第235話

「急ぐのでしたら、私に乗って行きませんか?」




 カメリアさんのそんな悪魔の誘いに乗った俺達は、現在恐怖の空中散歩を行っている。


 世界樹まで乗ってきたあのカンガルーの化け物みたいなやつは、帰巣本能で1人で勝手に帰れるらしいので本人におまかせ。


 結局最後まであのヴィジュアルに慣れることはなかったわ……。




「ウチ!これ好きかもおおおおおおおおお!」


「ニャアアアアアアアアアア!?」


「ワシは、割と平気じゃな。その気になればこのくらいのスピードで飛べるしのう?」


「エクスカリバーのおかげか、私も平気ですね!」


「もっと吹き付けてきてもいいですよおおおお〜」


「この魔道外骨格の前には、この程度の高速移動の余波なんて児戯に等しい」


「お母様に乗るのは、子供の時以来だ」




 女性陣は、どこかのネコ以外は割と平気そう。


 1番平気そうなのは、終始無言でこの強風の中編み物をしているクレーンさん。


 この人、全員での移住なんて待っていられないからと、俺達にくっついて回ることにしたらしい。


 ドラゴン素材……というか、本人の産毛?羽毛?でありとあらゆる生地を作り出し、それで服を作ってきた彼女だけど、流石に最近マンネリを感じていたとかで、ドラゴン素材よりは格が落ちようと構わないからと繊維素材を探す旅に出るつもりのようだ。


 当面の目標は、俺達が作り出した畑の一部で栽培され始めた綿花と、同時に養殖を始めたカイコだといっていた。


 今はその練習だと言って、編み物や織物をしているところだ。


 この時速数百キロで飛行しているような感じがするドラゴンの背でだ。


 実際にどのくらいの速度なのか、正直全くわからんが。


 高いところを飛んでいる飛行機の速さがいまいち理解できないのと同じように、高いところを飛んでいる側からも、景色から速度を割り出すのは難しいらしい。




 一応これでもカメリアさんが結界を張ってくれているらしいんだけど、それでも風音で会話が困難なくらいの状態。


 これよりも強力な結界も張れるそうだが、よくわからんけど、それをすると背中の俺達は酸欠で死ぬそうだ。


 ソフィアさんが結界を張ったら空気抵抗でカメリアさんごと皆で吹っ飛ぶし、結界が得意な聖羅は、現在肉弾戦しかできないからどうしようもない。


 まあ、本人たちは平気そうだし、別にいいけどさ。




 そして俺ですが、肉体性能は強化されているために、肉体的なダメージは特に有りませんが、自分の力でコントロールできない空中移動に恐れ慄いているところです。


 悲鳴すら上げられない。


 体に力が入り、カメリアさんの背中から落ちないことに集中している。


 背中にくっついているロボは、久しぶりの外に大はしゃぎしているのが動きからわかるけれど、腹から出続けている紙に何が書かれているのかを確認する余裕はまったくない。




 そうやって、地上で動くとあれだけ長かった移動距離を、カメリアさんの尽力に依って数時間で突破できた。






 はずなんだけど……。






「……あれ?大試、このあたりが綿花畑のあたりじゃなかった?」


「そうだったはずだけど、綿花が見えんな。っていうか、地面がなんか黒いな?」




 うん、すごい黒い。


 そして、なんか蠢いているように見える。


 もっというと、空も飛んでいるように見える。


 カメリアさんが滞空してくれるようになると、更に鮮明に地上の異変が見えやすい。




 えっ、なにこれ?




『ピッガピピ!』


「どうしたイチゴ?何かわかったのか?」




 移動速度が落ちたことで余裕を取り戻した俺に、イチゴが腹紙を見せてきた。


 曰く……。




「……は?魔族の領域で農業が発展すると、全てをリセットするために発生する蝗害用バイオ兵器『サバクトンビバッタ』だぁ?昔の奴ら何作り出してくれてんの?俺達が作った畑だぞ!ぶっ殺してやろうか!」


『ピガガ!』


「え?もう奴らは多分死んでいる?そうだな!」




 イチゴによると、あの飛び回っているのは、大きさがトンビ並にあるバッタらしい。


 好物は、有機物全て。


 植物も動物も、奴らが通った後には何も残らない。


 砂漠を維持するために存在しているような感じだな。


 ほっとくと緑化されちゃうからって、砂丘の草を抜く鳥取みたいな考えの奴らに作られたんだろう。


 ゆるせん!マジ許せん!




 かといって、どうしたもんか?


 よく見れば、他の畑に広がらないようにしているのか、魔族たちが魔法などで応戦しているのが遠くにかすかに見える。


 それでも綿花の畑が既に壊滅状態になっているのをみるに、完全に止めることはできていないようだ。


 地面が真っ黒になるほどにいるなら、俺達にできることなんて……。




「余が燃やすか?」


「ワシが消し飛ばしてやろうか?」


「ウチ、魔術つかおうか!?


「エクスカリバーでビーム撃てばなんとかなりますか!?」




 割とあったわ。


 俺達が頑張れば、きっとあんな蝗害なんて!




「……許さない……」




 だけど、俺達が攻撃に加わる事はなかった。


 その前に終わってしまったから。




「私の大切な繊維……アイツら……絶対に許さない……!」




 地雷系アパレルドラゴンお姉さんが、風翼竜クレーンとなった。








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