9月24日(日) ①
【ルール】
・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。
・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。
・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。
(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)
・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。
(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)
・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。
※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。
①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。
②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】
③一日に【1,000pt以上】獲得できなかった場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同じペナルティが与えられます。
〇攻略のヒント〇
セックスすると【18,083,150pt】獲得できます。
______________
──『極楽天』にて。
『──で、康太。お前らは、どっちから先に告ったんだよ。やっぱ、瞬ちゃんの方か?』
『修学旅行かよ……』
広い大浴場を貸し切りにして、サシで父親と話している時のことだった。父親が唐突に、ニヤニヤした顔つきでそう訊いてくるので、俺はため息を吐いた。しかし、まあ、この人が簡単に引いてくれるとは思えなかったので、俺は仕方なく……瞬と付き合うことになった経緯を、さっくり話した。
父親はそれを「へーっ!」とか「おう」とか、表情をころころ変えながら、うんうんと頷きながら聞いて──ひと通り話したところで『なるほどな』と言って、俺の頭を軽く小突いた。
『ってえ!?な、なんだよ。何すんだ……』
こめかみを抑えながら、父親を睨むと、父親は『何すんだじゃねえだろ』と言った。
『康太、お前……本当にヘタレだな。そんなんでこの先どうすんだよ。キスくらい、すっといけよ。俺の子だろ』
『うるせえな……俺は俺だ』
『開き直りやがって。じゃあ、お前、このまま一生うじうじしていいって思ってんのかよ』
俺は父親から顔を背けつつ、言った。
『そ、そりゃあ……別に。焦ることねえし……瞬だって、そういうの別に……』
『そうか?本当に?その辺、ちゃんと話し合ったのか?』
『……わざわざ話すようなことじゃねえだろ。そういうの、まだよく分かんねえし……瞬も敢えて言わねえし、だから、このままでも』
『分かんねえからこそ、話すべきだろ』
──真面目なトーンだった。逃げるように俯いていた顔を上げて、父さんの方を見ると、父さんは俺を真っ直ぐに見据えて言った。
『敢えて言わねえのは、切り出しづらいからかもしれねえだろ。お前が”そういうの別にいいし”って顔してるから、本当のところ、気持ちがあっても、話す機会がないだけかもしれねえ。お前らはもう付き合いが長いから、なんとなくお互いが分かり合ってるような気がしちまうんだろうけどよ。それでも、ちゃんと口にして確認するって大事だぜ。右ヨシ、左ヨシって指さし確認だ』
な、と父親がにっと歯を見せる。俺はそんな父親に『何だよそれ』と言って……ふっと笑った。すると、父親はさらに元気よくがははと笑いながら言った。
『なんたって俺は、現場の誰かさんがそれを怠ったせいで死んじまったんだからな!俺の言うことがマジだって、分かるだろ』
『……』
それはちっとも笑えねえけど──父親にそう言われたら敵わない。
だから、これは俺の頭の中で妙に引っかかったやり取りになった。
──それは、今、この大事な局面を迎えようとする前にも、思い出すくらい……。
。
。
。
「──ふう」
何度となく、叩いてきたそのドアの前で深呼吸をする。見慣れ過ぎた「立花」の表札は、そんな俺をじっと見つめていた。
──これから、俺は……。
瞬と、そうなる。
それは、あの時父さんに言われた通り──俺と瞬で話し合って決めたことだった。
理不尽にも吹っ掛けられた、絶対の【ルール】。
すぐには難しくても、二人でちまちま、とりあえずノルマを稼いで──いずれ、いつか。
覚悟が決まった時に、その【攻略法】に手を出せばいいと思っていたんだが……もう、そうもいかなくなってしまった。
俺達を嘲笑うように、いきなり暴落した【レート】は、俺達のささやかな希望をぽきりと折ってしまったのだ。
──このままではいけない。もう、先延ばしはできない。
キスを毎日したところで、また【レート】が暴落したらどうなる?俺達は嫌が応でも、先に進まなくちゃいけなくなるのだ。
そんなことを繰り返して、意に沿わないまま、前に進まされるのはもうこりごりだ。
それなら、せめて……自分たちの意思で、進みたい。
これからも、二人で一緒にいるために。
