第269話
……あー、いてぇ……。
うーむ、流石にやりすぎたか?
なんか、大聖堂は木っ端微塵になっているっぽい……?
俺自身は、装備を全て使ったうえで、体中から激痛がやってきている状態。
指は……うん、とりあえず付いてるな。
関節増えちゃってるけど……。
そして、大聖堂が崩れているってことは、俺も瓦礫と一緒に落ちている最中なわけで……。
「おぬしは、ほんっとーにアホじゃのー!」
『ピピピガ!』
ガシッという感触とともに、声が聞こえた。
見ると、ふわふわ浮いているソフィアさんと、ビームみたいな物で形作られたローターで空を飛んでいるイチゴだ。
どうやら2人も無事だったらしい。
「……正直、状況がまだ把握できてないんですけれど、相手ってどうなりました?あと、信者たちはぺちゃんこですか?」
建物を守らなかったということは、もしかしたら信者たちも守っていないかもしれない。
その場合、俺は大量殺戮を行ったことになっちゃうなぁ……。
報復とはいえ、流石にそれはちょっとなぁ……。
「安心せよ。ほら、下を見るんじゃ」
「下?」
ソフィアさんに促されて見てみると、何か光の玉のようなものがたくさん見えた。
なんだこれ?
クリスマスに向けたイルミネーションか?
「どうやら、アレは全て結界のようじゃぞ。中には、人が1人ずつ入っとるようじゃな」
「……この爆発の中、建物の中の人間全員守ったんですかね……?」
「いや、見たところ、街の通りにいる者たちも守っとるようじゃから、この都市全体の人間に結界を張ったんじゃろうな。流石に大聖堂までは手が回らなかったようじゃが」
「ってことは、相手も流石にすっからかんですかね」
「じゃろうなぁ」
作戦としては成功かな?
……あの天使様のお陰で死人は出て無さそうとはいえ、バレたら国際指名手配されかねないけれどさ!
いや、報復攻撃だから、国際法的には合法といえば合法なのか?
人道的にアウトだと思うけど……。
そもそも俺は国家代表でもないから、テロリスト扱いか……?
『ピガガ!』
「イチゴ?どうした?」
イチゴの腹から恒例のロール紙が出てくる。
「えーと……『周辺各国の航空戦力がわんさかやってきてますマスター!ワイバーンライダーやウィッチーズが300以上!』?へぇ……すごいのかどうかわからないけれど、バレたくないからさっさとズラかろう!」
「用事も済んだしのう!お土産は買えんかったが……」
『ピグガガ……』
力強く言ってみたけれど、俺はぶら下がってるだけだ。
イチゴとソフィアさんに全任せです。
だってしょうがないじゃない?
全身に重度の打撲と骨折と裂傷と火傷負ってるんだもん。
ほぼ自分でやった怪我だけどさ。
「あ、ついでにあそこに天使様落ちてるから拾っていこう。弱ってるから、今なら大丈夫でしょ」
「容赦ないのう!?」
「チャンスは活かしていかないと!」
『ピーガガ!』
2人に運ばれて向かった先は、ファムたちと事前に打ち合わせていた合流地点だ。
万が一別れて活動しなければならなくなったときにはここに集まるようにと言っていたわけ……なんだけれど……。
「多くない?」
「多いのう……」
『ピガガ!?』
その場所には、1000人くらいの女性たちがいた。
パっと見ただけでも、皆傷だらけだ。
中には、放って置くとすぐに死んでしまいそうなほどの重症者までいる。
え?この人たちどうするの?
てっきり俺は、10人や20人だけだと思ってたんだけど……。
あのクソ教皇とロン毛たち、一体何考えてたんだ!?
「イチゴ、あの人数はさっきの飛行機で運べそうか?」
『ピガー……』
「やっぱ無理か……」
『ピガ!ピガピピ!』
「ん?『でも、もっと大きい輸送機もある』だって?へぇ……じゃあそれ出してくれ。流石だな」
『ピピ!』
気合とともに無限収納から取り出されたそれは、ジャンボジェット並みのサイズだった。
「ボス!これに乗っければいいにゃ!?」
「……あー、うん。順応性高いなーファムは……。俺なんて、いきなりこんなでかい飛行機出されて呆然としてたのに……」
「もう早く帰ってシャワー浴びて寝たいにゃ!明日は月曜日だからニャ!」
「いや、ファムは月曜日でも生活ルーティンそこまで変わんないだろ……」
俺は、貴重な休日が消し飛んだけれども。
「私も早く帰りたいので皆さん乗り込んでください!」
アレクシアは、マジで平日も土日祝日もやること変わらんが。
『ピィガ、ピガーガガ』
「なになに?『マスターは医務室で絶対安静で。他の人達も酷い怪我しているなら運び込んで!』と……。そっか、今聖羅がいないから、医療行為のお世話になるしか無いのか……」
久しぶりだなぁ病室で横になるの!
