第103話
「正直な話、ラクーン天ドッグの代表取締役ってどのくらい儲かるんですか?」
「そうだな……ロケットをポケットマネーで打ち上げられるくらいだな」
「ほへぇ……」
俺は今、人生で初めてシャッチョさんにお酌しながらお話を聞いている。
さっき紹介してもらった後、まずは食事にしようと言って太三郎さんがどこかに電話し、その後10分もしないうちに大量のお寿司が届いた。
何人前かなんてわからない。
田舎の親戚の家に法事で行った時よりも大量の寿司桶がテーブルに所狭しと並び、結局乗り切らなくて残りはキッチンに置いてある。
しかも、どうみても前世で1皿100円で食べていた回転寿司とはクオリティが違う。
特上でもまだ足りないんじゃないかってくらいの輝きだ。
因みに、俺は1皿100円少々の回転寿司の方が気兼ねしなくて好き。
そういう回転寿司は、見たこと無いネタもあったりするしワクワクする。
サーモンの寿司も、元々は回転寿司から広まって行ったっていうし。
普通の寿司屋では、全く受け入れてもらえなかったって言うんだから時代を感じるな。
最早俺は、世界が違うけれども。
因みに、チミっ子たぬきとエルフ共と魔族共は、さっきからフードファイト中だ。
話しかけても反応する奴なんて殆どいない。
ソフィアさんがたまに俺に寿司をあーんと食べさせてくるだけだ。
しかも、食べた後頭を撫でられる。
何?俺は孫か何か?
「さて、腹も多少は膨れた所で話を聞こうかとも思ったんだが……」
「すみませんね、ウチの食いしん坊共が……」
「いや良い。それだけここの魚を気に入ってくれたという事だろう。それはそれで、俺としても気分が良い」
「へぇ、このネタってここで水揚げされた魚なんですか?」
「ああ、最近はマグロも釣れるんだ。サーモンだってこの港で養殖しているんだぞ」
「それはすごい!もう人気あるネタ大体ここで捕れてるじゃないですか!」
「そうなんだ。その割にこの地域の知名度は高くないんだがな……」
よくサーモンと呼ばれている魚は、実際にはサーモン(鮭)ではなく、トラウト(鱒)である場合が多い。
中には、本当に鮭である場合もあるけど、多くが海で養殖された鱒らしい。
鱒と言っても、川にいるニジマスよりも相当大きくなっているから、本当に鮭みたいなもんかもしれんけど。
ただ、日本の法律だと鮭を鱒と呼ぶことは許されなかったから、サーモン(商品名)として流行らせたんだと聞いた。
サーモン……前世だといっぱい食べたなぁ……安くておいしいから食べてたのに、なんかドンドン値上げしてって、マグロより高かったりしたなぁ……。
あと、イカゲソのから揚げ。
「まあいい。どうやら、こいつらのリーダーはお前みたいだしな」
「犀果大試と申します。王様から、四国の調査を依頼されてここまで来ました」
「そうか。うーむ……と言っても、俺もそこまで多くを知っている訳ではない」
「そうですか……。とはいえ、こうして食事を頂けただけでも十分ありがたいです。こいつら、思ったより食べるんで……」
「そうらしいな。構わんさ!女は、いっぱい食べる方が良い!」
太三郎さんは、随分と上機嫌だ。
何でこんなに良くしてくれるんだろう。
逆に怖いんだけど。
毒とか入ってないよな?
「あのね!太三郎オジサンは、ボクのお母さんのことが好きだったんだって!ごはんいっぱい食べるから!」
「ふっ……懐かしい話だ」
一杯食べる女が好きなだけかもしれない。
「そうさな……俺が知っている情報といえば、今回の独立がどうこうという話は、四国の者の総意というわけではない。俺達タヌキですら寝耳に水だった。表向きは、隠神の奴が独断でやった事になっているが、どうにも信じられんというのが素直な所だ。アイツは、どれだけ自分単体で強くても、大きな組織と正面からぶつかれば到底敵わない事を痛いほど理解している」
太三郎さんは、何かを思い出すかのように話している。
隠神オジサンとやらは、過去に何かやらかしているんだろうか。
このしんみりした空気で聞くのもちょっと難しいけども。
「考えられるとすれば……誰かを人質に取られているとかそういうのだろうか」
「人質?」
「ああ……。アイツは、アレでもかなり人情に厚いというかなんというか……。昔から、人質を取られると逆らえなくなる所があるからな。まあ、人質といっても、人であるとは限らないんだが」
「狸質の場合もあるって事ですか」
「猫質を取られたこともある」
「ペルシャ兵みたいですね」
その後も色々話を聞いたけど、結局今のこの状況を分析することは難しいという結論に至った。
四国の狸コミュニティですら、なんでこんな事になっているのかいまだに分かっていないらしい。
「俺だって、こんな事になるとわかっていれば、東京に一時避難していたんだがな」
「あー、代表取締役が連絡取れなくなるかもしれないのは不味いですよね」
「そうなんだ。インターネットさえ繋がっているなら、世界中のどこだろうと安心だと思っていたんだが、まさか四国全体を封鎖してくるなんてな……」
「美味い魚が食べられるだけマシって思うしかないですね」
「確かにな。こうして久しぶりに明小も訪ねて来てくれたことだし……」
そういって、寿司を口いっぱいに頬張る明小の頭を撫でるシャッチョサン狸。
むふーっと笑顔になるチミっ子たぬき。
こいつ、本当に女郎キャラやってきたのか?
一緒に過ごせば過ごすほど疑問だわ。
「俺達四国の狸としても、この事態は非常に困っている。もし解決してくれるというなら、俺達も全力で力を貸すぞ!」
「それはありがたいです!といっても、今の俺達には、どこに行けば情報が得られるかもわからないんですけどね……」
「まだ確認は取れていないが、松山の方に四国の戦力を集中しているらしいとは聞いたな」
「ならそっちに行ってみるかな……でもなぁ、敵さんの本拠地なんて、行かずに済むなら行きたくないなぁ……」
「戦争一歩手前とはいえ、現時点では戦闘が起きているわけでもない。お前たちさえよければ、俺の仲間に松山まで案内させ……いや、むしろ俺が一緒に行ってやろう!どうだ明小?」
「いいの!?オジサンと旅行なんて楽しみ!」
「そうかー!じゃあ行き先は道後温泉だな!」
するするとこの後の予定が決まってしまった。
おい、聞いてっかエルフと魔族共?
これから敵陣の真ん中にカチコミかけるんだぞ?
1人1つ寿司桶抱えてんじゃねぇぞ。
エリザだけは、俺と2人で分け合ってる感じだけど。
でもさ、俺がお酌して話聞いてる間にサーモンとマグロとハマチを全部食ったのは許さない。
あれ?アイは何して……え?LANケーブルに髪の毛ぶっ挿してなにしてんの?
……ここの管理システムをハッキングして情報をダウンロード?
やめなさい……。
「温泉じゃと!?大試!ワシは大試から離れられんから、大試がTS魔法にかかってくれるか、もしくは家族風呂を借り切ってくれんと不味い事になるんじゃが!?大試になら、ワシのアレやコレが見られても構わんしのう!」
「じゃあ道中で水着でも買っていきます?」
「釣れないのう……いや、そうじゃな!ワシの魅惑の水着を見せつけてやろう!」
果たして、俺の貞操は守られるのだろうか!?
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