11月2日(木)


【ルール】


・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。


・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。


・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。

(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)


・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。

(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)

・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。

※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。



①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。


②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】



【ノルマ】


・一週間以内に、指定された【行動】を実行してください。実行が無い場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同様のペナルティが与えられます。


・指定された【行動】の実行によってもポイントが獲得できます。

(なお、指定される【行動】はレート表において【5,000pt以上】の【行動】から選ばれます)


また、【ノルマ】とは別に、指定されていない行動を実行した場合も随時、ポイントの加算は行われます。



【今週のノルマ】

『ディープキス』



______________



「──じゃあこれ、連休明けすぐ提出してね。その週の土曜にすぐ面接あるから」


「……分かりました」


クリアファイルに書類を仕舞い、「失礼しました」と進路指導室を出る。すぐに、ネクタイを緩め、ブレザーを脱いで小脇に抱えると、人通りのない廊下で「はあ」とでかいため息を吐いた。


──三度目ともなると、大分何とも思わなくなってきた「お祈り」を武川から聞き、すぐさま、四社目に出す履歴書の用紙を渡された放課後。


瞬の待つ教室へと歩きつつ、考えるのは「さーて、志望動機どうすっかな!」でも「就活しんどい」でもなく──クソ矢から聞いた例の「同業他社」のことで。


『……お前らの近くにおるよ。同業他社の連中そいつらは』


『人やないけど、人の形で……『仕事』をしてんねん、あいつらは。いわば、『人』は仮の姿や。せやから、人としての、あいつらの情報はでたらめっちゅうか、ツギハギっちゅうか……よく考えると妙なとこが多いねん。ほんで、何かしらのコミュニティの要職に就いとることが多いってのが、特徴やな』


──どこに潜んでやがる……そいつは。


クソ矢曰く、俺と瞬のすぐ近くに人の形をして潜んでいるという、その「同業他社」の連中は、何が目的かは知らねえが、俺と瞬に対する周囲の好奇心を過剰なまでに煽っているらしい、はた迷惑な連中だ。


それだけなら、危害を加えてくるわけでもないし、見過ごしてもいい……が。


──せかいちゃんと繋がりがあるかもしれねえってなら、追って捕まえる価値はある。


奴らの目的が見えない以上、本当に繋がりがあるかは確証はない。


だが、奴らの起こしたことと、せかいちゃんの間には共通点があることに気付いた。


──人の感情を増長させていること。


せかいちゃんは瞬のを、奴らは周囲の人間の「好奇心」を増長させた。

同じ力を使う超常の存在同士に、何らかの繋がりがある可能性は、それなりにあるはずだ。

というか、むしろ仲間や手先だって可能性さえある。


それなら、奴らを捕まえて、目的を聞き出せれば──せかいちゃんとの「取引」に向けて大きく前進できる。


──ぜかいちゃんに「取引」を飲ませて、命の心配がなくなれば……俺達は、俺達のペースで関係を進めることができる。


瞬に無理をさせたり、負い目を感じさせなくて済むのだ。


──まあ……お互いに気持ちを確認し合って、いつかは……とは思うけど。


それは、俺達の問題だ。こんな風に……わけ分かんねえ奴らに余計なお世話をされるようなことじゃない。


「……よし」


俺は拳を握り、気合いを入れた。何に代えてでも必ず──俺は奴らを捕まえてみせる。

そう心の中で誓って、俺はいつの間にか辿り着いていた自分の教室のドアを開けた──。


「うーん、でも、とりあえず履歴書は書いた方がいいよ?もう残ってる会社も少なくなってきてるし……康太はまず、就活に集中しないと」


「……はい」


──まあ、まずは瞬の言う通り、就職……なんとかしないとな。





「えーと……あ、玉ねぎ……やっぱり高いなあ」


学校からの帰り。

俺と瞬は、帰り道の途中にあるスーパーへ、食材の買い出しに来ていた。


いつものように、カゴを載せたカートを押しながら、スマホの買い出しメモを見つつ、回っているところだ。

そんな中、瞬はさっきから、野菜コーナーで渋い顔をしながら、並べられた野菜を眺めていた。


俺は瞬と違って、家計を握っているわけでもないので実感は薄いが……瞬曰く、このところ、野菜が随分高くなっているらしい。


「今年はすっごく暑かったから生育が遅れて、出荷が落ち込んでるんだって。それで高くなっちゃってるみたい……」


「ふうん……?」


「それでも影響が少なかったお野菜はいつも通りなんだけどね。それに、今月の後半頃には出荷量が回復して、値段も下がるんじゃないかって言われてるから……なんとかなるといいけど。そろそろ、お鍋が美味しい季節になるし」


