9月19日(火)
【ルール】
・このゲームは二人一組で行う協力型ゲームです。
・特定の行動を行うことで、指定されたポイントを集め、ゲームのクリアを目指します。
・特定の行動とは、ペアである相手に対してする行動が対象となります。
(例:手を繋ぐ、頭を撫でる、抱きしめる 等)
・同じ行動は二回目以降、獲得するポイントが半減し続けます。ポイントの半減措置は、翌0:00に解除されます。
(例:手を繋ぐの場合→一回目 100pt 二回目 50pt 三回目 25pt 四回目 12pt 五回目 6pt 六回目 3pt 七回目 1pt 八回目 0pt…)
・このゲームでは、ポイントは参加者ごとに集計されます。ポイントは行動を起こした参加者に付与されます。
※ただし、クリアに必要なポイントを満たしているかどうかは、それぞれが集めたポイントを合算して判定します。
①二人が獲得したptが合わせて【18,083,150pt】に達するとゲームクリアです。
②9月1日~12月31日までにゲームをクリアできなかった場合、ペナルティとして【その時点での獲得ポイント数が高い方が、獲得ポイント数の低い方を殺してください】
③一日に【1,000pt以上】獲得できなかった場合、ゲームを放棄したとみなし、上記②と同じペナルティが与えられます。
〇攻略のヒント〇
セックスすると【18,083,150pt】獲得できます。
______________
「……こんなもんか」
「そうだね」
放課後の教室。
向かい合わせで座る康太が、握っていたシャーペンを放り、伸びをする。俺も腕をぐるぐると回して、肩の凝りをほぐした。
” 春和祭 スローガン投票 集計表 ”
そう題された手元の一枚紙は、来月に控えた文化祭に向けて、文化祭実行委員からクラスに依頼された、文化祭のスローガンを決めるための投票の集計用紙だ。実行委員が決めた候補から、どれが最もいいか各クラスで集計を取ってほしいというもの。
クラスへの依頼だから、当然、これはクラス委員である俺と康太の仕事になる。だから、クラスの皆から票を回収して、こうして、放課後の時間を使って集計作業をしていたところだったんだけど……。
「文化祭関連なんだから、実行委員の仕事じゃねえのか。これ」
机の上にまとめた投票用紙の束のうちの一枚を取った康太がそうぼやく。俺は「うーん」と首を傾げつつ、それに答えた。
「実行委員はあくまでも、本部の仕事をするために、各クラスから二人ずつ選出した人達だからね。クラス単位のことは、やっぱりクラス委員の仕事になるよ」
「そういうもんか……?何でも、体よくクラス委員に押し付けられてる気もするが」
「そういう見方はあるけどね……」
実際、康太の言うことも分かるので、それについては曖昧に濁す。しかし、クラス委員の仕事をもう三年やってる者として、俺は康太に言った。
「でも、皆に求められるってちょっと嬉しいでしょ。自分の手に収まるか心配だったり、いっぱいいっぱいになっちゃうこともあるけど……なんていうか、充実してるって感じというか」
「いや、結構面倒くさい」
「おい」
あくまでも康太な意見に、俺はこれ以上は諦める。まあ、そもそも康太は、成り行きというか……俺を庇うために立候補してくれたんだもんね、クラス委員。
俺はふと、あの四月のことを思い出して──たった半年くらい前のことなのに、妙に懐かしい気持ちになった。
──あの時は、こうして、康太と……恋人になれるなんて、まだ想像もできなかったな……。
夕暮れの教室で、こうして二人で仕事をしていた時のことも重なって、つい、口元が緩んでしまう。すると、康太も「なんだよ」とふっと笑った。
俺は椅子の背もたれに背中をくっつけて、足をぶらぶらさせつつ、言った。
「なんか……急に、エモいっていうのかな……そういう気持ちになっちゃって」
「今の流れで?どこがだよ」
「二人でクラス委員になった時のこと思い出してたの。もう半年も前のことなんだなあって」
「……そんなに経ってたか」
康太も腕を組んでしみじみと頷く。時間の流れは、本当にあっという間だ。ふと、窓の外を見ると、オレンジ色の空の境目に深い藍色が混ざり始めていた。さっきまで、まだ明るかったのに、もうすぐ日が落ちてしまう。
──この二週間も、なんだか……すごく早くかったな。
俺は刻一刻と暮れていく外の景色を眺めながら、そんなことを考えていた。
。
。
。
『その……さっきは、第一のとこ落ちたって言ったけど。俺、第二にしてた方は受けられることになった……来週。十六日に面接行く』
康太からその話を聞いたのが、ちょうど二週間前の話だった。校内選考で、第一志望にしていた会社に落ちてしまって、でも、第二志望の会社を受けられることになったということ──そこからは、本当に怒涛だった。
