6月18日(それから)

「ふう……」


最後の一問を解答し、これで全問題を時間内に解き終わった。あとは──「試験終了」のボタンをクリックして、その場で採点を待つだけ。


──『康太なら絶対大丈夫!』


頭の中で瞬の声が響く。後押しされるように、俺はクリックする。


焦れるような思いでディスプレイの「採点中」の文字を見つめる。まだか……早く、早く……。


そして、その時が来る。


「──っ!」


静かな部屋の中で、つい、声を上げそうになる、でも我慢した。でも、本当は叫び出したいような気持ちだった。



──瞬……っ!



試験のスタッフに退室を申し出て、足早に会場を出る。誰よりも先に、伝えたい相手の顔が浮かんで、とにかく、一秒でも早く伝えたくて仕方なかった。


駅に着き、改札を越え、見慣れた白とブルーのラインが入った電車に飛び乗る。緑色の長椅子に座って、俺は取り出したスマホでメッセージを送った。


返事はすぐに来た。電車が動き出す。もどかしかった。

早く、早く、着いてほしい、会いたい。


ようやく、最寄り駅について、ホームから改札に続く階段を駆け上がる。


「瞬!」


上った先、改札の向こうで、瞬が待っていた。俺はポケットからICカードを取り出し、半ば叩きつけるように改札にタッチして、この気持ちを分かち合いたい幼馴染の下へと──。


──ぴんぽーん!


『残高不足です。チャージしてください』


「……」


行けなかった。


音に弾かれたように立ち尽くす俺を、改札の向こうで瞬が笑っている……腹を抱えて。


あまりにも格好がつかないが、俺は精算機でしっかりチャージをしてから、改めて、改札を通過する。


「おかえり、康太……」


「笑うな」


瞬が目に涙を浮かべているのは、決して、俺の「結果」に感動して……というわけではない。俺の恥ずかしい姿をめちゃくちゃ笑ったからだ。


俺は「この野郎」と瞬の両頬を思いきりつねってやった。すると、瞬が「いひゃいよお」と間抜けな声で抵抗したので手を離してやる。


「なんか……しまらねえな」


「いいじゃん……これも思い出になるね」


「まあ……そうだな」


ふっと息を吐くと、瞬が「改めて」と笑って言った。


「康太、合格おめでとう」


「……おう」


それから、どちらからともなく抱き合った。色々なことは超えて、今はお互いにそうしたい気分だった。

俺達は今、確かに喜びを分かち合っていた。


どのくらい、そうしていただろう。やっとお互いの体を離すと、顔を見合わせて笑った。


「実春さんが、夜は三人でどこか食べに行こうかって。それとも家がいい?今日は康太のお祝いだよ」


「大袈裟だって」


「本当は嬉しくて仕方ないくせに。大人しく祝われてよ」


「……そうする」


またそんなたわいもない話をしながら、俺達は並んで歩いた。

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