【はじめての(ふかい)チュウ】 ②


「ん……っ、ちゅ……」


「……ん、ふ」


さっきよりもお互いの唇を深く重ねながら、触れては離すを繰り返す。

そのうちに、瞬の身体の力が抜けてリラックスしてきたのを感じた。俺のシャツを握っていた手は、いつのまにか俺の腿の上に添えられている。空いている手をその手に重ねると、瞬は俺の手をきゅっと握った。


──そろそろ……大丈夫か……?


「っ、瞬……」


俺が呼ぶと、瞬は蕩けた目でこくりと頷いた。俺は瞬に言った。


「……口、ちょっと開けるか?」


「う、うん……」


瞬がおそるおそる、唇を薄く開く。俺はゆっくりと顔を寄せて、唇を重ねた。それから、柔らかい瞬の唇の隙間を舌でそっと割って、瞬の舌先にちょん、と触れる。


「……っふ、ぁ」


瞬が身体をぴくりと震わせて、声を漏らす。反射的に頭を引こうとしたので、俺はそれを手のひらで押さえて、こっちに引き寄せる。

それでも、舌同士が触れ合う慣れない感触にまだ戸惑っているのか、瞬が俺の舌から逃れようとするので、俺は上唇を軽く食んでから、唇を離した。


「ん、んぅ……っ」


苦しそうにしていた瞬は、ふう、と息を吐いてから、俺を見つめて、頷いた。もう大丈夫……ってことだ。


俺はもう一度、瞬の唇を舌で割っていった。すると今度は、瞬の舌が俺の舌を迎えるように、そろそろと絡められる。


「んっ、ふ……ぅ」


つい、舌を動かすのを躊躇ってしまう俺を促すように、瞬がちろり、と舌で俺の舌裏をくすぐる。ふいのことに、背中がぞくりとして、でもおかげで……俺は吹っ切れた。


「ふぁ……っ、?!んぅ……」


今度は、俺の方から瞬の舌に自分の舌を絡めた。根本から先までじっくりと舐めると、瞬は縋るように、俺と繋ぐ手に力を込める。

それが堪らなくて、「もっと」と思った俺は、この前の『指フェラ』を思い出して──瞬の上顎を舌でなぞってみた。


「んっ、はぁ……んぅ、ちゅ……ふぁ、ぁ……っ」


すると、瞬はさっきよりも体をぴくぴくと震わせて、涙で濡れた熱っぽい目で俺を見つめてくる。息継ぎをさせてやろうと、唇を離すと、唾液で濡れた粘膜同士が水音を立てた。だけど、それはほんの一瞬で、すぐに瞬の方から唇を重ねてくる。


「……っ、はぁ……こうた……ん、ちゅ……っ」


弱いところをくすぐられて、瞬も火が点いてしまったんだろうか。瞬は仕返しとばかりに、俺の舌先を軽く吸ってみせた。きっとこれも、ネットで調べて得た知識に違いない。真面目で、純粋で、こんなことちっとも知らなかったくせに、またこっそり変なことを覚えてたのか──そう思うと、胸の内がぞくぞくするような興奮を覚える。同時に、止められないほど、もっと瞬を自分のものにしたくなって──。


「ん、ちょ、ちょっと……っ!あ……」


気が付くと、俺は瞬をベッドに押し倒していた。自分の上に覆い被さる俺を、瞬は困ったような、それでいて、何かを期待するように揺れる瞳で見つめる。


「こ、康太……」


そろそろと瞬が俺の首に両腕を回す。俺も瞬の頭に手を添えた。


──もう一回、触れたら、引き返せなくなる。


すぐそばで聞こえてくる瞬の息遣いに、一秒ごとに理性が音を立てて崩れていくような感覚に陥る。

俺の頭はとっくに、何のためにこんなことを始めたのかを忘れていた。今はただ、瞬がもっと欲しいとそればっかりになって──。


その時だった。


───ぴぴぴ、ぴぴ……。


「あ……」


寝覚めによく聞く、鬱陶しい電子音が部屋に響く。瞬が「しまった」という顔をして、床に置いた手提げに視線を遣る。それから、俺に「ごめん」と謝った。


「昨日……康太が帰ってから、ちょっとお昼寝して……その時に掛けたアラーム、切ってなかったみたい、で……」


「お、怒ってる……?」と俺を窺う瞬に、崩れかけていた理性が、ビデオを逆再生でもするみたいにするすると元に戻っていく。

正気を取り戻し始めた頭で、ふと宙に視線を遣ると、そこには──。



【ノルマが達成されました】


【唇にキス(舌を入れる) S+62,000pt K+62,000pt】



「ああ……そっか……達成したのか……」

 

「へ?忘れてたの?」


ぼんやりと呟く俺に、瞬が無邪気にそう言う。

──俺はなぜだか、むしゃくしゃして、瞬の頬をつねった。

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