4月18日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、瀬良康太に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、瀬良康太が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、瀬良康太に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。





『心理テスト?』


『そうそう!昨日、みっくとやったら楽しかったんだよー!ばなさんにも教えてあげる』


『へえ……どんなテストなの?』


『例えば―……ばなさんは気になってる人とご飯に行きました。食後のデザートは何にする?』


『うーん……ライス(並)かな……?』


『ばなさんの好きなタイプは、米農家の人だね』


『えっ、そ、そうなの?』


『分かった!じゃあ選択肢をあげる!


1. ゼリー

2.カステラ

3.クッキー

4.いちご


どれにする?』


『一個じゃないとダメ?』


『私が一緒に行ってたら全部食べさせてあげたいけど……今回はダメ!一個だけだよ』


『うーん……うーん……』


『ばなさん!本当に注文するわけじゃないんだよ!こういうのは直感で選ばなきゃ!』


『で、でも……うーん……じゃあカステラで』


『カステラを選んだ人は……年上の人がタイプです!落ち着いた大人の恋がしたいみたい……だって!』


『お、大人のって……そんな!それに年上の人って……』


『ふっふっふ。ばなさんったら、結構やるね!でもなんでカステラにしたの?』


『お、お腹にたまりそうだから……』


『……この心理テストは、ばなさんには早すぎたね』



……なんて調子で、この前、俺は舞原さんに心理テストをいくつか教えてもらったんだけど。


「康太」


「ん?」


「こほん。……康太は、肝試しに行くことになりました。いくつか、候補地があるんだけど……どこが一番行きたくない?」


「クソ神社」


「え、えー!そんな答えないよ!ていうか普通に嫌いなだけじゃん、それ」


「何なんだよこれ……」


予想外の答えに慌てる俺に、康太は呆れ顔だ。


昼休み。今日は教室で机を向かい合わせにして、康太とお昼を食べてるんだけど、その時に、俺は康太に心理テストをやってみることにした……上手くいかなかったけど。


「心理テストだったんだけど……」と項垂れる俺に、康太は言った。


「こういうのって、何か選択肢とかあって、そこから選ぶんじゃねえのか?」


「あ、そうだった」


「ていうか、今ので何が分かるんだ?」


「えっと……これは、康太が本当に怖れてるものが分かるんだって。例えば、トンネルは将来、暗い森は孤独、廃ビルは自分自身、お墓の人は楽天的で怖いものなし……だとか」


「ふうん……まあ、いいや。他には何かねえのか?」


お。康太も意外と興味があるみたい。前に雑学本とかハマってたし、こういうのも結構好きなのかな?

俺はスマホを開いて、舞原さんに教えてもらったサイトを見ながら、他の心理テストを探す。


「あ、これはどう?康太はワンちゃんを飼うことになりました。でもあんまり懐いてくれません。どうしますか?」


「瞬のとこに連れてく。犬好きだろ」


「そうだけど……そうじゃなくて。えっと、近い答えは『一緒に遊ぶ』かな?これを選んだ人は……精神年齢四十歳、感情を抑えられる余裕のある大人……だって!うーん……ちょっと違うかな?」


「おい失礼だろ」


「いた」


康太に額を軽くデコピンされる。……まあ、あんなこと言ったけど、本当はちょっと当たってるなって思ってる。康太って結構寛容なところがあるから……四十歳は言い過ぎだけど。


「他は?」


「えーと……例えば、俺が突然ロングヘアからショートヘアになりました。どうしますか?」


「まずロングじゃないだろ、瞬」


「テストだから!そこは置いておいてよ……あ、じゃあ俺が女の子だったとして。これならどう?」


「どうって言われてもな……瞬が女子だったらか……」


康太が俺をじっと見つめてくる。なんか、考えてる方向がちょっとズレてる気がするのは気のせいかな……まあ、俺の言い方のせいだけど。


ややあってから、康太は言った。


「なんていうか……こうやって気安く一緒にいられる関係じゃなかったかもな。そう思うと寂しい」


「康太……」


その言葉は、今の俺には少しだけ複雑に思うけど、でも寂しがってくれるのは単純に嬉しくて……そわそわする。究極、どんな関係でも構わないから、康太とは一緒にいたいってやっぱり思っちゃうんだよね……なんて。


「おい、心理テストはどうなっとんねん」


そんなことを考えてたら、姿はないけど、どこからか「キューピッド」の声がした……いけない。つい話が逸れてしまった。(ちなみに今のテストで分かるのは腹黒度なんだって)


「他にはなんかねえのか?」


「えーと、ちょっと待ってね」


すっかり心理テストにハマってしまった康太に急かされて、俺はサイトをばーっとスクロールする。


──「友達と盛り上がる心理テスト特集」だし、適当に目についたものでいいよね。


そう思って、俺は答えも知らないまま、康太に質問した。


「船が汽笛を鳴らして出港しようとしています。その時の汽笛の長さや回数を答えてください」


「汽笛?そうだな……」


康太が宙を見上げて考える。俺も答えは知らないので、一緒に考えてみた……うーん、船かあ。

お互い、しばらくそうしてから、康太が先に答える。


「ぶおおおーって、ゆっくり長めに。一回、十五秒くらいとか」


「俺は……短めにぽっ、ぽーって、二回とか、三回かな」


これで何が分かるんだろう。俺は画面をタップして、隠されていた答えを見て……。


「へ……?!」


「何だよ、どうしたんだ?そんなに面白えことが書いてあったのか?」


「……」


とてもじゃないが、俺の口からその答えは言えなかった。嫌でも、さっきの康太の答えを想像してしまう。ゆっくり長め……ふうん。


「おい何だその顔。気になるから教えろ」


「う……ダメ。内緒」


「じゃあ自分で調べる」


「だ、ダメ!それもダメ!次!次行こ!」


スマホを取り出そうとした康太の手首を掴んで、全力で止める。康太に知られたら、俺の答えもそういう風に思われてしまう。それだけは絶対に阻止しないと……。


不満げな康太を、半ば強引に切り替えさせて、俺は他の心理テストも探してみる……今度は慎重に。そういう系じゃないやつを……でも、康太のそのあたりの話に、興味がないって言ったら嘘になるわけで。


──ちょっとだけ。あんまり過激じゃないやつだったら……。


そう思いながら、見つけたそのテストを俺は康太に実践してみる。


「はい」


「……何だ?これもテストか?」


「うん」


俺は康太に向かって、自分の手のひらを見せる。「指をどれか選んで引っ張ってみて」と促すと、康太は迷わずに俺の指を──というか、手全体を包むように、全部の指を握った。


「……えっと?」


「瞬って指細いだろ。なんか一本だけ選んで引っ張ったら、指抜けないか心配だし」


それじゃ意味ないじゃんと思いつつ、康太らしい理由に、ふっと笑ってしまう。


──これって、俺が全部ってことなのかな……。


最早、気にしてもしょうがないような気もするけど、俺はその意味に少しだけ寄りかかりたかった。

タマ次郎がいたら「傲慢」って言われちゃいそうだけどね。


「で、これはどうだったんだよ、結果は」


「えっと……このテストをあなたに聞いてきた人は、あなたのことが好きです……っていうテストらしいよ……し、知らんけど」


「知らんのかい」


一度は冗談で流してもらったけど、その後しばらくしてから、康太は「ん?ってことは瞬って俺のこと好きなんだな」と言ってきたので、俺はもう恥ずかしすぎて「ただのテストだよ」と誤魔化してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る