8月27日 24時間1818km(イチャイチャ)マラソン~イチャラブは世界を救う~
【さあ、今年もやってきました。夏の終わりの恒例イベント・24時間マラソン!今年のランナーは、今日までサプライズとのことでしたが、今夜、ついにそのベールを脱ぎます。お、どうやら、スタート地点では、ランナーの準備が整ったようです。早速、中継を繋いでみましょう。】
──中継先 スタート地点
瞬:いよいよ今日が来たね、康太。康太は今日のために一生懸命頑張ってきたから、絶対大丈夫だよ。
康太:ああ……。
【こちら、スタート地点では、今年の24時間マラソンランナーに選ばれた「瀬良康太」さんと、サポーター代表として、幼馴染の「立花瞬」さんがいらっしゃっています。】
瞬:あ、こんにちは。
康太:どうも……。
【さて、康太さんは、この24時間マラソンのランナーに選ばれましたが、改めて、心境はいかがですか?】
康太:やめられるなら、やめたいです。
瞬:こ、康太……!あ、あの、康太はスタート前で少しナーバスになってるんです。質問は俺を通してもらってもいいですか?
【な、なるほど……分かりました。では、瞬さん。今回、康太さんはどのような意気込みでマラソンへの参加を決意したのでしょうか?】
瞬:はい。康太は、いつもすごく優しくて、俺は頼りにしてるんですけど、自分ではあまり自信がないみたいで……もうすぐ、就職も控えているし、何かに挑戦することを通して、自信を持てるようになりたい、と言っていました。そこへ、この24時間マラソンのオファーをいただいて……今日まで、たくさん頑張ってきたんです。
康太:違う!俺は脅されてるんだ。あのクソ連中に、走らないと殺すと言われて──……。
【あれ?康太さん、どうしたんでしょうか。宙の一点を見つめて、冷や汗をたくさん掻いてますね。まるで、こめかみに銃でも突きつけられてるようです。いえ、そんなことはありませんね?ね?】
康太:はい……俺は……自分の意思で走ると決めました……。
【康太さんのマラソンに懸ける熱い想いが伝わってきましたね。さて、今回の24時間マラソンですが、皆さん、やはり気になるのが、今回、康太さんが挑戦する距離ですよね。一体何kmに挑戦されるのでしょう。康太さんから発表をお願いします。】
康太:は?そんなの、24時間マラソンと言ったら、やっぱりひゃく──。
瞬:1818kmです!
康太:そんなに走れるわけねえだろ!?
【なんと!1818km──これはマラソン史上、最も過酷な挑戦となりそうです。何故、この数字を?】
瞬:えへへ……イチャイチャ(1818)にちなんで、だそうです。
康太:ちなむか。そんなの。
【では、1818にちなんで、マラソン中、そういったシーンを期待しても?】
瞬:……応援してください。
康太:おい。
【おっと、そろそろスタートのお時間のようです。康太さん、準備をお願いします】
康太:少しは話を聞けよ!
瞬:康太。(康太の肩にそっと手を添えながら)
康太:な、なんだよ。瞬……。
瞬:俺、康太をいっぱい応援するからね!頑張って!中間地点にも差し入れに行ったりするから。
康太:おう……それはすげえ嬉しいけど……いや、でもこんなの。
瞬:康太ならできるよ。大丈夫。俺もそばで見てる。でも、康太が苦しい時は、すぐに駆けつけるからね。(康太を抱きしめる)
康太:……ああ、ありがとう。(瞬の背中に手を回しつつ)
瞬:……。
康太:……。
【すみません。あの、早くスタートしてもらっていいですか?】
瞬:じゃあね、康太。頑張ってね!お水はいっぱい摂ってね。足が痛くなったら、歩いてもいいんだよ。車には気を付けて──あと、あと。
康太:おい、もう大丈夫だ。全く……父さんみてえだな。
瞬:大丈夫だって思ってるけど、やっぱり心配で……でも、もう最後にする。いってらっしゃい!康太。
康太:ああ──めちゃくちゃな挑戦だが……やってやるぜ!
【それでは位置について──用意……】
──ドン!
瞬:頑張れー!