前世でも早々無かったけれど、強いて言うなら自転車で転んでスネをざっくり行ったときくらいかな?
砂が入って大変だったんだ……。
そうして運び込まれた部屋は、やっぱり飛行機の中だとは思えないほどの広さだ。
相変わらず空間を拡張しているんだろう。
今更驚いても仕方ない……。
どうやら既に先客がいたらしく、女性が2人寝かされている。
1人は、黒い翼が生えている。
もう1人は、随分ひどい状態だな……。
指が折れているし、爪も剥がされている。
顔は、右半分が焼かれている上に、目玉が摘出されてしまっているようだ。
……よく生きているな。
「……んっ」
その女性が、苦悶の表情をこちらに向ける。
そして、俺を見て目を見開くと、すぐに立ち上がろうとし、上手く立てずにベッドから落ちた。
俺を支えていてくれていたソフィアさんが、慌てて駆け寄って行ったけれど、ボロボロの女性は手助けを拒否し、そのまま額を床につけたまま懇願し始めた。
「……おねがい……します……ゼルエルを……殺さないでください……代わりに私を好きにしていいので……彼女のことは……どうか……!」
よく見れば、手足の腱が切られているのか、上手く動かせていない。
そんな状態で、どうしてここまで……?
っていうか、多分ゼルエルより、アンタの方が重症だぞ?
っていうか、日本人じゃないっぽいけれど、土下座の文化ってここにもあるんだなぁ……。
「そこの天使様より、アナタのほうが危ない状態に見えますから、そんな事してないでベッドに戻ってくださいよ」
「……私は……死んでも良いんです……初めてでも無いので……でも……ゼルエルだけは……家族なんです……!おねがいします……!」
よくわからんが、転生者なのか?
俺以外にもいたんだなそんな人。
被爆殺仲間だったりする?
土下座された所で俺に何のメリットもないから、そういう懇願は好きじゃないんだよなぁ本当は。
……でも、この人はきっと、もう他にできることがないんだろう。
たとえ自分の命を対価として捧げたとしても、このゼルエルとかいう天使を守りたいってことか。
「……まあ、そこまで殺す気も既に無いんだけどさ。神性も失っているみたいだし」
「じゃ……じゃあ……!」
「でも、償いはしてもらうぞ?」
「償い……わかりました……あの、私、もうボロボロで……汚くて……お嫌かもしれませんが……それでもよければ……私の体を……」
「いやいやいや!これから向かう所でアホみたいにすごい回復魔術使う奴いるんで大丈夫です!それに、償いっていうのはそういうのじゃないですから!」
だからさぁ!
なんで皆俺にそういう対価の支払い方をしようとするわけ!?
そんなにアレなやつに見えるの!?
「この国の教会のシンボルはぶっ壊したんで、後は日本の教皇たちが尻拭いしてくれるとは思うんですけれど、あっちはあっちで腐敗とかありそうだし、これからそうならないとも限らないですから、監査というか、適正に運営されているかを見張る役目が欲しいんですよね。しかも、天使ってことは相当長寿だろうし、下手したら不老長寿でしょ?だから、このボロボロ天使にその役目をさせようかなって。問題は、どう言いくるめてやらせるかなんですけどねー……」
「相変わらずじゃなー大試は」
動けない分、口ばかりが回る。
情けなさ過ぎて悲しい。
俺のそんな心情を知ってか知らずか、ボロボロ女性が、焼かれていない半分の顔で笑顔を作り、提案をしてきた。
「……でしたら……私をダシにしてください……彼女は……きっとそれで落ちます……私の名前はアンナといいます……彼女の……多分唯一の友人で……家族ですから……」
「アンナ?もしかして、聖騎士の?」
「……ご存知でしたか……はい……もう除名されてしまっているはずですが……」
そこからは、イチゴが起動した医療ドローンによって処置が行われ、アンナさんには麻酔と点滴が打たれ、安心したのか寝てしまった。
入れ替わるように目が覚めた天使様に、こちらからの要求を伝えているけれど、多分これ聞いてないな!
だって、すごい涙流してるもん!
鳴き声は押し殺して、俺とは逆側を見ているから直接は見えないけれど、医療用のベッドから滴るほどの涙が出てるっぽいからなぁ……。
「ソフィアさん、俺このままベッドごと医務室の外に運んでくれません?居た堪れなくて……」
「気持ちはわからんでもないが、この部屋の中で2番目に重症のお前を外に出すわけにはいかんわ」
「そこまでではないとおも……ゲホッ!……あ、吐血したわ……」
今度から自爆は控えよう……。
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