11月15日(水) ①
\天晴れ!夢の頂上決戦/
当 馬 記 念
開催期間:11月13日~11月17日
〇当馬記念とは
・ここまでに獲得したポイントを賭けて行う【ボーナスミニゲーム】です。
・この【ゲーム】において、「当て馬」と呼ばれる人間が、校内に3人います。彼らを探し出して「接触」し、ポイントを獲得してください。
・「当て馬」とは、立花瞬または瀬良康太に、特別な感情を抱いている人間を指します。【当馬記念】開催期間中、彼らはゲームマスターの干渉により、普段よりも積極的に行動を起こします。
・「当て馬」への「接触」は、その「当て馬」が特別な感情を抱いている方が行ってください。
・【当馬記念】開催期間中は、彼らとの「接触」でのみポイントを獲得できます。
・当て馬にはそれぞれ「オッズ」が決められています。1.1倍・5倍・40倍の3パターンです。
・当て馬に接触すると、「その当て馬のオッズ×現時点の獲得pt計」によって算出したポイント数が「払い戻し」されます。
例:5倍×2,085,106pt(当馬記念開催時点獲得pt計)=10,425,530pt(←この数値が最新の獲得pt計になります)
・一度、ポイントを獲得した当て馬から、再度ポイントを獲得することはできません。
・【当馬記念】開催期間中に、ポイントの獲得が全くなかった場合、通常の【ゲーム】と同様の【ペナルティ】が課されます。
※【当馬記念】開催に伴い、今週の【ノルマ】の指示はありません。
○攻略のヒント
・立花瞬または瀬良康太に対する想いが強い「当て馬」ほど、オッズが高い傾向にあります。積極的に狙ってみてくださいね。(当て馬全員と接触する必要はありません)
______________
──それは、昨日のこと。
『……』
『康太?』
火曜日の恒例・学校帰りの『火曜市』での買い出しの途中。康太がメモアプリを開いた俺のスマホを片手に、俺がカートを押しながら、店内を歩いていた時だった。
何となく、康太の様子がおかしいような気がして、俺は足を止める。何でかな……上手く言えないけど、何気ないお喋りをしてる時の『おう』とか『ああ』とかって相槌が、なんとなく心ここにあらずっていうか……そんな気がしたからだ。
俺は康太の顔を覗き込んで訊いた。
『何かあった?』
『……』
だけど、康太は渋い顔をして何も言わない。これはもしかして……ちょっと拗ねてる?
思ってることは、素直に口にするタイプの康太にしては、ちょっと珍しいかも。
俺はそんな『拗ねモード』の康太に、粘り強く話しかけてみた。
『どうしたの、康太。疲れちゃった?』
『いや……違う』
『お腹空いたの?』
『空いてねえ』
『あ、お菓子が欲しいの?一個までね』
『俺は子どもか。違う。そうじゃなくて……』
康太が、俺から視線を逸らして頭を掻く。それから、康太はぼそぼそと俺に言った。
『……昼間の』
『昼間の?えっと……あ』
そこまで言われて、俺は合点がいく。そっか、康太が拗ねてたのって……。
『森谷とのこと?それなら、ほら』
俺はカートに載せたカゴの中から、卵のパックを取って見せる。
『今日の夜は、康太が好きなチャーハンにするよ。それに、この前買った、無人のおいしい冷凍餃子もあるし……』
『……それは嬉しいけど、そうじゃなくて』
『え?じゃあ……何?』
俺が首を傾げると、康太は口を尖らせて言った。
『……森谷をあだ名で呼んでた』
『あれは……だって、森谷には悪かったけど、下の名前がぱっと出てこなかったから……』
『埋め合わせするなら、俺もちょっと……あだ名で呼んでみてほしい』
『えー?』
そうは言っても。この前、そんな話をした時に『しっくりこないね』って結論になったのに。
それでも『拗ねモード』の康太は、森谷にしたことは、自分にもしてもらわないと気が済まないらしい。
俺は、相変わらず、少しむすっとした顔の康太につい、笑ってしまいながらも……康太を『あのあだ名』で呼んでみた。
『じゃあ……こうちゃん?』
『うわ……』
『呼ばせといて、何その反応!』
そわっ……と身を震わせた康太の脇腹を俺は小突く。我儘な奴だ。すると、康太は『いや、でも』と言って、俺に続けた。
『引いたっていうより……なんか、こう、いいなって思ったんだよ。新鮮で』
『はいはい……もう、買い出しの続き行くよ。こうちゃん?』
『おお……』
その後も、康太は俺が『こうちゃん』と呼ぶ度に、何とも言えない反応を返してきたけど、そのうちにすっかり『拗ねモード』は収まった。
俺の方もなんだかんだ、そんな康太を可愛く思ってしまったり、まだやきもちを妬いてくれたことが、ちょっぴり嬉しかったり……。
なんだかふわふわした気持ちで、すっかり暗くなった帰り道を並んで歩きながら、俺は康太に言った。
『ふふ。あんなちょっとしたことで嫉妬するなんて。俺は、ずっと康太が好きなのに』
『やきもちってほどじゃねえよ……ただちょっと、面白くないような感じがしただけだ』
『それが、やきもちって言うんじゃない?』
