第107話

「ハハハハハハ!きっと今なら入れ食いだぞ!」


「言ってる場合ですか!?雷切!雷切!!雷切!!!!」




 ご存じですか?


 この世界のカジキ、クルーザーを沈めに来ます。


 しかも、群れで。


 クルーザーに乗ってるバカな金持ちがサメに食われる展開?


 は!


 今のトレンドは、カジキの群れに貪り食われるタヌキと高校生男子だよ!


 あと、美人で巨乳でスタイルもいいエルフの大精霊もいるよ!


 雷切で雷を海に叩きこみまくって散らしているけれど、たまに気絶してくれるのがいるくらいで、基本は大した効果はない。




「なんであのカジキたちは、この船にこんなにまとわりついてくるんですか!?」


「わからん!流石に魚に追いかけ回されるのはこれが初めてだ!」




 太三郎さんが、クルーザーで海面を飛ぶように奔らせながら答える。


 表情だけだと一見楽しそうに見えるけれど、これ多分アドレナリンドバドバで変なテンションになってるな。


 だって、さっき泳げないって言ってたし……。


 風呂もそのせいで嫌いなんだとか……。


 タヌキって水怖がらなさそうなのにな……。




「ワシが説明してやろう!」


「知っているんですかソフィアさん!?」


「うむ!こやつら、大精霊の魔力に群がって来とるようじゃな!頭の角がアンテナのようになって、他の魔物より敏感にワシの魔力に反応しておるようじゃ!」


「じゃあ魔力洩らさないで下さい!」


「さっきから完全に封じておるわ!しかし、奴らの目には、もうこの船しか入っとらんのじゃろう!力尽きるまで追ってくるぞ!」




 人間だけじゃなくて、魔物の魚にとっても魅力的なのかソフィアさんは!


 俺もたまに目が離せなくなるもんな!


 チクショウめー!




「大試よ!一か八かじゃが、ワシに考えがある!」


「どんなんですか!?」


「あそこに、なんだか頑丈そうな船が浮いてるじゃろ!?」


「あれは……多分軍艦じゃないですかね!?戦艦っぽいですけど、戦艦ってこの世界にもあるのかな!?戦艦だ!っていったら、『あれは護衛艦ですよ(笑)』とか言われそうで怖い!」


「なんでも良いわ!あの船の近くまで寄って、ワシだけが浮いて近づき、魔力を解放してデコイになる!カジキ共の狙いをあの船に押し付けるんじゃ!」


「エグイ事考えますね!大丈夫なんですか!?」


「流石にあの頑丈そうな見た目で魚に沈められる事は無いじゃろ!仮に沈められても、その方が恥じゃから何もできんじゃろうし!」




 近寄ったら怒られないかな!?


 怒られたとしてもこのままカジキに殺されるのを待つだけよりはマシか!?


 そうだな!死にたくないもんな!


 だってあの角!俺の身長と同じくらいあるぞ!?


 このままだと俺は、シェラスコみたいになる!


 焼き鳥用の串よりももっと太い感じ!




