。
しかも俺、神に爆殺された貴重な人材だぞ?
自慢できたものじゃないけども……。
「で?どうなんだ?やるのか?やらないのか?お前の答え次第で、ここが戦場になるんだが」
「……舐められたものだな。確かに我は、偽りの女神だ。だが、偽りとはいえ信仰を集め、神性を得た存在ぞ。たかが人の子如きが、我に敵うとでも?」
「さぁなぁ……。ソフィアさんはどう思う?」
「神剣使えばなんとかなるかものう」
『ピガッガ!』
「イチゴもそう思うか?じゃあやるさ」
「軽くないか!?いいのかそれで!?」
軽くないぞ。
俺が信用する仲間の言葉だ。
イチゴは、まあ……ちょっとまだどうかわからん所あるけれど……。
神相手に戦いを挑むに十分な根拠だ。
「じゃあ、ゼルエルだったか?泣いて喚いて、俺達に謝りたくなるまでボコボコにしてやるよ」
「……いいだろう……後悔するなよ!人の子よ!」
その瞬間、法皇の部屋が悍ましい程の力によって、隔離された空間となった。
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