『違う。……てか、瞬も……俺が”当て馬”かもしれねえ奴と接触したら、たぶん分かる……いや、もしかしたら瞬は平気かもしれねえけど……』
『……そんなことないよ』
俺は肩に提げたエコバッグの持ち手をぐっと握りしめた。
……康太が、俺を置いて他の人と仲良くしてて、何とも思わないわけがない。
俺は康太の目を見つめて言った。
『康太のことは信じてるよ。でも、それとは別に……他の人と仲良くしてたら、もっと、俺にも構ってほしい……ってなる。きっと』
康太の目がはっと見開かれる。それから康太は、しばらく視線をうろうろさせ、やがて、俺から視線を外して呟いた。
『そ、そうか……?』
『うん』
俺が頷くと、康太は耳たぶを少し赤くして、俯いてしまった。
☆
「おう、頑張れよ。西山。俺は応援してるから」
「この野郎……!」
ジャージに着替えた西山の肩をそう言って叩くと、西山は恨めしそうな顔で俺に舌打ちした。ああ、愉快だな。
──朝のHR後のことだ。
一時間目の体育──それもマラソンのために、寒々しい半袖の体育着へと着替え始めたクラスメイトの男達を、俺は高見の見物で眺めていた。ちなみに、瞬は例によって、トイレまで着替えに行っている。俺は、瞬が着替えてくるのを教室で待っているところだった。
なんてったって、俺は絶賛、右腕を骨折中だからな。転んだ時に手を付けないし、危ないから、当然、体育は見学になる。
腕を折られたことで不便なことは山ほどあるが、瞬に世話をしてもらえたり、こうしてマラソンの授業をサボれたりってのは悪くはない。
──だからって、あのクソ野郎に感謝する気は微塵もねえが。
それはそれ、これはこれ、だ。
俺はふっと息を吐き、椅子の背もたれに身体を預ける。早く、瞬来ねえかな……なんて思っていた時だった。
「おい、瀬良」
「あ?」
いきなり、後ろから話しかけられ、俺は振り返る。そこには瞬の一つ後ろの席の奴──田幡がいた。
田幡は馬鹿なのか、このクソ寒いのに、下だけジャージに着替えて上半身は何故か裸だった。元野球部なんだっけか?無駄にそこそこ締まった腹回りを見せつけてるようにも見えて、ムカつく。俺は、田幡に言った。
「なんだよ、早く着替えろよ。俺はお前の裸なんて見る趣味はねえよ」
「は?俺だって、お前がキスしてるところなんて見る趣味ねえよ」
「てめえ……!」
周りに聞こえないように小声ではあったが、田幡が煽るようなことを言ってきたので、俺は思わず椅子から立ち上がる。それから、田幡を睨みつけて言った。
「てか、何だよ。いきなり呼んできて」
「別に……今、立花と、一緒にいねえから……と思って……」
「は?瞬がいねえからなんだって言うんだよ?」
何故か、急に語気が弱くなってきた田幡を訝しく思いつつも訊く。すると、田幡は急に視線をあちこちに動かしながら、こう言った。
「いや、別に……なんていうか……あ、立花に振られでもしたのかよと思って。置いて行かれたのか?」
態度はさっきよりも弱弱しいのに、口だけはやたら煽るようなことを言ってくるので、俺はつい、ムキになって返す。
「そんなわけねえだろ。俺と瞬は……今、最高に熱いんだよ」
「知るか!そんなこと」
そっちから訊いてきたくせに、なんて言い草だ。俺は、やれやれと肩を竦めて言った。
「いいから早く、その汚い裸を仕舞え。瞬が戻ってきた時に、見苦しいもんが教室に転がってたら困るだろ」
「は?別に男同士なんだから裸くらいどうでもいいだろ。てか、俺は今日体操着の上を忘れたんだよ。それをお前に借りようと思って話しかけたんだよ……」
「脱いでから話しかけるなよ!この馬鹿」
さっきから、妙な奴だな……一体どうしたんだよ。俺は首を傾げつつも、机の脇に引っかけた袋の中から体育着の上を取り出す。
そして、それを田幡に差し出した。
「ほら。これでいいか?早く着替えろよ」
「……おう。これが、瀬良の体育着か……」
ところが、田幡は俺から体育着を受け取ると、何故か、それをじっと見ている。マジで、何だこいつ?
──なんか……瞬に対する森谷みたいな……。
ふと、そんなことが浮かぶが、俺は頭を振った。そんなわけねえ。こいつと俺は、そんなに絡んでねえし、こいつが俺に妙な目を向ける理由もねえだろ。むしろ、あんなところを目撃させられて、疎まれてんじゃねえかってくらいだ。
俺ははあ、とため息を吐いてから、相変わらず、俺が貸した体育着をじっと見ている田幡に言った。
「じゃあ、それ。洗ってから返せよ。あと、早く着替えろマジで」
それから、俺は田幡の剥き出しの脇腹を軽く小突く。いい加減にしろよ、って。
そんな軽い気持ちだったのだが──。
「──っ!?」
「っ、た、田幡……?」
田幡は大袈裟なくらい、びくりと身体を震わせた。そして、俺は──信じられないものを視界に入れてしまった。
【『当て馬』と接触しました。『田幡竜己:オッズ1.1倍』】
【ポイントの払い戻しを行いました。現在の獲得pt計:2,293,617pt】
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