「おう、鍋は美味いな」


「……ふふ。もうちょっとしたら、うちで鍋パーティーもいいかもね」


そんな話をしつつ、瞬は野菜を選び、カゴに入れていく……と、そこへ。


「瞬ちゃん、康太くん」


「あ、みなと先生」


「湊」


背後から話しかけられ、振り返ると、俺達と同じようにカートを押している湊が笑顔で立っていた。

ちょっと久しぶりに会うような気がする、この(見た目は)好青年教師に会釈すると、湊は俺達のカゴを見て「おお」と感心しつつ言った。


「さすが、瞬ちゃん……買い物上手だね。値引きシールの付いたものをしっかり確保してる」


「そんな。康太が見つけるのが上手なんです。いつも『瞬、あっちの方が安い』って探して来てくれて」


「へえ……じゃあ、康太くんは頼りになるパートナーってことだ」


「……まあな」


湊に褒められていい気になるのは、なんだか癪だったが、それでも否定はしない。

そんな俺を、湊は微笑ましげに見てきた……なんか、余計に腹が立って来たので、俺は湊から視線を逸らす。


すると、そのうちに、湊と瞬は世間話を始めた。


「でも、最近は本当、野菜が高くなったよね……俺は一人暮らしだからまだいいけど、大家族だったら大変だろうなあ……」


「そうですね……野菜もそうですけど、何でも値上がりしていて、びっくりしますね」


「多くの製品を輸入に依存している日本は、国際情勢の影響を直に受けてしまうからね……あらゆる産業で、エネルギー価格の高騰は製品価格に転嫁されているし、円安も進行している。世界的な人口増加に資源の供給量が追い付いていないのもあるし──」


「湊、お前……マジで、教師なんだな……」


「こ、康太!」


いつも鈍臭い湊らしからぬ、知的な発言に思わず口を挟んでしまった。隣で瞬が俺を咎めてきたが、当の湊は「一応、そうなんだよ」と笑いつつ、さらに冗談めかして、こう言った。


「康太くんさえよければ、もう少し授業をしようか?例えば、需要と供給のしくみとかを」


「いやいい。勉強は、学校だけでもう懲り懲りだ──」


と言いかけて、俺はふと、頭に何かが引っかかる。ん?


「湊」


「ん?何かな」


「お前、さっき……なんて言った?」


「え?多くの製品を輸入に依存している日本は、国際情勢の影響を直に受けてしまうからね……あらゆる産業で、エネルギー価格の高騰は製品価格に転嫁されているし、円安も進行している。世界的な人口増加に資源の供給量が追い付いていないのもあるし──って」


「いやすげえけど、そうじゃない」


何の授業をしようかってことだ──と湊に言うと、「ああ」と湊は頷いて言った。


「需要と供給……のこと?」


──需要と、供給……。


俺は朧げに、昔学校で習ったようなことを思い出す。あれは、確か──。


供給よりも需要が勝れば、『たとえ高くても欲しい』という人が出てくるから、物の価格は上がっていく。

逆に、供給が需要を超えれば、値下げによって需要を生もうとする……って話だったはずだ。


需要が高まれば……需要……例えば……。



『マジで?』


『ひゅーひゅー!』


『キスだキスだ!』


『いいぞー!』


『キス!キス!』



「──っ、そうか……!もしかして」


「康太?」


降りてきた閃きに、思わず声を上げると、瞬が不思議そうな顔で俺を見つめている。

俺は、ぱっと瞬の手を握って言った。


「瞬、俺……いいこと、思いついたかもしれねえ」


「え?い、いいこと?何?」


「買い出し、速攻で終わらせるぞ。早く帰ろう」


「え、ちょ、ちょっと……康太?待って──」


片手で瞬の手を引き、もう片方の手でカートを押す。

湊への挨拶もそこそこに、俺達はレジへと走った──。



「若いって、すごいなあ……」

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