第116話

アクション映画プレイをした後、ゆっくりと混浴温泉へと入った。


今までこの時間にあんまり露天風呂に入ったことが無かったから知らなかったけど、この露天風呂って朝日も夕日も見れるらしい。


流石はVIP向けの旅館だ。


まあ、そのVIPたちは、女将さんの話を聞く限り、かなり退廃的な目的でここを使っている奴が多いみたいだけど……。


まったく……風情も何もあったものじゃない!


なぁ俺よ!そうだよな!?




「のう大試よ、何故さっきからワシの方を見ないんじゃ?」


「なんで水着じゃないんですか?」


「どうせワシと大試しかおらんのじゃから問題なかろう?」


「俺とソフィアさんの2人が揃っているのが問題なんですよ?」


「ふふふ!好きな男に女であることを意識されるのは楽しいのう!」




大丈夫。


耐え切った。


流石にこれは褒めたたえられてもいいと思う。














夕食の席で、太三郎さんと作戦会議をする。


他の面々は、食べることに夢中でどうせ大して聞いていないからスルー。


今日の夕食には、目の前で天ぷらを揚げてくれるパフォーマンスがあるようだ。


アイスの天ぷらに会場は大盛り上がり。


うん、任務の事とか完全にどうでもよくなってるな。




「それで、軍港の方はどうだったんだ?」


「軍艦がいっぱいいたって事くらいしか……。中に入って探ったわけでもないですしね」


「まあそうだろうな。だが、逆に言えば今すぐにでも開戦という空気では無いという事だ。開戦前夜ともなれば、空気が変わるものだぞ」


「そんなもんですか……。そんなピリついた感じはしませんでしたね。中の兵隊に話を聞けばまた別の印象を受けるかもしれませんが」


「情報封鎖も兼ねて外出禁止が徹底されているんだろう。ヘマをして干されている奴以外な」


「飯屋であんな大事な事ペラペラしゃべってたらそうなりますよ」




お客さん情報を秘密にする必要があるタクシー運転手も厳しいかもしれない。


転職できるのかなぁあの氷漬けになってた人。


同情はしないが。




「こうなったら、本格的に中に潜入するしかないんですかねぇ……?」


「そうだな。ただ、別にお前がそれをする必要はないかもしれんぞ?」


「どうしてですか?」


「大試の仕事は偵察だろう?それ以上に関しては、達成出来たらいいなぁくらいにしか思われていないだろう」




そりゃそうかもしれない。


俺は別に工作員でもなんでもない。


ただの高校生男子だ。


神剣なんてものを持っているせいで、ちょっと他の人より色々できるというだけ。


多分他の人が俺と同じ武器を持てば、もっとすごいことが出来るんだろう。


だからって、好きでもない相手にこの剣たちはやらんがな!




「……まあ、俺だって別にヒーローになんてなりたくないですけど、戦争が始まったら俺の大切な人達まで巻き込まれかねないので、止める方法があるならそれに賭けたいんですよ」


「それでいいんじゃないか?正義のためとかなんとか言い出したなら、それこそ気持ちが悪い。戦争なんて言うのは、引き起こすのも止めるのも、エゴでしかない」


「難しい話はわかりませんけどね……。やっぱり、俺の事を好きだって言ってくれる相手は守らないと。驚くことに、その人たちは皆貴族とかなんで、戦争起きたら非常に困るんです」


「好きな女のために努力するのはいいぞ!」




流石何百年もそうしてきたらしい化け狸!


躊躇なく勧めてくる献身!


流石に真似できないけどな……。




「戦争なんて暇つぶしにしかならんからのう。やらずに済むならそれに越した事は無いわい」


「戦争を暇つぶしにしてたんですかエルフは?」


「昔は娯楽が無かったからのう……」




うん、やっぱりエルフには、食い物と薄い本とやらを与えるのを絶やさないようにしよう。


命に関わる。




……その内、キノコとタケノコのどっちがいいかで戦争始めたりしないよな……?