~24時間1818km(イチャイチャ)マラソン、ついにスタート!果たして完走なるか~
☆
──500km地点
【さて、お送りしてきました24時間マラソン。開始から何時間経ったかは分かりませんが、最初の休憩地点である500km地点へと、今、康太さんが到着したようです。中継を繋いでみましょう。康太さーん】
康太:……。(地面にうつ伏せに倒れて動かない)
瞬:康太、よく頑張ったね。最初の休憩ポイントだよ。もうあと1318kmだから、ここで少し休んで行こうね。
康太:いや……もう、じゃねえだろ。長すぎだろ……最初の休憩地点まで……。
【あー、どうやらかなり疲労が溜まっているようです。休憩所前の「心臓破りの坂100km越え」がかなり堪えているのでしょうか。ここでしっかり、休息を取り、また走り出せるといいのですが……】
瞬:康太、俺が足をマッサージしてあげるね。よいしょ……んしょ……。(うつ伏せに寝た康太のふくらはぎを丁寧に揉む)
康太:ああ……気持ち良いな……。
瞬:ほら、膝に頭を載せてもいいよ。(頭を撫でながら)よしよし、いっぱい頑張ったね。
康太:(もう動きたくねえな……)
??:康太!あんた何やってるのよ!
康太:げ、この声は──母さん!?
【ここで、康太さんのお母様・実春さんも応援に駆け付けました。鬼のような形相で、瞬さんの膝枕で溶けていた康太さんに近付いていきます。】
実春:スタート地点で立派なこと言っといたくせに、瞬ちゃんに甘えて恥ずかしくないの?
康太:いやだってあれは──。
瞬:み、実春さん。ごめんなさい、俺、つい康太を甘やかしてしまって……(慌てて立ち上がる)
康太:ぐぇっ(床に頭を打ち付ける)
実春:瞬ちゃんはいいのよ。この馬鹿息子が、自分で断らなかったのが悪いの。でも、この先は、心を鬼にして見守ってくれるとありがたいわ。
瞬:はい……そうします。康太、そういうわけだから、俺はここまでみたい。この後はそっと見守ってるね。
康太:瞬……待て、待って……。
瞬:じゃあね、康太。……頑張ってね!
康太:ああ……。
【時には、突き放して見守る──これが家族の結束ということでしょうか。さあ、24時間1818(イチャイチャ)kmマラソン。康太さんの挑戦はまだ、始まったばかりです。一体どうなるのでしょうか──この後は、24時間マラソンに寄せられたメッセージを紹介します。】
~心を一つに、絆で繋ぐマラソン・皆の応援がランナーの力になる!全国からいただいたメッセージをご紹介~
【春和市在住 17歳 高校生男性 PN:立花で今日ももりもりさん より】
「立花を24時間見られるなんて最高だ。膝枕のシーンは主観で撮影してほしかったぜ。あと、瀬良、マラソン頑張れ。たまに見てる」
【春和市在住 18歳 高校生男性 PN:さるさん より】
「瀬良がランナーなんて、全然似合わないねー。まあ、汗を掻くイケメンと健気な瞬ちゃんで数字は悪くないかもね?ゴール前になったら、例の歌を歌って、皆と待ってるよ。頑張れ」
【春和市在住 16歳 高校生男性 PN:匿名希望さん より】
「1818kmとか馬鹿じゃないの?一生帰ってこなくてもいいくらいだけど、まあ、あんた、しぶといし……どうせ戻ってくるんだろうな」
【春和市在住 28歳 小学校教師男性 PN:みなとですさん より】
「康太くん、マラソンランナーへの抜擢、本当におめでとうございます。テレビの前からですが、応援していますね。瞬ちゃんも、すごく張り切ってましたよ。俺も何かお役に立てればと思い、先程、家に来た『24時間マラソン募金スタッフ』と名乗る方に、少しですが、お金を渡しました(^^♪ 頑張ってね」
【住所不定 年齢不詳 守護霊男性 PN:よう、クソガキさん より】
「いやあ、急に今年のランナーが逃げてもうて、どないしようかなあ思てたけど、ちょうどええのが見つかってよかったわ。まあ、お前、見てくれは悪くないし、募金がっぽりの数字がっぽりで、丸儲けや。親父も見とるし、最後まできばるんやで。ああ、逃げたら頭パーンといくから、そこは気つけてな?」
【あの世在住 享年・24歳 ホテルオーナー男性 PN:瀬良康晃さん より】
「康太。俺は直接、応援を送ったりはできねえ。でもここでしっかり見てるからな。無茶苦茶な挑戦だけど、お前は俺の息子だ。絶対やり遂げられるって信じてる。あ、水分補給はしっかりしろよ。塩分タブレットもな。それから、足が痛え時は無理するなよ。歩いたり、あんま大声じゃ言えねえけど……ロケバスとかに乗って……こう、ちょろっとズルもいいんだぜ?嘘も方便ってやつだ。神様には俺が上手いこと言って誤魔化しとくからよ。くれぐれも身体には気を付けてな。……お前がこっちに来るのは、まだ早すぎる。約束だぜ」
~この他にもまだまだメッセージは受け付けています。康太さんへの応援をお願いします~
【感動的なメッセージ数々、皆さんありがとうございました。さて、康太さんの現在の様子はいかがでしょうか。中継を繋いでみましょう】
──1817km地点。
瞬:康太、負けないで!もう少し、だよ!最後まで走り抜けて!