十六日の本番に向けて、康太の進路活動は仕上げにかかっていた。志望先の会社に絞って対策した筆記試験対策や、面接の練習に、相手先に送る履歴書の用意。この二週間、康太は放課後はほとんど進路指導室か、図書館に籠っていたと思う。そこへさらに、文化祭関係のクラスの仕事も入ってきてたから、もう本当に目まぐるしかった。
そんな康太に俺ができることといえば、文化祭関係の仕事を先に進めておくようにしたり、筆記試験の勉強を少しお手伝いしたり、差し入れをあげたりとか……それくらいだった。あとは──。
──『瞬。今日、俺……図書館に籠ってるから。部活終わったら呼んでくれ……一緒に帰ろう』
──『試験のことで分かんねえとこあって……今からちょっと、瞬の家行っていいか?』
──『悪い……十分だけ、ちょっと……このまま、寝かせてほしい……』
──忙しい隙間を縫って、まるで俺に甘えてくるような康太に応えることくらいだ。
ちょっと不謹慎なのかもしれないけど……康太のそれが、俺には可愛く思えて、くすぐったいような気持ちになって、嬉しかった。
だけど、そんな日々の積み重ねは、俺と康太に降りかかるもう一つの問題──【ゲーム】の存在を嫌でも突きつけられるものでもあって。
【頭を撫でる】とか【手を繋ぐ】とか、【肩にもたれかかる】だとか。
そんな何でもない、だけど俺達にとっては、確かに幸せを感じられることが……重すぎる【ノルマ】に対しては、まるで雀の涙のようなポイントとして可視化される度に、うんざりしていた。
──それでも、俺達は【ゲーム】から逃れることはできない。
どんなに生活が慌ただしくても、【ノルマ】は絶対だ。時間に余裕があった時は、康太と一緒に過ごしていれば、意識しなくても【ノルマ】を達成できることはあった。
だけど、二人きりで一緒にいられるのが朝と夕の登下校時くらいで、酷い時はそれさえも一緒にはなれず、正直【ノルマ】どころじゃない生活の中では、意識しないとポイントは集まらないのだ。
そうなると、必然的に選ぶ「行動」も、「割のいいもの」に限られてしまうわけで──。
「……瞬」
「え、あ……ごめん。何?」
そこまで考えたところで、康太に呼ばれる。窓から、康太へと視線を戻すと、康太は真剣な顔で言った。
「仕事終わったし……今日も、するぞ」
「……っ!」
俺は康太のその言葉に緊張し、思わず唾を飲みこんだ。「する」っていうのは、もちろん……【ノルマ】のことで。
俺は確かめるように、訊いた。
「こ、ここで……?」
康太は頷いた。
「……ああ。この時間だと、マンションは人の出入りが多くなるだろ。それに今から家に帰ったら、結構な時間になる。母さんも家に帰ってきてるだろうし、怪しまれずに二人きりでするなら、今しかない」
「俺の家じゃダメなの……?」
「ダメだ。瞬の家は……」
俺の提案に康太は頑として、首を振った。それから言った。
「瞬の家は……居心地が良くて……帰りたくなくなる……」
「……そっか」
俺は嬉しいような恥ずかしいような……困った気持ちになった。気持ち的には「ずっといてもいいよ」と言いたいくらいだけど、そうもいかない。代わりに「少しくらいいいんじゃない?試験も落ち着いたんだから」と言ってみたけど、康太の意思は硬かった。
──とにかく。
「こ、ここでするつもりなんだね。康太」
「そうだ。もうこのフロアに残ってる生徒は俺と瞬くらいだから、ちょっとだけなら……大丈夫だろ」
そう言って、康太が椅子から立ち上がる。それから、康太はすっかり慣れた手つきでベルトを緩め、スラックスの前、つまり、チャックに手をかけた──そう。
──康太は、俺に……パンツを見せようとしてるのだ。
これも大体二週間くらい前のことだろうか。
学校が始まったばかりで、【ノルマ】の達成方法について悩んでいた時に、康太が突然、こうやって俺にパンツを見せてきたのだ。
【下着を見せる】はレート表でいくと、丁度1,000pt稼げる上に、簡単だから、と康太はそれを選んだみたいだけど……その時の俺は、もう恥ずかしくて仕方なかったし、こんないかがわしい方法で稼ぐなんてダメだと思っていた。
……だけど、時間に余裕がなくなった今、結局のところ、康太の言う通り、毎日安定して【ノルマ】をクリアする方法はこれしかなくて。
俺はなんと、この二週間、毎日こうやって康太のパンツを見ることになっていた。自分でも、本当に何をやってるんだろうと思う。ある意味これも、半年前は想像もできなかったことだ。
「じゃあ、今から下ろすぞ……瞬、ちゃんと見ててくれよ」
「……うん」
俺と康太は、この二週間で何度となくしてきたお決まりのやりとりを繰り返す。
はじめは、恥ずかしいという気持ちがまだあったけど、二週間も繰り返していたら、「今日もしっかり視界に収めて、早く終わらせよう」という作業的な気持ちになってくる。二週間ですっかり覚えてしまった康太のパンツ事情に、最早感情はない……とはいえ。
