第23話

 魔王剣デモングレイル(SSR):魔王エリザベートの心臓ハートに突き刺されたことで変質した聖剣!エリザベートが封印されているけど未だに悍ましい魔力が漏れ出ている!魔王エリザベートを召喚・使役可能!装備時に身体能力を100%増加!






「って説明されてるんだけどこの剣!」


『……魔王エリザベート?』


「そう!」


『その魔王、フェアリーファンタジーⅢのラスボスよ?聖羅がヒロインの初代フェアリーファンタジーで倒された魔王の娘って設定だったはず』


「えぇ……?魔王が排除されてるなら、ゲームクリアしたのかと思ったのに……」




 フェアリーファンタジーシリーズをゴチャゴチャにしてる世界らしいから、ラスボスになる存在が複数いるんだろうなとは思っていたけど、魔王まで複数いたのか?


 王様複数ってどういう政治体系だよ。


 南北で分断されてるのか?




『……ねぇ、アンタ今寮にいるの?』


「そうだぞ。城から帰って来て今寮の自分の部屋にいる」


『今から会わない?その剣、性能確かめておかないとでしょ?』


「そうだな……。でも、結構遅い時間だけど大丈夫か?」


『……アンタが寮まで迎えに来てくれれば大丈夫じゃない?』


「わかった!10分後でいいか!?」


『行く前にシャワー浴びたいからちょっと待って!そうね……1時間後にアタシの女子寮へ迎えに来て!』




 そう言って電話を切られた。


 どうせこれから出かけるのに、何故シャワーを浴びる必要があるんだろうか?


 まあいいけども。




 にしてもなぁ、魔王を召喚・使役ってどうなるんだ?


 設定的にはラスボスらしいけど、ラスボス使役できちゃったら、その時点でゲームバランス崩壊しないか?




 あれ?


 俺としては別に崩壊しても構わないのか?


 俺自身が戦わずに平穏が訪れるならオールオッケーじゃね?


 えりざべーとがんばえー!




 まあ、そんな便利なもんじゃないんだろうけどな。


 わかってんだよ俺はもう。


 俺にとって、この世界はそこまで都合のいい世界じゃない。


 これがヒーローやヒロインであれば、モデルになったゲームの補正が効くのかもしれないけど、俺なんて原作で名前も出てない村人Xらしいからなぁ。


 両親はすごいけど、それでも息子である俺の名前が作中で明らかにされていないらしいということは、よっぽど本編に関わりの無い存在なんだろう。


 だから、聖女の護衛なんてもんに付き合わされたら、精々が肉壁となって無残に死ぬような結末になるのが関の山な気がして怖いんだよなぁ。


 美少女守るために犠牲になるのは、それはそれで、授業中に男子が妄想するシチュエーションの一つではあるけど、じゃあリアルで何の報酬も無く犠牲になりたいかというと嫌だもん。




 あーあ、風雅がどっかで覚醒イベント的なもん達成して、気がついたらラスボス倒しててくれたりしないかな。


 主人公なんだから、その位やってくれてもいいんだぞ?


 女の子にモテるぞ?


 多分!


 モテた事が無いからわからんけど。


 強いて言うなら、俺がモテた相手といえば聖羅くらいか?


