第105話

 温泉で泳いではいけない。


 何故か?


 R指定が必要になりそうな場合があるからだと俺は思う。




「やっぱ競泳水着なんだよなぁ……」


「……族長様……おっぱい凄い……」




 エルフと魔族が大浴場の露天風呂で大水泳大会(ポロリもあるかもよ?)をしている。


 因みにタヌキはいない。


 片方は風呂嫌いだから。


 もう片方は、その風呂嫌いタヌキに付き合って現在ゲームコーナーで一緒に遊んでいるから。




「どうですか!?私が一番速いでしょう!?」


「いいや!ワシが一番じゃった!大試の目線を集めた時間もワシが一番じゃ!」


「違うもん!大試はウチに夢中だったもん!」


「エリザお嬢様、流石にそれは無理にゃ。ビキニの時点で大試の評価は2段階位下がってるニャ」


「そうなの!?」




 各自の水着は、アレクシアは競泳水着、ソフィアさんも競泳水着、エリザはテカテカビキニ、ファムはパレオつきのビキニとなっております。


 隣で我関せずでいるマイカは、フリフリ付きで抑えめのワンピースタイプ。




「……なんですか?もしかして私のこの控えめボディにまで欲情しているんですか……?」


「マイカもそういう発想するんだな」


「……私だって……しますよ……」




 正直、よくあれだけ食べてこのボディを維持できているなとは思う。


 それ程エルフの燃費は悪いという事だろうか?


 ただ、顔は文句なく美人だから、その俯きがちの姿勢さえ治せば滅茶苦茶モテるだろうな。


 目立ちたくないんだろうから、そういう意味では狙い通りなんだろうけどもな。




「犀果様、私の水着は如何でしょうか?」


「水着っていうか、ずっと同じメイド服じゃん。どうやったらそこまで完璧に水分を弾けるんだ?」


「太古に存在したロストテクノロジーです」




 説明する気無いなこれ。


 説明されても多分分からないし。




「それよりもアイ、周辺に危険な反応は無いのか?」


「全くございません。常に私の素晴らしさをアピールするために警戒しているのですが、まったく見せ場が無くてガッカリです」


「アイが素晴らしいのはわかってるから、素直に平和な事を喜ぼうぜ」




 まあ、俺もここまで敵がやってこないのはびっくりだけどな。


 そもそも、今回の敵って結局何なんだろう?


 第1王子は、完全に敵側なんだろうけれど、じゃあ他の敵勢力の顔ぶれが未だに全くわからないんだよな。


 化け狸たちは、別に四国独立なんて望んでいないみたいだし、貴族たちにしたって、四国に籠って王様たちに喧嘩売った所で、四方を固められて族滅させられる未来しか無さそうだ。


 そもそも、今の所貴族で王様と敵対しているのを明確にしたのが、タヌキオヤジと呼ばれていた隠神って人だけだからなぁ。


 その隠神が、明小や太三郎さんのいうタヌキの隠神オジサンなのかすら、現時点で俺達にはわからないわけで。


 難しいなぁ。


 これ以上の情報を得ようと思うと、やっぱり敵地でもっとウロウロしないといけないよなぁ。


 不安と焦りが募っていく。




「だから、本当はこんな所でこんな事して楽しんでいる場合じゃないんだよなぁ」


「そうじゃろうか?こうしてワシらが楽しめているという事は、それだけ敵の監視網が緩いという事じゃろ?つまり、最初に思っていたほど、四国全体が敵方というわけでもないんじゃないかのう?敵に回っている者も、脅されてイヤイヤという可能性もあるな。特に、本州と繋がっている橋の辺りを管理している者たちは、無理やりにでも仲間にされているか、場合によっては殺されているかものう……」


「ソフィアさんがマトモな考察をしている……」


「ワシ、これでもエルフ大戦を勝ち抜いた猛者じゃからな?」


「まって?エルフ大戦?」




 なんだろう……教科書にも載って無さそうなトンデモ事件が起きてそう。


 エルフ同士で戦ってたって事?


 ソフィアさんみたいな奴らがモリモリ出てくる感じで?




「懐かしいのう……函館エルフと知床エルフは強敵じゃったなぁ……。富良野エルフは、周り全部から通行の邪魔だからと蹂躙されて即滅んだりもしていたのう……。札幌エルフは、数は最大じゃったのに、兵站が確保できなくて自滅してたしの。ワシとしては別に戦いたかった訳ではなかったんじゃが、流石に攻めてこられたら反撃せん訳にもいかんしなぁ……」




