第201話

 敵リーダーを倒してすぐにサイレンが鳴り響く。

 直後、景色が一瞬で移り変わり、試技エリアに入るために乗った転送紋の上に乗っていた。

 なるほど、勝利の余韻に浸る暇もなく外に出されるのか。

 試合終了後にリザルト画面が表示されるまでに30秒くらい欲しい派の俺としてはちょっと悲しいけど、まあそこはスキップ派の方が強いんだろうししょうがないか。

 でもさ?その大して何もできない時間帯に弾を撃ちまくったり、変な踊りでコミュニケーション取るのも楽しいよ?

 それ以外のコミュはしないけど。

 ボイチャ?ははは!ご冗談を!


『試合しゅーりょー!!!勝者は、なんとなんと!圧倒的不利を覆して相手を殲滅した……犀果大試ぃぃぃぃぃぃ!!!』


 2組のアイドルの人の宣言を受けてか会場が湧きたっている。

 開始の合図以降外の音が聞こえなかったけど、ちゃんと皆いたんだな?

 そんな歓声上がる要素あっただろうか……?

 初心者戦場に紛れ込んだみたいでちょっと申し訳ない気持ちだったんだけど……。


『両チームのメンバーは、こちらまでお越しください!!』


 アイドルの人が呼んでいる。

 行かねば……。

 いや聖羅!これはあくまでなんか呼ばれているからいくだけで、彼女が可愛いからとかそういうことじゃなくてだな!

 え?なに?気にしてない?むしろああいう衣装が好きなのか聞きたかっただけ?

 好き!


 幼馴染特有の目線による会話をしつつ、実況席みたいなところへ向かう。

 実況席っていつもあるんだろうか?

 普段から実況してるって訳じゃないと思うんだけど……。

 そもそも普段ここって使われてるのか?

 自由に使っていいなら俺も遊びに……じゃない、訓練しに来たいな!


「……えーと、青コーナーの小河内選手たちが脱力していて動けないようですので、勝者の犀果選手にインタビューしたいと思います!ずばり、勝因は何だったと思いますか!?」

「勝因?」


 インタビュー受けることになるなんて思わなかったから何も準備していないぞ!?

 こっちは基本コミュ障なんだ!

 普段頑張ってるだけで、知らない人たち2人以上と同じ部屋に入れられたら、その2人が喋ってるのをニコニコしながら眺めて早くこの瞬間が終わればいいのにと願う程度の男だからな?


 うーん……そうだなぁ……。

 勝因……勝因なぁ……。


「相手が、射線が通ってる所でぼーっとしていたり、まっすぐ突っ込んできた割りに俺の登場に対応全くできてなかったり、ちょっと撃たれただけで大混乱していたっていう基本のキからもうダメダメだったんですけど、まあそれは初心者ならよくある事ではあります」

「初心者……この試験のということですか?」

「FPSの話です」

「えふぴーえす?」


 あれ?この世界にもFPSとかTPSってあるよな?

 いや知らんが……。

 まあいい!スルーして続けよう!


「一番の原因、というか、凄い根本的な事なんですけど、彼らは自分が攻撃される側になるって覚悟が足りてなかった気がしますね」

「覚悟ですか!」

「はい。この試験が始まった段階で、彼らの頭には俺を蹂躙するってイメージしか無かったんじゃないですかね?だから堂々と真っすぐ全員で固まって進んできてたんだと思うんですよ」

「あー、アレはモニターで見ていた我々からすると、両チーム随分大胆に正面からぶつかるんだなーって感じだったんですけど、実際に戦っていた張本人としては、また違った考えだったという事でしょうか?」

「お互い相手の出方は見えてなかったと思うので何とも言えないですけど、こっち側は、相手が護衛対象の方に行かないように、敢えて俺を目立たせて追いかけさせたかったんですよね。ただ、多分相手は、山の上の狙撃ポイントを潰しつつ、不利な状況にビビって引いて守ってるはずの俺を、一か所に追い込んで甚振りたかったんじゃないかと」

「開始前から随分険悪でしたもんね!」

「なんでなんですかね?」

「あ、自覚無い感じです?」

「ですねー。ってかですね、実の所、話したの今日が初めてな気がするんですよね……」

「えー……?」


 うん、本当に何故あんなに悪意向けられてるのかわからんのだ。

 むしろ話したことも無いから嫌われてるのか……?

 だとしたら、クラスメイトの殆どに嫌われてるが……。


「では、今回相手選手が勝つにはどうしたらよかったと思われますか!?」

「そうですね……。まず、攻撃されることに慣れておいた方が良かったと思います」

「というと?」

「武器も相手も何でもいいんですけど、命を狙われるって状況を体に覚えさせておかないと、少し怖い相手が向かって来ただけで、今回みたいにアタフタしちゃうんですよ。だから、今回は銃を使っての試験だったので、誰かに自分の足元に向かって銃を何度も撃ってもらうとか、そういう練習が必要だったんじゃないでしょうか?」

「危なくないですか!?」

「危ないですよ?危ないからやるんですから」

「ひぇぇ……!」


 会場の空気もなんだかドン引きって感じだ。

 でもさ、実際お前らここにいきなり魔物が降ってきたりしたら、瞬時に戦闘に移る覚悟できている奴殆どいないよな?

 安全に慣れ過ぎている。

 それはそれで国の在り方として誇れるものなのかもしれないけど、貴族という立場に立たされてるならダメだ。

 考え方を変える方法は、とりあえずマッスル部に聞け。

 もっと戦いに慣れろ。

 毎晩相手のナイフや銃で殺される悪夢で目が覚めろ。


 流石にそれは可哀想か?

 前世の俺ですら辛くて暫くFPS封印したもん。


「あの、俺からも質問いいですか?」

「なんでしょうか!?私に答えられる事であれば何でも!」

「どうして今日は、こんなに観客がいる上に、アイドルの実況なんてものまであったんですか……?」

「あれ?ご自覚無いんですか?この学園内で犀果さんは、次何やるのか全く分からないとかなり注目されてるんですよ?もっとも、自分が関わらずにいられる立場の人に……ですけど!」

「あー……」


 つまり野次馬人気がすごかったのか。

 暇なのかな?


「それに、学園側の不可解な対応が目立っていましたので、我々生徒としてもどうなるのか注目していた所に、会長が『せっかくならこっそり変な事されないように大観衆の中でやらせればいいのよね!』とおっしゃって、こんな大々的なイベントになったそうです!」

「会長か」


 俺の側の選手入場口付近にいるうちの家族たちを見ると、そこにいる会長がサムズアップで応える。

 とてもいい笑顔だ。ほれぼれするくらい美人っすね?

 ストレス解消出来ましたか?

 ソフィアの霊呼ぶのそう言えば忙しくて忘れてたな……。


「さて!恐らく皆さん忘れていると思いますが、これはあくまで試験です!勝敗とは別に評価点が出されますが、それは学園の先生方によって決められます!もっとも、今回の戦いを見て、犀果選手の実力とやらに疑問があるという主張に肯定的な意見を出せる方がいたら、それはそれで凄いと思いますが!」


 あ、そういやこれ試験だった。

 試験って言う名のゲームのつもりだった。


「試験結果は、また後日発表の予定です!それでは!本日はこれにて終りょ」


「まてえええええええええい!!!!!」


 試験終わったんだし、もう反省会とかどうでもいいから帰りたいなって思ってたら、ピカピカの西洋鎧を着けたおっさんが大声出しながら会場に入って来た。

 すごいねその鎧、傷一つないピカピカの鎧って不名誉な感じするけど、どちら様?


 とりあえず隣のアイドルさんに聞いてみる。


「あの人誰?」

「えーと……確か聖騎士団長の人だったかと……」

「あーあれが?へー……」


 ひそひそと話している俺の前に、その聖騎士団長のオッサンがズンズン歩いてくる。

 なんだ?もう面倒な事終わりにしてほしいんだけど……。


「貴様が、あの帯秀の息子だな?」


 ギロリと睨みながらそう言ってくるおっさん。

 最近チョッカイかけてきている張本人が目の前にいるらしいので、衆人環視状態じゃなければ一発殴りたい所だぞ?


 なんて思ってると、隣のアイドルちゃんからおっさんがマイクを奪い、演説をおっぱじめた。


『聞けぇ!こいつは!魔法も使えないのに勝利を収めた!これこそが何らかの不正を働いている証拠だああああ!』


 オッサンが何か言ってる。

 近くだと声が大きすぎてよくわからんけど、多分碌な事言ってない。


(のう!大試よ!大試よ!)


 辟易としていたら、耳元に鈴の音のように清らかな音が聞こえた。

 あ、ソフィアさんの囁き声ですか。

 周りの音が汚すぎて浄化の鐘かと思いました。


(どうかしました?)