 同年代の男が2人しかいない村で、しかも片方は聖羅と喧嘩ばかりしてた相手だったという条件だけども。


 こっちに来てもまだ俺を婚約者だって言い張っているのは何でかは知らん。




 ふと空腹を感じ、先程まで車酔いによる吐き気で食事どころでは無かったため、夕食をとっていなかった事を思い出す。


 だけど心配ない。


 こんな事もあろうかと、俺は非常食の備蓄を忘れていない。


 もし明日ブリザードが起き、この部屋から出られなくなったとしても、1週間は食うに困らずにいられる自信がある。




 というわけで、取り出しましたるは、製菓メーカーが出しているカロリーバーだ。


 製薬会社の物に比べて、こっちの方が美味しいと個人的には思っている。


 ただ、前世の世界とはそもそもメーカーからして違うため、選ぶのに苦労した。


 幾つかを食べ比べ、最終的に選んだのがこのメーカーのココア味というわけだ。


 単純なもそもそした食感ではなく、パリパリの中にナッツまで入っているので、食べ終わるまで飽きがこない。




 とりあえず、1本だけ袋を開けて食べる。


 うん、問題なく美味しい。


 ペットボトルの水を飲みながら、ゆっくりと食べて時間を潰した。




 大体いい時間になったので、カロリーバーをもう1本ポケットに忍ばせて、水のペットボトルを入れたカバンを持って出かける事にした。


 万が一、剣の性能確認が長引いたらこれで飢えを凌ごう。






「待った?」


「1時間ほど」


「そういう時、今来たとこって言っておかないとモテないわよ?」


「俺は嘘をつかない誠実さを売りにしてるんだ」




 女子寮の玄関でリンゼと合流する。


 なんか、すごいいい匂いがするな。


 シャンプーとかリンスの香りだろうか?


 俺の使う安物とは、きっと値段の桁が2つは違うんだろうな。


 少なくとも、女の子っぽさに俺をドキドキさせる効果はあるみたいだから、費用対効果としては中々の物だろう。




「じゃあ、どこか目立たないとこ行くか」


「ちょっと待って!……っと、ハイいいわよ!」




 今の一瞬で、リンゼは何かの魔術を使ったらしい。


 どんな効果があるのかはわからないけど、とにかく魔術が発動したような気配を感じた。




「今何かした?」


「ステルスって魔法よ。今、アタシたち2人の事は誰も感知できなくなってるの。声も姿も匂いも、アタシたち自身にしか捉えられないわ」


「へぇ、すごいな」


「夜遅くって言っても、この学園の中は結構監視の目があるのよ。私たちが何か怪しい動きをしていたって所まではバレたって問題ないけど、アンタのその剣の事は慎重に考えないといけないじゃない?」


「助かる。やっぱりリンゼに頼って正解だったな」


「フフッ、でしょう?」




 俺自身は、剣を作る魔術しか作れないから大変さはわからないけど、やっぱりこれだけの特殊で強力な術をいくつも使えるリンゼは、天才と呼ばれるに足る人間なんだろうな。


 元女神だけど。


 今日は、ドヤ顔くらい許してやろう。




 校庭の真ん中までやってきた俺達。


 これだけ広くて、障害物がない場所であれば、何かあっても被害は少ないだろう。


 俺は、早速魔王剣を具現化させ……。




「ハイストップ!……うん!エリアステルス完了!これでアタシを中心に半径50m内は、何が起きても外部から観測できなくなったわ」


「リンゼは、伝説の怪盗にでもなれそうだな」


「何か盗んできてほしい物でもある?」


「今は、瓶のコーラの気分」


「タダのパシリじゃない……。いいから始めなさい!」




 魔王剣デモングレイルを鞘から引き抜く。


 刃は、紫と赤黒いものが不規則なグラデーションとなっていて、ゆっくりとだけどその模様が動いているように見える。


 振ってみるけど、特に何かが飛び出したりとかはしない。


 試しに、ここに来るまでに拾っておいた枝を斬ってみるけど、スパッと斬れただけで燃えたり消えたりはしていないようだ。


 強いて言うなら、断面が黒っぽくなっているくらいか?