康太:はあ……はあ……それちょっと、歌ってねえか……瞬……?
【おお、どうやらいつの間にか、この国技館の前まで辿り着いていたようです。特に関係はないと思いますが、康太さんの後方でヘリコプターが飛び立っていきました。】
康太:はあ……途中の駅で急行系カードを手に入れたおかげで、なんとか一気にここまで来られたぜ……!
瞬:うん!もうちょっとでゴールだね!
【そうです!ゴールまであと1kmと迫りました!もう一息です!】
瞬:がんばれ、がんばれ、がんばれ、康太っ!(ポンポンを手に持って)
康太:瞬っ……嬉しいけど、ポンポンのカスが飛ぶから……やめてくれ……!
【金銀の切れ端を身体に貼りつけた康太さんが、今、敷地内へと入りました!並走する瞬さんが、その背中を押して走ります。】
瞬:あ、康太!見えたよ!国技館……っ、あの場所で、皆が待ってる!
康太:(やっと、やっとか……長かった……っ)
【さあ今、会場に康太さんと瞬さんが入ってきました。すこしふらつきながらですが、瞬さんに支えられ、階段を降り、皆が待つステージへと一歩一歩、前に進みます……!】
瞬:あとちょっとだね、康太……!よく頑張ったね……っ!
康太:ああ……瞬。俺、ゴールしたら、瞬に伝えたいことがあるんだ……。
瞬:伝えたいこと?
康太:そうだ……俺、俺は……。
瞬:うん……行こう。
【そして今、仲間たちが持つゴールテープを切って、今──ゴールしました!前人未到の、1818(イチャイチャ)kmマラソン、完走!今、その大いなる挑戦が、見事、達成されました──!】
──紙吹雪が舞い、皆に囲まれたステージの中心。
瞬:康太……っ、本当にお疲れ様……っ、たくさん頑張ったね……おめでとう!(康太を抱きしめる)
康太:ありがとう……瞬!(瞬を抱きしめ返す)
【康太さん、大記録の達成、おめでとうございます。今のお気持ちはいかがでしょう?】
康太:はい……あの、その前に、俺は瞬に、言いたいことがあって──。
瞬:康太……さっきのこと?
康太:ああ、そうだ。瞬……俺と──。(ポケットから何かを取り出す)
瞬:こ、康太……それは……!
康太:そうだ。今日集めた募金、1818億1818万円で買った指輪だ……皆のおかげで買えた。瞬には黙ってたけど、マラソンは本当はこのためのものだったんだ。ほら、手出せよ……右、だよな?(※左です)
瞬:もう、康太ってば……(涙ぐみながら右手を出す)
康太:瞬、もう俺の言おうとしてること──分かってるかもしれないけど、言わせてくれ。俺と──。
瞬:……うん。
康太:俺と、け──
。
。
。
「決闘してくれ……──っ!?」
無意識に口にした寝言で、目が覚める。時刻は深夜一時過ぎ。
……当たり前だが、さっきまで見てたものは全て夢だった。
たぶん、夜見てた例のテレビの影響と、それから──明日(厳密には今日か)に控えた、瞬のご両親への挨拶を意識して見ちまったんだろう。
俺は、くだらない夢を見た自分に呆れつつ、また眠りの中へと落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます