11月8日(水)


【ルール】


・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。


・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。


・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。

(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)


・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。

(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)

・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。

※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。



①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。


②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】



【ノルマ】


・一週間以内に、指定された【行動】を実行してください。実行が無い場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同様のペナルティが与えられます。


・指定された【行動】の実行によってもポイントが獲得できます。

(なお、指定される【行動】はレート表において【5,000pt以上】の【行動】から選ばれます)


また、【ノルマ】とは別に、指定されていない行動を実行した場合も随時、ポイントの加算は行われます。



【今週のノルマ】

『立花瞬は瀬良康太に────すること』


______________




「学生が二名ですね。ご利用時間はどうされますか?」


──放課後。


俺と瞬は、一昨日約束した通り、地元のカラオケ屋に来ていた。


と言っても、俺達の学校の周りにはカラオケ屋はないので、一番近いとこでも、最寄り駅から二駅先になる。地元っちゃ地元だが、馴染みは薄い。


他の受付待ちをしてる学生も、見たことない制服の奴が多いし、俺達はちょっと浮いてる……ような気もするが。


──瞬の希望だもんな。それに、多嘉良の件で心配させた埋め合わせだ。


「一時間くらいか?」


俺は、隣の瞬に視線を遣る。すると、瞬は何故か緊張気味に「うん」と頷いた。


──カラオケが久しぶりだからか?まあ、別に気にすることでもないか……。


「じゃあ一時間で」と店員に言うと、「ワンドリンクかドリンクバーどちらになさいますか」と訊かれる。


「ワンドリンクだよな?一時間だし」


俺はまた、瞬に確認する。

まあ、「うん」って言うだろう……と思ったが、瞬は──。


「ド、ドリンクバーにしない?」


「え?一時間なのに?」


反射的に訊くと、瞬は視線を泳がせながら言った。


「い、色々飲みたいし……」


「一時間だぞ。そんな時間ないだろ。元取れねえし、もったいないだろ」


「でもソフトクリームがあるよ!」


「じゃあドリンクバーだな」


それはもう納得の理由だった。ソフトクリームは必要だ。俺は店員に「ドリンクバーで」と答え、それから部屋番号の書かれた伝票を渡され、俺達はいよいよ部屋に入ることになった。


「と、その前にソフトクリームだな」


「飲み物もね」


部屋に行く前に、フロント脇のドリンクバーで、ソフトクリームとウーロン茶、コーラを調達して行く。


「212」と書かれた部屋に入り、まずテーブルに飲み物やソフトクリームを置く。それから瞬は、壁に掛かったハンガーを手に取り、俺に言った。


「はい、ブレザー貸して」


「おう、ありがとう」


俺は羽織ってたブレザーを脱いで、瞬に渡す。瞬は俺のブレザーをハンガーに掛けると、自分もブレザーを脱いで、もう一個のハンガーに掛けた。その辺に放らないで、ちゃんとこうするところが、いかにも瞬らしい。


──ちょっと様子が変だと思ったのは、やっぱ気のせいか。


俺はほっとしつつ、早速ソフトクリームを食った。瞬も美味そうにソフトクリームをスプーンで掬っている。……割高だが、これだけでドリンクバーの価値があったかもしれない。


……まあ、それはそれとして。


「ソフトクリーム食ったら、寒いな……」


「そ、そうだね……」


いくら室内とはいえ、十一月にソフトクリームはさすがに堪える。俺も瞬も馬鹿みたいに、震えているので、とりあえず俺は、壁に付いたエアコンのスイッチに手を伸ばした。


「暖房24度……と」


カラオケ屋の電気代をあてに、ガンガンに暖房を入れる。空調が動く音がして、徐々に暖かい風が出始めた。


なんとなく、リラックスした気分になってきたので、俺は靴を脱いで、ソファの上で胡座をかき、瞬に言った。


「瞬、先に歌えよ。ほら、リモコン」


モニター前に置かれたリモコンを取り、瞬に渡す。

だが、瞬は首を振った。


「昨日も言ったけど……今日は康太が歌って」


「ああ……言ってたな。でも俺は、歌えるような曲、ねえぞ」


だから、瞬が──と言ったが、瞬はさらに、首をぶんぶん振って譲らない。


「な、何でもいいから!校歌でもいいし」


「校歌は入ってねえだろ。てか覚えてねえし」


高校の校歌って何故かめちゃくちゃ印象薄いしな。小学校のはいまだに歌えるけど。


そんなことを言うと、瞬は「それでもいいから」と言う。……やっぱり、やっぱり……瞬はちょっと変なのか?


「何でそこまで俺に歌わせたいんだよ?」


「う、歌ってる時にしてるのを見たから……」


「する?何を?」


「あ……」


瞬が「しまった」という顔をする。

その時、ふと、俺は……今の状況に既視感を覚える。


──【条件】が俺にバレそうになった時、みたいだな……。


そうだと気づくと、点々とした違和感が繋がってくる。


妙な言動を繰り返す瞬。


もう水曜日だってのに、少なくとも「俺には」伝えられてない【ノルマ】。


──……そういう、ことか。もしかして。


だとしたら、これ以上の詮索は危険だ。

今の瞬はかなりテンパってるし、下手に突いたら、マズいことになる。


──ここは、俺が軌道修正するか。


俺は瞬に言った。


「あ、あー……分かった。さては、俺が歌ってる時に、こちょこちょでもする気だったのか?こ、このー……」


我ながらなんて棒読みだと思いつつ、慣れない調子で瞬を揶揄ってみる。すると、瞬はハッとした表情をしてから、俺の意図を汲んだのか、こう返してきた。


「……そ、そうだよ!あの、テレビでそういう企画を見て……こちょこちょされながら、カラオケして90点以上取れたら100万円っていうの……ちょっとやってみたかったんだー……なんて、あはは……」


早口で捲し立てるような瞬の調子で、明らかにこれは違うと分かるが、それを指摘することはできない。


仕方なく俺は、瞬の調子に合わせていく。


「へえ……じゃあ俺ができたら、瞬は100万円くれるのか?それとも、そのくらい良い景品があるとか?」


「う……そ、それはないけど……」


変なところで真面目で正直なんだよな……瞬。


瞬が相変わらずしどろもどろなので、俺は瞬の気を解してやるために、脇腹を軽くくすぐった。


「……ひゃっ!や、やめてよ……っ、あはは……っ!」


すると、面白いくらい、瞬が笑いながら身を捩るので、俺は調子に乗って、腋の方もくすぐる。


すると、瞬はソファに笑い転げた。


「っ、あはは!だ、ダメだって……!?ふふっ……こ、康太!くすぐった……っ!あははっ!」


「ほら、自分はこんなになるくせに、どうやって俺にやろうとしたんだよ」


「そ、それは……っ!い、勢いでできるかなって……!ふっ、あはは……っ!ん、ふふっ!」


「こんなところでか?カラオケまで連れ出して?」


──この時……俺まで気が緩みすぎだったかもしれない。


何気なく言った俺の言葉に、瞬はこう返した。


「だ、だって……そのくらいちょっと思い切らないと……できないって思ったから……っ、てこ──」


「──え?」


──プルルルル……。


その時だった。

瞬の言葉を遮るように部屋の電話が鳴る。我に返った瞬が、ばっと電話を取り「はい、はい」と受けている。


俺はそんな瞬の背中をぼんやり見つめながら……頭の中で、さっき瞬が言いかけたことを考えてしまっていた。


……まさか、な。

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