 これも漏れ出た魔王の魔力によるものなんだろうか。




「見た目に反して、剣としてはシンプルな性能っぽいな」


「魔王を封印する装置でしかないのかもね。別にこれで実際に魔王を倒したわけでもなんでもないだろうし」


「まあそうだな」




 さて、いよいよ問題の機能だ。


 魔王の召喚・使役とやらを試さないといけない・


 もし万が一、これで魔王が解き放たれて世界が滅亡でもしたら、俺が敵サイドの人間だったという事でこの世界の人たちには諦めてもらうしかない。


 すまんな。




「来い!魔王エリザベート!!」


「その叫び必要?」


「誰にも聞かれないなら、叫んだ方が楽しそうだろ?」


「知らないわよ!」




 俺達のじゃれ付きを余所に、魔王剣デモングレイルから黒い何かが溢れだす。


 それは、段々と集まって人の形へとなって行った。




「……えぇ……?」


「……これ、アンタの趣味じゃないでしょうね?」


「いや、嫌いではないけど、流石に俺のせいじゃないと思うんだが……」




 それは、ギャルだった。


 もう一度言うけど、ギャルだった。


 今俺たちの目の前に、ギャルが立っている。


 ただ、所々人間というより悪魔っぽい雰囲気の部分がある。


 目の瞳孔が縦だったり、背中に翼みたいなのが見えるけれど、そう言う部分さえスルーするなら、どう見ても肌の色が煮卵みたいなギャルだった。




「ねーぇ、ここってどこ?」




 ギャルが話しかけてきた。


 本当に魔王なんだろうかこれ。




「ここは、王都東京にある魔法学園の校庭。キミは誰か確認してもいいか?」


「ウチ?エリザベートだよ?ってか、東京って事は人間の領域なん!?マジで!?」




 やけにテンションが高いギャル魔王(仮)。


 少なくとも、今のところは敵意を感じない。




「エリザベート、お前って魔王なのか?」


「は?ウチが?ウチは魔王じゃないって!魔王なのはウチのパパ!」


「え?お前は魔王じゃないの?」


「違うに決まってんじゃん!王様とかウチのキャラじゃないし!」




 魔王じゃない……?


 いや、設定的には3作目のラスボスなんだから、もしかしたら将来魔王になるだけであって、今はそこまでの力は無いのかもしれない。


 でも、だとしたらどういう経緯でここに封印されてたんだ……?




「エリザベート、俺は犀果大試。お前が封印されてた剣を魔法で具現化したのは俺な。んで、こっちの女の子がリンゼ・ガーネット」


「よろしく……」


「よろ~!」




 リンゼは、どうやらエリザベートの雰囲気に飲まれてしまっているらしい。


 普段のキレがない。


 エリザベートの方は、そんな事全く気にしていないようだが。




「いくつか確認したいんだけど、エリザベートはどうしてこの剣に封印されてたんだ?封印される直前の記憶はあるか?」


「んーとね、パパがウチに魔王教育をサボるなって煩かったから、家出してやるって家を出た所までは覚えてるよ?その後、なんか変な場所に飛ばされたの。暑くも寒くも無くて、お腹も減らないとこ。ぼーっとしてたら、気がついたら大試とリンゼが目の前に居たってワケ!」




 魔王、娘の教育に手を焼いているんだな……。


 ちょっと同情してしまった……。




「一応今俺は、お前を使役している状態のはずなんだけど、人間である俺に殺意とかあるか?」


「べつに~?人間なんて初めて見たからまだよくわかってないけど、大試は好きだよ?これもそのシエキ?ってやつなの?」


「俺にも詳しい事は分からないんだ。このエリザベートが封印されてた……」


「エリザ!」


「ん?」


「エリザベートじゃ長いから、普段はエリザって呼んで!パパはそう呼ぶよ?」




 なんか調子狂うな……。


 俺の予想だと、女で魔王ってくらいだから、妖艶な美女が出てきてこんにちわするのかと思ってたのに……。


 そして、「ふふふ……愉快な男おのこじゃ。興が乗った。余の力を貸してやろう」って言って魔王剣が使いこなせるようになるって妄想してたんだけどなぁ……。


 まさかJK魔族が出て来て、しかもまだ魔王ですらないなんて……。


 父親が死んでから、成長していって魔王になるのかな?




「じゃあエリザ、このエリザが封印されてた剣は、この世界を管理してる女神が作った物らしいんだ」


「そうなんだ!?すごーい!」


「……うん。それで、俺のギフトでこの世界に剣を具現化している状態で、更にそこからエリザが召喚されてるから、俺がエリザのマスターって事になってるんだと思う。ここまでは大丈夫か?」


「大丈夫だよー」


「ここからが本題なんだけど、エリザは故郷に帰りたいか?」


「ん~?故郷……ウチの実家にってこと?」


「そうだ」




 正直な話、いくら魔王って言っても、今これは拉致監禁からの催眠洗脳状態みたいなもんな気がする。


 それは流石に可哀想だ。


 もし、現時点で家に帰りたいっていうなら、剣の効果で使役したままだとしても、解放してあげた方が良いんじゃないかと思うんだよなぁ……。


 この状況を作り出した女神には悪いけどさ。




「別に帰ろうと思ってないかな~?もともと100年くらいは家出してやるつもりだったもん」


「凄いスケールだな!?」


「人間って100年くらいしか生きられないんだっけ?でもウチら、成長はしても老化ってものが無いからねー」


「じゃあエリザは、俺と同い年くらいの可愛いJKっぽい格好しているけど、実は数百歳だったりするのか!?」


「ウチは今15歳だよ?」


「同い年だった……」




 フェアリーファンタジーⅢまでの間にエリザの中でどんな変化があるのか知らないけれど、今の彼女にはどうやら危険性は無いようだ。


 であるなら、将来的に魔王になるほどの才能を持っているキャラを放っておく理由はない!