(この場所、さっきからめっちゃ例の呪いの気配がするんじゃが!?なんかもうこの辺りの空気が全部呪いみたいな感じなんじゃが!)


 そう言われ、改めて周りを見てみる。

 …………うん、わからん!


(じゃあどうしたらいいですかね?呪いの対処とかわからないんですけど)

(さぁのう……呪いの気配は、何となくそこの男からな気がするんじゃが、それにしても濃いんじゃ!ワシ吐きそうなんじゃが!)

(えぇ……?)


 って言われても、俺だって呪いの対処法なんて知らんもん!

 何とかできそうなのは、聖女パワーで何となく解決してくれそうな聖羅か、勝手に陰陽師にされた委員長辺りくらいか?

 あとは、巫女の会長とか、聖剣持ちの有栖はどうだろうか?

 ただ多分だけど、元になったゲームだと、呪いって要素自体3以降の物だと思うんだよな。

 だから、順当にいけば委員長かなぁ?

 そういえば、エリザがラスボスなんだっけ?

 ラスボスならなんとかできたり……いや、消し飛ばす事ならできるかもしれんが、ソフトな解決方法は取らんなアイツは。


(おおお!?ヤバいんじゃが!さっきからドンドン呪い臭が上がっとるんじゃが!?なんじゃ!?呪いってこんなんなんじゃろうか!?)

(呪い臭……?急激に呪いが増えてるとしたら、何か外部からの働きかけとか何ですかね?)

(わからん!ただもうなんかワシここにいるの嫌なんじゃが!)

(俺もです。みんな連れて帰ります?)

(あ?帰っていいのかのう?じゃあ帰ろうぞ!帰ってパフェでも食べたい!)

(仮に呪いでどうこうなったとしても、俺になんの責任も無いですし、専門家に任せていいと思うんですよね。専門家が誰かしりませんが。呪いの対処法を俺が知っているならそりゃ何とかしようと頑張るかもしれませんけど、呪い素人ですから。陰陽師適正皆無だし。あと、俺はかき氷の気分です)


 まだオッサンが何か言ってるけど、脳からその情報をシャットアウト。

 さぁ帰ろうとなった時、出口のとこから誰かが走ってくるのが見えた。

 あの構造色的な不思議な色の白っぽい髪は、リリアさんだな?


「はぁいふぁえふぁん!」


 口をハムスターみたいに膨らませている。

 多分、手に持ってるフルーツサンドが原因だろう。

 なんでそんな状態で走ってるのかわからないけど、案外速く走れるんですね?


「どうした?」

「ゴクンッ……あの!呪いの気配がすごいのですが!?」

「みたいだねぇ。どうしたらいいのかわからないから、帰ろうかなって」

「なぜそんなに冷静なのですか!?あそこの男性、もうすぐ人妖化しますよ!?もう止められません!早く皆さんを避難させましょう!陰陽師は誰か詰めていないんですか!?」

「呪いをあんまり感じられない俺にはよくわからないから……。人妖ってなに?やばいの?」

「呪いを貯め込んだ人間が妖怪のような存在になったものです!人に戻ることはできません!」


 あら、それはヤバイ。

 やっぱりみんな帰ろうよ。


「あ、妖怪だったら倒せば終わるのかな?」

「ダメです!人妖は呪いが強力過ぎて、生まれた瞬間に周囲を物理法則を無視した隔離空間にするため、何が起こるかわからないんです!避難一択です!」

「あー……ヤバそうね。じゃあ、とりあえずあのおっさんを殴り倒して、変身しても追いかけてこれ無くしてから皆で逃げるか」

「オジサマ……?違います!人妖になりかけているのは……!」


 聖騎士団長の話を無視して緊急事態の対処を考えている俺たちの前に、ユラリと立つ奴がいた。

 誰かと思ったら、あのリーダー君だ。こが……あーもうまだ思い出せん!


「犀果さん!私の後ろへ!」

「リリア!?」


 リリアが俺を押しやって前に出る。

 それと同時に、リーダー君が黒い杭のようなものを振り上げる。

 リリアに突き刺すつもりなのかと思い、瞬時に木刀を具現化したけれど、その黒い杭は、リーダー君自身の胸に突き刺された。


「さいはてええええええええええ!おまえだけはここでええええええええええええ!!」


 そして、世界が呑まれた。




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