第256話

「たっかいんですけどおおおお!?」

「大声だすんじゃねぇにゃあ!高度1000mでも地上まで声が届きそうで怖いニャ!」

「届いたら届いたで殲滅でいいじゃろ」

「ソフィアさん、流石に全員が全員悪党ってわけでもないかもなので、皆殺しはちょっと……。まあ、あっちから攻撃してきた奴らは構いませんけど」

「ボスって普通なフリして割と殺る気マンマンだよにゃ……」


 そりゃそうよ。

 相手が周りに迷惑をかけず真面目に生活している一般人ならともかく、俺や俺の大切な人たちに手を出そうとしてきた人間なんて、排除するべき相手でしかない。

 同じ人間だからとか、そういう感傷は、自分たちが生き残るうえでとても危険な発想だ。

 なぜなら、相手はそんな事で躊躇するとは限らないからだ。

 特に、今回のように宗教関係の相手であれば尚更。

 自分たちの凶行をすべて神のせいにしてしまえるんだから。

 親を殺してしまい、生き残った子熊が哀れで飼って育てていたら、大きくなったヒグマに殺されるなんて事もままある。

 アライグマですら成獣になったら飼い切れるものではないんだし。


「俺は、お前達を守るためなら、敵をどれだけ排除するのも躊躇しないと思う」

「……いや、まあ大切に思ってもらうのは悪い気分じゃないけどにゃ」

「うわー、ファムさんが赤くなってる!」

「黙るニャへっぽこエルフ!」

「大試はワシの魅力にメロメロじゃからのう!」

『ピガガ!』


 ハッチから身を乗り出す。

 空中でホバリングしているから、飛び出すのは難しくなさそうだけれど、やっぱり怖いなぁこの高さは……。

 浮遊できるソフィアさんやテレポートできるファムはともかく、俺は1人だったらボルケーノを地表に向けてぶっ放してブレーキにするくらいしか生き乗る手段ないんだよなぁ。

 そして、もう一人空で無防備になってしまうアレクシアはといえば、俺の腕にすがりついている。

 案外力が強いというか、アサシンの特性で弱点を突かれているのか、中々痛い。

 俺の背中でワクワクしながら飛び出す瞬間を舞っているイチゴを見習え!

 ……やっぱり俺も怖いから許そう……。


「じゃあ皆で一気に行くぞ。飛び出したらファムが皆を集めてくれ」

「おっけーニャ!」

「絶対!絶対手を離さないでくださいよ!」

「おぬしもエルフなら腹をくくれ!」

「エルフの集落にスカイダイビングという遊びはありませんでしたよ!」


 若干名の批判の声をスルーし、全員で飛び出す。

 同時に後ろで飛行機が無限収納にしまわれる気配がした。


「あああああああああああああああ!!!!」

「だからうっせえええにゃあああ!!!!」

「これいいのう!いつかまたやりたいのう!」


 重力の井戸の底へと向かって急速に加速していく俺達。

 それをファムが短距離テレポートを繰り返して集めてくれた。

 全員がひとかたまりになった所で、そのまま大きな教会の屋根の上にテレポートする。

 どうやら、相手はまだこちらが侵入してきたことには気がついていないらしい。

 上空からの侵入というものに対してあまりに無防備に感じるけれど、飛行技術がそこまで一般的ではないらしいこの世界では、所詮こんなものなのかも知れない。


 まあ、侵入者である俺達にとっては、悪い話ではないけれども。

 さて、お目当てのカスはどこにいるかな?

 大抵偉いやつって上の方にいるもんだけど、この屋根から見えるだけでも、このでかい教会には塔が3個所ある。

 高い塔1本と、それよりちょっと低い塔2本。

 まともに聖女や女神を信仰している奴なら、一番高い場所はその信仰対象に譲るだろう。

 だけど、聖女を奪ってまで利用しようと考えている奴なら……。


「うん、あの一番高い塔だな」

「ワシもそう思う」

「私もですね」

「ニャーもにゃ。だって金キラだもんにゃ」

『ピガッピ』


 皆の心が一つになった。

 一番高い塔だけ、金色に塗られているんだ。

 これ、金箔なのかなぁ……?

 材質が何であれ、ろくなもんじゃないな。

 清貧を是とするような体質では無さそうだ。

 教会の教えは知らんが、俺の中で教会の評価は日々落ちてく。

 ゲームの内容は知らないけれど、もしかしたら教会って悪役にされるために作られたんじゃないかとすら思える。

 宗教組織の腐敗ってのは、歴史を見てもいくらでも例が見つかる程度に当たり前だから、違和感もないけれどな。


「屋根の上は、全く見張られてないみたいだな」

「不用心だにゃあ……」

「この場所を襲う者などそうおらんと思っておるんじゃろ」

「空、飛べませんからねぇ普通……」

『ピガッピー』


 屋根の上を歩いて、出入り口と思われるドアへと向かう。

 ノブを握ってみると、どうやら鍵がかかっていないらしく、簡単に開けることが出来た。

 中に入ると、誰も居ない通路が続く。

 何故か窓が無いけれど、壁には明かりが着いている。

 随分高そうな飾りがついたガラスの中で灯る明かりは、恐らく魔道具か何かなんだろう。

 金かかってるなぁ……。


「なぁ、建物にガンガン金がかけられてる宗教施設ってどう思う?」

「なんとも言えないニャ。というか、言ったらめんどくさいことになりそうだからノーコメントにゃ!」

「私が神様を信じるのは万馬券が出た時くらいですね!」

「崩すと敵軍の心を折れそうで狙い目じゃなって最初に思うのう!」


 三者三様の考えを聞きつつ進む。

 因みに、イチゴは腕を伸ばして照明器具をぽいぽい取り外してしまい込んでいた。

 なんか手慣れてるなぁこいつ……。


 通路を抜けると、吹き抜けの大きな部屋の上の方に出た。

 俺達がいるのは、その部屋の天井付近の通路で、照明の整備なんかに使う場所に見える。

 さて、ここからどこへ行けばあの塔へといけるのか……。


「おいキミ達!こんな所で何をしているんだい!?」


 次に向かう場所を探している時に、横合いから声がかかる。

 どうやら掃除をしていた神官らしい。

 さて、なんて言い訳したもんか……。

 あ、これでいいや。


「観光です」

「観光ニャ」

「観光で迷子になりました!」

「観光じゃ!」

「何だ、観光客か!順路はあっちだよ!」


 ありがとう親切な神官のあんちゃん!

 キミのお陰でキミらの親玉のところにいけそうだよ!



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