第161話

「おう大試!報告は聞いてるぞ!大変だったようだな!」

「そりゃあまあ……授業抜けて報告させられるくらいには……」


 俺は今、朝から王様と謁見中だ。

 周りには、今集められるだけの貴族の当主を全員集めましたって感じの顔ぶれでお届けしています。

 マッスル部の合宿の報告だけだったら、俺じゃなくて仙崎さんだったんだろうけど、昨日の夜に魔族と戦っちゃったからなぁ。

 しかも、王都のど真ん中どころか、王立魔法学園の敷地内でだ。

 おまけで、何年も人間として潜入していたということも明らかになった。

 俺は担当者じゃないから関係ないけど、何人かの首が飛んでもおかしくなさそうな案件だ。

 まあ、魔族の潜入手腕がすごかったって事にして、人事的な部分はお茶を濁すかもしれないけどな……。


 四国のゴタゴタが終わってすぐこれだ。

 今ここにいる人たちの中にも、きっと四国案件で忙しい中、月曜の朝っぱらから呼び出されたんだろうなという感じの草臥れた方々も多い。

 俺は、最後の最後に他の貴族に仕事を丸投げして帰って来たけど、制圧や調査を担当させられた方々は、まだまだお仕事が終わらないって事なんだろう。

 他にももしかしたら俺の知らない所で忙しい仕事があるのかもしれないけど、四国のアレより重大な問題は流石に無いだろうと思いたい。


「これから大試には、昨夜の報告を行ってもらう……っとその前に、久しぶりだな留美!王都に戻ってくる気になったのか!?」

「いいえ?息子に会いに来て、あとは婚約者たちと話をしたら帰るわよ?」

「そうか……帯秀かお前がいてくれるだけで、王都の安全性は飛躍的に向上するんだがな……」

「追い出したのは貴方の息子でしょう?それは即ちあなたの責任でもあるわ。だから貴方にとやかく言う権利はないし、言われたとしても聞く気はない。何にせよ、私自身今の生活に特に不満は無いし、煩わしい人間関係の多いこんな場所にもう住む気なんて無いから。旦那は、私さえいればどこでもいいらしいし?」

「はぁ……そうか。万が一心変わりしたら教えてくれ。それにしても、まさかあの黒い台風と呼ばれた留美が、『旦那』と口にするんだから、時間の流れは恐ろしいものだな……」

「2人も子供作っておいて、夫と認めてあげないわけにはいかないもの……。彼可愛いのよ?どんなにズタボロになっても一途に私が好きだって言ってくるバカなんてあの人だけなんじゃないかしら?」

「それは確かに真似できん!」


 そういう話は、息子がいないところでしてもらえます?

 結局休みもなく授業だってだけで辟易としてたのに、こんな朝っぱらから両親の恋愛話なんて聞かされたくないんだが?

 てか、世間話してる暇があるなら、俺もう学園に戻ってもいいかな?

 ただでも問題児扱いされてるのに、出席数が減るとすごい困るんだが?


 まあ、それは許してもらえないんだろうけど。


「待たせたな大試!では、話を聞こう!」

「はい……」


 やっぱりな!


 俺は、昨日合ったことを可能な限り正確に話した。

 もちろん、ファムのことや飲みかけコーラの行は隠してだ。

 異性から貰った飲みかけの飲み物を保存しておくのは、魔族的にもありえない行為だと昨日あの後ファムも言っていたしな……。

 ファムがあそこまで恐怖というか嫌悪の表情していたのは、ダンジョンのボス部屋で聖羅が聖女だとわかったとき以来だったかもしれない。

「ボスはニャーと間接キスしたくなったら秘密でしないでせめて堂々と頼んでほしいにゃ……」なんて変なことまで言っていたし。

 俺を何だと思っているのか?


 俺の話を聞いた王様と貴族たちは、先に情報は持っていたんだろうけれど、それでも驚愕しているのがわかる。

 特に王様は、苦虫を噛み潰したようなってこんな顔かって感じだ。


「まったく……。身内からとんでもないバカが出たばかりだと言うのに、ここに来て魔族が潜入しているだと?大臣!政府機関の者が魔族かどうか調査するのにいくら掛かる!?」


 王様がそう聞いた相手は、どうやらかなりのおじいちゃんらしいけど、シャンと立ってサラッと応えて見せる。

 こんな爺さんに俺もなりてぇな……。

 もしくは、ロックンローラーみたいな爺さん。


「3億GM程かと。貴族だけであれば1億で済みますが、末端まで行うのであれば平民も多く、本人や周りを調べるだけでも手間は相当でしょう」


 あー、やっぱ国単位で調査ってなるとそんなに掛かるんだ?

 むしろ、公務員的な立場の人間全員調べてそれなら安い方か?


「よし!今すぐ秘密裏に始めさせろ!……いや!堂々とやって良い!それを見て潜り込んでいる魔族が逃げるなら、それはそれでいい!とにかく綺麗にすることを優先しろ!」

「御意に」


 御意って使ってみてぇ!


「大試!朝から済まなかったな!学園に戻っていいぞ!」

「わかりました。失礼します」


 よし!さっさと学園に戻って授業受けよう!


「母さんはどうするんだ?もう帰る?」

「何言っているの?大試のお嫁さんになる女の子たちと会わずに帰れるわけ無いじゃない!このまま学園まで行くわよ!ついでに授業参観していくわね!昔は、授業参観ってなんのためにあるのか全く理解できなかったけれど、こうして息子を産んだ今となっては、どれだけ重要なものか身を持って理解したわ!だって見たいもの!息子が真面目に勉強しているところ!」

「えっ」


 授業参観。

 それは、小学生くらいまでなら楽しみなイベントなのかもしれないけれど、高校生くらいになると流石に起きてほしくないイベントだ。

 うん!絶対嫌!


「それより母さんさ、折角久しぶりに王都に戻ってきたんだし、観光でもしてきたら?昨日のファムかアイにでも案内してもらってさ」

「大丈夫よ大試、そんなに気を使わなくても。私は大試の授業姿見てるだけで最高に楽しめるから!」


 それを阻止したかったんだけれども、どうやら無理そうだ。

 また騒ぎになるのかなぁと思いつつ、俺は母さんと一緒に学園へと向かった。



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