【ろぐぼ】Happy Father's Day

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[略]ろぐぼ



\\ Happy Father's Day  //


〇6月18日は父の日です!


お父さんと、家族と、いつもはできない話をしてみませんか?


今日はそんなそれぞれの「父の日」の一コマをお送りします。



______________



【立花家の場合】



『父さん 今日は父の日だね。いつもありがとう』


テレビを点けたら、「父の日特集」なんていうのをやっていたから、俺も父さんにそんなメッセージを送ってみたんだけど。


すると、すぐに返信──の代わりにビデオ通話の着信音が鳴る。


「もしもし……父さん?」


『ああ、瞬。さっきはメッセージ、ありがとう』


「あはは……テレビを見て思い出して……なんとなく、送ってみただけだよ。本当は何かプレゼントとか、送ったりできたらよかったんだけど」


『気持ちで十分だよ。瞬はいつも、母さんとばかりメッセージを送り合っているからね……』


「父さん……」


もしかして、少し拗ねてる?そう思ったら、可笑しくなって、つい笑ってしまう。すると、父さんの後ろから母さんが割って入ってくる。


『あらあ、お父さん。瞬とずいぶん楽しそうねえ』


『母さん』


二人は相変わらずみたいで、母さんは父さんにぴったり寄り添うように並んで画面に映り込んだ。父さんは少し恥ずかしそうだけど……物心ついた時からこんな感じなので、俺の方はすっかり慣れている。


……とは言え、両親のこういうのが、最近はちょっと、見ていられない時もあるけど。


──そう言えば、父さんと母さんはどうやって出会ったんだろう?


ふと、気になってしまい、二人に訊いてみた。すると、二人とも少し驚いたような顔をしたけど……ややあってから、父さんが話してくれた。


『……もうずっと前のことだよ。父さんの幼馴染の結婚式に、母さんは新郎側の同僚として招待されていて、そこで出会ったのがきっかけだ』


『お父さんったら、その幼馴染の女の子にもう何年も片想いしてたのに、うじうじして告白できなかったから、取られちゃったのよ。ぽっと出の男なんかに。しょうがないわよねえ』


『う……』


父さんが渋い顔でカメラから顔を逸らす。母さん、容赦ないな。

そんな父さんに少し同情しつつ、俺は母さんから続きを聞いた。


『それでねえ。私、ちょっとお手洗いに行こうと思って、席を立ったのよ。そしたら、会場の外でたまたま、顔を真っ赤にして泣きはらした目のお父さんと鉢合わせしちゃったのよねえ。もう母さん、その瞬間びびっときたわ。私、この人と結婚するって!』


「え!?そ、そうなの?」


『そうよ!あんなにべろべろに酔ってて、泣いた後なのにねえ……お父さん、すっごくかっこよく見えたのよ。だからもう、絶対、この人を捕まえるって決めて。失恋して傷ついたお父さんの心に、母さん、どんどん付け込んだわ』


「言い方が悪すぎるよ、母さん!」


『だがまあ……それがなかったら瞬は生まれてこなかったんだ。父さんは、母さんと結婚したことを後悔してないよ。今となっては、失恋したのも、このためだったんだと思える』


父さんにそう言われると、何も言えない。だって、父さんが、俺や母さんのことをどれだけ想ってくれているかはよく分かってるから。


それに……二人が出会わなかったら、俺も、康太には会えなかったかもしれないし。


『だからねえ、瞬も、父さんみたいにうじうじしてたらダメよ。康太くんのことはちゃんと捕まえておきなさい。どんな手を使ってでも』


「えっと……それは、そうだね……うん」


……俺、こういうところも意外と、母さんに似てるかもしれない、と思った。





【瀬良家の場合】



──あれは。


家に帰ってくると、居間の仏壇にケーキが供えられていることに気が付く。あれは……昨日、俺が母さんに頼まれたチョコケーキだ。


──そういえば、父さんはチョコケーキが好きだったって聞いたことあるな。


命日や盆になると、母さんがよく買ってくるので、小さい頃、俺は「何で?」って訊いたような気がする。すげえ小さい頃は「そういう日なの」としか教えてくれなかったが、俺がもう少し大きくなって、そういうことが理解できるようになった頃……母さんは俺に言ったのだ。


──『康太の父さんね、先に、天国に行ってるの』


理解できる……とは言ったが、俺自身、いまだにどう捉えるべきことなのか、分かってはない。

物心ついた時からいないのが当たり前で、でもその人がいなかったら、俺は生まれてなくて、俺の中には確かにその人の血が流れてる……ふとした瞬間に考える度に、不思議な気持ちになる。


──どんな人……だったんだろうな。


そういえば、今日は「父の日」だったか。

俺は、仏壇に手を合わせて、会ったことはない……だけど俺の「父」であるその人を想った。

そして、今日のことを報告した。それから、「ありがとう」と言った。



その日の夜のことだった。


「なあ」


「何?」


俺は、椅子に座ってテレビを眺めている母さんに訊いた。


「母さんと父さんってどうやって出会ったんだ?」


「はあ?」


母さんが怪訝な顔で俺を振り返る。俺は「何だよ」と言った。


「なんとなく気になっただけだよ。父の日だし」


「意味分かんないわよ……いいじゃない、そんなこと」


「いや、よくはねえだろ。自分がどうやって生まれたのか……まあ多少は気になるだろ」


「コウノトリが運んできたのよ。他に貰い手がないから、あんたんとこで育ててって」


「そんなわけねえだろ!俺だって、どうしたら子どもができるのかくらい知ってる」


そんなことを言ったら、母さんに頭を叩かれた。「馬鹿なこと言うんじゃないよ」と。


「はあ……全く。どうして急にそんなこと言い出すんだか……まあいいわ」


それでも母さんは「座りなさい」と俺を促して、それから俺に語って聞かせてくれた。


母さんと父さんは、同じ山奥の村──あのばあちゃん家があったところだ──で生まれ育った「幼馴染」だったこと。


成人したら、村を出て行くつもりだった母さんと父さんは、半ば反対を押し切るように、二人で上京したこと。


それから、こっちで二人で同棲を始めたこと。ばあちゃんは喜んでくれたけど、じいちゃんは最後まで認めてくれなかったこと。


結婚してからも、しばらくは忙しくて式も挙げられなかったこと。そのうちに俺ができたこと。

俺が無事に生まれてきて……落ち着いたら式を挙げようと言っていた矢先に、父さんが仕事の現場の事故で亡くなったこと。


ばあちゃんは村に帰ってこいって言ってくれたけど、反対を押し切ってきた手前、それはできなかったこと。


そんな時に、立花家と出会ったこと。


全部話してから、母さんはふっと息を吐いた。


「……あんたにはまだ話してなかったわね」


「そうだな……」


俺は、今の話をどう処理するべきか、やっぱり分からなかった。俺にとっては、理解するにはあまりにも壮大すぎるような気がして、だけど、俺は……なぜだか、この話を聞けてよかったと思った。


「……ありがとう」


「何よ、急に」


引きだしのうんと奥から出てきたみたいなその言葉に、俺だけじゃなくて、母さんも眉を寄せて困っていた。それで俺は「ああ、俺この人に似てるんだな」と他人事みたいに思った。

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