──康太が恥じらいなくやるのをいいことに……俺は、ちょっと……甘えすぎてるよね。
最初にやったのが康太だから、そのまま康太がやることになってしまってる……というか、俺を気遣って、康太がそうしてくれてるんだけど……いい加減、これじゃダメだ、という気持ちが俺にはあった。
だから、今日は……。
「こ、康太。ちょっと待って」
「なんだ?」
チャックを下ろしかけていた康太にストップをかける。立ったまま俺を見つめる康太に、俺も椅子から立ち上がり、康太を見据えて言った。
「き、今日は……俺が、見せる」
「……え、何を?」
目を丸くする康太に、俺は少し躊躇ってから……口を開いた。
「ぱ、パンツ……」
「えっ」
康太はさらに目を見開いて驚いていた。だけど、すぐに眉を寄せて言った。
「無理するな。こういうのは俺がやればいいんだ……俺が試験に集中できるように、瞬はあれこれやってくれてただろ。だから、ここは俺がやる」
だけど、俺は首を振って、こう返した。
「康太は、いつも俺の手を引いてくれてるよ。だから、俺も、康太のために……もっと、前に踏み出さなきゃって思ったから……」
「それはパンツじゃないことですればいいだろ」
「……」
ぐうの音も出ない正論かもしれなかった。でもそれを言うなら康太だってそうだ。
「康太だって、こんなことで頑張らなくていいんだよ。とにかく、ここは俺が……する。それに、見せるって言っても、その……大丈夫なように考えはあるから」
「大丈夫って……どうするんだよ?」
首を傾げる康太を置いて、俺はスラックスの後ろのポケットに手を伸ばした。そして、ポケットから「それ」を取り出して、手のひらに握りこみ、拳を康太の前に差し出す。
「こ、これは……?」
「……」
戸惑う康太に、俺は緊張で胸がドキドキしていた。こんなこと、本当に教室ですることじゃないし……まるで、変態だと思う。
でも……康太は、こんなことを二週間も我慢してくれたんだ。あんなに大変な時期だったのに。
──俺も……やらなきゃ……。
最後の一押しは、奮い立てた使命感がしてくれた。俺は意を決して、拳を開き、康太に「それ」を広げて見せた。
「……っ」
広げられたそれに、康太が息を呑む──俺は、康太に自分のパンツを見せた。
──家から持って来た、ストックのパンツを。
康太は俺のパンツをしばらくじっと見つめた後、たぶん、真っ赤になってる俺の顔に視線を遣って言った。
「瞬……これ……」
「……うぅ」
言葉を返せず俯く俺に、康太は不安そうな顔でこう訊いた。
「もしかして、さっきまで穿いてたやつ……脱いできたのか……?」
「そんなわけないでしょ!」
康太のぶっとんだ質問に、思わず声を張り上げてそう返すと、康太は驚きつつもほっとした顔で「そうだよな……」と頷いた。
……一体、どうしたらそんな想像が浮かぶんだろう。ため息を吐くと、頭の上に表示が現れる。
【ノルマをクリアしました】
「え、これでも達成できるのか?」
表示を見上げる康太がさっきよりもさらに、驚いたような声を上げる。俺は「うん」と頷いてから言った。
「【下着を見せる】って、別に、穿いてる状態じゃなくてもいいんじゃないかって思って……一か八かでやってみたんだけど」
「……おい、そういうことは早く教えろ」
「ご、ごめん。昨日、ふと思いついたから……」
俺をじとっと睨む康太に、手を合わせて謝る。けど、昨日ふと思ったのは本当だ。……こんなに上手くいくとは思わなかったけど。
それでも、全然恥ずかしくないわけじゃないんだよ、と康太に言ったら、「そうだよな……」と納得して引き下がってくれた。
……だけど、そこで康太は腕を組んで頷きつつ、呟いた。
「瞬は可愛い柄じゃないやつも持ってるんだな……」
「……うるさい」
俺は康太の頭をぽこ、と叩いた。
こんな調子で……俺と康太は今日もポイントを重ねていく。
……頭のどこかで、それが、ただの時間稼ぎでしかないって分かってはいても。
【現在の獲得pt】
瀬良康太 16,550pt
立花瞬 4,147pt 計 20,697pt
クリアまであと 18,062,453pt
______________
【レートが更新されました】
下記の行動について、今後のポイントの加算についてはこちらが適用されます。
※下記以外の行動については、以前のレートから変動ありません。
【10pt】
見つめ合う(30秒以上)
手を繋ぐ
腕を絡める
頭を撫でる
正面ハグ
添い寝
バックハグ
腕枕
膝枕
肩にもたれかかる
あーんする
くすぐり
下着を見せる
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