──今日で、この【ゲーム】を終わらせる。
もう一度深呼吸をして、俺は瞬の家のドアを、いつもみたいにノックした……少し、力んだかもしれねえけど。
程なくして、中から足音が聞こえてくる。ぱたぱたと控えめな足音が近づいてきて、がちゃ、とゆっくりドアが開く。
「……い、いらっしゃい」
「お、おう」
中からひょっこり顔を出した瞬と、何故かぺこりとお辞儀をし合って……ぎこちなく挨拶をする。
挨拶をしたところで、俺は瞬の格好に気付く。
「おい、瞬……」
「え、何?」
「立花」と書かれた白い名札が左胸に縫い付けられた、紺色の学校指定ジャージ上下──なんと、瞬はジャージ姿だった。それも……。
「……何で、中学の時のジャージなんだよ!」
瞬の着ているジャージの上着には名札の上に、白で「春和二中」と校章が入っていた……俺と瞬が通っていた中学だ。
「それを言うなら、こ、康太こそ」
言われて俺も、自分の格好を見つめる。「瀬良」と書かれた白い名札が左胸に縫い付けられ、その上に「春和二中」と校章が入っている、紺色の学校指定ジャージ上下──なんと俺も、ジャージ姿だった……中学の時の。
「……考えたことは同じってことか」
「そうだね……」
休みの日に瞬の家に行くだけなんだから、別に普段着でいいんだとは思うが……これから「そういうことをする」と考えたら、それは躊躇われた。たぶん、これからずっとその服を見ると「あの時の……」と思ってしまいそうだったからだ。だったら、もう着ない服とかの方がいい気がして、それでタンスの奥から引っぱりだしてきたのが……この中学の時のジャージだったってわけだ。
「なんか懐かしいね……康太、さすがにちょっとジャージ、小さくなったんじゃない?」
「……そうだな。瞬はそんなに変わんねえな」
「うるさい」
そんなやり取りをしつつ、瞬の部屋に入る。さっきの妙なぎこちない雰囲気は、いつもの何でもないやり取りで適当に笑ってるうちに、霧散していく。部屋の座布団に腰を下ろすと、瞬は「お茶淹れてくるね」と部屋を出ようとする。俺は、その背中に、すっかりゆるゆるになったノリで「おう」と返事をしかけて──ふと、その時思ったことをそのまま口にしてしまった。
「いや、お茶はいらないだろ」
「へっ……?」
瞬がぴたり、と足を止める。あ、と思った時には遅く、瞬はおずおずと俺の方を振り返ると、俯きがちに言った。
「そ、そうだね。そうだよね……今日は、そうじゃないもんね……」
「お、おう……」
部屋の空気が再び、微妙なものになる。何とかして空気を戻そうと、「やっぱりお茶を」と言おうとしたが、その前に瞬は、こっちに戻ってきた。そして、ベッドの端にちょこん、と腰を下ろした。俺はどうしたらいいか分からなくなって……それでも、とりあえず口を開いてみる。
「こ、こっちに座れば……?」
だけど、瞬は「う、うん……」と返事をするだけで、ベッドから降りようとはしない。何でだ……?と思ったが、そこで俺はようやく思い至る。
……一回、降りると、そこに行く流れになりづらいな。
ここで、瞬が俺の隣に腰を下ろしたとして……まあ、そこからそうなっても、最終的には「そっち」に行くことにたぶんなるだろう。だが、一回降りた後だと、もう一回そこへ……というのはちょっと難しいかもしれない。ここで「いや、そんなことないだろ」と思う奴には、俺のこの葛藤は一生分からないだろうからいい。とにかく、俺達には難しいのだ。瞬も、たぶん……俺と同じことを考えてる。
──それなら、俺が「そっち」に行くべきか。
俺はおもむろに腰を上げると、ベッドに腰掛ける瞬の隣に座った。二人分の重みで、ベッドがぎし、と鳴ると、瞬はぴくりと反応して……一瞬、俺をちらりと見た。でもすぐに、顔を背けられる。俺も何となく、瞬を直視できなくて、瞬から目を逸らした。
「……」
「……」
しばし、何も言えないまま時間が経つ。お互いに「こうしていても仕方ない」とは思ってはいるんだが……きっかけが掴めない。どうする。焦りのような感情が湧いてきた時、ふと、俺は鼻に香る匂いに気付く。
「……瞬」
「な、何……?」
「……風呂、入った?」
──この匂いはたぶん、シャンプーだ。
ふわっと香る優しい匂いに、思わず、瞬の髪に顔を近づけて、鼻をすんすん、と鳴らす。すると、瞬は「は、恥ずかしいよ」と咎めてきて、それから、言い訳みたいに続けた。
「だ、だって……そういうことをする前には、お風呂に入って、身体を綺麗にしないといけないって見たから……」
「調べたのか?」
そう訊くと、瞬は顔を赤くして「康太だって見てるでしょ」と俺の脇腹を小突いてきた。まあ……実際そうなので、否定はしない。
西山から情報を得られなかった代わりに、結局、後ろめたさを感じながら、自分で調べたもんな……と、俺は、つい昨日見たことを思い浮かべた。
ん?
──と、そこで、あることに思い当たる。
「なあ、瞬……」
「何?康太」
俺は瞬の顔を見つめる。
丸くてくりくりとした目、小さい時から変わらないように見える顔。柔らかい唇。よく食べるのに華奢な身体。
──まあ、ある意味……決まりきってることかもしれねえけど。
俺はどうなるか、ちょっとした予感はありながらも、瞬にこう訊いた。
「俺達って……どっちが、どっちなんだ?」
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