1月11日

【条件】


1.毎日0:00〜23:59の間に、立花瞬に対して「好き」と一回以上言うこと。伝え方は問わないが、必ず、立花瞬が「自分に対して言われた」と認識すること。


2.1の条件を与えられたことは決して、立花瞬に悟られないこと。


3.1、及び2の条件が実行されなかった瞬間、瀬良康太は即死する。





「おはよう瞬、好きだぞ……よし、これでいこう」


朝。家の鏡に向かって俺は頷く。いける。これならいけるぞ……。


三学期二日目。俺は昨日の教訓を活かし、ある作戦を考えていた。それこそがこの「瞬好きだぞRTA作戦」だ。


「なんやそれ」


鏡越しに、いつのまにか背後に立っていたクソ矢に、俺はちっちっち、と指を振った。


説明しよう。

「瞬好きだぞRTA作戦」とは、文字通り、RTA──つまり「リアルタイムアタック」のようなつもりで、とにかく迅速に瞬に「好きだぞ」と伝える作戦だ。


具体的には、この後七時四十五分頃、いつものようにマンションの入り口で瞬に遭遇するのと同時に「おはよう瞬、好きだぞ」と伝える。(おはようはコミュニケーションにおいてスキップ不可のセリフのため、省略はできない)


成功すれば俺は晴れて、今日いっぱい「条件」から解放される。


今日からフルで授業が始まるし、俺と瞬はクラスが違うから、昨日みたいに瞬を見失ってしまう可能性もある。つまり、学校に行く前に「条件」をクリアすることが攻略の鍵なのだ。


「そう上手くいくんかなあ……」


「おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……」


昨日、寝ずに考えた俺の素晴らしい作戦に懐疑的なクソ矢は無視し、マンションの階段を降りながらセリフを練習する。


「あー……だから妙にテンション高いんか……」


おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……おはよう瞬、好きだぞ……。


よし。イメージトレーニングは完璧だ。これで──。


「こーうたっ!」



「うおっ?!瞬……っ?!おはっ……しゅきっ!」



「……へ?」



あ、と思った時には遅かった。


いきなり後ろから飛びついてきた瞬が、数秒遅れて、笑いだす。


「おもろいからおまけしたるわ」と、クソ矢がぴんぽん、と鳴らした。

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