第46話

 理衣キャットを放置しておくわけにもいかず、この後どうするかを考える。




 Q:ファムたちと一緒にリンゼに押し付けてみたらどうか?


 A:流石にそろそろ押し付けられすぎてキレるとおもう。




 Q:王女である有栖ならなんとかできるのではないだろうか?


 A:一対一で他に誰もいないタイミングならともかく、スマホを使った連絡だと多分国側にバレると思うので難しい。国家機関というのは伊達じゃない。




 Q:聖女である聖羅はどうだ?


 A:教会がこの状態の理衣さんをどう評価するかわからないし、聖羅は聖羅で回復魔法が効かなければ「動物相手なら大抵の場合拳で解決する」とか言い出しそうで……。






 俺って頼れる相手実はあんまりいないな?


 それぞれは強力だけど、バリエーションは微妙……。




 どうするかなぁ……。


 王子は姫様と同じ理由で頼れないし、会長は死んだように寝てるし、他のクラスメイトは連絡先を知らない。


 あれ?悲しくなってきたぞ?




「あ!」


「どうしたにゃ?いい案でも浮かんだニャー?」


「うん!誰にも見つからず、しかも色々調べられる場所の心当たりがあったわ!」


「そんな完璧な心当たりあるのに今まで悩んだニャ?」


「……」




 仕切り直して、理衣さんに向き直る。




「理衣さん。これから行く場所なんだけど、色々と面倒な事になりかねないから内緒にしてもらえる?」


「別にいいけど……、危ない所なの?」


「危なくはないけど、存在がバレたら奪うために世界中から刺客が送られてくるような所」


「えー!?」




 ファムに頼んで、校舎付近の目立たない位置までテレポートで運んでもらう。


 ファムは、暇な時間はずっと学園内に転送紋を刻んで回っているらしく、場所の希望を伝えたら完璧に目立たない場所に飛んでくれた。




 そこからは、慎重にカメラや人の目に気をつけながら進んだ。




「ここは……教会?」


「なんか時代を感じるニャ」


「かなり歴史がある廃教会らしいぞ。そして今ここは俺たちが借りている」


「教会なんて借りて何してるの?もしかしてカッコよく祈ってたり?」


「カッコいい祈りがわからないけど……とにかくこっちへ来て」




 中に入って、どんどん奥へ進む。


 そして、床に小さなマークがある場所まで辿り着き、そこに指をつける。


 俺には、あんまり魔力を操るって言う感覚はわからないけど、魔道具に魔力を流し込むことなら割と慣れているため、この隠し通路を動かすには支障が無かった。


 これが出来て魔法が使えないんだからファンタジーを求めた俺には悲しい話だ……。




 床が沈み込んでできた下り階段を降り、全員がその先の地下室に入ったのを確認してから再度中のマークに触れて階段を隠す。


 それから、奥の方の壁にしか見えない部分まで近寄って壁に手を当てると、レンガ造りでアンティークな雰囲気の場所にはそぐわない「ピッ」という機械音が聞こえ、それと同時に壁が開いた。




「何これー!?」


「ここ、中に入ったらAIにレーザーで焼かれたりする施設だったりしないかニャ?」


「大丈夫だって。さっさと中入れ」




 中に入ると、そこそこ高級なホテルみたいな部屋になっている。


 つまりは、テレポートゲートさん家なんですけどもね。


 今日は、テレポートゲートまで案内する必要は無いだろう。


 謎の場所にあるセーフハウスくらいに思っていてくれお二人さん。




「奥から転送紋の気配がするにゃ」


「お前って結構有能だよな」


「褒めたってマッサージくらいしかしてやらないニャ」




 凄いとは思っているけれど、気がつかないでほしかった。


 もう知らせるしかないか……。




「実はここ、国中にテレポートできる施設なんだよ。この部屋は、テレポート先でも生活できるようにする宿泊施設になってる。ここなら、理衣さんも見つからないだろうし、それにここ管理しているAIに理衣さんの事調べてもらえるかもしれないから連れてきたんだわ」