 ソフィアさんを始め、俺の周りのエルフが比較的フレンドリーだから忘れそうになるけれど、元々この世界のエルフって戦闘とかをさせるために作られた人造人間なんだよな。


 そいつらが本気で同族と戦争始めたとしたら、そりゃ被害もデカくなっただろうなぁ……。




「……まあ、昔の話じゃ。正直、ワシの今までの千年以上の人生よりも、死んで精霊になって、大試と会ってからの1カ月足らずの時間の方が大切な思い出なんじゃよ」


「そんなに良い事ありました?結構碌な目にあってない気がするんですけど……」


「なーに、大試と一緒じゃと、それはそれで面白いんじゃよ。恋する乙女じゃからなぁ」




 そう言いながら、風呂の縁に並ぶ岩に座っていた俺の隣にやって来て、腕に抱き着いてくる大精霊。


 競泳水着の胸部の盛り上がりは、人類の最終兵器と言っても過言ではないかもしれない。


 やっわらか……。




「大試が、これから何十年生きられるのかわからんが、ワシはほぼ無限の時間を過ごすことが決まっておる。じゃから、大試には子孫をたくさん残してほしい。ワシが守ってやる。好きな男の血を守るくらいの生きる理由がないと、何のために存在しているのかわからなくなるからのう。もちろん、ワシとの間に血を残しても良いがの?」


「……少なくとも、初めては聖羅って決めているので……」


「構わん構わん。エルフの体感時間など、人間の尺度では全く計れない程ガバガバじゃからな。死ぬまでにワシを孕ませてくれればそれで十分じゃ」


「壮大な計画過ぎる……」




 あんまり考えた事は無かったけれど、俺とここにいる奴らは、寿命が全然違うんだな。


 エルフに魔族に、ちょっと離れた所には化け狸。


 こいつらが将来どうなるのかを見届けずに俺は死んじゃうって考えると、ちょっとだけ寂しい気もする。


 といっても、結局のところ寿命なんて人によってまちまちだし、俺は案外50歳くらいでポックリ逝っちゃって、聖羅たちを思いっきり悲しませたり、逆に俺が最後まで生き残って嫁が全員若くして亡くなったりする可能性もある。


 考えれば考える程ドツボにハマるタイプの発想だけど、やっぱり人の生き死にって嫌だなぁ……。


 でも、やっぱりこうして敵地に来ていると、そういうイメージも付きまとってしまうわけで……。




「ソフィアさん、もし俺が四国で死んだらさ、死体だけでも聖羅たちの所に運んでくれないかな?」


「まあ構わんが、その心配は無いと思うぞ?大試は、大精霊との契約というのを舐めておるのではないか?」


「いやいや、舐めるも何も、大精霊と契約するって言われたって全く意味わかってないんだけどさ」


「大精霊との契約によって、大試はワシの力の一部を己が体に宿らせておるんじゃよ。じゃから、まあまず人間相手に死にはしないじゃろうな。そこに加え、剣による強化もされとるんじゃろ?安心して、ワシにムラムラしておくと良いぞ?」


「……ソフィアさん、本気で理性が悲鳴を上げているので、ちょっと腕から離れてもらっても良いですか?」


「大試との契約内容には、ワシが大試に自由に抱き着いても良いって項目もあるんじゃよ」


「婚約者がいる身としては有難迷惑過ぎる!そういうの無かったら幸せしかない!」


「……じゃ……じゃろ?」




 何故そこまで自分で言ったくせに、最後の最後で赤面するのかこのエルフは。


 可愛いさまでアピールしようってのか?


 ふざけんなよ。


 心臓がどきどきするわ。


 あと、息が荒くなる。


 めまいもする。




 あれ?これって?




「のぼせたかも」


「そりゃまずい!皆!ワシはちょっと大試を連れて上がるから、羽目を外すのは程々にするんじゃぞ?」


「「「はーい(わかったにゃ)」」」




 それからすぐ、俺は意識を失った。


 正確には、9割がた意識を失っているような朦朧とした感じだったけれど。


 最後に覚えているのは、更衣室のソファーでソフィアさんが介抱してくれたこと。


 しかも、前世で風邪で寝込んだ時に看病してくれた母親と重なって、思わずソフィアさんに「お母さん……」なんて言ってしまった。




「じゃから、ワシはお主の母ではなく恋人になりたいんじゃがなぁ……」




 って言いながら笑顔で頭を魔術で冷やしながら撫でてくれる彼女に、10分ほどとは言え、生まれたての赤ん坊の如く手を握ってもらって安心していたという黒歴史は、きっとこれからの人生でも忘れられない事だろう。




 ……よく考えたら、聖羅がいたから、この世界で風邪ひいたときの経験が殆どない。


 だからかきっと、看病されることに耐性が無くて、ソフィアさんのこの手の母性には、これからも抗えないんだろうなぁ……。


 でも、競泳水着でそういうことをするのはやめろ。


 安らぎとは正反対の精神状態になる可能性が高い。




「更にキツネ耳だったら即死だったな……」


「何の話じゃ?」




 性癖とこの世の真理についての話だよ。






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