 下僕としてこき使ってやろうではないか!


 まずは、可愛い服着せて喜ばせてやる所からはじめっかな!?




「じゃあエリザ、俺が死ぬまでの間だけでいいから、俺の仲間として一緒にいてくれないか?今、人間の世界に危機が迫っているかもしれないんだ。というか、ぶっちゃけるとエリザのパパさんが復活したとかで、魔物が活性化しているから困ってるんだ」


「あー、パパこの前ひっさしぶりに起きちゃったからねー。うん良いよ!でもその代わり、ウチの住む場所とかも用意してもらっていい?ウチも折角人間の領域に来たなら、色々体験しておきたいなって思ってるけど、住む場所が無いと困りそうじゃん?ウチだけだったら部屋も借りられなさそうだし」




 案外冷静に自分の状況を把握してるんだな。


 てっきり、もっと世間知らずな感じかと思ってたけど。




「わかった。今夜の所は、俺の部屋に泊まってもらっていいか?」


「え!?大試の部屋って……エッチな事とか」


「しねーよふざけんな。ただ、他に場所が無くてな……」


「……いや!アタシがいるでしょ!?」




 フリーズしていたリンゼが動き出した。


 そうか、お前いたな?




「アタシの部屋に泊めればいいじゃない!使役してるからって女の子を自分の部屋に気軽に泊めたらだめよ!最低!」


「イヤしかしだな……本人に敵意無さそうだし、俺が使役しているって言っても、将来魔王になりそうな程強力な奴をリンゼの部屋に泊めるのもそれはそれで抵抗が……」


「アタシなら平気よ!エリザもそれでいいでしょ!?」


「う……うん!ウチはリンゼの部屋で良いよ!」


「ホラ!」




 どうやら、本人たちの間で決まってしまったらしい。


 だったら、俺が強引に決めることもできないだろう。




「じゃあリンゼ、エリザの事頼む」


「任せなさい!それと、明日には寮の使用人室使えるようにしておくから、そこに住めばいいわ!」


「使用人室?」


「ある程度以上の高位の貴族とか王族は、自分用の使用人を寮まで連れてこれるのよ。同性に限るけどね。アタシは、そういうの居ないほうがのびのびできそうだから連れてこなかったけど、アタシの部屋の隣には使われてない使用人室があるわけ。折角だしそこに住ませちゃえばいいじゃない?」


「それはいいな!エリザもそれでいいな?」


「うん!よろしくねリンゼ!」




 こうして、俺たちにまた1人頼れる仲間が出来た。


 ボンキュッボンって感じのJKスタイルな魔族の女の子。


 将来的には、魔王になる逸材が、何の因果か俺の所に来てしまった。


 悪い奴じゃなさそうだからそれはいいけど、この剣が出た時の想像とは似ても似つかない結果になったなー……。




 改めて、手に持っている魔王剣デモングレイルを眺める。


 凄い剣だったな……


 まさか魔族JKが宿ってるなんて……。




 ってあれ?なんかさっきまでおどろおどろしい感じだったのに、いつの間にか清涼な雰囲気になってるぞ?


 大体が、見た目がもう似ても似つかないってくらいに主人公の持ち物っぽいデザインになってる。


 説明書見ないと。


 何か変わってるのかも……。




 聖剣ホーリーグレイル(SSR):最後に心臓を破壊した魔物を召喚・使役可能な剣!召喚用の登録枠は1つで、他の魔物を召喚したければ、現在登録されている魔物情報を上書きする必要がある!現在、魔王エリザベートを召喚・使役可能!全ての邪なる者へのダメージが50%上昇!装備時に身体能力を100%増加!




 全くの別もんじゃねぇか!


 もしかして、エリザベートが抜け出てるから変質が解けたのか?


 しかも、この剣で魔物倒すと、打ちどころによってはエリザベート呼べなくなるのか!?


 もう召喚用アイテムと身体能力増加用アイテムとしてしか使い道無いだろ!


 せっかく……せっかく強そうな武器が出たって思ったのに……。




「大試!これからよろしくね!」








 まあいいか。


 かわいいし。






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