前にスーパーで見つけてびっくりしたんだよ。


この世界にもあるのかって……。


俺?


タケノコの方が人気ありそうだからなんとなくキノコを応援している。


この世界だと、王都に来るまで既製品の菓子なんて無かったから、正直あんまり……。








話を戻そう。


敵の本拠地に潜入するとして、メンバーはどうするべきだろうか?


全員で行くのか、俺とソフィアさんで行くのか。


人数が多ければ多い程見つかる確率は上がるけれど、今回連れてきたメンバーは、それぞれがとても役に立つ能力をもっているからなぁ……。


最悪の場合ファムというジョーカーがいるってのも大きい。


というか、仮にメンバーを割って、潜入班と待機班に分けたとしても、ファムがついてないメンバーが心配になっちゃうからなぁ。




よし!全員で行くか!




「俺たちは、全員であの軍港に潜入してみようと思ってますけど、太三郎さんと明小はどうする?」


「ボクは大試たちと一緒に行く!もう仲間だから!」


「明小が行くなら俺も行こう。これでも化け狸、そこらの軍人になど負けんわ!」




全員で行くことは決まった。


じゃあ、どうやって潜入するかだな。




「やっぱり塀側からのほうが警戒が薄い気がするんですよね」


「この前軍艦を一隻失ったばかりだからな。海を警戒するのは当然だろう。だが、あの壁はどうやって超えるつもりだ?魔術を使えばばれるぞ?」


「それなんですけどね、実はちょっと考えがあって……」










翌日未明、俺たちは全員ステルスを掛けてもらって、軍港を取り囲む壁の前まで来ていた。


位置的には、かなり海に近い部分の壁だ。






「ここからは、割と運に左右されるんですよね」


「そうだな。こればかりはな……」


「まあ、やってみるしかないでしょう!ソフィアさん!お願いします!」


「よかろう!」




元気な声と共に、ソフィアさんが魔力を全開で解放した。


何をしようとしているかというと、つまりはカジキを突撃させたアレの再現だ。


魔物にとって、ソフィアさんの魔力は魅力的らしい。


だから、それを餌に壁をぶち破れる魔物を呼び出す。


何が来てくれるかはわからないけれど、そいつが起こした混乱に乗じて中に入り込むというわけ。


運任せだけれど、失敗したら仕切り直せばいいので気持ちは楽かもしれない。


さーて、何が来るかなぁ……?




そう思いながら海を見ていると、何故か段々海面が隆起してくる。


なんだ?またカジキか?




「太三郎さん、なんですかねあれ?」


「……おい、流石に冗談だろう?」


「え?」




太三郎さんの顔が青ざめる。


タヌキの顔が青ざめることってあるんだなぁ……。




「何が来たのかわかったんですか?」


「……ああ、混乱を招くという意味では大当たりだ。そして……俺達ももう少し内陸部まで逃げるぞ」




そう言うと、太三郎さんは明小を抱えて走り出す。


なんだなんだ?


分からないけれど、俺たちも倣って走る。




「犀果様、センサーに感あり」


「どんな奴?」


「これは……データだけですが、以前東京湾で確認された物です。確か名前は……」




アイが可能性の高い魔物名を告げるよりも早く、そいつは海面から姿を現した。


……あー、なるほど。


こいつなら俺も知ってるわ。


ビビったもん。




走っていた皆の速度が一段階上がった。


流石にある程度内陸部まで入れば大丈夫だろうからファムのテレポートは頼まなかったけれど、使っても良かったかもしれない。


そう思える程度には、海から頭を出したそいつは巨大だった。


直後、軍港内に警報が鳴り始める。


そして、全域に対して放送が流れだした。




『警戒!警戒!周辺海域に魔皇クジラが出現!付近の作業員は避難を……ああああ!』




次の瞬間、魔皇クジラが港に倒れ込んだ。


壁をなぎ倒しながら。




……あれ?体をくねらせて、陸の上をちょっとずつこっちに向かってきてない?


まって?




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