「太三郎さん!あの軍艦に押し付けましょう!」


「ハハハハハ!作戦がボロボロだなぁ!だがいいだろう!俺もなんだか楽しくなってきた!」




 まずいな。


 このタヌキ、完全にハイになっている。




「今気がついたんだがなぁ!よく考えたら船を動かす者を別に用意しないと、俺がマトモに釣りができないなぁ!」


「自動操縦とかないんですかー!?」


「こんな船だらけの場所でそんなもん怖くて使えるか!じゃあ行くぞ!しっかり掴まってろ!」


「さっきからずっと掴まり続けてます!」




 クルーザーが軍艦に寄っていく。


 軍艦の方は、港に入らず錨を下ろして停泊していたらしく、艦上にもまだ動きが見えない。


 謎のクルーザーが魔物カジキを引き連れながら近寄ってきていることに気がついたら、どんな顔するだろうなぁ……。




 とうとう軍艦まで100mを切った。


 ここからならソフィアさんが飛んでいける。




「じゃあ行ってくるぞ!」


「お願いします!」




 ソフィアさんが、一応姿を消して軍艦の近くまで空を駆けた。


 その後、魔力ってものにそこまで敏感でもない俺でもわかるほどの魔力を感じた。


 どうやら、ソフィアさんが押さえていた魔力を解放したらしい。


 それに反応したようで、クルーザーの後ろについて来ていたカジキたちが皆軍艦の方へと向かって行った。


 どうやら作戦は成功したらしい。




「ふう!どうじゃ!?ワシって役に立つじゃろ!」


「いつも頼りにしてますよ!」


「じゃろう!?」




 クルーザーまで戻って来て姿を見せるソフィアさん。


 ドヤ顔がすごい。




「大試!カジキの先頭が軍艦に接触するぞ!」


「大丈夫ですかねー!?」


「わからん!普通の船よりは頑丈なはずだがな!」




 まあ、軍艦だしね。


 細かい種別はわからんけども。




 青くきらめくカジキたちが、とうとう軍艦へと到達した。


 …………ドーンという轟音と、船体に穴が開くというとても分かりやすい光景と共に。


 直後、非常アラームがここからでもわかるほどに鳴り響く。




「……あれって、沈没しないですよね……?」


「……いや、するだろうな。海面上に見えるだけでも十数個の穴が見える。ということは、海面下の船体部分は、穴だらけだろう……。流石に隔壁を下ろしてどうこうできる領域を超えている……」


「軍艦の装甲ショボい!」




 別に、俺たちはカジキを強化したわけじゃない。


 つまり、アイツらはもともとそこらにいた生き物その物だって事だ。


 ってことは、いつでもあの船は沈む可能性があった。


 だから、俺は!俺達は悪くない!




「仕方ない、先ほどの港に戻るぞ。ある程度状況もわかったしな」


「そうなんですか!?よくカジキに追いかけ回されながらそんな調査してましたね?」


「軍港直前であるにもかかわらず、港にも入らずにこんな場所で停泊している軍の艦艇がいた。となると現在、軍港の中には軍艦が大量にいると考えていい」


「嫌な事実ですね……」




 もっとも、俺は別に海上で戦うつもりも無いわけで。


 陸でしかけるなら、相手の戦力が海に集中しているのは、こちらとしてはありがたい。


 もし万が一開戦までに調査が終わらず、死人がポンポン出たとしても、俺のせいにしないでくれよ?


 対艦ミサイルも対艦魚雷も俺は持ってないんだ。


 まあ、カジキの突撃で沈む軍艦なんて、対艦兵器が無くても問題なく沈められるかもしれないけれど……。




 クルーザーは、一路朝の港へと向かう。


 途中で、さっき雷で気絶したと思われるカジキが海面に数匹浮かんでいたので、しっかりと〆てから、クルーザーに増設された氷冷庫に入れておく。


 カジキってそういえば食べたこと無いや。


 にしてもこのカジキ、でっけぇなぁ……。


 これだけの大きさがあれば、流石にエルフ3人の胃袋も、丸1日大人しくさせておけるかもしれない。


 カジキマグロを使った料理レシピ……まったくわからんな……。


 そもそも、この余裕で5mはあるカジキを食べたことがある奴なんて、この世界にどれだけいるんだろうか?


 小さいカジキなら食べた者が結構いるかもだけれど、5m越えのカジキは、人間にはそうそう捕まえられなそう。


 そう考えると、今引き上げたカジキは、とても貴重な素材であり食料なのかもしれない!


 カジキを売り払って、そのお金で美味しい物食べさせるのと、売り払ったりせず食べてしまうのと、どっちが良いんだろうな……。




 いや、エルフたちの答えなんて決まってるんだけどさ……。




「ワシらで食べるに決まっとるじゃろ!」


「ですよねー」




 フィッシュバーガーでも作ってみようかな……。






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