「へぇー……ビックリしすぎてまだよくわかってないけど、とりあえずわかったよー……」


「こんなアホみたいなもん見つけてるとかオマエ本当になんなんニャ?」


「ファムにランダムジャンプだかなんだかで飛ばされた場所がテレポートゲートだったんだよ!」


「ニャーのせいなのにゃ……?」




 まあいい。


 とりあえず、ここは一番頼りになりそうな知識人に聞いてみよう。




「アイ、起きてるか?」


『こんばんわ犀果様。本日はどういったご用件でしょうか?』


「実は、テレポートとは別の用件なんだけどさ……」




 俺は、事のあらましをアイに伝えた。


 知識だけであれば、スマートフォンにもアイが入っているらしいからそこで聞こうかとも思ったんだけど、そう言えばテレポートゲートで周辺地域のスキャンなんてこともできたから、この状態の理衣さんのスキャンも可能なんじゃないかと思ったわけだ。




『申し訳ございません。現在の猪岡様の体に起きている変化について、私は情報を持っておりません』


「そうか……参ったな……」


『ただし、推測でよろしければお伝え出来ますが、如何なさいますか?』


「それでいい!教えてくれ!」


『かしこまりました。スキャンした所、現在の猪岡様の体内は、完全に猫の構造になっておりました』




 それを聞いて、大きな猫……じゃなかった、理衣さんを見る。


 そっか……これは大きい猫なんだ……?


 そう聞かされると、なんだか無性に撫でたくなるな……。


 大きいのに形状的にはイエネコっぽいんだよなぁ……。


 ハァハァ……。




「うぅ……大試君がエッチな目で見てくる……そう言う目的でこんなホテルみたいな所連れてきたんだ……」


「いや、どっちかって言うと動物園のふれあいコーナーに来たくらいの気分だけど?」


「どうしよう、おっぱいに吸い付きたいって言われた方がマシだったかもしれない……」




 乙女がめったな事を言うものじゃありません。


 大体猫のおっぱいってどこだよ?


 もしかして……複乳ってやつか……?




『猪岡様が元々人間であったという前提で考えますと、これ程の身体変化を起こすことが可能であるとすれば、それは所謂ギフトというものによるのではないかと。更に、都合の良い事に猫の体になっても人間の言葉を発し、人間と対等に会話ができる知能を維持できていることからも、ギフトという女神の力の可能性が非常に高いと考えます』


「ギフト……。理衣さんってそう言うギフト持ってる?」


「私が貰ったギフトは、『ラッキーガール』って言う奴だよ?名前のわりに、あんまり運が良いって自覚は無いんだけどね……だから、猫になるギフトでは無いと思うんだけど……。そもそも詳しい効果が未だにわからないんだよねー」




 ギフトって自然と使い方がわかるものでもないのか……。


 そういや、俺も剣魔法の詳しい使い方未だにそこまでわかってないしな……。


 ガチャから剣が出てくるってことくらいで……。




「案外、招き猫って事だったりしてな」


「えー?流石にそれはないでしょー?」




 はははと笑う人間とデカい猫。


 ははは。




「ギフトの使い方覚えた方が良いと思うニャ」


「だな……こう、頭の中でそのラッキーガールを解除するイメージをだな……いや、俺の場合は紙を破るだけだから参考に出来ないかもだけど」


「……うーん……えっと……こう……かな?」




 そう言うや否や、光り始めるキャット。


 なんとなく、光の中が人型になってる気がする!




 そして光が収まると、中にはたわわな実が成っていた。




「……あー!すごい!人間に戻れた!」


「そうだな……。とりあえず、俺の上着でも羽織っておいてくれ」


「え?…………いやあああああああああああ!」




 俺の上着をひったくって、その場に蹲ってしまう理衣さん。


 ごめんな……。


 見てないフリしたほうが良かったかな……?


 女の子の気持ちは繊細だ……。




「もしかして、ラッキーガールって相手の男がラッキーになれるギフトじゃないかニャ?」


「そんな可哀想な話ある?」


「冷静に考察しないでー!」




 ところで、さっきの悲鳴、どっかで聞き覚えあるんだよなぁ……。


 どこだっけ……?




「あ!理衣さんってもしかしてデカいイノシシに追われてた娘!?今の悲鳴聞き覚えあるわ!」


「せめて顔で思い出して!?そんな覚え方酷いよー!」




 俺からしたら1年1組の奴らなんてどいつもこいつも美男美女だから、顔が奇麗だってだけじゃ覚えてらんねーよ!


 話したこと殆ど無いのに覚えてただけ上々だろうよ!




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